のが)” の例文
上半は形式的に響くが、人麿自身にとっては本気で全身的であった。そして、「滝つ河内」という現実をものがしていないものである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
不夜城を誇り顔の電気燈にも、霜枯れ三月みつきさびしさはのがれず、大門おおもんから水道尻すいどうじりまで、茶屋の二階に甲走かんばしッた声のさざめきも聞えぬ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
すぐばんつじ夜番よばんで、わたしつて、ぶるひをしたわかひとがある。本所ほんじよからからうじてのがれて避難ひなんをしてひとだつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お近ははぢも外聞も忘れた姿で辛くも喜三郎の手をのがれると、バタバタと椽側を踏み鳴らしながら、平次の羽掻はがいの下に飛び込むのでした。
実にうつゝのような心持で参りましたのでございましたが、貴方さまのお助けで、思い掛けなくあやうい処をのがれまして、誠に有難う存じまする
この夜お登和嬢は一縷いちるのぞみを抱いてねぬ。小山ぬしの尽力その甲斐かいあらば大原ぬしは押付婚礼おしつけこんれいのがれてたちまち海外へおもむき給わん。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女難をのがれるつもりで女を捨てた時はもう大女難にかかっていたので、その時の私にはそれがわからなかったのでございます。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ですから同行のは恐ろしがってなるべくその視線からのがれるようにして居るけれども、私はその強盗の進んで来る方向に向って進んだです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それに就けても、改心せずに死なしたのが、いよいよ残念で、早く改心さへしてくれたらば、この災難はのがれたに違無い。いや私はさう信じてゐる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
腹に拠る所がない、ただ苦痛をのがれん為の人生問題研究であるのだ。だから隙があって道楽に人生を研究するんでなくて、苦悶しながら遣っていたんだ。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
東海道の天竜川のほとりの天竜寺で米友は、心ならずも多勢を相手にして、その盗人ぬすびとの誤解からのがれようとしました。その時は遊行上人ゆぎょうしょうにんに助けられました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
みのるはその萬一の僥倖によつて、義男が自分の經濟の苦しみをのがれ樣と考へてゐる事に不快を持つてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
もし重盛しげもり命乞いのちごいをしなかったら、女や幼い者さえものがれることができなかったでしょう。奥方は若君とひめ君とをとものうて鞍馬くらまの奥に身をおかくしなされました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかし「過失」とすればの紳士は何か持病があって、その苦痛をのがれるために何かの注射をしていたもので、その分量を誤ったものと見なければならぬが
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
是君を先にし、臣を後にするなり。汝はやひとの国に去りて害をのがるべしといへり。此の事、一三五と宗右衛門にたぐへてはいかに。丹治只かしられてことばなし。
ただ一眼ひとめ見たが最後! 見た人は彼女の魔力から金輪際こんりんざいのがるる事は出来ない。あの色はただの赤ではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下田の金さんとこでは、去年は兄貴あにきが抽籤でのがれたが、今年は稲公があの体格たいかくで、砲兵にとられることになった。当人はいさんで居るが、阿母おふくろが今からしおれて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それには種々しゆ/″\理由りゆうがあるでせうが、そのひとつはてき襲撃しゆうげきのがれ、猛獸もうじゆうがいけるためであつたでせう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
これには流石の女流作家も弱らされたが「私は聾や唖を好かないから。」と返事を出して、やつのがれた。
が、あまりに人もなげな無礼さと英国宗主権をかさにきた駐在官の執拗さに、身をもってのがれようとされた瞬間、誤って手に持った刺繍ししゅう用の針が相手の身体に触った。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
夥しく出続き家も畠も沈み、牛畜溺死し、村民大いに怒り、かの婦わずかに身を以てのがれたとある。
けれども、今夜吉良邸へりこんだら、それこそ本当に十が十の死だ! 公儀の手に召捕めしとられて、お仕置場しおきばへ引きだされたら、どんなことがあってものがれようはない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
すべて海上かいじやう規則きそくとして、かゝ塲合ばあひだい一にくだされたる端艇たんてい一等船客いつとうせんきやくのため、だい二が二等船客にとうせんきやくだい三が三等船客さんとうせんきやくすべての船客せんきやくのがつたあとに、猶殘なほのこ端艇たんていがあれば
このたたかい火耳灰ホルフイほこって燕王にせまる、あいるたゞ十歩ばかり、童信どうしん射って、その馬につ。馬倒れて王のがれ、火耳灰ホルフイらる。王即便すなわち火耳灰ホルフイゆるし、当夜に入って宿衛しゅくえいせしむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
出さんとすれ共我も油斷ゆだんなく往來の人に交る故其難はのがれたれども今宵こよひ一夜が絶體絶命ぜつたいぜつめい明日は古郷へ五里ばかりの處なり今夜をすごせば明日は安堵あんどいたすべし何卒今宵の大難を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ただこの場をうまくのがれたかつた。そこでいかにも医者の言葉を承知したやうなふりをした。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
かくて水退きて後、くだんの鼠青絹玉顆せいけんぎょくかささげて、奴に恩を謝せしとかや。今この阿駒もその類か。復讐ふくしゅう報恩むくいに復讐の、用に立ちしも不思議の約束、思へばのがれぬ因果なりけん。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
後にくわしく述べるように、このR事件というのは実をいえば当時、国内問題のために非常な重大危機に立っていた某国政府当局が、その国家的自爆からのがれる最後の手段として
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やツとのがれて來た札幌の、冷淡にも寒い光景が再び思ひ出された。この盛岡の少しでも賑やかな部分を散歩がてら見てようと考へてた心も、いつのまにかちぢこまつてしまつた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
無規則無條件は懲罰の網目をのがるゝ隙なく張りつめたよりも却つて結果よく一人の違反者をも出さない。西洋の大學の腰掛は冷い木ながらに天鵞絨びろうどの蒲團を敷いたよりも温い氣がする。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
たれしも想像そう/″\られるとほり、校舍こうしや新築しんちくでありながら全部ぜんぶつぶれてしまつた。わづかにもつのがれた校長以下こうちよういか職員しよくいんふようにして中庭なかにはにまでると、目前もくぜん非常ひじよう現象げんしようおこはじめた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
のがれられないのなら、その場合、我慢することがあなたの義務なのよ。我慢しなければならないことがあなたの運命なのに、それを我慢出來ないなんて云ふのは、弱い馬鹿氣ばかげたことだわ。
そういう大罪悪を犯してまでのがれ度い程の、ひどいひどい退屈を感じなければならなかったこの私の心持も、少しはお察しが願い度いのです、私という男は、そんな悪事をでも企らむ他には
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
質朴しつぼくあいするに堪へたり、余炉辺にし一客にふて曰く、是より山奥にいたらば栗樹くりありや否、余等一行探検たんけん中途ちうとにして飢餓きがおちゐることあらん乎、栗等の果実くわじつりて餓死がしのがれんとすと
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
山頂に於て多少のがるる能わざるものなることを、のちにこそ知るを得たるなれ、当時は初めてにして、特に医業の門外漢たる予らには、なおさらその原因を極むるに由なく、すくなからず心を痛めたり
グヰンは自動車に乗った警官の一行が旅館ホテルへ入ったのを見て、所詮しょせん身ののがれ得ぬのを知り、五階の窓から飛降りて、自殺をはかったのだというものもあれば、A夫人がグヰンを突落したのであろうと
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
われは世にのがれぬ罪のあればこそ今は仏に生擒いけどられけれ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
幸にしてのがるもの、トロイア城に歸り得む、 270
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
さういふ難儀から暫らくのがれてゐた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
高きも卑きもこれをのがれじ。
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
くじのさだめをのがれあへず
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
老媼もお通に言出しかねて一日いちじつのがれに猶予ためらいしが、厳しく乞食僧に催促されて、わで果つべきことならねば、止むことを得で取次たるなり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のがれるだけは免れようと犬を殺したり、飛脚に化けたりしました。親仁が練馬へ行ったことと思い込んだのが間違いのもとです
如何様いかように陳じてものがれん処であるぞ、兎や角陳ずると厳しい処の責めにわんければならんぞ、よく考えて、とてのがれん道と心得て有体ありていに申せ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そういう立派な志のある方を殺して、老先おいさき短き我々が災難をのがれたとて何の役に立とうか。私も不肖ながら仏教を真実に信じて居る一人である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
世間の所謂いわゆる家庭教育というものは皆是ではないか。私は幸いにして親達が無教育無理想であったばかりに、型に推込まれる憂目うきめのがれて、野育ちに育った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして私は目をみはってふかいなつかしい一種の感動をもって瞬時ものがすまいとしてその人を見たのであった。
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
小平太はまず虎口ここうのがれたような気がした。が、ここでひとつ落着いたところを見せておこうと
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
町はずれの馬棄場うますてばへ持って行って埋められ、いっさいのせめが狼に帰せしめられてしまうと、自然、報福寺も宇津木兵馬も、これ以上のかかり合いからはのがれた次第です。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたくしはつく/″\とかんがへたが、今度こんどといふ今度こんどこそは、とてものがれぬてんわざはひであらう。櫻木大佐さくらぎたいさげんごとく、無謀むぼう本島ほんたうはなるゝこと出來できぬものとすれば、ほかなんさくい。