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不図
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ふと
ふりがな文庫
“
不図
(
ふと
)” の例文
旧字:
不圖
不図
(
ふと
)
そんなことを考えて硝子屋の前に立ったが、どの正札も高い。やけくそで、ぴょんぴょんと片脚で溝を飛んで煙草屋へ
這入
(
はい
)
ると
泣虫小僧
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
ギーッ、ギーッという音に、
不図
(
ふと
)
気がついたのは例の熊岡警官だった。彼は
部厚
(
ぶあつ
)
な
犯罪文献
(
はんざいぶんけん
)
らしいものから、顔をあげて入口を見た。
赤外線男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
Uの温泉場では××屋という宿が
閑静
(
かんせい
)
で、客あつかいも親切であるということを聞かされて、私も
不図
(
ふと
)
ここへ来る気になったのである。
鰻に呪われた男
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
それは
丁度
(
ちょうど
)
、
幼
(
おさな
)
い
時
(
とき
)
から
別
(
わか
)
れ
別
(
わか
)
れになっていた
母
(
はは
)
と
子
(
こ
)
が、
不図
(
ふと
)
どこかでめぐり
合
(
あ
)
った
場合
(
ばあい
)
に
似通
(
にかよ
)
ったところがあるかも
知
(
し
)
れませぬ。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
そこで
不図
(
ふと
)
昨夜の夢を想い出した。『事によればこれが舅かもしれない。助けて上げねばなるまい』——彼女は独りで思案した。
雉子のはなし
(新字新仮名)
/
小泉八雲
(著)
▼ もっと見る
わざと
傍目
(
わきめ
)
も振らず行ったり来たりして、疲れて家に帰った——そんな遠い遠い昔の事を
不図
(
ふと
)
偲い出して、又チェッと舌打するのである。
舌打する
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
この時に自分は
不図
(
ふと
)
この祖母が謡い好きであった事を思い出して、忽ち胸中に湧き出した野心が半天に
漲
(
みなぎ
)
り渡ると、思い切って独逸流に
謡曲黒白談
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「さあ、早く行きましょう」と
不図
(
ふと
)
後方
(
うしろ
)
を振向くと、また
喫驚
(
びっくり
)
。岩の上には、
何時
(
いつ
)
しか、娘の姿が消えていて、ただ
薬瓶
(
くすりびん
)
のみがあるばかり。
テレパシー
(新字新仮名)
/
水野葉舟
(著)
しばらく落着いてから、あれこれ昔話をしては、帰らぬ日のことをいろいろなつかしがっていたが、
不図
(
ふと
)
、重衡が思い出したようにいった。
現代語訳 平家物語:10 第十巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
蕭条たる気が
犇々
(
ひしひし
)
と身に応えてくる。
不図
(
ふと
)
行手を眺めると、傍らの林間に白々と濃い煙が細雨の中を
騰
(
のぼ
)
って行く光景に出遭う。
茸をたずねる
(新字新仮名)
/
飯田蛇笏
(著)
私は長崎を
出立
(
しゅったつ
)
して中津に帰る
所存
(
つもり
)
で
諫早
(
いさはや
)
まで参りました処が、その途中で
不図
(
ふと
)
江戸に
行
(
ゆ
)
きたくなりましたから、是れから江戸に参ります。
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
永禪は
不図
(
ふと
)
後
(
うしろ
)
に火縄の光るのを見て、
此奴
(
こいつ
)
飛道具
(
とびどうぐ
)
を持って来たと思うからずーんと飛掛り、
抜打
(
ぬきうち
)
に胸のあたりへ切付けました。
敵討札所の霊験
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
今日
(
こんにち
)
不図
(
ふと
)
鉄道馬車
(
てつだうばしや
)
の窓より
浅草
(
あさくさ
)
なる
松田
(
まつだ
)
の絵
看板
(
かんばん
)
を
瞥見致候
(
べつけんいたしそろ
)
。ドーダ五十
銭
(
せん
)
でこんなに腹が張つた
云々
(
うん/\
)
野性
(
やせい
)
は
遺憾
(
ゐかん
)
なく
暴露
(
ばうろ
)
せられたる事に
候
(
そろ
)
。
もゝはがき
(新字旧仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
李一はそのとき
不図
(
ふと
)
誰かが耳にささやいていることに気がついたのです。まるで少女の声のような優しみのある声であった。
不思議な魚
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
蒼
(
あお
)
いその顔には肉の
戦慄
(
せんりつ
)
が
歴々
(
ありあり
)
と見えた。
不図
(
ふと
)
、急に、辞儀をして、こうしてはいられぬという態度で、
此処
(
ここ
)
を出て行った。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
帳記
(
ちょうづ
)
けをしながらもほろほろと涙を流しました。
饑
(
うえ
)
と恥で止め度なく泣きましたが、そのとき
不図
(
ふと
)
、たとえ母が死んでも父親というものがある。
無駄骨
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
物言ふは用事のある時
慳貪
(
けんどん
)
に
申
(
まをし
)
つけられるばかり、朝起まして機嫌をきけば
不図
(
ふと
)
脇
(
わき
)
を向ひて庭の草花を
態
(
わざ
)
とらしき
褒
(
ほ
)
め
詞
(
ことば
)
十三夜
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
不図
(
ふと
)
前方をみればこは如何に、越の大軍が
潮
(
うしお
)
の如く我に向って前進中である。正に「暁に見る千兵の大牙を擁するを」だ。
川中島合戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
綺麗
(
きれい
)
に
作
(
つく
)
つて
湯
(
ゆ
)
から
帰
(
かへ
)
ると、
妻
(
つま
)
は
不図
(
ふと
)
茶道具
(
ちやだうぐ
)
ともなかとを
私
(
わたし
)
の
傍
(
そば
)
へ
運
(
はこ
)
んで、
例
(
れい
)
の
嫻
(
しとや
)
かに、
落着
(
おちつ
)
いた
風
(
ふう
)
で、
茶
(
ちや
)
など
淹
(
い
)
れて、
四方八方
(
よもやま
)
の
話
(
はなし
)
を
始
(
はじ
)
める。
背負揚
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
以前
(
まへ
)
にも一度来た。返事を出さなかつたので
再
(
また
)
来た。梅といふ子が生れた
翌年
(
よくとし
)
不図
(
ふと
)
行方知れずなつてからモウ九年になる。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
何
(
なに
)
かな、
御身
(
おみ
)
は
遠方
(
ゑんぱう
)
から、
近頃
(
ちかごろ
)
此
(
こ
)
の
双六
(
すごろく
)
の
温泉
(
をんせん
)
へ、
夫婦
(
ふうふ
)
づれで
湯治
(
たうぢ
)
に
来
(
き
)
て、
不図
(
ふと
)
山道
(
やまみち
)
で
其
(
そ
)
の
内儀
(
ないぎ
)
の
行衛
(
ゆくゑ
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
半狂乱
(
はんきやうらん
)
に
捜
(
さが
)
してござる
御仁
(
ごじん
)
かな。
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
と安達君は話が余り個人的になるので、
不図
(
ふと
)
目を開いた。
周囲
(
あたり
)
を見廻したが、未だ早かったから、客は自分一人だった。
求婚三銃士
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
その時泉原が
不図
(
ふと
)
思い浮べたのは同店の
顧客
(
とくい
)
のA老人であった。老人は
愛蘭
(
アイルランド
)
北海岸、ゴルウェーの由緒ある地主で、一年の大半は
倫敦
(
ロンドン
)
に暮している。
緑衣の女
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
不図
(
ふと
)
、御自分の御言葉に
注意
(
こころづ
)
いて、今更のように
萎返
(
しおれかえ
)
って、それを
熟視
(
みつめ
)
たまま身動きもなさいません。
死
(
しん
)
だ銀色の
衣魚
(
しみ
)
が一つその袖から落ちました。
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
不図
(
ふと
)
ミサ子は思い出した。××商事につとめている順子と左翼劇場へ行く日をうち合わせるのは今日の約束だった。
舗道
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
私の目は
不図
(
ふと
)
右手の崖下に
堆
(
うずたか
)
く盛り上った異様の塊に惹き付けられた、白茶化た枯枝などが一面に掩うては居るが
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
慶三は
不図
(
ふと
)
目についたお千代が
好
(
い
)
い
塩梅
(
あんばい
)
に便所へついて来たので、真暗な
明座敷
(
あきざしき
)
の前を通るがまま無理にそこへ引入れて直接に談判を持掛ける
中
(
うち
)
にも
夏すがた
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
行くうち
不図
(
ふと
)
、この霜降りのインバネスを初めて着たをり編輯長に「君は色が黒いから似合はないね」と言はれて冷やツとした時の記憶が頭に
蘇生
(
よみがへ
)
つた。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
そこで序をかくときに
不図
(
ふと
)
思い出した事がある。余が
倫敦
(
ロンドン
)
に居るとき、忘友子規の病を慰める為め、当時
彼地
(
かのち
)
の模様をかいて
遙々
(
はるばる
)
と二三回長い消息をした。
『吾輩は猫である』中篇自序
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
不図
(
ふと
)
自分の部屋の障子がスーと
開
(
あ
)
いて、廊下から
遊女
(
おいらん
)
が一人入って来た、見ると自分の
敵娼
(
あいかた
)
でもなく、またこの
楼
(
うち
)
の者でも、ついぞ見た事のない女なのだ。
一つ枕
(新字新仮名)
/
柳川春葉
(著)
おたあちやんが、
不図
(
ふと
)
見ますと、おきいちやんの
提
(
さげ
)
てゐる籠の一番上に、憎い憎い三又土筆が載つてゐました。
虹の橋
(新字旧仮名)
/
野口雨情
(著)
竜次郎は
不図
(
ふと
)
小虎の方を見て
吃驚
(
びっくり
)
した。女の手足の数ヶ所から、黒血をだくだくと吹出しているのだ。
扨
(
さて
)
は小刀の切先が当って傷を付けたかと思ったのだ。
死剣と生縄
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
ところがその日
不図
(
ふと
)
した拍子に良人の許から来た
端書
(
はがき
)
を見られたのである。すると女将は怖ろしい権幕で
女給
(新字新仮名)
/
細井和喜蔵
(著)
只だ一つ心に上つたのは、今町の出口で村の女達との話から
不図
(
ふと
)
気がついたことだが、今朝母が来た時何よりも先づ妹の容体を問ふべきであつたことであつた。
厄年
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
傍らに同じく腰をおろしていた年若い友は
不図
(
ふと
)
何か思い出した様に立ち上ったが、やがて私をも立ち上らせて対岸の岡つづきになっている村落を指ざしながら
みなかみ紀行
(新字新仮名)
/
若山牧水
(著)
何でも
五月雨
(
さみだれ
)
の
寂
(
さび
)
しい夜でしたがネ、余り
徒然
(
つれづれ
)
の
儘
(
まゝ
)
、誰やらの詩集を見てる時
不図
(
ふと
)
、アヽ
私
(
わたし
)
ヤ恋してるんぢや無いか知らんと、始めて自分で
覚
(
さと
)
りましたの、——
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
その
後
(
のち
)
不図
(
ふと
)
御贔負
(
ごひいき
)
を
蒙
(
こうむ
)
る
三井養之助
(
みついようのすけ
)
さんにお話すると、や、それはいけない、幽霊の
陰
(
いん
)
に対しては、相手は
陽
(
よう
)
のものでなくてはいけない、夜の海は
陰
(
いん
)
のものだから
薄どろどろ
(新字新仮名)
/
尾上梅幸
(著)
然し今日、寮裏でひょっこり例の「皆喰爺」を見つけると、この爺はあの偉大な口と胃腸の名誉にかけても、最早自殺等は出来まいと、
不図
(
ふと
)
私は思ったことである。
荷
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
その葬式に臨んで、
不図
(
ふと
)
師は
涕泣
(
ていきゅう
)
した。傍人はこれを怪しんで、「世捨人にも亦これあるか」と云う。
釈宗演師を語る
(新字新仮名)
/
鈴木大拙
(著)
高い男は中背の男の顔を
尻眼
(
しりめ
)
にかけて口を
鉗
(
つぐ
)
んでしまッたので
談話
(
はなし
)
がすこし
中絶
(
とぎ
)
れる。
錦町
(
にしきちょう
)
へ曲り込んで二ツ目の横町の角まで参った時、中背の男は
不図
(
ふと
)
立止って
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
足
(
あし
)
のとまる
処
(
ところ
)
にて
不図
(
ふと
)
心付
(
こゝろづ
)
けば
其処
(
そこ
)
、
依田学海先生
(
よだがくかいせんせい
)
が
別荘
(
べつさう
)
なり、
此
(
こゝ
)
にてまた
別
(
べつ
)
の
妄想
(
まうさう
)
湧
(
わ
)
きおこりぬ。
隅田の春
(新字旧仮名)
/
饗庭篁村
(著)
「ダンチョンは
家
(
うち
)
にいなかったよ」兄の返辞はこうでした。調子に
偽
(
いつわり
)
がございませんので、私はすぐに信じました。
不図
(
ふと
)
見ると兄は右の手に細長い包を持っています。
西班牙の恋
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
生垣
(
いけがき
)
の外を通るものがあるから
不図
(
ふと
)
見れば先へ立つものは、年頃三十位の
大丸髷
(
おおまるまげ
)
の人柄のよい
年増
(
としま
)
にて、
其頃
(
そのころ
)
流行
(
はや
)
った
縮緬細工
(
ちりめんざいく
)
の
牡丹
(
ぼたん
)
芍薬
(
しゃくやく
)
などの花の附いた燈籠を
提
(
さ
)
げ
牡丹灯籠 牡丹灯記
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
珠運は
立鳥
(
たつとり
)
の跡ふりむかず、一里あるいた
頃
(
ころ
)
不図
(
ふと
)
思い出し、二里あるいた頃珠運様と呼ぶ声、まさしく
其人
(
そのひと
)
と
後
(
うしろ
)
見れば何もなし、三里あるいた頃、もしえと
袂
(
たもと
)
取る様子
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
つく/″\見て居る内に、英国の
発狂
(
はっきょう
)
詩人
(
しじん
)
ワットソンの God comes down in the rain 神は雨にて
降
(
くだ
)
り玉う、と云う句を
不図
(
ふと
)
憶
(
おも
)
い出した。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
おかしな奴だと思って
不図
(
ふと
)
見ると、
交番所
(
こうばんしょ
)
の前に立っていた巡査だ、巡査は笑いながら「
一体
(
いったい
)
今何をしていたのか」と訊くから、何しろこんな、
出水
(
しゅっすい
)
で
到底
(
とうてい
)
渡れないから
今戸狐
(新字新仮名)
/
小山内薫
(著)
私はウラスマルが曾て
不図
(
ふと
)
口走つた次の如き言葉の断片を懐かしい感じの内に想起し得る。——
アリア人の孤独
(新字旧仮名)
/
松永延造
(著)
恋人というようなあのOの口から出そうにもない言葉で、私は五六年も前の自分を
不図
(
ふと
)
思い出しました。それはある娘を対象とした、私の子供らしい然も激しい情熱でした。
橡の花
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
不図
(
ふと
)
、俺は気がついた、何といふ坐り
態
(
ざま
)
だ、まるで
汝
(
おまへ
)
の
肉体
(
からだ
)
は白痴の女見たいにぶくぶくだねえ、だらしのない、どんなに暑くたつて、もつとチヤンと坐つておゐでなさい。
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
不図
(
ふと
)
天井を見た時、長い廊道の天井に一列についている電気がスーッと一どきについたのを大へん美しく思い、それからよく夕方その電気のともるのを見に行ったものであった。
新古細句銀座通
(新字新仮名)
/
岸田劉生
(著)
“不図”の意味
《形容動詞》
(「はからず」にも当てる)思いがけず、図らずも。
(和語「ふと」に当てる)突然、にわかに、たまたま。
(出典:Wiktionary)
不
常用漢字
小4
部首:⼀
4画
図
常用漢字
小2
部首:⼞
7画
“不”で始まる語句
不可
不思議
不憫
不味
不審
不埒
不幸
不愍
不相変
不便