常夏とこなつ)” の例文
おじいさんは、来年らいねんはるになるのをったのです。ついに、そのはるがきました。すると、常夏とこなつは、ぐんぐんとおおきくなりました。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
撫子なでしこ円髷まるまげ前垂まえだれがけ、床の間の花籠はなかごに、黄の小菊と白菊の大輪なるをつぼみまじり投入れにしたるをながめ、手に三本みもとばかり常夏とこなつの花を持つ。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「相見れば常初花とこはつはなに、こころぐし眼ぐしもなしに」(巻十七・三九七八)、「その立山に、常夏とこなつに雪ふりしきて」(同・四〇〇〇)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
南は常夏とこなつの国とて、緑の色に濃くおおわれ、目も鮮かな花が咲き乱れ、岸辺には紫や青や黄色の魚がおよぐのを見られるでしょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もしかすればそれは頭中将が忘られないように話した常夏とこなつの歌の女ではないかと思った源氏の、も少しよく探りたいらしい顔色を見た惟光これみつ
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いや、遂買はなかつたが、この「舞姫」のあとに「夢の華」といふのがあるし、近頃また「常夏とこなつ」といふのが出た筈だ。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
この常夏とこなつの国であり、豊饒の天地である高原地帯から、少し内陸にはいると、急にシエラ・ネバダの山岳地帯に入る。
ネバダ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
わたくしは常夏とこなつの花一鉢をあがない、別の路地を抜けて、もと来た大正道路へ出た。すこし行くと右側に交番がある。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
南洋のボルネオなどは、赤道直下の常夏とこなつの国だが、それでも土人は山に入ると火を焚き、火を焚けば終夜話をして、少しも寝ようとしなかったそうである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
甲斐の盆地の夏景色は、何んともいえず涼々すがすがしく、釜無かまなし河原には常夏とこなつが咲き夢見山には石楠花しゃくなげが咲き、そうしてお館の木深い庭を蛍が明滅して飛ぶようになった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はて、物々しい、と福村はそれに目を奪われて、いま包もうとする草紙をのぞいて見ると、上の一揃いは「常夏とこなつ草紙」、下のは「薄雪うすゆき物語」、どちらも馬琴物と見て取りました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
石竹はもと瞿麦と別たず、日本でも撫子、又は常夏とこなつは撫子属の諸種の総称だつたが、後には花びらの歯が細く裂けたを瞿麦、和名ナデシコ又、常夏、細く裂けぬを石竹と日本で定めた。
きのふけふの草花 (新字旧仮名) / 南方熊楠(著)
燻製十箱で、シベリアが常夏とこなつの国になれば、電信柱もおどろいて花を咲かせるだろう。
芙蓉ふよう、古木の高野槇かうやまき、山茶花、萩、蘭の鉢、大きな自然石、むくむくと盛上つた青苔あをごけ枝垂桜しだれざくら、黒竹、常夏とこなつ花柘榴はなざくろの大木、それに水の近くには鳶尾いちはつ、其他のものが、程よく按排あんばいされ
常夏とこなつの国ではない我が日本国にあっては平均すると寒い期間、即ち影をひそめていなければならない期間の方が、多いようだから従って苦労も多い、そろそろと世も野分のわきの時分ともなれば
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
しろ百合と名まをし君が常夏とこなつの花さく胸を歌嘆かたんしまつる (とみ子の君に)
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
常夏とこなつかげの花苑はなぞの新葉にひばはささめ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
常夏とこなつ小島をじまれて
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「おばあさん、こんなに、常夏とこなつがよくなった。」と、おじいさんは、いいながら、みずをやって、常夏とこなつはちみせさきにかざっておきました。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『咲きまじる花はいづれとわかねどもなほ常夏とこなつにしくものぞなき』子供のことは言わずに、まず母親の機嫌きげんを取ったのですよ。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一面に青草あおぐさで、これに松のみどりがかさなって、唯今頃ただいまごろすみれ、夏は常夏とこなつ、秋ははぎ真個まこと幽翠ゆうすいところと行らしって御覧ごろうじろ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いやつい買はなかつたが、この「舞姫」のあとに「夢の華」といふのがあるし、近頃また「常夏とこなつ」といふのが出た筈だ。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
これによって寂しい太陽の子孫たちを慰安し、永く南方常夏とこなつの故郷を思念することを得せしめるのである。
その苔の花にまじりながら、常夏とこなつの花が咲き乱れていた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わかゆる常夏とこなつくにあらば
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
姫にひかれて、常夏とこなつ
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「あの常夏とこなつは、れかかっている。ほしければにわさきにあるから、ってゆきなさい。おかねはいらないから。」といいました。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
寂寞ひつそる。かはづこゑやむだを、なんと、そのは、はづみでころがりした服紗ふくさぎんなべに、れいりつゝ、れい常夏とこなつはなをうけようとした。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
以前ならばどうにか活溌かっぱつな生活を続け得たものだが、今のようなあいの子の服装が癖になってしまっては、折角せっかく永い年月ゆかしがっていた常夏とこなつの国へ行きながら
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
頭中将とうのちゅうじょう常夏とこなつの女はいよいよこの人らしいという考えが浮かんだ。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
常夏とこなつかげのくにひて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
しんならず、せんならずして、しかひと彼處かしこ蝶鳥てふとりあそぶにたり、そばがくれなる姫百合ひめゆりなぎさづたひのつばさ常夏とこなつ
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いましも、金色きんいろふちどられたくもあいだから、一そうの銀色ぎんいろふねが、ほしのようにえました。そして、そのふねには、常夏とこなつはなのような、あかはたがひらひらとしていました。
希望 (新字新仮名) / 小川未明(著)
常夏とこなつかげの國戀ひて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
衣絵きぬゑさんに、となへ似通にかよふそれより、ほ、なつかしく、なみだぐまるゝは、ぎんなべれば、いつも、常夏とこなつかげがさながらゑたやうにくのである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
捧げた心か、葦簀よしずに挟んで、常夏とこなつの花のあるがもとに、日影涼しい手桶が一個ひとつ、輪の上に、——大方その時以来であろう——注連しめを張ったが、まだ新しい。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの、白無垢しろむく常夏とこなつ長襦袢ながじゆばん浅黄あさぎゑりして島田しまだつた、りやう秘密ひみつかくした、絶世ぜつせ美人びじんざうきざんだかたは、貴下あなた祖父様おぢいさんではいでせうか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またまねくのを、ためらうと、薄雲うすぐものさすやうに、おもてさつ気色けしきばんで、常夏とこなつをハツとぎんなべげて寄越よこした。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、その時さえこの川は、常夏とこなつの花にべにの口をそそがせ、柳の影は黒髪を解かしたのであったに——
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(霞のような小川の波に、常夏とこなつの影がさして、遠くに……(細道)が聞える処へ、手毬が浮いて……三年五年、旅から旅を歩行あるいたが、またこんな嬉しい里は見ない、)
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
衣服きもの白無垢しろむくに、水浅黄みづあさぎゑりかさねて、袖口そでくちつまはづれは、矢張やつぱりしろ常夏とこなつはならした長襦袢ながじゆばんらしく出来できて……それうへからせたのではない。木彫きぼり彩色さいしきたんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
トこの間——名も嬉しい常夏とこなつの咲いた霞川と云う秋谷の小川で、綺麗な手毬を拾いました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぐに、上框あがりがまちへすっと出て、柱がくれの半身で、爪尖つまさきがほんのりと、常夏とこなつ淡く人を誘う。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無地むぢかとおもこん透綾すきやに、緋縮緬ひぢりめん長襦袢ながじゆばん小柳繻子こやなぎじゆすおびしめて、つまかたきまでつゝましきにも、姿すがたのなよやかさちまさり、打微笑うちほゝゑみたる口紅くちべにさへ、常夏とこなつはな化身けしんたるかな。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
誰言うとなく自然おのずと通じて、投遣なげやりな投放むすびばなしに、中を結んだ、べに浅葱あさぎの細い色さえ、床の間のかごに投込んだ、白い常夏とこなつの花とともに、ものは言わぬが談話はなしの席へ、ほのかおもかげに立っていた。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い桔梗ききょうと、水紅色ときいろ常夏とこなつ、と思ったのが、その二色ふたいろの、花の鉄線かずらを刺繍ししゅうした、銀座むきの至極当世な持もので、花はきりりとしているが、葉もつるも弱々しく、中のものも角ばらず
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お許婚いいなずけ……?」「いや、」一葉女史の墓だときいて、庭の垣根の常夏とこなつの花、朝涼あさすずだからしぼむまいと、朝顔を添えた女の志を取り受けて、築地本願寺の墓地へ詣でて、夏の草葉の茂りにも
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのはぎの白さ、常夏とこなつの花の影がからみ、磯風に揺れ揺れするでしゅが——年増も入れば、夏帽子も。番頭も半纏のすそをからげたでしゅ。巌根いわねづたいに、あわび、鰒、栄螺さざえ、栄螺。……小鰯こいわしの色の綺麗さ。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いな炎天えんてんなさけあり。常夏とこなつはなけり。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)