“地(じ)” の例文
と言(い)いながら、まさかりをほうり出(だ)して、いきなり熊(くま)に組(く)みつきました。そして足(あし)がらをかけて、どしんと地(じ)びたに投(な)げつけました。
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
膝(ひざ)の上に乗せた土産(みやげ)のおもちゃや小さな帽子などをやきもきしながらひねり回したり、膝掛(ひざか)けの厚い地(じ)をぎゅっと握り締めたりして
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
紅(くれない)の括紐(くくりひも)、襷(たすき)か何ぞ、間に合わせに、ト風入れに掲げたのが、横に流れて、地(じ)が縮緬(ちりめん)の媚(なまめ)かしく、朧(おぼろ)に颯(さっ)と紅梅の友染を捌(さば)いたような。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の気にしていた頭も、この頃ではだいぶ危険に逼(せま)っているだろうと思って、その地(じ)の透(す)いて見えるところを想像したりなどした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と末弘は、それが彼の地(じ)のものか、舞台用の作り笑いか、私には見当のつかぬ奇怪な笑い声を挙げ、笑うだけで、なにも言わなかった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
其の晩源次郎がまいり酒宴(さかもり)が始まり、お國が長唄の地(じ)で春雨(はるさめ)かなにか三味線(さみせん)を掻きならし、当時の九時過まで興を添えて居りましたが
ちょうど、それと同(おな)じ時刻(じこく)に、寺(てら)の鐘(かね)つき堂(どう)につるしてある鐘(かね)の太(ふと)い綱(つな)が切(き)れて、鐘(かね)は、地(じ)ひびきをたてて下(した)に落(お)ちたのでした。
娘と大きな鐘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
九州の山村などでは、藁(わら)の背なかあてに似たものをシカタといい、道具はつかわずに繩とシカタばかりで負うことを地(じ)かるいといっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
地(じ)の奇妙な顔が身上(しんじょう)になっているので、この男がこうして真面目なのは、なんとも不気味で、ほとんどもの凄いような感じさえするのだった。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おお、」と母親(ははおや)は呻(うめ)いた。「わたしは千丈(じょう)もある地(じ)の底(そこ)へでも入(はい)っていたい。あれを聞(き)かされちゃア、とても堪(たま)らない。」
先日も座談会で山脇敏子(やまわきとしこ)さんが話されたように、いまの絹物にはのりの多い地(じ)へゴム印を押したような模様が多いのです。
着物雑考 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
中幕(なかまく)狂言の京鹿子娘道成寺——あの地(じ)をなさいました、お師匠の三味線を、舞台にお聞きしたいからでもございました。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
今朝方、暁(あかつき)かけて、津々(しんしん)と降り積った雪の上を忍び寄り、狐は竹垣の下の地(じ)を掘って潜込(くぐりこ)んだものと見え、雪と砂とを前足で掻乱(かきみだ)した狼藉(ろうぜき)の有様。
狐 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すると犬は、それが地(じ)びたへおちないうちに、ぴょいと上手に口へうけて、ぱくりと一口にのみこんでしまいました。
やどなし犬 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
名前は玉質焼といって、全然気分のかわった淡い水彩画のような感じのもので、地(じ)を卵色の琺瑯(ほうろう)で焼き付けて、模様を白く残したようなものだった。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そして、地(じ)だんだを踏みながら、その西瓜の様なものに食いついた。彼はそれを、離(はな)しては喰いつき、離しては喰いつき、さも楽しげに踊りつづけた。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
むらさき色の地(じ)へ、金泥(きんでい)で地蔵(じぞう)さまのおすがたが刷ってある。そしてそのわきには、こんな文句(もんく)が書いてあるのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内容は昔のものが地(じ)べたにならされただけのもので外形程(ほど)の新し味が内容に於(おい)てはカルチベードされていないね。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
又かと眉を顰(ひそ)めた者も多かったなかに、度々同じ段に座って又七の意地の悪い高調(たかちょう)に悩まされた覚えのある雷門の杵屋竹二郎は、自分の弟子の地(じ)ではあり
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
麦藁帽子を冠(かぶ)らせたら頂上(てっぺん)で踊(おどり)を踊りそうなビリケン頭(あたま)に能(よ)く実(み)が入っていて、これも一分苅ではない一分生えの髪に、厚皮(あつかわ)らしい赭い地(じ)が透いて見えた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あるとき猿廻(さるまわ)しの背中(せなか)に負(お)われている猿(さる)に、柿(かき)の実(み)をくれてやったら、一口(ひとくち)もたべずに地(じ)べたにすててしまいました。みんながじぶんを嫌(きら)っていたのです。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
目こする間(ま)に、さっさと髷(まげ)に取揚げられた内儀さんの頭髪(あたま)は、地(じ)が所々引釣(ひきつ)るようで、痛くて為方(しかた)がなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私は部屋の隅の方へチョコナンと正坐(すわ)りどんなことをするかと見ておりますと、やがて、お袋さんが地(じ)を弾(ひ)き出すと、その若い男の弟子が立って踊り出した。
角張った顔の細君に地(じ)を弾かせ、「女太夫」だの、「山帰り」だの、「おそめ」だのを、「そら、一ィ、二ゥ、三ィ……ぐるりとまわって……あんよを上げて……」
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
キチガ——ア——イ——地(じ)イ獄(ごく)ウ——……スカラカ、チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ……
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その人を使ってマアお寺の居候(いそうろう)になって居るその中に、小出町(おいでまち)に山本物次郎(やまもとものじろう)と云う長崎両組(りょうぐみ)の地(じ)役人で砲術家があって、其処(そこ)に奥平が砲術を学んで居るその縁を以(もっ)て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
このことを打ち明けてあるのだけれど、兄さんも、やっぱりあなたと同じようなことを言って、絶対反対なの、もっと地(じ)みちな、あたりまえの結婚をしろって言うのよ
誰も知らぬ (新字新仮名) / 太宰治(著)
情の港のとまり船、さまざまな甘い、かなしい追憶の積荷(つみに)は、三味線をとって、お相手をして、地(じ)を弾(ひ)いているおしかさんの方にこそ、思いやられることが沢山にある。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
茜(あかね)がかった紫と白と、一本二本はさしてめでたい花でもないが、午(ご)の日を受けて何万となく庭一面に咲く時は、緑の地(じ)に紫と白の浮き模様(もよう)、花毛氈(はなもうせん)を敷いた様に美しい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
こう見るものが昔話のように、黄金色(こがねいろ)に見えたっけ。地(じ)が温かに、重いようで。背景が。そしてその前にあるものが、光って、輪廓(りんかく)がはっきりして、恐ろしく単純に見えたっけ。
高(たか)い山(やま)にも青々(あを/\)としてゐた木(き)が無(な)くなつて赤(あか)い山(やま)の地(じ)はだを見(み)せるようになつたのです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
彼は、自分は手織りのヴァーモント灰色地(じ)の服を着ているが、これはよい、といった。
ピッタリと頭(あたま)の地(じ)ついた少ない髪を小さくまるめた青い顔の女が、体ばっかり着ぶくれて黄色な日差しの中でマジマジと物を見つめて居る様子を考えて見ると我ながらうんざりする。
秋毛 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
お互いに出し入れの息の音(ね)が、怪しい物の地(じ)をなめずる音(おと)のようにもきこえて来る、明るみが恐ろしさにあの藪(やぶ)の蔭(かげ)へ寄って行けば、何がひそんでいるかも見えぬ灰色のくらやみが
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
蒼味(あおみ)を帯びた薄明(うすあかり)が幾個(いくつ)ともなく汚点(しみ)のように地(じ)を這(は)って、大きな星は薄くなる、小さいのは全く消えて了う。ほ、月の出汐(でしお)だ。これが家(うち)であったら、さぞなア、好かろうになアと……
と地(じ)の文章を読む。これは昨夜(ゆうべ)、千葉早智子がたいへん気取って読んだところだ。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
崖の縁をかがっている、その白樺を押し分けて、庇(ひさし)のように突き出た岩壁に縋(すが)る、櫓(やぐら)のように大きな一枚岩で、浦島ツツジが、べったりと、石の地(じ)を見せずに、粘(ね)ばりついているので
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「はッはッはッ、徳(とく)さん。お前(まえ)の足(あし)ッ、まるッきり、地(じ)べたを踏(ふ)んじァいねえの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
南の裏庭広く、物置きや板倉が縦(たて)に母屋(おもや)に続いて、短冊形(たんざくがた)に長めな地(じ)なりだ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
本来ビタの地(じ)にあることなんでげす、現に殿様の御身の上の栄枯盛衰にかかわらず、かくまで忠義の志をかえぬことによって充分に御賢察が願いたい——衣も足り、食も足り、懐ろ工合の方も
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
第三に脚本の上についていふと、能では詞(ことば)よりもむしろ節(ふし)の部分が多くて、その節の部分は地(じ)と地でないのとの二種類になつて居る。芝居は詞が主になつて居るけれどもやはり節の部分も少くはない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それから囲炉裏ばたにかしこまって、主人らのしたくのできるのを待った。寿平次は留守中のことを脇(わき)本陣の扇屋(おうぎや)の主人、得右衛門(とくえもん)に頼んで置いて、柿色(かきいろ)の地(じ)に黒羅紗(くろらしゃ)の襟(えり)のついた合羽(かっぱ)を身につけた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お前をそんなに飛び上がらせる、その弾く力は地(じ)にあるのだ。
北公 向(むこ)う地(じ)の親分、どうかご遠慮なくお検(あらた)めください。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
その閑寂、その地(じ)の華麗。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「地(じ)があるんだってさ」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
地(じ)は納戸色(なんどいろ)、模様は薄き黄(き)で、裸体の女神(めがみ)の像と、像の周囲に一面に染め抜いた唐草(からくさ)である。石壁(いしかべ)の横には、大きな寝台(ねだい)が横(よこた)わる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先刻、あの騒(さわぎ)の時は、帳場に坐っておりましたが、驚破(すわ)というと、ただかっといたして、もうそれが、地(じ)の底だか、天上だか分りません。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして、濃(こ)い緑色(みどりいろ)の葉(は)と葉(は)のあいだから、金色(きんいろ)の日(ひ)の光(ひかり)がもれて、下(した)のしめった地(じ)の上(うえ)に、ふしぎな模様(もよう)をかいていました。
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかも、そいつが地(じ)べたにぶったおれて、どうかよいお天気になりますようにってお願(ねが)いをしないうちは、けっしてやめやしないんですからね。