やり)” の例文
日頃の本望も遂げむことは難く、我がやりも太刀も草叢くさむらに埋もるるばかり、それが無念さの不覚そぞろの涙じゃ、今日より後は奥羽の押え
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
御年貢おねんぐ皆済目録、馬籠宿駅印鑑、田畑家屋敷反別帳たんべつちょう、その他、青山の家に伝わる古い書類から、遠い先祖の記念として残った二本のやり
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
れからつかまえられたとか斬られたとか、あるいは奥平屋敷の溝の中に人が斬倒きりたおされて、ソレをまた上からやりついたと云うようなおお騒動。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この畜類ちくるゐ、まだ往生わうじやうしないか。』と、手頃てごろやりひねつてその心臟しんぞうつらぬくと、流石さすが猛獸まうじうたまらない、いかづちごとうなつて、背部うしろへドツとたをれた。
そういうのが十名ばかり、その後に続いて両側にやりの形で上部うえはちょうどシナ風の劒わが国の鉾のごとくその刃先はべろべろと動いて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
七月の声は聞いても、此所ここは山深い箱根のことです。夜に入るとやり穂先ほさきのように冷い風が、どこからともなく流れてきます。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ドキドキしたり身内がうずくような喜び恐れ悲しみなどの激情をあたえること、(四)やりなどを投げること、というのである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼自身もまた、「文芸の大製作所の片隅かたすみに、古い絨緞じゅうたんを繕ったりすたれた古代のやりをみがいたり」してるところを示していた。
心持こゝろもち西にしと、ひがしと、真中まんなかやまを一ツいて二すぢならんだみちのやうな、いかさまこれならばやりてゝも行列ぎやうれつとほつたであらう。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「天狗の宮の内陣にな。……そこに大きな木像がある。身のたけ二丈でやりを持っている。……宗介天狗の木像よ。……つまり彼奴きゃつらの守り本尊だ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
石秀せきしゅうと孫立とはただちにやりを合せ、両々譲らず、火をちらし、鎗身そうしんからみあい、激闘数十合におよんだが、勝負、いつ果てるとも見えなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのころ、畿内を分領していた筒井つつい、松永、荒木、和田、別所など大名小名の手の者で、『やり中村』を知らぬ者は、おそらく一人もなかっただろう。
(新字新仮名) / 菊池寛(著)
国会開設前の時流は、三多摩の壮士が竹やりで、何百人押寄せてくるのなんのと、殺伐な空気であったと見える。政談演説会や討論会もよく開かれた。
その画像の前には具足櫃ぐそくびつがあって、それと釣合いを取って刀架かたなかけがある。長押なげしにはやりがある。薙刀なぎなたがある。床の間から襖にそうてうずたかく本箱が並んでいる。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼に出会った人は、彼が弓と骨の矢尻やじりをつけた沢山の矢を持ち、お父さんが狩に使っていた大きなやりを、小さな背中に背負っているのに気がつきました。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
当日は自分は手習いが済むと八ツ半からやり稽古けいこッたが、妙なもので、気も魂も弓には入らずただ心の中で,「もウ来たろうか?」と繰り返していた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
中にも弥一右衛門の二男弥五兵衛はやりが得意で、又七郎も同じわざたしむところから、親しい中で広言をし合って、「お手前が上手じょうずでもそれがしにはかなうまい」
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鉄砲が十ちょうやりが十本ぐらい立て並べてありまして、此処こゝは市ヶ谷長円寺谷ちょうえんじだに中根大隅守様なかねおおすみのかみさま御出役ごしゅつやくになり、はかまを付けた役人がずーっと並んでいる所へ駈込んで
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
赤筋の這入った服の騎兵が、やりを立てて御馬車の前後を警固して行きます。騎兵の人々にさえぎられて、よく拝されません。やがて皇后陛下の御馬車が近づきました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
卒直な一徹過激な青年クリストフの騎馬行を——騾馬らば屋や役人や風車にたいして、ドイツおよびフランスの広場の市にたいして、彼がドン・キホーテ式にやりを振うことを
一寸ばかりの豆人形で先供のやり持から殿様のおかご、引馬から後詰の家来、合羽籠まですべて大大名の行列一切、背景も遠見の城櫓、大手御門の構え、とても精巧の出来
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
松平不昧なども秘蔵の唐物からもの茶入油屋肩衝あぶらやかたつきに円悟墨蹟を配したのに対して、古瀬戸茶入やりさやには虚堂墨蹟を配し、参覲交代の節には二つの笈に入れ、それぞれ家来に負わせて
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
掛たる爪折傘に草履取合羽籠等なり引續ひきつゞいて藤井左京も四人徒士にて長棒の駕籠にのり若黨わかたう四人黒叩き十文字もんじやりを持せ長柄傘草履取合羽駕籠等なり少しおくれて山内伊賀亮は白摘毛しろつみげの鎗を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一時にドッとみ入った多くの兵士は、一方は王の周囲まわりを取り囲んで仕舞い、一方は紅木大臣を取り巻いて身体からだ中隙間もなくやりを突き付けて、動かれぬようにしてしまいました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
朗々のどかなりしもてのひらをかへすがごとくてんいかりくるひ、寒風ははだへつらぬくやり凍雪とうせついる也。
もともと出鱈目でたらめ駄法螺だぼらをもって、信条としている彼の言ゆえ、信ずるに足りないが、その言うところによれば、彼の祖父は代々やり一筋の家柄で、備前岡山の城主水野侯に仕えていた。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
月が有るからすかして見るとおどろいた、白糸縅しらいとおどしよろい鍬形打くわがたうちたるかぶといただき、大太刀をび手に十文字のやりげ容貌堂々威風凜々いふうりんりんたる武者である、某はあまり意外なものに出会い呆然ぼうぜんとして見詰みつめているうち
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
やりヶ岳(三五三一米)及び駒ヶ岳(二五五七米)であるとし
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
かりする人のやりに似て
文学的自叙伝 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
やりは錆ても武士さむらひ
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
幾本かのやりは玄関の式台のところに持ち込んである。あの客の接待には清助というものがあって、半蔵もその方には事を欠かなかった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
声に応じて四天王、パッと正面へ躍り出るや、朱雀四郎は長巻ながまきを構え、玄武三郎はやりをしごき、白虎太郎は弓を握り鏑矢かぶらやをつがえて引き絞った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それらのものは妖精ようせいつえであった。長いまっすぐなものは、やりになったり剣になったりした。それを打振りさえすれば、多くの軍隊が湧き出した。
見えるかぎりのものは、残雪の泥土と、るいるいたる死屍ししだった。破れた旗、いたずらにむなしき矢柄やがら、折れたやり、すべては泊兵の残骸ではないか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして味わって見ると中々こまやかな味のある戦であり、やり、刀、血みどろ、大童おおわらわという大味な戦では無いのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
前面ぜんめん大手おほて彼方かなたに、城址しろあと天守てんしゆが、くもれた蒼空あをぞら群山ぐんざんいて、すつくとつ……飛騨山ひださんさやはらつたやりだけ絶頂ぜつちやうと、十里じふり遠近をちこち相対あひたいして
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
車夫は背が非常に高いので、端に立っているのが、やりを立てたようだと、皆で笑いました。その写真は近年まで持っていましたが、今あったらさぞ面白いでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
やりが来たり鎧櫃よろいびつが来たりするから、近辺では大したお方だととうとむことで、小左衞門は金も沢山持って居りましたろうが、坐してくらえば山もむなしのたとえでございますから
その十字架の両側には、チョンまげに結った二人の男が、繩のたすきをかけて、長いやりを左右から女の両腋につきつけている。そして、その鋒鋩ほさきが女の両の乳の下を、えぐっている。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こすいものにはだまされ、家禄放還金の公債もきあげられ、家財を売りぐいしたり、娘を売ったり、やり一筋の主が白昼大道にむしろを敷いて、その鎗や刀を売ってその日のかてにかえた。
泰勝院殿は甲冑かっちゅう刀剣ゆみやりの類をつらねて御見せなされ、蒲生殿意外におぼされながら、一応御覧あり、さて実は茶器拝見致したく参上したる次第なりと申され、泰勝院殿御笑いなされ
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
熊がすっかり弱りきるのを待って、やりで突き殺す。まったくわけのないことですよ
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
申し甚之助には能方よきかたおもむけばやりすぢ主共しゆとも成るべきが惡方あしきかたへ趣けば馬の上にてやり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その杖の先にはやりのようなかねが付いて居るです。もっとも沢山たくさん雪の広く積ってある所はそれほど巌も厳しくもなし、まあ平坦になって居りますから登り易いがそうでない所は実に危ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
今日は平生いつもと違って王宮の中はどの廊下もどの廊下も鎧を着た兵士が立っていて、皆さやを払ったやりや刀をひっさげて、奥の方を一心に見詰めながら、素破すわといわば駈け出しそうにしています。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
おのおの抜き身のやりを手にした六人の騎馬武者と二十人ばかりの歩行かち武者とを先頭にして、各部隊が東の方角から順に街道を踏んで来た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鹿角かづの打ったるかぶとを冠り紺糸縅こんいとおどしよろいを着、十文字のやりっさげて、鹿毛なるこまに打ちまたがり悠々と歩ませるその人こそ甚五衛門殿でございました」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
がえの帷子かたびら一枚、やり一筋ひとすじよろいりょう——それだけを、供にになわせて、十内は、もういちど老母の部屋をうかがってみた。
原始時代からやりを交えて戦ってるそれらの偉大な女神らのホメロス式な決闘を、著者はほめたたえていた。それは実に永遠にわたるイーリアスであった。
むこ十川そごう(十川一存かずまさの一系だろうか)を見放つまいとして、搢紳しんしんの身ながらにしゃくや筆をいて弓箭ゆみややり太刀たちを取って武勇の沙汰にも及んだということである。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)