)” の例文
白刃しらはげ、素槍すやりかまへてくのである。こんなのは、やがて大叱おほしかられにしかられて、たばにしてお取上とりあげにつたが……うであらう。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
家人たちが、銘々酔顔をげて駆け集ったとき、つい先頃奉公に上ったばかりの召使いのおとよという女が、半身に血を浴びながら
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこへ相役の一人が供先から帰って真裸まはだかになって、手桶ておけげて井戸へ水を汲みに行きかけたが、ふとこの小姓の寝ているのを見て
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、手下の向けた龕燈がんどうで、まじまじと見つめたその時の、奇異な少年のすがたを——小六は今、ありありと眼に思いうかべていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ人が来た、二人、三人、四人、手に手に提灯ちょうちんげている。御用提灯だ。御用提灯とはいえ、これは臨時取立ての非常見廻りだ。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
寺で聞けば宜しいに、おのれが殺した女の墓所はかしょ、事によったら、とがめられはしないか、と脚疵すねきずで、手桶をげて墓場でまご/\して居る。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しな塔婆たふばまへにそれから其處そこら一ぱい卵塔らんたふまへ線香せんかうすこしづゝ手向たむけて、けてほつかりとあかつた提灯ちやうちんげてもどつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
梅雨期にはいるちょっと前で、トランクをげて歩いている尾田は、十分もたたぬ間にはやじっとり肌が汗ばんで来るのを覚えた。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
魚槍を肩にし、創口きずぐちより血なおしたたれる鱒をげたる男、霧の中より露われ来る。掘立小屋に酔うて歌うものあり。旧土人なりといえり。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
私はひざの破れたズボンをはいて、彫刀などを入れた道具箱をぶらげ、靴みがきみたいな姿をしてゐたので、さすがに気がひけた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
釣られて源十郎が振り向くと、三座の絵看板からでも抜けて来たような美男の若侍が、ちょうどげ刀をしてはいってくるところ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
紹介状もたずさえずに、取次を通じて、面会を求めるので、座敷へしょうじたら、青年は大勢いる所へ、一羽の山鳥やまどりげて這入はいって来た。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鰯を買つた幸堂氏はねぎを買ひに主人を近所の八百屋に走らせた。茶気のある篁村氏は一銭がとこ葱をげて嬉しさうに帰つて来た。
この辺りにはついぞ見かけぬ三人の若い男女が、赤外線写真のような裾野道をいくつかの荷物をげながら辿り辿りやって来た。
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
浅黄あさぎの石持で柿色の袖なしに裁布たっつけをはいて、腰に七輪のアミをげて、それを叩いたり三味線を引いたりして、種々な音色を聞かせたが
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
手桶ておけ薬缶抔やかんなどげたる人だち我も我もと押し掛くる事故ことゆえ我ら如き弱虫は餓鬼道の競争に負けてただしりごみするのみなれば何時飯を
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
つり道具だうぐげて、友伯父ともをぢさんたち一緒いつしよ胡桃くるみえる谷間たにあひ出掛でかけますと、何時いつでもとうさんはさかなられてしまふか
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
どんな容子の人だとくと、かばんを持ってる若い人だというので、(取次とりつぎがその頃わたしが始終げていたかわ合切袋がっさいぶくろを鞄と間違えたと見える。)
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
昨日きのうのことよ、どこかのひとが、たいへん精巧せいこう空気銃くうきじゅうげてあるいていたのですって。そして、片手かたてにたくさんったすずめもぶらさげて。
金歯 (新字新仮名) / 小川未明(著)
夫婦はかじかんだ手で荷物をげながら小屋に這入った。永く火の気は絶えていても、吹きさらしから這入るとさすがに気持ちよくあたたかかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
右手に刀をげておいでになった筈でしたけれども、その刀はお父様の身体からだの蔭になって、私の目には這入りませんでした。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おびやかされた当の巡査自身のように、サアベルをげ長靴でもはき、ぴんと張った八字ひげでも撫上げながら、「オイ、コラ」とか何とか言いそうな
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
兵さんは、不思議そうに、片手にげている魚籃びくを、ランプのあかりの方へ寄せて、一方の手で、ひきかき廻したのだった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「かしこまりました。」強い兵曹長はその死骸をげ、烏の大尉はじぶんのもりの方に飛びはじめ十八隻はしたがひました。
烏の北斗七星 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
肩から小鈴の箱を飴屋さんに掛けて、兩手には、大きい鈴を、新しいのと古いのとを取交ぜて、五つ六つづつげました。
自分の体が、お民のげている提灯のあかりを路一ぱいに遮ぎって、前が真っ暗になる。左右の稲田が、ぼうっと明るく、両方の眼尻にうつる。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「そう。でも、お茶だけ入れましょうよ。おばさん。お湯がわいているなら頂戴ちょうだい。」と叫びながら下へ降り、すぐに瀬戸引せとびき薬鑵やかんげて来た。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おおかたくわえた楊枝ようじてて、かおあらったばかりなのであろう。まだ右手みぎてげた手拭てぬぐいは、おもれたままになっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「例の毛生え薬を貰ってつけた先生です。田代六三郎と申します。田代六さん、一升徳利げて。何故か徳利、が高い」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それらの事件をよそに、倉持はある時、どこか旅行でも思い立ったように、何かぎっちり詰まったかばんげて、船でかわを下り、町に入って来た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼はげていた刀をすとッと腰におとし、そこの座敷廊下に立ちはだかるようにして手をった。座敷にたまっていた人々の声も静かになった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
しかし、既にその時、手に手に竹槍たけやりや、蕃刀やをげた百五十人ばかりの蕃人が、雪崩なだれをうって場内に駈けこんできたのに、人々は気がついた。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
白い股引もゝひき藁草履わらざうりを穿いた田子たごそのまゝの恰好かつかうして家でこさへた柏餅かしはもちげて。私は柏餅を室のものに分配したが、皆は半分食べて窓から投げた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
山姥やまうば』の曲が終ると同時に、彼は死ななければならなかった。そうして殺し手が白刄をげ、彼の背後に立っていた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その後から年とった女達がくわの上に泥を引っかけたのをげて弾薬補給の役目をつとめるためについて行くのである。
五月の唯物観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
女房は豆腐を入れた岡持おかもち番傘ばんがさげて出て往った。主翁はその後姿うしろすがたを見送っていたが、障子しょうじが閉まると舌うちした。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
まだ可なり吹きりの中を、お馨さんによくた十四五、十一二の少女が、片手に足駄をげ、頭から肩掛しょうるをかぶり、跣足はだしで小学校に出かけて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
壮士坊主が騒いで居るところへシャーゴの下役したやくを勤めて居る警護の僧が、長さ二間ばかり太さ五、六寸ほどの柳の棒をげて見廻りに出かけて来る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
渇きを覚えてゐる強い力——殊に異性の雄々しい圧力——これをげてあなたに迫るものがあつたとしたら、それは必ず大杉氏であつた事を要しない。
脚絆きゃはんを着け、素足に麻裏穿き、柳行李やなぎごうり袱裹ふくさづつみ振分ふりわけにして、左の肩に懸け、右の手にさんど笠をげ、早足に出づ。
不精髭を生やした背広姿の男が、バスにも乗らず、酒瓶をげて歩いている。それを異様に思っているに違いない。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
片手にげてる継続問題ぢやありませんか、其様そんな乾燥無味な理窟りくつで、の多感多情の藤野を殺すことは出来ませんよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かれはしゃものような声で弁士の似声こわいろを使ったり、またほうきげて剣劇のまねをするので女中達は喜んで喝采した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そしてその混雑の中を行く人は、手に手に買物をげている。高等化粧料を売る資生堂には人があふれている。それも婦人ばかりではない、男が多かった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
丁度ちやうど其時そのときにははひつてたのは、いましもまちあさつて猶太人ジウのモイセイカ、ばうかぶらず、跣足はだしあさ上靴うはぐつ突掛つツかけたまゝ、にはほどこしちひさいふくろげて。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
役所の帰りにしゃけ二切ふたきれ竹の皮に包んでげて来る気になる、それが普通だと、まあ、思って自ら慰めている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そういうことに役に立てばはなはだ満足ですといって、早速書生さんにつとを拵えさせ、一匹ずつ入れて、両方になわを附けて、げて持てるようにしてくれました。
「ここのお婆さんはお留守でしょうか」と、昨日きのうも出口の店屋で訊いているので無駄だと知りつつも、そう言ってたずねると、おかみは、バケツをげたまま
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
旅館オテルまでは遠くないから歩かうと、案内役である元気のい和田垣博士が鞄をげて先に停車場ギヤアルを出られる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
母は細帶を締めて、枕元の行燈をげて出て行つた。表の掛金を外す音がした。醫師の島田は二三言何か云つてゐたが、やがて太い咳拂せきばらひをして歸つて行つた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)