幾多いくた)” の例文
素朴そぼくな生活への復帰を願うドヴォルシャークの心が、この郷愁となって、幾多いくた傑作をのこし、ともすれば虚偽と繁雑とにき込まれて
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
鋼索こうさく化學用くわがくようしよ劇藥げきやく其他そのほか世人せじん到底たうてい豫想よさうがた幾多いくた材料ざいりよう蒐集中しうしふちうなりしが、何時いつとも吾人われら氣付きづかぬその姿すがたかくしぬ。
彼等かれら他人たにんぬすむのには幾多いくた支障さはり、それはためあひした念慮ねんりよむしかへつさかん永續えいぞくすることすらりながら
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
では、あの百面相役者の、その名にふさわしい幾多いくたの変装姿はそれぞれに、かつてこの世に実在した人物だったのか。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
にんえのきもとちて、「お月樣つきさまいくつ」とさけときは、幾多いくたの(おう同音どうおんに「お十三じふさんなゝつ」として、飛禽ひきんつばさか、走獸そうじうあしか、一躍いちやく疾走しつそうしてたちまえず。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
前に述べた芸人などの例はもっともく当たることであるが、これはいわば人を幾多いくたへんに切り、そのもっとも長じた所を一般的ノルムで測るのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
古來こらい幾多いくたの人間は、其の下で生まれ、そして死んだ。時が移る、人が變る、或者は破壊はくわいした。併し或者は繕ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
古來こらい幾多いくた建築家けんちくかや、思想家しさうかや、學者がくしやや、藝術家げいじつかや、各方面かくはうめんひとがこの問題もんだいついかんがへたやうであるが、いまかつ具體的ぐたいてき徹底的てつていてき定説ていせつ確立かくりつされたことをかぬ。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
男女両性の問題については古来幾多いくたの思想家も、宗教家も、はた立法家も、皆迷うた。釈迦しゃかも迷えば、孔子こうしも迷う、ソロモンも迷えば、マホメットも皆迷った。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
この建築を俗に塔ととなえているが塔と云うは単に名前のみで実は幾多いくたやぐらから成り立つ大きな地城じしろである。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分のために、幾多いくたの兵馬を犠牲にえにし、自分の一命をも陣頭に置いて、闘ってくれているのだ。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或はいわれて澎湃ばうはい白沫をばし、或は瀾となり沈静ちんせい深緑しんりよくあらはす、沼田をはつして今日にいたり河幅水量ともはなはだしく减縮げんしゆくせるをおぼえず、果して尚幾多の長程と幾多いくたの険所とをいうする
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
天下の民みな覇政はせいたくに沈酔し、一旅を以て天下を争わんとしたる幾多いくたの猛将梟漢きょうかんの子孫が、柳営りゅうえい一顰いっぴん一笑いっしょう殺活さっかつせられつつある際に、彼の烱眼けいがんは、早くも隣国の形勢に注げり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
仏氏ぶっしのいわゆる生者しょうじゃ必滅ひつめつの道理、今更おどろくは愚痴に似たれど、夜雨やう孤灯ことうもと、飜って半生幾多いくたの不幸を数え来れば、おのずから心細くうら寂しく、世にたよりなく思わるる折もありき。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
行われおる多人数の通夜の習慣は、この種の妖異の防遏ぼうあつに最も有効なる事が古来幾多いくたの人々の経験に依って知、不知の間に確認せられおりし事を今日に立証しおるものと見るを得べし。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この幾多いくた名の知れない泰軒先生が、各時代を通じて存在していたということは、じつに、前に遠く日本建国の創業をのぞみ、のちにはるかに明治維新の絢爛けんらんたる覇業をよぶところのもので
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
土器どき形状けいじようの爲に種々の意匠いせうを廻らし、土器の紋樣の爲に幾多いくたの圖案を工夫くふうせしがごときは土器製造者せいざうしやの心中餘裕有りしを知るに足るべく、土器使用者しやうしやの性質むしろ沈着ちんちやくなりしを察するに足るべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
会食の時間となれば賓客ひんかくは三々伍々幾多いくたの卓にって祝杯を挙げ二十余名の給仕人燕尾服えんびふくにて食卓の間を周旋しゅうせんす。名にし負う一年一度の夜会主客しゅかく陶然とうぜんとして歓声場裏に和気の洋々たる事春のごとし。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
人間にんげんのまれにしかゆかないやまとはいいながら、そのながあいだには、幾多いくた変化へんかがありました。ひとあしるところ、またのとどくところられたり、またられたりしたのであります。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
遙かのかなたにくうを刺すがごとくそびえて居る幾多いくたの美しい雪峰を望みながら行くこと三里ばかりにして、その夕方ラルンという所へ着くや否や、例のごとく早く休みまして翌日夜半に出立したです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
うしろ幾多いくたの宝玉ありや?」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とき幾多いくた民家みんか猶且やつぱり非常ひじやう慘害さんがいかうむつて、村落むらすべては自分じぶんしのぎがやつとのことであつたので、ほとんど無用むようであるれう再建さいこんかへりみるものはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
武裝ぶさうせる幾多いくた海賊かいぞくどもに/\劔戟けんげき振翳ふりかざしつゝ、彼方かなた甲板かんぱんから此方こなた乘移のりうつり、たがひ血汐ちしほながして勝敗しようはいあらそふのであるから、海賊かいぞくてば其後そのゝち悲慘ひさんなる光景くわうけいまでもないが
幾多いくたの罪人を呑み、幾多の護送船を吐き出した逆賊門はむかしの名残なごりにそのすそを洗う笹波ささなみの音を聞く便たよりを失った。ただ向う側に存する血塔けっとうの壁上におおいなる鉄環てっかんがっているのみだ。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幾多いくたの作曲があり、十五歳までには、数曲の室内楽曲、二つの歌劇、五つの協奏曲、その他少なからざるピアノ及びオルガンの独奏曲と、ヴァイオリン・ピアノのソナタを書いていたのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
余りにも、明らかです。……敗るること明らかなる上は、一日も早く、御降伏遊ばすのが、領民の大幸、お家の安全、また可惜あたら幾多いくたの人命を失わずともすみますので、万難をおかして、その儀を
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日本料理だって古来幾多いくたの経験をかさねてその料理法には自然と衛生上の主意に暗合している事も多いけれどもことごとく衛生上から割出して配合や調理法を極めてあるかというに決してそうは行かん。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
瀑布をのぼ俯視ふしすれば毛髪悚然もうはつそくぜんあしめに戦慄せんりつす、之を以て衆あへて来路を顧みるなし、然りと雖も先日来幾多の辛酸しんさん幾多いくたの労苦とをめたる為め、此険流けんりうを溯るもみな甚労とせず、進程亦従て速なり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
余の見る所を以てすると、現今毎月刊行の文学雑誌に載る幾多いくたの小説の大部分は、英国の『ウィンゾー』などに続々現れてくる愚劣な小説よりも、どの位芸術的に書き流されているか分らない。
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はかあなけたやう赤土あかつちが四はううづたかげられてあつた。其處そこには從來これまで隙間すきまのないほどあなられて、幾多いくたひとうづめられたのでほねあしほねがいつものやうにされてげられてあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さしも、由緒のある墨屋敷——甲賀流の宗家世阿弥よあみのあとは、幾多いくたの秘書財宝をかくしたまま、ここにバリバリと惜しげもなく燃えに燃えて、ドーッとものすさまじい地響きをして焼けくずれる……。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)