やと)” の例文
やとう者の側から申すと、来て働いてくれるならば、電気の技手でも煙突掃除でも、安くて辛抱しんぼうする女の方を頼もうとするかも知れぬ。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
家族かぞくといっては、ほかにとしとった、やといのおばあさんがいるばかり、ひろにわには、いっぱい草花くさばなえて、これをあいしていました。
三つのお人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
(明日、私は、船をやとうて、××まで往って、そこから汽車に乗ろうと思うのですが、あなたはどうです、いっしょにしませんか)
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
自分じぶんみせつて註文ちうもんるほどの資力しりよくはないまでも、同業どうげふもとやとはれて、給金きふきんらうなら、うした力業ちからわざをするにはあたらぬ。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
先にも、急使をやってあるが、そちも、城外へまぎれて出て、早馬をやとい、一刻もはやく、味方の救いの着くように、急いでくれい
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……お君がとついだ後、金助は手伝い婆さんをやとって家の中を任せていたのだが、選りによって婆さんは腰が曲り、耳も遠かった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
津村はその期待に胸をおどらせつつ、晴れた十二月のある日の朝、上市かみいちからくるまやとって、今日私たちが歩いて来たこの街道を国栖へ急がせた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
果ては甲州街道から地所にはなれた百姓をやとうて、一反何程の請負うけおいで、田も植えさす、麦も苅らす。それでもまだやり切れぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
梅田うめだ停車場ステーションりるやいなや自分は母からいいつけられた通り、すぐくるまやとって岡田おかだの家にけさせた。岡田は母方の遠縁に当る男であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白い糸が山のように積んであると、そのそばでやとにんがしきりにそれをり分けている。反物たんものを入れる大きな戸棚も見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
三田みたの大学が何らの肩書もないわたくしをやとって教授となしたのは、新文壇のいわゆるアヴァンガルドに立って陣鼓タンブールを鳴らさせるためであった。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日本政府は二百四十万ドル支出ししゅつし、四年間継続けいぞくの工事としてこれを経営けいえいし、技師職工は仏人をやとい、したがっ器械きかい材料ざいりょうの買入までも仏人にまかせたり。
さう聽けば、力があつて、少しは武術の心得のある百姓の伜力松が、並の雇人の三倍の給料で、用心棒にやとはれても何んの不思議もありません。
松井田より汽車に乗りて高崎にいたり、ここにてりかえて新町につき、人力車をやといて本庄にゆけば、上野までの汽車みち、阻礙なしといえり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「思想犯の方でですか?——僕は今ンところは臨時やといで、今日行かないと、また、外のやつに取られッちまうんですがね」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そこで私たちは大急ぎで銘々めいめい一つずつパンフレットも作り自働車などまでやとってそれをきちらしましたが実は、なあに
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
船の連中は、人をやとって荷物を陸にあげ、水をかいして、荷物を積んで、動き出そうとしてまた、女の悪口をいった。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
船長は、いよいよごしである。そうでもあろう。探険資金が少ないので、セキストン伯爵が、ねぎりにねぎってやとったこのぼろ船のことである。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
フヽヽんな工合ぐあひだツて……あ彼処あそこ味噌漉みそこしげて何処どこかのやとをんなるね、あれよりはう少し色がくろくツて、ずんぐりしてえてくないよ。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さる四月二十四日東京を発して当県に来る事となりました、劍山に登らんとくわだてましたのは七月の二日で、ず芦峅村におもむき人夫をやとおうと致しましたが
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
そして利息をもつていつてしまはないから、關係者たちは直に利益をうけることが出來る。そこで、やとはれた者でない本當の親切が劇場の全部にみなぎる。
むぐらの吐息 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
けれども日本では、父が、売淫ばいいんのために娘を売つたり、或ひはやとはせたりしても、法律はこれを罰しないのである。のみならず、それを認可するのである。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
乗合い船にのらんとするに、あやにくに客一人もなし。ぜひなく財布さいふのそこをはたきて船をやとえば、ひきちがえて客一人あり、いまいましきことかぎりなし。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
山の手電車を降りると自動車をやとったが、京子は絶えず眼を気にして往来を視ない。外光を厭って黒眼鏡を掛け、眼を伏せて膝の上の手ばかり見つめて居る。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おけを作ったり、おひつをこしらえたり、時には近くの村の醤油屋へ臨時の手伝いにやとわれていったりした。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
勤め罷在まかりありしぞと申さるゝに願山も最早もはや覺悟の事なれば私し儀京都に居候節日野家の醫師いしやとはれ折々供も勤めし所はからずも安田平馬佐々木靱負ゆきへの惡事にくみし京都を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
召使達も思ひ出したやうに時々氣を附ける位で、やとひ込んだ看護婦も一向に監督されないので暇さへあればそつと部屋を出てゐるのであつた。ベシーは忠實だつた。
「石山、山田がいけないというものをやとうわけには行かないよ。じかに使うのは山田なんだからな」
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
もっとも書生や女中たちが、遠くの部屋にいることはいたのですが、それはみなやとい人なのですから、おとうさまがいられたときのように、心じょうぶではありません。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
た障子を張ることも器用で、自家の障子は勿論もちろん、親類へやとわれて張りに行くこともある。かくに何をするにも手先が器用でマメだから、自分にも面白かったのでしょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
旦那様だんなさまも今度という今度は、ずいぶん用心ぶかくやんなさいましたけれど、——やはりまあ早い話が、馬車をやとうとか何とか……とにかく人手なしではまないわけでしてね
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
勘次かんじういふくぬぎゑてはやしつくるべき土地とち開墾かいこんをするためにもう幾年いくねんといふあひだやとはれてちからつくした。かれやうや林相りんさうかたちづくつて櫟林くぬぎばやし沿うて田圃たんぼえてはしつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たとえばここにある会社の社長が、新たに五十円の給料で一人の書記しょきやとったとする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ヂョン はて、とゞけることをうせなんだのぢゃ。……これ、此通このとほってもどった。……此庵こちとゞけうとおもうてもな、みな傳染でんせんこはがりをるによって、使つかひをとこさへもやとへなんだわいの。
多門がそう言ったとき、女はにわかに吃驚びっくりしたような叫び声をあげて、すぐ逃げ出そうとするのでした。多門は多年やとっている女が何故なぜ自分の顔を怖そうにながめているのかと思って
ゆめの話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
實家じつか上野うへの新坂下しんざかした駿河臺するがだいへのみちなればしげれるもりのした暗侘やみわびしけれど、今宵こよひつきもさやかなり、廣小路ひろこうぢいづればひる同樣どうやうやとひつけの車宿くるまやどとていへなればみちゆくくるままどからんで
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いろいろ、お造作にあずかったが、事のついでに、これより御亭主の又左どのをやとうて参りたいが、どうあろう、女房どのには」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
病気びょうきにかかって、いままでのように、よくはたらけなくなると、工場こうじょうでは、この若者わかものに、かねはらってやとっておくことをこころよくおもいませんでした。
あほう鳥の鳴く日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やとうことにしていたがてる女が採用されてからは実体じっていなところが気に入られ大いに二人の信任を得てそのまま長く奉公をし
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
六年頃から学生の受験案内や講義録などを出版する書店にやとわれ、二十円足らずの給料を得て、十年一日の如く出版物の校正をしていたのである。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その人は、町から、水泳すいえい子供こどもらのおぼれるのをたすけるためにやとわれて来ているのでしたが、何ぶんひまに見えたのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
大いに演説でもしてその行をさかんにしてやりたいと思うのだが、おれのべらんめえ調子じゃ、到底とうてい物にならないから、大きな声を出す山嵐をやとって
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
草角力くさずまふの大關で、柔術やはら、劍術一と通りの心得はあると言ふ觸れ込みでやとはれた力松が、刄物を持つて居るのですから、これは寄易よういならぬことでした。
かくて漁師の娘とはなりぬれど、弱き身には舟のかじ取ることもかなはず、レオニのあたりに、富める英吉利人イギリスびとの住めるにやとはれて、小間使こまづかいになりぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
※弟きやうだい建場たてば茶屋ちやや腕車くるまやとひながらやすんでところつて、言葉ことばけてようとしたが、その子達こだち氣高けだかさ!たふとさ! おもはず天窓あたまさがつたぢや。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
許宣はそこから舟をやとうて湧金門ゆうきんもんへまで帰るつもりであった。不意の雨に驚いてれながら逃げ走っている人の姿が、黒い点になってそこここに見えた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すぐ女中をやとって炊事をやらせるほか女房の代りも時にはさせていたが、お君が来ると、とたんに女中を追いだし、こんどはお君が女中の代りとなった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
困ってしまった源一は、誰かをやとって花の仕入しいれをしようかと考えた。しかしそのとき思い出したのは、いつも源一に元気をつけてくれた犬山画伯いぬやまがはくのことだった。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
此は関家で熊狩くまがりやとって置くアイヌのイコサックルが小屋で、主は久しく留守なのである。のぞいて見ると、小屋の中は薄暗く、着物の様なものが片隅に置いてある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
はらんと思ひ日夜工夫くふうなし居たりしが茲に甚兵衞は先頃より日雇ひようなどにやとはれし南茅場みなみかやば町の木村道庵きむらだうあんと云醫師あり獨身どくしんなれども大の吝嗇りんしよく者ゆゑ小金を持て居るよしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)