はつ)” の例文
國「えゝおはつうにお目に懸りました、わっちは下駄職國藏と申すものでごぜえやすが、お見知り置かれまして此の後とも御別懇に願います」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この土地ははつ旅人たびにん、しかも、関東生粋のしたたか者——そういう面通めんどおしを、凄味たっぷりでかせて、玉井金五郎脅迫を買って出た。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
どうしたはずみからか、その袖子そでこ金之助きんのすけさんをおこらしてしまった。子供こども袖子そでこほうないで、おはつほうへばかりった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのときも、うしろのことをわすれていたのですが、のっぽのはつこうという四十面相の部下が、ポケット小僧のうしろから歩いてきました。
奇面城の秘密 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
去年の秋、京橋に住む知人の家に男の児が生まれて、この五月ははつの節句であると云うので、私は祝い物の人形をとどけに行くのであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたしたちはいちばんはじめの村に着いて興行こうぎょうをしなければならなかった。これがルミ一座いちざはつおめみえのはずであった。
二郎じろうは、毎年まいとしなつになると、こうしてきゅうりのなるのをるのでありますが、そのはつなりの時分じぶんには、どんなにそれをるのがたのしかったでしょう。
遠くで鳴る雷 (新字新仮名) / 小川未明(著)
六日前にわしがはつの俸給を——二十三ルーブリ四十カペイカを、そっくり持って帰りますとな、あれはわしのことを『可愛いい人』というじゃがせんか。
雪ならばはつの雪なる。よくふりぬ。さてもめづらにふる雪のよくこそはふれ、ふりいでにけれ。さらさらと、また音たてて、しづかなり、ただ深むなり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「へえ、金蔵と申しまして、ここの亭主でございます。おはつに——いや、さっき竜神の石段でお目にかかったのは、たしか、あなた様でございましたな」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おめえが泰軒てエ親爺おやじかい。おはつに……わっしゃア深川の古石場に巣をくってる銅義ってえ半チク野郎だがネ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お言葉甲斐もない次第で御座りまするが、只今のような不思議なお話を承りましたのは全くのところ、只今がおはつで御座りまする。何をお隠し申しましょう。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
角町かどまちからその陸蒸汽のはつ物を見物に行く時、例のガラクタ馬車に乗りましたよ。上等中等とは気がつきませんでしたが、坂道へかゝる度に皆下りて押しました」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
隱元豆いんげんまめつるなどをたけのあらがきからませたるがおりき所縁しよゑんげん七がいへなり、女房にようぼうはおはつといひて二十八か九にもなるべし、ひんにやつれたれば七つもとしおほえて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「まあ結構な——どれまあ。ちょいとおはつに入れて見せて頂いて——どんな具合だかおあんばいを」
彼にとっては江戸ははつで、見る物聞く物珍らしく、暇を見てはお長屋を出て市中の様子を見歩いた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今の 太上天皇様がまだ宮廷の御あるじで居させられた頃、八歳はつさいの南家の郎女いらつめは、童女わらはめとしてはつ殿上でんじやうをした。穆々ぼく/\たる宮の内の明りは、ほのかな香気を含んで流れて居た。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
お江戸日本橋七つ立ち、はつ上りの途に著いてから都入りまで五十三駅の名を作り入れた唄を、われら学生の時唄いながら箱根山を下駄穿げたばきで越えて夏休みに帰国したものだ。
はつにお目にかかります、私ことは大工助次郎すけじろうと申しますもので、藤吉初めお俊がこれまでいろいろお世話様になりましたにつきましては、お礼の申し上げようもございません
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
席には綱宗のほかに、三沢はつ女と、良源院の玄察がおり、老女藤井と、五人の侍女がいて、酒がはじまっていた。玄察は肥えた躯に墨染の法衣だけで、袈裟けさはかけていなかった。
甚兵衛君の隣りにははつさんという二十四五の若いしゅが坐っているが、この初さんがまた雲照律師うんしょうりっし帰依きえして三七二十一日の間蕎麦湯そばゆだけで通したと云うような青い顔をしている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日はさすがに権助ごんすけも、はつの御目見えだと思ったせいか、紋附もんつきの羽織を着ていますが、見た所はただの百姓と少しも違った容子ようすはありません。それが返って案外だったのでしょう。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ここに天の下平ぎ、人民おほみたから富み榮えき。ここに初めてをとこ弓端ゆはず調みつき一四をみな手末たなすゑの調一五たてまつらしめたまひき。かれその御世をたたへて、はつ國知らしし一六御眞木みまきの天皇とまをす。
ねえ、はつや、後生だから奥さんのいふことを聴いてね。一日に三度は、きつと足の裏を拭くのよ。あんたは、割に綺麗ずきだからと思つて安心してたら、とんだ恥をかいちやつたわ。
すべてを得るは難し (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「おはつに。お名前はおききしていました。」と、さすがにかるい愛想笑いを見せた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
というのはつまり——このおはつに知合いになった連中の並はずれた勇敢さだった。
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ときに、川鐵かはてつむかうあたりに、(水何みづなに)とかつた天麩羅屋てんぷらやがあつた。くどいやうだが、一人前いちにんまへ、なみで五錢ごせん。……横寺町よこでらまちで、おぢやうさんのはつのお節句せつくときわたしたちはこれ御馳走ごちそうつた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
栄玄の子で、父に遅るることわずか四月しげつにして歿した玄亭は、名を徳瑛とくえいあざな魯直ろちょくといった。抽斎の友である。玄亭には二男一女があった。長男は玄庵、次男は養玄である。むすめは名をはつといった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やみの影、低いながら、ピチピチとした鉄火てっかな口調で、れの男を叱るように、こういい放った女——では、これが、当時、江戸で、男なら闇太郎、女ならおはつと、並びうたわれている女賊なのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そのときちょうど奈良ならからはつもののうりを献上けんじょうしてました。めずらしい大きなうりだからというので、そのままおぼんにのせて四にんのおきゃくまえしました。するとまず安倍晴明あべのせいめいがそのうりを手にのせて
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「牧野飛騨守樣御家中、岸本誠太郎つまはつとな」
袖子そでこものわずに寝苦ねぐるしがっていた。そこへとうさんが心配しんぱいしてのぞきにたびに、しまいにはおはつほうでもかくしきれなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「きゅうりの、はつなりを、水神すいじんさまにあげなさい。」と、おっしゃったので、ぼくは、はたけから、みごとなきゅうりを、もいできて、それへ、自分じぶんきました。
水七景 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「どうだ一番、あの紙張の中と、葛籠の中、鬼が出るかじゃが出るか、俺とお前のはつのお目見得めみえにはいい腕比べだ、天竜寺の前芸まえげいにひとつこなしてみようじゃねえか」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたしくかろうと此子このこめんじていてくだされ、あやまりますとていてけども、イヤうしてもかれぬとて其後そのごものはずかべむかひておはつ言葉ことばみゝらぬてい
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
伴「旦那え、今日は湯を沸かしましたから行水をお遣いなせえ、旦那をおはつに遣わせようと思って」
それも多くの人目をあつめたに違いなかったが、はつ真打綾之助に贈られた高座の後幕うしろまくは、とうてい張りきれぬほどの数であったので、幾枚も幾枚も振りおとして掛けかえた。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「オイ、八百屋やおやはつさん、そんなおめえ、天秤棒てんびんぼうなどかつぎだして、どうしようってんだ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御飯おまんまが済んだら、はつさんがシキへ連れて行くって待ってるから、早くおいでなさい」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
初夜過ぎて夜のかすけさとやなりけらし、ふりいでにけり。何かしらふりいでにけり。声のして、ふりまさるなり。雨ならし。いな、雪ならし。雪なりし。雪ならばはつの雪なる。よくふりぬ。
それには一週間ばかり以来このかた、郵便物が通ずると言うのを聞くさえ、かりはつだよりで、むかしの名将、また英雄が、涙に、ほまれに、かばねうずめ、名を残した、あの、山また山、また山の山路を、かさなる峠を
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるあさ、おはつ台所だいどころながしもとにはたらいていた。そこへ袖子そでこった。袖子そでこ敷布しきふをかかえたままものわないで、あおざめたかおをしていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ゑぞ菊、隠元豆のつるなどを竹のあら垣にからませたるがお力が処縁の源七が家なり、女房はおはつといひて二十八か九にもなるべし、貧にやつれたれば七つも年の多く見えて
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
貴方の処へはう上れねえが、幸い今日は店振舞たなぶるまいで障子が破れていて仕様がねえから刷毛を借りて来て張る処だ、鳥渡ちょっとうちへ往って蕎麦そばのおはつうを食ってやっておくんなせえ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私がね、誰かのはつのお節句のおり、神田へ買ものにゆきますとね、前の方に、いきな女たちにとりまかれて賑かにゆく人がありますのでね、おやおや、何処どこ大尽だいじんかと見ますとね。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「まあ、みごとな、いいはつなりですね。これはべるのではありません。おまえが、りにいったり、およぎにいったりするから、水神すいじんさまにあげるのです。」と、おかあさんはいわれました。
遠くで鳴る雷 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「うつしたのは、いいところのお嬢様なんですが、特にお頼みして書いていただきました、そのはつおろしをこちら様に読んでいただきたいものでございますから、まだ綴目とじめ折らずでございます」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あやしうつむりのなやましうて、夢のやうなるきのふ今日、うきはしげるわかのかげに、はつほとゝぎすなきわたるころを、こぞの秋袷あきあはせふるめかしう取出とりいでぬる、さりとは心もなしや。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いやだよ、大概たいがいこゑでも知れさうなもんだアね、小春こはるだよ。梅「え……小春姐こはるねえさんで、成程なるほど……うつくしいもんですなア。小春「いやだよ、大概たいがいにおし。梅「へゝゝおはつにおかゝりました。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おはつにお目にかかりまする、わたくしが真三郎でござります」