うた)” の例文
公爵夫人こうしやくふじんそのだいせつうたも、えず赤子あかごひどゆすげたりゆすおろしたりしたものですから、可哀相かあいさうちひさなのがさけぶので
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
熊笹は人の身の丈を没すという深さ、暗い林の遠くには気味の悪い鳥の声がして、谿川たにがわの音は物凄ものすごいように樹立こだちの間にうたっている。
長い食前の祈りがあり、讃美歌がうたはれた。それから召使ひが先生の爲めにお茶を少しばかり持つて來た。そして食事が初まつた。
昔なら、危険をおかしてでも外に出て、口笛を吹いたり、歌をうたったり、足を踏みならしたりして、さかんに相手をおどかそうとしたものだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ぼくは黒井さんが好きでしたし、その若禿のために、許婚いいなずけを失ったという、噂話うわさばなしもきかされているので、うたう気にはなれません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そこでは浴びる程うまい麦酒ビールを飲む事が出来た。ジヤンは酔つた紛れに変な腰つきをして舞踊をどりを踊つた。バヴアリア兵は低声こごゑで歌をうたつた。
まわれ/\水車みづぐるま小音こおんうたす、美登利みどり衆人おほく細螺きしやごあつめて、さあう一はじめからと、これはかほをもあからめざりき。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「うん、できるだろう。それで、その連中の史前文化のさまをうたったのが、とりも直さず孔雀王経ではないかとなるね」
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
まだその上に、無慙むざんなのは、四歳よッつになる男のがあったんですが、口癖に——おなかがすいた——おなかがすいた——と唱歌のようにうたうんです。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(将軍籠にくだものをりてで来る。手帳を出しすばやく何か書きつく、特務曹長にわたす、順次列中に渡る、うたいつつ行進す。兵士これに続く。)
饑餓陣営:一幕 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
根津の町でその職人さんに別れると、又私は飄々ひょうひょうと歌をうたいながら路を急いだ。品物のように冷たい男のそばへ……。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
彼女は城内で仕事をしていたのだ。彼はたちまち非常な羞恥を感じて我れながら気が滅入ってしまった。つまりあの芝居の歌をうたう勇気がないのだ。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
余儀なく寐返りを打ち溜息をきながら眠らずして夢を見ている内に、一番どりうたい二番鶏が唱い、漸くあけがた近くなる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
三の少年こども釣竿つりざおを持って、小陰から出て来て豊吉には気が付かぬらしく、こなたを見向きもしないで軍歌らしいものを小声でうたいながらむこうへ行く
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
金屏風きんびょうぶを立て廻した演壇へは、まずフロックを着た中年の紳士が現れて、ひたいに垂れかかる髪をかき上げながら、撫でるようにやさしくシュウマンをうたった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
譜本ふほんうたうたふやうに、距離きょり釣合つりあひちがへず、ひいふういて、みッつと途端とたん敵手あひて胸元むなもと貫通ずぶり絹鈕きぬぼたんをも芋刺いもざしにしようといふ決鬪師けっとうしぢゃ。
君ならでは人にして人に非ずとうたはれし一門の公達きんだち宗徒むねとの人々は言ふもさらなり、華冑攝籙くわちゆうせつろく子弟していの、苟も武門の蔭を覆ひに當世の榮華に誇らんずるやから
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「うまく、うたえました。もう少し稽古けいこして音量が充分に出ると大きな場所で聴いても、立派に聴けるに違いない。今度演奏会でためしにやって見ませんか」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
死者の家のバルコニイに女達(土人の)が沢山いてうたっているのだった。未亡人になったメァリイ(矢張、サモア人だが)が、家の入口の椅子に掛けていた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その話は算うるにえぬほどあるが、馬を題に作った初唄うたう芸妓や、春駒を舞わせて来る物貰ものもらい同然、全国新聞雑誌の新年号が馬の話で読者を飽かすはず故
男が山を降りてくると、麻油は急にうたうような楽しさで秘密っぽく一人一人をつかまえ、「あたし、あんたが好き……。」男は一人ずつ怒ったような顔付をした。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
牛乳がわきかけた時、女は髪を直した上に襟白粉えりおしろいまでつけ、鼻唄はなうたうたいながら上って来て鏡台の前に坐り
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
光明后宮の維摩講ゆいまこううたわれた仏前唱歌「しぐれの雨間あめまくなりそくれないににほへる山の散らまく惜しも」
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
今豊臣のまつりごと久しからずとも、万民ばんみん一五三にぎははしく、戸々ここ一五四千秋楽をうたはん事ちかきにあり。君がのぞみにまかすべしとて八字の句をうたふ。そのことばにいはく
瓢箪ぼっくりこ——つながってしゃがんで、両方に体をゆすって歩みを進めて、あとのあとの千次郎と、うたいながらよぶと、一番うしろの子が、ヘエイと返事をして出てくる。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「檄の上に、わが名はあらわさず、弟直義の名をうたうなども、這奴しゃつの隠れみの! 見すかさるるわ」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この歌の近くに、「朝床に聞けば遙けし射水いみづ河朝ぎしつつうたふ船人」(巻十九・四一五〇)という歌がある。この歌はあっさりとしているようでただのあっさりでは無い。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
私が生れますあと先は御両親とも随分お辛い事が多かったろうと思いますが、そんな意味の事も、この手鞠歌にうたい込んでありますようで、誰が作ったものか存じませぬが
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
天人の羽衣もて劫の石を撫づるてふ譬喩ひゆのいかに巧に歳月の悠久なる概念を与ふるかを知らば、おなじく「虹の松原」とうたひてこそ、はじめて尽ざる趣は感情の底より湧き来り
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
道々私はうたいにくい音諧おんかいを大声で歌ってその友人にきかせました。それが歌えるのは私の気持のいい時に限るのです。我善坊の方へ来たとき私達は一つの面白い事件にぶつかりました。
橡の花 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
音楽と暮しとは、離れたことがないのです。誰もがうたい手なのです。一人が唱えば、他は和するのです。その時々に凡ての言葉を唱によみがえらす力があるのです。別に天才などを数えません。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
うたづる時、一隊の近衛騎兵このえきへい南頭みなみがしらに馬をはやめて、真一文字まいちもんじに行手を横断するに会ひければ、彼は鉄鞭てつべんてて、舞立つ砂煙すなけむりの中にさきがけの花をよそほへる健児の参差しんさとして推行おしゆ後影うしろかげをば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
するとお前は、或る時はお前の姉と、或る時はお前の小さな弟と、其処まで遊びに出てきた。いつだったかのように、遠くで花を摘んだり、お前の習ったばかりの讃美歌さんびかうたったりしながら。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
浜のはうを望めば、砂洲さしう茫々ばう/″\として白し。何処どこやらに俚歌りかうたふ声あり。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
汝の幸を知るものは、唯だ不言の夜あるのみ、唯だ起伏の波あるのみ。老は至らんとす、氷と雪ともて汝の心汝の血を殺さん爲めに。少年は一節をうたふごとに、其友の群を顧みて、互に相頷けり。
うたぬしはこんな事を知ろうようは無いから、すぐと続いて
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
技師は何か鼻歌をうたひ出したが、やが
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
なんで、貴方のような兇猛無比——まるでケックスホルム擲弾てきだん兵みたいな方が。うたうに事欠いて惨めな牧歌マドリガーレとは……。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼が急に起き上って「若寡婦ごけの墓参り」という歌をうたいながら酒屋へ行った。この時こそ彼は趙太爺よりも一段うわ手の人物に成り済ましていたのだ。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
八重はあしたの晩、哥沢節うたざわぶしのさらいに、二上にあがりの『月夜烏つきよがらす』でもうたおうかという時、植込の方で烏らしい鳥の声がしたので、二人は思わず顔を見合せて笑った。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ホメロスと呼ばれた盲人めくらのマエオニデェスが、あの美しい歌どもをうたい出すよりずっと以前に、こうして一人の詩人が喰われてしまったことを、誰も知らない。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
子供の癖に尾籠びろう流行歌はやりうたを大声にうたいながら、飛んだり、跳ねたり、曲駈きょくがけというのを遣り遣り使に行く。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
たちま盤上ばんじやうたままろばすがごとひゞき、ピアノにかみ宿やどるかとうたがはるゝ、そのたへなる調しらべにつれてうたいだしたる一曲ひとふしは、これぞ當時たうじ巴里パリー交際かうさい境裡じやうり大流行だいりうかうの『きくくに乙女おとめ
肩には、模様のない、いかめしい自分の猿股と、それから、兄貴の、赤と青とのしまの猿股をかついでいる。元気いっぱいという顔つきで、彼はしゃべる。自分だけのために歌をうたう。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
と図星をさされて、そんな事を知る物か、何だそんな事、とくるり後を向いて壁の腰ばりを指でたたきながら、廻れ廻れ水車みづぐるまを小おんうたひ出す、美登利は衆人おほくの細螺を集めて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
名物と云えば、も一ツその早瀬塾の若いもので、これが煮焼にたき、拭掃除、万端世話をするのであるが、通例なら学僕と云う処、いなせ兄哥あにいで、鼻唄をうたえばと云っても学問をするのでない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを聞くと、生徒は讃美歌でもうたふ折のやうに、一斉に声を揃へて返辞をした。
その内に鉄冠子は、白いびんの毛を風に吹かせて、高らかに歌をうたい出しました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
五月蠅うるさいね』とつて公爵夫人こうしやくふじんは、『そんなことかまつてはられない!』そこ夫人ふじんふたゝ其子供そのこどもちゝませはじめました、一しゆ子守歌こもりうたうたひながら、一ふしへるとは其子そのこゆすげて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
みんな一緒になって同じ唱歌を何べんも繰りかえしてうたっていた。しかし私だけはいつまでも一緒にそれを唱えなかった。しまいには私は火のようなほおをして、じっと下を向いたきりでいた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)