呑込のみこ)” の例文
「二年越行儀作法を仕込んで居るのに、まだ武家の家風を呑込のみこめぬとは、何んとした白痴たわけだ。裸体で碓氷の山の中で暮した時とは違う」
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
顏中かほぢゅうのどこも/\釣合つりあひれて、何一なにひと不足ふそくはないが、まん一にも、呑込のみこめぬ不審ふしんがあったら、傍註わきちゅうほどにもの眼附めつきや。
あなたの言ったことはきれぎれで恰度ちょうど「いろは」の御本を読むようだったので、荒木夫人は呑込のみこめなかったかもしれなかった。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
作男さくをとこのぢいやに委細を呑込のみこませ、四角よすみに竹を打込むから、よしずをまはり三方と屋根へくごなはで結びつけるまでもしてらひ
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
あとで入間川検査役がもらした言葉に『言葉道断ですよ』と嘆声を発してゐるを考へても、『呑込のみこみ八百長』はすぐ看破されるに決つてゐるのだ。
呑み込み八百長 (新字旧仮名) / 栗島山之助(著)
と見てるとかね七八なゝやツつづゝ大福餅だいふくもちなかうへからあんもちふたをいたしてギユツと握固にぎりかためては口へ頬張ほゝばしろくろにして呑込のみこんでる。金
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ペテロとサルフィユとの心理は一応呑込のみこめるが、話としてもその表現はイージーゴーイングだね、しかし大へんすばらしい思いつきだよ……」
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
みだるゝこゝろ流石さすがしづめて花子はなこさまおほせまだわたしには呑込のみこめませぬおこたへもなにおつてのこと今日けふづおいとまたんとするを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
孤独で内気な、その中学生に読みをあてれば、どんなに彼が間誤まごつき、真※まっかになるかをちゃんと呑込のみこんでいたのだ。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
「どんな話をです?」と、氏のとい呑込のみこめないので訊き返したが、その時っと胸に浮んだのは沼南外遊中からの夫人のかんばしからぬ噂であった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
兄から父を評すれば正にそうであるという事を自分は以前から呑込のみこんでいた。けれども兄に対してこの場合何と挨拶あいさつすべきものか自分には解らなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その事を話すとお嬢さんが云ったっけ、地平線に行って山にでもなってしまいそうな風に歩いて行くのでしょうねと云ったっけ。実によく呑込のみこめたものだ。
ずいぶんと込み入った事柄でも、呑込のみこんでその通りにしたというのは、すなわち片親の方からその知識が、だんだんに注入せられている結果かと思います。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
つまり客を扱うものなんですから、長く船頭をしていた者なんぞというものはよく人を呑込のみこみ、そうして人が愉快と思うこと、不愉快と思うことを呑込んで
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
初会しよくわいの客に出るのはちよつと面倒くさいといふ気もしてゐたので、気心を呑込のみこんでゐる新造にさう言はれて、気のおけないやうなお客なら出てもいゝと思つて
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
いかに野育のそだちの彼でも多少の理屈は呑込のみこめるのである。加之しかこれはお葉の説教である。復讐に凝固こりかたまった彼の頭脳あたまの氷も、愛の温味あたたかみで少しくめて来たらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
若し大体の意味が呑込のみこめたら、しばらく私の評釈の文から離れ歌自身について反復熟読せられよ。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
万事につけて村上の心もちを呑込のみこんでいる山崎はそんなことくらいを深くとがめる気にはならないですぐあっさり忘れて、その日は夕方まで敏子を中心に面白く話し合った。
かれいの贈物 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
それよりは皆なの意見をれて今しばらく伊東に滞在しておれ、とある。不思議だ、不思議だと、お種が思い続けたことは、ようや端緒いとぐちだけ呑込のみこめることが出来るように成った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母は鼈四郎が勉強のため世間に知識をあさっていて今に何かつかんで来るものと思い込んでるので呑込のみこみ顔で放って置いたし、拓本職人の老爺ろうやは仕事の手が欠けたのをこぼしこぼし
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
青年の呑込のみこみぶりは頼もしい。竜之助はしばらく待っていると青年は再び現われて
ソコデ若し果してそうならば、よろしく人のきまらぬ内に課長に呑込のみこませて置くしだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と、招いた客の人相をよく言いきかされて、呑込のみこんでいるように笑顔で先導する。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
村長は委細を呑込のみこんで、何卒どうか機会おりを見てうまくこの縁談をまとめたいものだと思った。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「どこにですか」私は彼女の意味が呑込のみこめないで、ぼんやりしていた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ればかりは奥平にも山本にも一切たれにも云わずに、君一人ひとり呑込のみこんで居てほからさぬようにして、僕は是れから下ノ関に出て船にのっず大阪に行く、およそ十日か十五日もかかれば着くだろう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その男はモーニングをまとって、金縁の分の厚い眼鏡をかけて、時勢おくれの奇妙に長い八字髭はちじひげを生やしていて、一番呑込のみこみが悪いらしく、幾度となく夫人に“No good”とどやしつけられ
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ふん、」と返事へんじ呑込のみこんだが、まだいき発喘はずむのであつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「誰が、いつ、降伏致すと申しやったかな。筑前のひとり呑込のみこみであろ。筑前が望みは、城中の難民やわが士卒の生命いのちではあるまい。鳥取の城であろう。そうはやすく参らん。これには、経家が住んでおる」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
給仕にチップをやるこつも心得、テーブル・スピーチなども、極めて要領よく当らず触らずにこなす呼吸も呑込のみこんで居りました。
されば大恩だいおん教主けうしゆ阿含あごん説法せつぱう志道軒しだうけん隆々りゆう/\木陰ぼくいん揮回ふりまはす、皆之みなこれこ〻の呼吸こきふ呑込のみこんでのうへはなしなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
無敵むてきにわけのわからぬ強情がうじよう加减かげん唯〻たゞ/\女房にようぼうにばかりやはらかなる可笑をかしさも呑込のみこめば、伯母おばなるひと口先くちさきばかりの利口りこうにてれにつきてもからさつぱり親切氣しんせつげのなき
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
素人しろうとは分らない事を分ったように呑込のみこんだ顔をするものだから非難は五分五分である。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どうも気が知れぬ、文三には平気で澄ましているお勢の心意気が呑込のみこめぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
なんが、」と変な目をして、捨吉はわかったようで呑込のみこめない。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「これじゃ何だか葉村君の呑込のみこみがよすぎたようだ。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
平民殿様はすっかり下々のことを呑込のみこんでおります。「不義は御家のきつ法度はっと」などは、この御殿では通用しません。
無敵にわけのわからぬ強情の加減、唯々女房にばかり手やはらかなる可笑をかしさも呑込のみこめば、伯母なる人が口先ばかりの利口にてれにつきても根からさつぱり親切気のなき
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
境涯が境涯だから人にもいやしめられ侮られているが、世間を呑込のみこんで少しも疑懼ぎくしない気象と、人情の機微に通ずる貴い同情と——女学校の教育では決して得られないものを持ってる。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
桂木は大胆に、一口食べかけたのをぐツと呑込のみこ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
またお勢の心意気が呑込のみこめなく成ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
綾麿の言葉はこれでおわりました。母親も友吉も、呑込のみこみ兼ねた様子で黙りこくって居りましたが
鐵拳かなこぶし撲倒はりたふ勇氣ゆうきはあれどまこと父母ちゝはゝいかなるせて何時いつ精進日しやうじんびとも心得こゝろえなきの、心細こゝろぼそことおもふては干場ほしばかさのかげにかくれて大地だいぢまくら仰向あふむしてはこぼるゝなみだ呑込のみこみぬるかなしさ
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
鴎外の気質はおおよそ呑込のみこんでるから、威丈高いたけだかに何をいおうと格別気にも留めなかったが、誰だか鴎外に注意したものがあったと見えて、その後偶然フラリと鴎外を尋ねると、私の顔を見るなり
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「瀬川さんの……ね、あれさ、」と呑込のみこませる。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お滝の声も、チラホラ見え初めた旅人の姿に遠慮して、それっ切り呑込のみこむ外はなかったのです。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
はつ口惜くやしくかなしくなさけなく、くちかれぬほど込上こみあぐなみだ呑込のみこんで、これはわたしわる御座ござんした、堪忍かんにんをしてくたされ、おりき親切しんせつこゝろざしてれたものをすて仕舞しまつたは重々ぢう/\わる御座ございました
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ぐッと呑込のみこんで、円輔はあたりをみまわ
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私立しりつなれども生徒せいとかずは千にんちかく、せま校舍かうしや目白押めじろおし窮屈きうくつさも教師きやうし人望じんぼういよ/\あらはれて、たゞ學校がくこうと一トくちにてこのあたりには呑込のみこみのつくほどるがあり、かよ子供こども數々かず/\あるひ火消ひけし鳶人足とびにんそく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
八五郎はすつかり呑込のみこんだことを言ふのです。