上下うへした)” の例文
くちへ、——たちまちがつちりとおとのするまで、どんぶりてると、したなめずりをした前歯まへばが、あなけて、上下うへしたおはぐろのはげまだら。……
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それと同時にクリストフは歯の無い口で絶えず何か噛んでゐる。上下うへしたの唇は此運動に磨り耗らされて薄くなつてゐるかと思はれる。
老人 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
此馬鹿見た様な挨拶が上下うへしたで一句交換されると、三四郎は部屋のなかくびを引込める。与次郎は階子段はしごだんをとん/\がつてた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
醉へば醉ふ程おしやべりになるおつさんは、長すぎてあつかひにくい舌で上下うへしたの唇をなめながら、くどくど繰返して自慢をする。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
自分は片手を伸して、書物の小口の不揃ひになつたのや、上下うへしたの倒さに置かれたのを揃へ直して、差覗くやうに身をかゞめて表題の文字を讀んだ。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのからは、一かう珍品ちんぴんぬ。破片はへんおほいけれど、いでやうなのはぬ。中食後ちうじきごに、は、土瓶どびんくち上下うへしたに、ツリをつた破片はへんしたくらゐ
彼の煙突も念の為め十分に掃除せしめられたり。この家屋は四層立にしてその上に屋根裏の数室あり。屋根裏の室より屋根に出づる口には上下うへしたに開閉する扉あり。
大通おほどほりから光を受ける三つの大きな窓には、淡紅とき色を上下うへしたに附けた薄緑の窻掛リドウを皆まで引絞らずに好い形に垂らし、硝子がらすすべ大形おほがたな花模様のレエスでおほはれて居るので
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼奴等あいつら可憐いとしいヂュリエットの白玉はくぎょくつかむことも出來でくる、またひめくちびるから……その上下うへしたくちびるが、きよ温淑しとやか處女氣をぼこぎで、たがひに密接ひたふのをさへわるいことゝおもうてか
眼瞼が上下うへしたくつつくのをふせぐためであらう、睫毛はみじかく剪りとられてしまつた。一滴々々おとされる硝酸銀水が刺すやうにまたゑぐるやうに目のなかで荒れまはるのであつた。
盲目 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
ドルフは首を肩の間へ引つ込ませて、口をいて、上下うへしたの歯の間から舌の尖を見せて、さも当惑したらしい様子をした。又桟橋を渡つて買ひに往かなくてはならぬかと云ふ当惑である。
併し家らしいものは山の臺上だいうへにも臺下だいしたにも見えず、ただその上下うへしたの所々に散點する森や林やの黒い影をうしろにかして、霧のやうなものがうつすり棚曳いてゐるのが、望まれるだけであつた。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
白布が柱のように、すぐの眼の前に立っていて、それがユラユラ揺れながら、顔にあたる辺を上下うへしたそよがせ、うなずくような表情をしたが、やがて忽ち廊下の一方へ、すべるように走って行くではないか。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その前甲板ぜんかんぱんしろあかとのはたが、上下うへしたにヒラ/\とうごくやうにえた。
「これで上下うへした揃ひまして八十円でございます。」
やたら上下うへしたさがまはりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そで両方りやうはうからふりつて、ちゝのあたりで、上下うへした両手りやうてかさねたのが、ふつくりして、なかなにはいつてさうで、……けてつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それが一直線に暗いなか上下うへしたれつつ代助の方にちかづいて来るのが非常に淋しく感ぜられた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
僕はこの女連中をんなれんぢゆうの化粧する所を興味をもつて観て居るが、いろんな白粉おしろいを顔から胸や背中へ掛けて塗り、目の上下うへしたにはパステルの絵具のやうな形をした紫、黒、群青ぐんじやうさまざまの顔料を塗るのは
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あとのなんぞは、何処どこ工面くめんをしたか、たけ小笠をがさよこちよにかぶつて、仔細しさいらしく、かさ歩行あるくれてぱく/\と上下うへしたゆすつたもので。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其うちの一組ひとくみは夫婦と見えて、あついのに手を組み合せてゐる。女は上下うへしたとも真白な着物で、大変美くしい。三四郎は生れてから今日こんにちに至るまで西洋人と云ふものを五六人しか見た事がない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いはおもて浮模様うきもやうすそそろへて、上下うへしたかうはせたやうな柳条しまがあり、にじけづつてゑがいたうへを、ほんのりとかすみいろどる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この根際ねぎはひざをついて、伸上のびあがつてはろし、伸上のびあがつてはろす、大鋸おほのこぎり上下うへしたにあらはれて、兩手りやうてをかけた與吉よきち姿すがたは、のこぎりよりもちひさいかのやう。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
繃帶はうたいのぞいたくちびるが、上下うへしたにべろんといて、どろりとしてる。うごくと、たら/\とうみれさうなのが——ちやういてた——わたしたちの隣席となりへどろ/\とくづかゝつた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まど筋斜すぢかひ上下うへした差向さしむかつて二階にかいから、一度いちど東京とうきやう博文館はくぶんくわんみせはたらいてたことのある、山田やまだなにがしといふ名代なだい臆病おくびやうものが、あてもなく、おい/\としづんだこゑでいつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
書棚しよだなのぞいておくて、抽出ぬきだ論語ろんご第一卷だいいつくわん——やしきは、置場所おきばしよのあるところとさへへば、廊下らうか通口かよひぐち二階にかい上下うへしたも、ぎつしりと東西とうざいしよもつのそろつた、硝子戸がらすど突當つきあたつてそれからまが
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……その前日ぜんじつ、おなじやま温泉おんせん背戸せどに、物干棹ものほしざをけた浴衣ゆかたの、日盛ひざかりにひつそりとしてれたのが、しみせみこゑばかり、微風かぜもないのに、すそひるがへして、上下うへしたにスツ/\とあふつたのを
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あさおもへばあさひるよる夜中よなか明方あけがた、もうね、一それえましてから、わたしおぼえてますだけは、片時かたときも、うやつて、わたしかほ凝視みつめたなり、上下うへしたに、ひざだけらさうともしないんです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つまり、上下うへしたしろくもつて、五六しやくみづうへが、かへつて透通すきとほほどなので……
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其處そこへ、門内もんない植込うゑこみ木隱こがくれに、小女こをんながちよろ/\とはしつてて、だまつてまぜをして、へいについて此方こなたへ、とつた仕方しかたで、さきつから、ござんなれとかたゆすつて、あし上下うへした雀躍こをどりしてみちびかれる
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)