おそれ)” の例文
人形の手足をいでおいたのにきわまって、蝶吉の血相の容易でなく、尋常ただではおさまりそうもない光景を見て、居合すはおそれと、立際たちぎわ悪体口にくていぐち
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鶯の声を聞くときの如きは、深山の春の快感を誰にも味わせたきものであると思わぬことはない。三月になれば途中雪なだれのおそれはない。
尾瀬沼の四季 (新字新仮名) / 平野長蔵(著)
そのくびからうへが、嚴肅げんしゆく緊張きんちやう極度きよくどやすんじて、何時いつまでつてもかはおそれいうせざるごとくにひとした。さうしてあたまには一ぽんもなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「岩の奴は、あの大金を持って、外国へずらかったんじゃありませんか。それとも私達におそれをなしたのか、さっぱりチュウとも鳴きませんぜ」
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「へえへえ、どうもおそれれいりやした。いやもう、おせん、おめえよくったぞ。これほどねずみたァ、まさかおもっちゃ。……」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
掛奉つり候儀恐れ入り奉つり候全く九助さいしうと藤八とも不埓ふらち至極しごく成者共なりと申ければ大岡殿成程其方が申如く一旦裁許さいきよすみたるをやぶらんと爲事おそれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「オヤ、何だか、この傷痕は、字の恰好かっこうをしているぜ。ホラね、上のは『おそれ』という字だ。それから『怖』『王』。『恐怖王』だ。『恐怖王』だ」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
○つくしにいたり玉ひては不出門行ふしつもんかうといふを作り玉ひて、寸歩すんほ門外もんのそとへいで玉はず。是朝廷てうていたうとみおそれ、御身の謫官てきくわんたるをつゝしみたもふゆゑなり。
不消化をおそれていては滋養分がたべられませんから、不消化物を上手に料理して消化吸収させるのが家庭料理の功能です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
(死は冷然として取り合わぬ様子ゆえ、主人は次第におそれいだく。)どうぞどうぞ思い返して見てくれい。
岩が大きくなると水は其下を深く抉って、うっかり足を入れるとすくわれるおそれがある。こんな時に重い荷を背負って岩から岩に飛び移る長次郎の早業は驚嘆に値する。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
物を喰うにさえ美味をたのしむというのぞみを以てするか、しからざれば喰わねば餓死するおそれあるからである。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
少し間違えば自分の身に怪我をするか或は又剣先きっさきの刃を欠くと云うおそれが有る、して見れば何かで其剣先を包んで置かねばならぬ、さア何で包んだ、即ち此コロップだろう
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
いよ/\利根の水源すゐげん沿ふてさかのぼる、かへりみれば両岸は懸崖絶壁けんがいぜつぺき、加ふるに樹木じゆもく鬱蒼うつさうたり、たとひからふじて之をぐるを得るもみだりに時日をついやすのおそれあり、故にたとひ寒冷かんれいあしこふらすとも
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
の時にも君に放逐はうちくする様に注意したのだが、自分のことで彼此かれこれ云ふのは、世間の同情を失ふおそれがあるからと君が言ふので、其れも一理あるとわしも辛棒したのだ、今度は、君
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「こいつは恐れ入った。ははははは。おそれ入谷いりや鬼子母神きしぼじんか、はははは。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
我為せる事に能事よきことあるとても誇る心なく、亦悪事ありて人にいはるゝ迚も争はずして早く過を改め、重て人に謂れざる様に我身を慎み、又人に侮れても腹立憤ることなく、能くこらえて物をおそれつつしむべし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
……其方共儀そのほうどもぎ一途いちずニ御為ヲ存ジ可訴出うったえいずべく候ワバ、疑敷うたがわしく心附候おもむき虚実きょじつ不拘かかわらず見聞けんぶんおよビ候とおり有体ありてい訴出うったえいずベキ所、上モナクおそれ多キ儀ヲ、厚ク相聞あいきこエ候様取拵申立とりこしらえもうしたて候儀ハ、すべテ公儀ヲはばかラザル致方
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おそれあたりて、わがにくあらたなるべし。」みんなあとから、かみあかい、血色けつしよく一人ひとりとほる。こいつにけていたのだから、きふ飛付とびついてやつた。この気味きみわるで、そのくちおさへた。
心の底に潛みたる「おそれ」によりてふるひつゝ。
我はなお烟とおそれとの中に捕はれてあり。
おそれおおき申分には候えども
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
その頸から上が、厳粛げんしゅくと緊張の極度に安んじて、いつまで経っても変るおそれを有せざるごとくに人をした。そうして頭には一本の毛もなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
読本よみほんならば氷鉄ひがねといおう、その頂から伊豆の海へ、小砂利まじりにきばを飛ばして、はだえつんざく北風を、日金おろしおそれをなして、熱海の名物に数えらるる。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
○つくしにいたり玉ひては不出門行ふしつもんかうといふを作り玉ひて、寸歩すんほ門外もんのそとへいで玉はず。是朝廷てうていたうとみおそれ、御身の謫官てきくわんたるをつゝしみたもふゆゑなり。
何故其儘に差置たるぞと有ば九助ヘイおそれながら大方すぐに取りにまゐりませうかとぞんじまして其儘しばらく差置ましたと云に越前守殿否々いや/\其方は町役人の下を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
人の跫音あしおとにもぐらりと揺るいで、傷に悩む猛獣を扱うように、ややともすると噛み付かれるおそれがある。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あるいは謙遜けんそんに過ぎて卑屈になるおそれもありとするものもあるであろうが、仮りに僕自身は個人としてこのあやまちがあるとしても、国民全体はなかなか謙遜の態度をる恐もないから
真の愛国心 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
泣きたいだけ泣いて、やっと泣きやんだ三少年は、さいぜんからの働きとおそれのために、身も心も疲れはてて、もう何が何だかわからなくなっていました。眠いけれども、眠るわけには行きません。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
本来は築地つきじ辺一番便利と存じ最初より註文ちゅうもん致置候処いまだに頃合ころあいの家見当り申さぬ由あまり長延ながびき候ては折角の興も覚めがちになるおそれも有之候あいだ御意見拝聴の上右浅草あさくさか赤坂かのうちいづれにか取極とりきめたき考へに御座候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そはのぞみおそれとなり。われそを繋ぎて
おそれ正眼まさみに見つゝ語りなむ。
歌よ、ねがふは (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
まへといふ、おそれおほ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
猶要領を得ぬおそれがありさうなので、先達てこれ/\の手紙を新聞社の方へ出して置いたのだと云ふ事迄説明してかした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
車夫は沼の隅の物音に、提灯ちょうちんを差出したが、芭蕉の森に白刃が走る月影におそれをなして、しばらく様子を見ていたと言う。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人手に掛し抔といまはしき儀を訴出る者の有べきことには九助が申上る事而已のみ御取上に相成只々私しを御しかりおそれながら御奉行樣の依怙贔屓えこひいきと申ものと云を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
石塔尾根に登る路と別れて、鶏冠山の東を流れる鶏冠谷の合流点までは、路というものはなく、三、四回徒渉しながら河身を遡るのであるが、平水ならば更に危険のおそれはない。
われという可愛かわゆき者の前に夢の魔を置き、物の怪のたたりを据えてのおそれと苦しみである。今宵こよいの悩みはそれらにはあらず。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少し心安くなると、蛇の目の陣におそれをなし、山のの霧に落ちて行く——上﨟じょうろうのような優姿やさすがたに、野声のごえを放って
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると木立の稍や透いた間から測量の櫓の残っている根名草山がちらりと望まれた。この藪では往復二時間は懸るであろう、其上見通がきかぬので方向を誤るおそれが充分にある。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
我に返れば、さまざまのこと、さまざまのことはただうら悲しきのみ、うたがいおそれもなくって泣くのであった。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いったん席に落ちついた品位をくずおそれがあるので、必要のない限り、普通の婦人はそういう動作を避けたがるだろうと考えた敬太郎は、女の後姿をながめながら、ひとまず安堵あんどの思いをした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かもしかを見ると書いてあるので熊におそれをなして断念しました。
木曾御岳の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
たそがれに戸に出ずる二代目のおさなき児等こら、もはや野衾のぶすまおそれなかるべし。もとのかの酒屋の土蔵くらの隣なりし観世物みせもの小屋は、あともとどめずなりて、東警察とか云うもの出来たり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実は此間から幾度いくたびも会見を謝絶されたのも、自分がちゝの意志に背くおそれがあるからちゝの方でわざと、ばしたものと推してゐた。今日けふつたら、定めてにがい顔をされる事と覚悟をめてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おもうに、乗合いの蔭ではあったが、礼之進に目を着けられて、例の(ますます御翻訳で。)を前置きに、(就きましては御縁女儀、)を場処柄もかまわず弁じられようおそれがあるため
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このくらいにして喰い留めないと、坂だから、前へのめるおそれがある。心持腰から上をらすようにして、初さんの起きるのを待ち合わしていると、初さんはなかなか起きない。やっぱりっている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつの間にか、体はちゃんと拭いてあった、お話し申すもおそれ多いが、はははははは。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家につかふる者ども、其物音に駈附かけつけしも、主人が血相におそれをなして、とゞめむとする者無く、遠巻とほまきにして打騒ぎしのみ。殺尽ころしつくせしお村の死骸は、竹藪の中に埋棄うづみすてて、跡弔あととむらひもせざりけり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)