げん)” の例文
夢中で二三げんけ出すとね、ちゃらんと音がしたので、またハッと思いましたよ。おあしを落したのが先方さきへ聞えやしまいかと思って。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
開いた窓から、その花瓶を、三げんばかりむこうのコンクリート塀へ、力一杯投げつけたのだ。花瓶は塀に当って粉々に砕けてしまった。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
糸蝋燭の光がとどくところだけはぼんやりと明るいが、それもせいぜい二三げん。前もうしろもまっ暗闇。埃くさいにおいがムッと鼻を衝く。
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ぼッ、ぼッ……と大廊下三げんきの金網ぼんぼり、風を吸って、あやうげに明滅しているが、油をいで廻る宿直とのいの影とて見当りません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私などは一番あとだつたのでせう、そばにはお菊さんとお政さんが居ました。二三げん上ると松葉を上にかぶつた松茸が一本苔から出て居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
勘次かんじはしつて鬼怒川きぬがはきしつたとききりが一ぱいりて、みづかれ足許あしもとから二三げんさきえるのみであつた。きしにはふねつないでなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
近衞家このゑけ京武士みやこぶしは、綺麗きれいあふぎで、のツぺりしたかほおほひつゝ、片手かたてなはまんで、三げんはなれたところから、鼻聲はなごゑした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
みち幅三げんとない横町の両側には、いろとりどりの店々が虹のように軒をつらねて、銀座裏の明るい一団を形づくっていた。
銀座幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
うしてほとん毎日まいにちごとつてうちに、萱原かやはらを三げんはゞで十けんばかり、みなみからきたまで掘進ほりすゝんで、はたはうまで突拔つきぬけてしまつた。
つかれた足をひきずって二、三げん歩きだすとそこでひとりの女の子にあった。それは光一の妹の文子ふみこであった。かのじょ尋常じんじょうの五年であった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
わたしはその足あとにつづいた。わたしたちが二、三げん(四〜六メートル)行くと、カピをんでやらなければならなかった。かわいそうな犬。
あるがんの中へ身を片寄せて二三げんあとに成つて居る和田さんと良人をつととを待ち合せた時、幼い時に聞いた三途さんづの河の道連みちづれの話を思ひ出すのであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
この中庭の方は、垣に接近して小さな花壇があるだけで、方三げんばかりの空地は子供の遊び場所にもなり、また夏の夜の涼み場にもなっている。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
げんに五間くらいの土間に、飯台はんだいが二た側、おのおの左右に作り付けの腰掛が据えられ、がまで編んだ円座えんざが二尺ほどの間隔をとって置いてある。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
町幅は概して狭く、大通でさえも、漸く二、三げん位であった。その他の小路は、軒と軒との間にはさまれていて、狭く入混いりこんだ路地ろじになってた。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
浅いところは十二、三げん深いところは六十四、五間掘ればよいので、深いところほど圧力高く温度が強いとのことである。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
古藤は依然として手欄てすりに身を寄せたまま、気抜けでもしたように、目を据えて自分の二三げん先をぼんやりながめていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
三四郎はそれを見当にねらひを付けた。——舞台のはじに立つた与次郎から一直線に二三げん隔てゝ美禰子の横顔よこがほが見えた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その二、三げん前まで行ったとき、板戸が、後方へ開かれると、大岡越前守が、上り口の正面の上に突立っていた。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
見ると父のいる処から三げんばかり前の方に当って、ひとところ水が一間半ばかりの円を描いて渦を巻いていた。
赤い牛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
坦々たんたんの如き何げんはばの大通路を行く時も二葉亭は木の根岩角いわかど凸凹でこぼこした羊腸折つづらおりや、やいばを仰向けたような山の背を縦走する危険を聯想せずにはいられなかった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その吾々が仕事をしている二三げん向うには、端舟ボート釣綱つりつなが二本、中途から引っ切れたままブラ下がっていた。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その後は三げんばかりの総襖そうふすまで、白い、藍紺あいこんの、ふとく荒い大形の鞘形さやがた——芝居で見る河内山こうちやまゆすりの場の雲州うんしゅう松江侯お玄関さきより広大だ、襖が左右へひらくと
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ひるごろに帰って来まして、ちょうど自分の家の横町へはいりかかりますと、家から二、三げん手前のところに男と女が立っていまして、男はわたくしの家を指さし
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さうですよ 地きうではパンとかこめとかが常食じやうしよくでせう、火星の人げんは トマトだけよりたべないんです
といいながら、いきなりなぎなたでよこなぐりにりつけました。すると牛若うしわかはとうに二三げんあとびのいていました。弁慶べんけいすこしおどろいて、またってかかりました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
血気の頃にはましらの如くする/\と攀昇よじのぼり候そのの幹には変りはなけれども、既に初老を過ぎ候身は、いつか手足思ひのまゝならず、二、三げん登り候処にて片足を滑らせ
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
げんさきからお低頭じぎをしながら接近して来る手相見の老人——「往年倫敦ロンドンタイムス紙上に紹介されて全世界の問題となれる科学的手相学の予言者バガト・パスチエラ博士その人」
自分も二三げんばかり離れた処で立ち止り、電柱の蔭に身を寄せてそっと覗いたのです。
機密の魅惑 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
子供等は群をなして、僧の後にいた。それも二三げん隔って互にひそひそと話合った。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
左右が半げんづつの板戸に仕切られ、腰板のないのが二枚、つつましやかに、ものしづかに並んで、晝間もほのぐらさのただよつてゐる部屋の中へ無遠慮に押し入らうとする強烈な日光を
桂離宮 (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
中々なかなか逃げそうにもしない、仕方なしに、足でパッと思切おもいきり蹴って、ずんずん歩き出したが二三げんくとまた来る、平時いつもなら自分は「何こんなもの」と打殺ぶっころしたであろうが、如何どうした事か
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
一歩踏み込むと、三げんめんの堂の中は、おおうところなく平次の眼に晒されます。
壁を伝い天井を走り三げんみぞを猫のようにさも身軽に飛び越しさえした。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ほこえたような沢山たくさんきば……どう周囲まわりは二しゃくくらい身長みのたけは三げんあまり……そうったおおきな、神々こうごうしいお姿すがたが、どっと飛沫しぶき全身ぜんしんびつつ、いかにも悠々ゆうゆうたる態度たいどで、巌角いわかどつたわって
谷口吉郎たにぐちよしろう博士の設計に拠るということで、特に明治の煉瓦れんがを集めて十三げんへいを作り、二尺五寸に三尺六寸の横長の黒御影石みかげいしめこみ、それに永井荷風ながいかふう氏が「沙羅の木」の詩を書かれたのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
小浜からは二里半の上りで、三げん乃至ないし二間半の立派な自動車道ドライブ・ウェーがついている。この二里半は上り一方の峠道で、曲折の多いだけ、景色の変化も多く、高くなるにつけ視界は美しくひろげられて行く。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
此川を一跨ひとまたぎに渡りしと覚えしは、其川向かわむこう二三げんにも足跡ありしと。之を山男と謂ひ、稀には其ふんを見当ることあるに鈴竹すずたけといふ竹葉を食する故糞中に竹葉ありといふ。右の村々は大井川の川上なり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのうちの三百五十三名が前後五日にわたって敦賀郡松原村の刑場でられた。耕雲斎ら四人の首級は首桶くびおけに納められ、塩詰めとされたが、その他のものは三げん四方の五つの土穴の中へ投げ込まれた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「酒を持って来た!」と徳は大声で二三げん先から言った。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
文「これ/\舁夫、その駕籠は二三げん先へ置けよ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
げん髑髏されかうべ附燒つけやき
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いきなりわしの上の蛾次郎がじろうを、二、三げんさきへ突きとばした。不意をくって、しりもちついた蛾次郎は、いたい顔をまがわるそうにしかめて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思わず、私は、突きのめされて二三げん前へ出ました。——その婦人が立っていたのです。いや、しずか歩行あるいています。おなじ姿で、おぶい半纏ばんてんで。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから、まっ暗な廊下を三げんほど行ったところで、老人は何かカチカチ云わせている。ポケットから取り出した鍵でドアをあけようとしているのだ。
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この地には一切営業上の課税が無く、だ家屋税を家主いへぬしより徴収せられるだけである割に家賃はやすい。間口七げん奥行十五けんの二階が一箇月八九十円である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
事務長は振り向きもしないで、くつのかかとをこつこつと鳴らしながら早二三げんのかなたに遠ざかっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
香和堂は三げんまぐちで、そのうち二間が板敷の仕事場。奥に六じょうの部屋が三つあった。小舟町から伴れて来た小僧の半次も十八歳になり、ほかに二人の小僧がいる。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
幅は三げんに足らない狭い川であったが、音もなしにひやびやと流れてゆく水の上には、水と同じような空の色があおく映って、秋の雲の白い影も時どきにゆらめいて流れた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それにしても女を驚かしてはいけないと思ったので、女を二三げんやり過してから歩いて往った。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)