むき)” の例文
夫だけではしかと分らぬ何か是と云う格別な所が有そうな者だ女「有ますとも老人の室の掃除むきと給仕とはわたくしが引受けて居ましたもの、 ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
五十人ごじふにん八十人はちじふにん百何人ひやくなんにん、ひとかたまりのわかしゆかほは、すわり、いろ血走ちばしり、くちびるあをつて、前向まへむき、横向よこむき、うしろむき
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
むかし王献之わうけんしの書が世間に評判が出るに連れて、何とかして無償たゞでそれを手に入れようといふ、虫のい事を考へるむきが多く出来て来た。
魚雷は発射されてから、命中するまで、やゝ長い時間がかゝるので、その間に敵が気づいて、ふねむきを変へたら、あるひれるかも知れない。
怪艦ウルフ号 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
むか/\と其声聞度ききたく身体からだむきを思わずくるりとかゆる途端道傍みちばたの石地蔵を見て奈良よ/\誤ったりと一町たらずあるくむこうより来る夫婦づれ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と云いながらちょっと顔のむきを換えると、くしを入れたてのれた頭が、空気の弾力で、脱ぎ棄てた靴足袋くつたびといっしょになる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これまでに鶴さんが手をやいたたちの悪いむきも二三軒あったが、中にはまたお島が古くから知っている堅い屋敷などもあった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
専門学校でさえもう低級だと論ずるむきもあるくらいであるが、当時は内務省で医術開業試験を行ってそれに及第すれば医者になれたものである。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
獨樂こま自分じぶん一度いちどまはるはすなは地球ちきう自轉じてんといふものにて、行燈あんどうかたむきたる半面はんめんひるとなり、うら半面はんめんとなり、この一轉ひとまはり一晝夜いつちうやとするなり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
仏蘭西フランスの男子もまた女子を家庭にとぢ込め、日常の雑用と台所むきの仕事とのみに犠牲たらしめようとするのでは無からうか。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
自畫自讚に而人には不申候得共、東湖も心に被にくまむきに而は無御座いつも丈夫と呼ばれ、過分の至に御座候。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
さしむき或西洋人のところに子供のお守に這入つて、そこに七八箇月ゐた後に、青山にゐる養母のつてで、この間まで四年足らずの間、山の手の、或
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
その時、まったく不意に——と見ている方の連中には思えたのだ——少年は頭を上げると、くるりとむきを変えて、ぶらぶらと監督のいる方へ帰って来た。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
眼を半眼はんがんに閉じて死んだようになっておった。風は始終むきが変って、或は清新な空気を吹付けることもあれば、又或は例の臭気に嗔咽むせさせることもある。
昨年御手紙にて当地高等学校仏蘭西語学教師の件御話これあり候が早速そのむきを探り申候処今年九月よりの事なれば何分まだ人選とうの事は校長にも深く考へを
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「そうか。よかろう。その心がけがあれば、わしがい後も、御奉公むきに心配はない。よく売り払った」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こっちの山麓から、向側まで二十間とない峡間、殊に樹木は、よく繁っているので、強風は当らぬ。槍・常念・大天井に登臨するむきのためには、至極便利の休泊処。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
と、『つれづれ草』の中にあることばを思出しながら、四十ばかりの音声の静かにひくい小男にむき合った。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
受取屏風圍びやうぶかこひの内へひかへさせおき平民の分は白洲しらすたまりへ控へたり時に案内に隨ひ各自おの/\吟味の席にまかり出れば白洲には雨障子しやうじを高く掛渡かけわたし御座敷むき的歴きらびやかなる事まことに目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すこぶる才走った女で、政治むきの事にまで容喙ようかいするが、霊公はこの夫人の言葉ならうなずかぬことはない。霊公にかれようとする者はまず南子に取入るのが例であった。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
同じ蕪村の句で「鶯の鳴くやあちむきこちら向」という句も、同様に言葉の音象で動作を描いてる。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
幾多いくらさう云ふ権利を有ちたくても、有つ事が出来ずにゐるので御座います。それに、何も私の前をはばかつて、さうむきに成つてお隠し遊ばすには当らんでは御座いませんか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
外の役人の暮しむきは、二月三月の探索で、手に取るように判ってしまったが、肝甚かんじんの本尊、後藤三右衛門の暮し向ばかりは、うしても判らねえ、吹屋町の奥蔵三戸前には
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
是まで勤めむきも堅く、ほんの若気わかげの至りで、女を連れて逐電いたしたのじゃが、いまだお暇の出たわけではなし、只家出をしたかどだから、お詫をして帰参のかなう時節もあろう
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おもてむきは極めて静かな生活をしていたけれど、警察はかねてから彼女に目をつけていた。
恐ろしき贈物 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
さあ、司令車がやられたので、さすがのライオン戦車隊も、おどろいて、あわてて突撃をやめるものもあるし、後ずさりしたり、むきをかえたり、にわかに足なみが乱れはじめた。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
『怨霊なんて有るもんじゃアないわ。』と一言で打消そうとすると、母はむきになって
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そうして北側の窓の処で今度は直角にむきを換えて、窓側とスレスレに往復し初めたのであったが、その心持ちうつむいた姿は、眩しい窓の前を通り過ぎる度ごとに、チラリチラリとした投影を
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
思いきや自分と同じ服装つくりの白の弥四郎頭巾が、ぬっくとそこに立ちはだかっているので、大刀を膝に引き寄せるが早いか、じりっと膝のむきを大次郎の方へ寄せて、声は、冷たい笑いを含んでいた。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「小父さん。今しがたこの飛行艇は左の方へむきをかえたよ」
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
足取あしどりでおいでになる。お后様。あちらへおむき遊ばせ。
パーウェルの母とは逆に「むきになっている息子を ...
山本有三氏の境地 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
出せかしと勸告せらるゝむきもあれどイヤ其の仰せは僻事ひがごとなりもと堅く出て左樣ないやらしき儀一切いつせつ謝絶諸事頼朝流の事と取極め政子崇拜主義となりぬ皆樣みなさんも是非饗庭黨あへばたうとなり玉へ世の中まことに穩かにて至極野氣のんきで第一は壽命の藥女は命を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
むきへて、團扇うちはげて、すらりとつた。美人びじんには差覗さしのぞく……横顏よこがほほ、くつきりと、びん艷増つやましたが、生憎あいにくくさくらかつた。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
頭のむきが違つてる違つてるといふので、母は人夫を雇つて掘返してみると、かんと音のした頭は果して南向に葬られてゐた。
(新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
不審よりも不平な顔をした彼が、むきを変えて寝返りを打った時に、堅固にできていない二階のゆかが、彼の意を迎えるように、ずしんと鳴った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
是はう死骸の握って居る所を其儘取ッて堅く手帳の間へ挿み大事にして帰ッたのだから途中でむきの違う事は有ません此三筋を斯う握って居たのです
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
門飾の笹竹ささだけが、がさがさとくたびれた神経に刺さるような音を立て、風のむきで時々耳に立つ遠くの町の群衆の跫音あしおとが、うしおでも寄せて来るように思いされた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
秋のサロンでづ僕の注意を惹くのは、展覧会むきの大きな絵よりも建築と室内装飾との見本の幾つかである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
下々の手前たちがとやかくと御政事むきの事を取沙汰とりざた致すわけでは御座いませんが、先生、昔から唐土もろこしの世には天下太平のしるしには綺麗きれい鳳凰ほうおうとかいう鳥が舞下まいさがると申します。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おくあきなむきも追々都合よきむね便たより有に付やがて金銀をたくはへ歸り來らんとたのしみ待居たる折柄をりから店請たなうけの方より今度彦兵衞の一件を委細くはしくらせ來りしかば妻子は大いになげかなしみしが如何にも其知らせを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
見ている人たちは今度はぐっと息をつめた。一男は真直まっすぐにたってからゆっくりむきをかえた。静かに静かに、梁のゆるぎを殺しながら、もと来た方へ引きかえす。進む時よりも気を配っている様子だ。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
頭のむきが違つてる違つてるといふので、母は人夫を雇つて掘返してみると、かんと音のした頭は果して南向に葬られてゐた。
歩行あるき出して、むきを代えて、もう構わず、落水おちみずの口を二三ヶ所、ざぶざぶ渡って、一段踏んであがると、片側が蘆の茂りで。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手摺てすりの前はすぐ大きな川で、座敷からながめていると、大変すずしそうに水は流れるが、むきのせいか風は少しも入らなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
内地において売れ口の無い女をどしどし輸出むきとして海外にだす事の国益である事を主張するであらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
我らがこのたびの事目出度しとて物祝ひ賜はるむきすくなからざりしかば、八重は口やかましき我が身が世話の手すきを見計みはからひて諸処方々返礼に出歩きけり。秋もたちまち過ぎ去りぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
見慣みならひて平生へいぜいはすはにそだちしは其の父母の教訓をしへいたらざる所なり取譯とりわけはゝこゝろよこしまにて欲深よくふかく亭主庄三郎は商賣しやうばいの道は知りても世事せじうと世帶せたいは妻にまかおくゆゑ妻は好事よきことにしてをつとしりき身上むき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
柄杓とともに、助手を投出すとひとしく、俊明先生の兀頭はげあたまは皿のまわるがごとくむきかわって、漂泊さすらいの男女の上に押被おっかぶさった。
「だから君のような度胸のない男は、少し真似をするがいい」と主人がうしむきのままで答えるやいなや、迷亭君は大きな赤い舌をぺろりと出した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)