ほがら)” の例文
姉妹篇「たこ」に対して「春」という一字をえらんだのです。「春」という字は音がほがらかで字画が好もしいため、本の名にしたわけです。
はしがき (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
だが、それらの春のそよ風の様に、ほがらかに甘い会話の中で、たった一度、打って変って、彼女は非常に陰気な打開け話をしたことがある。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その空からは、ほがらかなとびの声が、日の光と共に、雨の如く落ちて来る。彼は今まで沈んでゐた気分が次第に軽くなつて来る事を意識した。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ごく遠いところからやってるようでもあるし、どこへくのかわからなくもあった。ほがらかではあるが、なやましいものがこもっていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
光枝は、この事件で立役者たてやくしゃではなかったけれど、科学探偵帆村の活躍ぶりに刺戟しげきされて、元のようにほがらかな気分の女性に返った。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから少時しばらくのち私達わたくしたちはまるでうまかわったような、にもうれしい、ほがらかな気分きぶんになって、みぎひだりとにたもとわかったことでございました。
なんとこだわりのないほがらかな追懐ではありますまいか。このようにして、エディソンは自ら満足した幸福な生涯を送りました。
トーマス・エディソン (新字新仮名) / 石原純(著)
その憂欝になっていたのが、ここでうして一杯飲んだら、胸がすうとして、急にほがらかになって……。ああ、心持こころもちだ。トテモ愉快だわ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ドンな場合でも決して屈することのないプロレタリアの剛毅ごうきさからくるほがらかさが、その言葉のうちに含まさっているわけだ。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
あの畜生さえいなかったら山田家はほがらかで、鮫洲大尽さめずだいじんとして人にも尊敬せられて往くのであるが、あの畜生のいるばかりにこんなことになった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
廿四日 寒さ骨にとおる。朝日薄く南窓を射、忽ちまたくもる。午後日影ほがらかなり。蕪村忌小会。今日は鴨の機嫌ことに好し。
雲の日記 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
駄洒落だじゃれを聞いてしらぬ顔をしたり眉をひそめたりする人間の内面生活は案外に空虚なものである。軽いわらいは真面目な陰鬱いんうつな日常生活にほがらかな影を投げる。
偶然の産んだ駄洒落 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
火鉢ひばちの上でお襁褓を乾かしながら、二十歳で父となった豹一と三十八歳で孫をもったお君はほがらかに笑い合った。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
むりに押し分けたような雲間から澄みて怜悧さかに見える人の眼のごとくにほがらかに晴れた蒼空がのぞかれた。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
雪なす鸚鵡は、見る/\全身、美しい血にそまつたが、目を眠るばかり恍惚うっとりと成つて、ほがらかに歌つたのである。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼はこのほがらかな響を聞いて、はっとさとったそうです。そうして一撃いちげき所知しょちうしなうと云って喜んだといいます。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白洲をずうッと見渡されますと、目安方がほがらかに訴状を読上げる、奉行はこれをとくと聞きおわりまして
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
各地から寄り集まっている人々の話題を、できるだけほがらかな楽しいものにしたいからである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
到頭のろわれた六月の三十日が来た。梅雨つゆ時には、珍らしいカラリとしてほがらかな朝だった。明るい日光の降り注いでいる庭の樹立こだちでは、朝早くからせみがさん/\と鳴きしきっていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
徳二郎は平時いつもほがらかな聲に引きかへ此夜は小聲で唄ひながら靜かに櫓を漕いで居る。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ぎにつたほがらかなこゑくぶっぽうそう(佛法僧ぶつぽうそう)はきつゝきのるいで、かたちからすてゐますが、おほきさはその半分はんぶんもありません。羽毛うもう藍緑色あゐみどりいろで、つばさとが菫色すみれいろびてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
田圃たんぼはんとうはなてゝ自分じぶんさき嫩葉わかば姿すがたつてせる。黄色味きいろみふくんだ嫩葉わかばさわやかでほがらかな朝日あさひびてこゝろよひかりたもちながらあをそらしたに、まだ猶豫たゆたうて周圍しうゐはやしる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
二木検事は、今星田代二の面皮をぐことが出来たとは云え、彼はみじめな気持を味わわずにはいられないのだった。星田の面皮を剥いだのが、彼自身であったら、彼はどんなにほがらかになれたろう。
○「第一、ほがらかにしなくっちゃそんじゃなくて。」
現代若き女性気質集 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
できるだけほがらかに暮らす決心しましたの。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ほがらかな空、涙まじりの小鳥のおしやべり
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
のびやかに、ほがらかに、あんら、ゆるやかに
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
悠揚いうやうとしてほがらかなるは
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ほがらかに笑った。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すべて舞台の装置も、演出も、神経的でなく、子供の本能と情操とが想像した、愛らしいほがらかな春そのものの創造であること。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「金塊は無かったよ」と私はほがらかに云った。「金塊どころか、金の伸棒のべぼうも入っていなかったことは、警官たちが一々検査して認めているよ」
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おつや (いよいよ調子が崩れて来る。)ええ、ええ、大いにほがらかよ。この頃の流行はやり言葉で、明朗めいろうとか云うんですよ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
現在げんざいはは様子ようすは、臨終りんじゅうとき様子ようすとはびっくりするほどかわってしまい、かおもすっかりほがらかになり、年齢としもたしかに十歳とおばかり若返わかがえってりました。
ふと耳をすますと、いつの間にか、隣室のやかましい物音がやんで、底知れぬ静寂の中から、殆んど信じ得られぬ様な、ほがらかなにわとりの声が聞えて来た。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ゆきなす鸚鵡あうむは、る/\全身ぜんしんうつくしいそまつたが、ねむるばかり恍惚うつとりつて、ほがらかにうたつたのである。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
せまる秋の日は、いただく帽をとおして頭蓋骨ずがいこつのなかさえほがらかならしめたかの感がある。公園のロハ台はそのロハ台たるのゆえをもってことごとくロハ的に占領されてしまった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
葉が落ち散つたあとの木の間がほがらかにあかるくなつてゐる。それに此処ここらは百舌鳥もずがくる。ひよどりがくる。たまに鶺鴒せきれいがくることもある。田端たばた音無川おとなしがはのあたりには冬になると何時いつ鶺鴒せきれいが来てゐる。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
だが、その笑いごえは、あまりほがらかであるというわけにはいかず、どっちかというと、とってつけたような笑いごえだった。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それに四辺あたりみょう薄暗うすくらくて滅入めいるようで、だれしもあんな境遇きょうぐうかれたら、おそらくあまりほがらかな気分きぶんにはなれそうもないかとかんがえられるのでございます。
お巡りの治良右衛門は、小腰をかがめて、胸の前でキルク玉を受けとめるなり、ほがらかに叫んだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ほがらかにかぜの往来をわたる午後であつた。新橋の勧工一回ひとまはりして、広い通りをぶら/\と京橋の方へくだつた。其時そのとき代助のには、向ふがはいへが、芝居の書割かきわりの様にひらたく見えた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と、う申すのではござりませぬか、と言ひもだ果てなかつたに、島の毒蛇どくじゃ呼吸いきを消して、椰子やしの峰、わにながれ蕃蛇剌馬ばんじゃらあまんの黄色な月も晴れ渡る、世にもほがらかなすずしい声して
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのくらいのアルコールは途中で醒めてしまった筈だが、この狭いところへ這入はいって、焚火にかッかとあぶられたら、又そのよいが一度に発して来て、いよいよほがらかになって来たのよ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これは大変名案だった。二人はすっかりほがらかになり、卒業のときに大騒ぎをしたのが可笑おかしく思われてならなかった。
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、まをすのではござりませぬか、とひもてなかつたに、しま毒蛇どくじや呼吸いきして、椰子やしみねわにながれ蕃蛇剌馬ばんじやらあまん黄色きいろつきわたる、にもほがらかなすゞしいこゑして
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
色が白いので、まゆがいかにも判然していた。眼もほがらかであった。頬からあごを包む弧線こせんは春のようにやわらかかった。余が驚きながら、見惚みとれているので、女は眼をらして、くうを見た。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
殿村も一倍の無邪気さで、ほがらかに笑った。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すだれのなかではほがらかな声で言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕はそれ以来、人が変ったようにほがらかな気持で生活することが出来るようになった。そのときは、その足で、記者倶楽部クラブへ出かけていったものである。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
卓子台ちゃぶだいの上は冬の花野で、欄間越らんまごしの小春日も、ほがらかに青く明るい。——客僧の墨染すみぞめよ。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)