なか)” の例文
しかるに何んぞ対等の礼を執ったる国書を持来たすとは! そこで「これより後蛮夷の礼を失するものあらば、これを奏聞することなかれ」
日本上古の硬外交 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
われを君があだおぼし給ふなかれ、われは君のいづこにいますかをわきまへず、また見ず、また知らず、たゞこの涙にるゝおもてを君の方に向けたり。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
分割して私地となし、百姓に売与して年々にそのあたいもとむ。今より後、地を売ることを得じ。みだりに主となつて劣弱を兼併することなか
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
種々の点に於ても彼は種々の欠点を見出さるゝなるべしと雖も怪しむなかれ、彼は多く学問し多く詮索するの機会を有せざりしなり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
何をどう書き飛ばすにせよ、さうは註文に応じ難ければ、思ひつきたること二三をしるしてやむべし。幸ひに孟浪まんらんとがむることなかれ。
ドンナ・ベルタもセル・マルティーノも、一人ひとり盜み一人物をさゝぐるを見て、神の審判さばきかれらにあらはると思ふなかれ 一三九—一四一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
既にかく鎖国と決する上は、和の一字は、永劫えいごう未来、御用部屋に封禁して、再び口外するなかれ。満坐の方も果してその覚悟あるや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
支那しな帝使を西班牙スペイン帝使のしもに座せしめ、わがたり友たる西帝せいていの使を、賊たり無頼の徒たる支那帝の使の下にせしむるなかれといしと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
父の正義のしもとにぞ けがれし心ひれ伏さむ 母の慈愛の涙にぞ 罪のゆるしを求め泣く 御神みかみよ我をなかれ 神よが子を逐ふ勿れ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
行く行くは親兄弟をも養はねばならぬやうなる不仕合ふしあわせの人はたとへ天才ありと自信するも断じて専門の小説家なぞにならんと思ふことなかれ。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
諸君よ、諸君は彼等の口の余りに大なるを以て無数の蛙群あぐんなりと誤るなかれ。彼等はすなはち口をあいて茫然自失せる十五億の蒼生さうせいにてある也。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と一足出てまたつぶやいたが、フト今度は、反対に、人をいましむる山伏の声に聞えた。なかれ、彼は鬼なり、我に与えし予言にあらずや。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
およそ人事を区処くしょする、まさずその結局をおもんぱかり、しかして後に手を下すべし、かじきの舟をなかれ、まときのを発するなかれ」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
〔譯〕游惰いうだみとめて以て寛裕かんゆうと爲すことなかれ。嚴刻げんこくを認めて以て直諒ちよくりやうと爲すこと勿れ。私欲しよくを認めて以て志願しぐわんと爲すこと勿れ。
きぬとは何人なんぴとぞ、きみおどろなかれ、藝者げいしやでも女郎ぢよらうでもない、海老茶えびちや式部しきぶでも島田しまだ令孃れいぢやうでもない、美人びじんでもない、醜婦しうふでもない、たゞのをんなである
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
迷妄めいもうやまず罪禍にまみれようとも、むしろそれを縁として、本来具有する仏性を自覚することに一大事因縁がある。——何事も畏怖いふするなかれ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
既に瞹眛派あいまいはにあらざるなり、凡そ生命を知るものは、既に高蹈派にあらざるなり、危言流行の今日、世人自から惑ふことなからんことを願ふなり。
内部生命論 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
東路あずまじの道の果てなる常陸帯ひたちおびをたぐりつくして、さてこれより北は胡沙こさ吹くところ、瘴癘しょうれいの気あって人をいたましめるが故に来るなかれの標示を見て
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だが誤解するなかれ、著者は民衆にへつらうところの民衆主義者でなく、逆に彼等を罵倒ばとうし、軽蔑するところの民衆主義者だ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
幸福とは? 審判するなかれ。ナポリを見てから死ね! 等々。仲間はかならず二十代の美青年たるべきこと。一芸に於いて秀抜の技倆を有すること。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
肉の世の広きに恐るる事なかれ。一度恐れざれば汝らは神の恩恵によりて心の眼さとく生れたるものなることをさとるべし
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おのれの欲せざる所人に施すなかれという格言も、もし同情という動機がなかったならば、我々に対して殆ど無意義である。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
今の家庭問題に注意する人々に告ぐ、自分は自分だけの家庭を作れ、決して家庭読物などの談に心を奪わるるなかれ。
家庭小言 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「敵を愛さなければいけません。『悪に敵することなかれ。人、汝の右の頬を打たば、又他の頬をもめぐらしてこれに向けよ』と基督キリストは教えていられます」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
家系の尊厳を冒涜ぼうとくすると怒るなかれ、演者の遠い知人に天智天皇このかた一代の欠もなく連綿百二十代にわたるところの完全なる系図を所有する者もあり
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
妻が夫を天とすれば、夫は妻を以て神とす可し。夫に逆いて天罰を受く可らずと言えば、妻を虐待して神罰をこうむなかれと、我輩は言わんと欲する者なり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
劇烈欝勃うつぼつの行為を描き、其主人公はおほむね薄志弱行なりし故に、メルクは彼をいましめていはく、かくの如き精気なく誠心なき汚穢をわいなる愚物は将来決ツして写すなか
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
彼らを仇と狙いて、御身の一生を誤ることなかれ。至嘱ししょく至嘱。余の命数尽きたりといえども、静かに天命を待たずして自殺するは、御身に対する我が微衷なり。
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
先主の垂訓すいくんにも、わが家は分を守るを一義いちぎとし、天下をのぞむなかれといましめられておられる。いかに富強でも中国は辺土に過ぎず、中央をむる利は持たない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つはカーの「三つの棺」の「密室講義」の章、もう一つはクレイトン・ロースンの「シルクハットから飛び出す死」(未訳)の「質問するなかれ」の章である。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
先づ大丈夫と思つた。書く、書く、と心に誓つた。ズウデルマンは、「芸術家よ、ゑがけ、語るなかれ。」と云つたと聞いた。自分はたしかに語り過ぎた。交り過ぎた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
一生を焦躁と憤懣ふんまんとの中に送った伯父の遺言が、皮肉にも、いきどおなかれ、となっていたのである。三造の思出すのは大抵このような意地の悪いことばかりだった。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
上首の一人 ——しゅくに十の利あり、はんには三てんじきくるもの、いやしくもこの理を忘るるなかれ。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あはよくば事なかれ主義で誤魔化さうとした玄龍も、口をつぐんで平次の意志に引摺られる外はありません。
碌々として生を貪るなかれ。三十にして死すとも、千載に生きる道を考えよ、と、これ平山子龍先生の教えにして、又、拙者自ら、いささか行うたところの道である
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
が、それはくもとしてこの額面の正札が、驚くなかれ、金六十八円なりとある。イクラの前借を申込んだか知らぬが、多分この正札の額よりも少なかったろう。
姦淫かんいんするなかれ、処女を侵す勿れ、あによめを盗む勿れ、その他一切の不徳はエホバの神のいましむるところである。バイロンの一生は到底神の嘉納よみするものとも思われない。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
御前へめされ汝必ず輕擧はやまる事なかいまだ其者刑罰けいばつに行はざれば再應さいおう取調とりしらべ此後とて出精しゆつせい相勤あひつとむべしと上意有しかば大岡殿御仁ごじん惠の御沙汰さたかしこまりたてまつると感涙かんるゐを流され御前を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
自分らの解放せられた喜びを忘れて婦人の解放を押え、あまつさえ昔の五障三従ごしょうさんしょう七去説しちきょせつ縄目なわめよりも更に苛酷かこくな百種のなかれ主義を以て取締ろうというのは笑うべき事である。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「あはにな降りそ」は、諸説あるが、多く降ることなかれというのに従っておく。「せきなさまくに」はせきをなさんに、せきとなるだろうからという意で、これも諸説がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「いたずらに過去を悔やむことなかれ。甘き未来に望みをかけるな。生きよ、励めよ、この現在に」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
見事な最期であるとめているところへ、女中が銅盥を持って来て、汚れた手を洗えというと、老人はかしらをふって「手水ちょうずなどが要るものか。稽侍中けいじちゅうの血、洗うなかれじゃ。」
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
之は、『十人の罪人を逸するとも、一人の無辜むこを罰するなかれ』という精神から来ているのだ。尤も、この精神そのものがはたして正義の精神かどうか一応考えられぬ事はない。
正義 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
これは「人生婦人の身となかれ、百年の苦楽他人にる」とか、女はうじなくして玉の輿こしとかいう如き、東洋流の運命観から出た、弱竹なよたけの弱々しい頼他的根性から来たのである。
夫婦共稼ぎと女子の学問 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
だが知識に滞るなら、無知に沈むのとなんの選ぶところがあろう。真に知に活きる者は「知に止まるなかれ」と云うであろう。知にこだわる者は知を知らない者と言い得るであろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
石堂橋を渡って電車通を東中洲、西中洲を抜けて春吉はるよしへ曲り込んで、渡辺通りから郊外へ出たと思うと、驚ろくなかれ、九州の炭坑王と呼ばれた、安島子爵家の門内に走り込んだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
爆発物は妾の所持品にせんといいたるに、いな拙者せっしゃの所持品となさん、もし発覚せばそれまでなり、いさぎよばくかんのみ、かまえて同伴者たることを看破かんぱせらるるなかれと古井氏はいう。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
花鳥諷詠、目標をそこに置いて年月を重ねて研究を積むことによって新しい境地はいくらでもひらけてくるのである。いたずらに左顧右眄さこうべん確信なき徒輩たるなかれ。(『玉藻』、二七、一二)
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
○牛乳は何人も常に用い殊に小児を育つるに必要の物なればその質の良否はくわしく検査せざるべからず。牛乳を用ゆる人は必ずフェーゼル氏の検乳器を用意して時々検査を怠るなかれ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
Dogmaドグマ は承認しない。なかなかれの教には服せない。しかし利害の打算上から、むちゃな事はしない。女だって理性の勝っている女は同じ事でしょう。ただそんな女は少いのです。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)