ひざまづ)” の例文
われは心の内にて、この優しき小尼公の前にひざまづかんとしたり。この時フランチエスカの君も、げに/\をかしき物語なりきと宣給ふ。
リヴィングストーンはベッドに寝てはゐないで、そのそばにひざまづき、両手で頭をかゝへ、額を毛布に埋めて、祈祷してゐるかのやうでした。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
山茶が部屋を去つた後、金花は独り壁に懸けた十字架の前にひざまづいて、受難の基督を仰ぎ見ながら、熱心にかう云ふ祈祷きたうを捧げた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼等はあちこち駈け𢌞り、また一かたまりに寄り集り、泣きじやくる者だの、ひざまづく者だのもあつて、その混雜は手の着けやうもない程であつた。
やかた屋根やねうづまいてかゝりますと、晝間ひるま寢床ねどこ——仙人せんにんよるはいつでも一睡いつすゐもしないのです、夜分やぶんたふうへあがつて、つきひざまづき、ほしをがんで
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それでなくとも自分は彼方あちらに居た六ケ月の間、心の中で毎日子にひざまづいて罪を詫びない日はなかつたのであるからと思つて居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
今日こんにちこれ復興ふくこうするをべし、而してその復興ふくこうはうたるや、安楽椅子あんらくいすかゝり、或は柔軟じうなんなる膝褥しつぢよくうへひざまづ如何程いかほど祈祷きたう叫号きうごうするも無益むえきなり
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
長老がかう云ひ終るか否や群がる男女達は各々のその胸に十字をかき、長老の傍に集まりひざまづいてその衣のひだに接吻した。
お互ひにその難事を遂げようとするには、他の大きな力の前にひざまづかなければならない位にそれ位に難しいものだ……。
須磨子の死 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
丑松はまだ詑び足りないと思つたか、二歩三歩ふたあしみあし退却あとずさりして、『許して下さい』を言ひ乍ら板敷の上へひざまづいた。何事かと、後列の方の生徒は急に立上つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
墓の前なる石階の下にひざまづきて默然として祈念せる瀧口入道、やがて頭を擧げ、泣く/\御墓に向ひて言ひけるは
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
いや、買ふのではない、貴女の前にひざまづいて、買ふことの出来なかつたものを哀願しようとさへ思つてゐるのです。また、さうせずにはゐられないのです。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
切棒の駕籠に畔ゆく村童わらべまでひざまづかせしものを、下りゆく運は誰が導きの薄命道、不幸夭死の父につゞきて、母は野中の草がくれ妻とは言はれぬ身なりしに
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ここに於て雲飛うんぴはじめこの老叟らうそうけつし唯物たゞものでないとき、無理むりやりに曳張ひつぱつうちかへり、ひざまづいていしもとめた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
玄竹げんちく意氣揚々いきやう/\と、ふねなかへ『多田院御用ただのゐんごよう』の兩掛りようがけをゑて、下男げなん二人ふたりそれを守護しゆごする位置ゐちひざまづいた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そして婆あさんが梯子を登つて、玄関まで来た時には、お嬢さんの死骸がとこの上に横はつてゐた。その傍には主人がひざまづいてゐる。燕尾服に白襟を附けて、綬を佩びて。
薔薇 (新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
私は大地にひざまづいて土に接吻したかつた。しかし僅かに野原の茎の一片を取つてそれを口に当てた。
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
かも其悪魔が私の父です——今日こんにち会合あつまりは廿五年の祝典いはひでは御座いませぬ、光明ひかりを亡ぼす悪魔の祝典いはひです、——我父の打ちはす神殿の滅亡をひざまづいて見ねばならぬとは
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
可哀相かあいさうに!それはあとまつりでした!あいちやんは段々だん/\おほきくなるばかり、ゆかうへひざまづかなければならなくなつて、其爲そのため部屋へやたちまち一すん隙間すきまもないほどになりました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
之と比肩する能はざるのみならず、外にありては、香車のしりへに走り、内に在りては、青侍の前にひざまづかざるを得ず、且つ当時最も武夫の栄誉としたりし御家人の名は廃せられ
崖をよぢ登る仔羊を、犬が後から追ひ上げます。四つ辻に来ると、少年は立ち止ります。基督キリストの十字架像が、夕焼の空を背にして立つてゐるからです。少年はその前にひざまづきます。
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
皆な改めて其前にひざまづいて礼拝した。明朝灰葬を行つてから仏壇の中へ入れる筈であつた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
みち出合であ老幼らうえうは、みな輿けてひざまづく。輿なかではりよがひどく心持こゝろもちになつてゐる。牧民ぼくみんしよくにゐて賢者けんしやれいするとふのが、手柄てがらのやうにおもはれて、りよ滿足まんぞくあたへるのである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
やがてのんべえ は樹深こぶか裏山うらやまのおみやまへにあらはれました。そしてべたにひざまづいて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
顔をあかめつつ紳士の前にひざまづきて、慇懃いんぎんかしらさぐれば、彼はわづかに小腰をかがめしのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分の腰を掛けてゐる寝台の外には、壁に取り付けた書棚と祈祷の時ひざまづく台とがあるばかりである。戸の側の壁に釘が二三本打つてあつて、それに毛皮と僧の着る上衣とが懸けてある。
この石器時代せつきじだい人間にんげんは、どういふふうにしてはうむつたかといふに、あしをまげてひざからだけ、ひざまづいたようなかたちをしてうづめたのが普通ふつうでありまして、からだばしてうづめたのはいたつてまれです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
嘗て彼が不来方城頭にひざまづいて何か呟やき乍ら天の一方を拝んで居た事や、或る夏の日の真昼時、恰度課業が済んでゾロ/\と生徒の群り出づる時、中学校の門前に衛兵の如く立つて居て
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
けものは人の物言ふをわきまへべきやうはなけれど、懐妊の身のかかる難儀を告げて命を乞うてみばや、その上にて聞きわけずばそれまでよと思ひさだめ、進み近づく熊の前にひざまづき、涙を流して
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
貴様達は知るまいが……復讐……この恨を晴らすために……晴らすために……ああ愉快だ……俺は復讐のために生きるんだ……俺は貴様達にひざまづいてあわれみを乞わしてやるんだ……地面じべたへ手をつかして……
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
おんなはやがて階段きざはししたひざまづいて、こまごまと一伍一什いちぶしじゅう物語ものがたったうえ
おくつきにひざまづ
それから家へ帰つて来ると、寝床の前にひざまづき、「神様、どうかあのひきがへるをお助け下さい」と十分ほど熱心に祈祷きたうをした。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こゝおいかくおほすべきにあらざるをつて、ひざいて、前夫ぜんぷ飛脚ひきやくつて曳出ひきだすとともに、をつと足許あしもとひざまづいて、哀求あいきうす。いは
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僧官のうちなる一人、すなはちこれを取りて、ベルナルドオが前に進み給ひぬ。我友は此時ひざまづきたるが、もろ手に面をおほひて、この冠を頭に受けたり。
私は彼女から半ヤードのところにひざまづいた。彼女は、火を掻き起して、燃えそびれた石炭がめら/\と燃え上るやうにした。
いつだつたかかれはその小さな鳥居の下で、三年も人知れず燃えてゐるその恋心をかの女に打明けてひざまづいて泣いた夢から愕然として覚めたことがあつたのを思ひ起した。
赤い鳥居 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
御用ごようでございますか。』と、こつないてひざまづいた。但馬守たじまのかみはヂッとこつなかほ見詰みつめてゐたが
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
モニカは神色自若としてその前に進み、ひざまづき、先づその像を手にとつてぢつと打眺めた。
ある日のこと、甚兵衛はいつものとおりに、その神社おみやの前にひざまづいて、ながあいだいのりをしました。そしてふとかおをあげてみますと、自分のすぐの前に、真黒まっくろなものがつっ立っていました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
最初は此女の願を拒むのが正当だと確信してゐたのに、此時になつて、その拒絶したのが果して正当であつたかと云ふ疑惑を生じた。そこで間違のない処置をする積で、ひざまづいて祈祷した。
見れば丑松はすこし逆上とりのぼせた人のやうに、同僚の前にひざまづいて、恥の額を板敷の塵埃ほこりの中に埋めて居た。深い哀憐あはれみの心は、可傷いたましい光景ありさまを見ると同時に、銀之助の胸をいて湧上わきあがつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そして卒然いきなり起上おきあがつて少年こどもの前にひざまづあたま大地だいちけて
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
(急に女の寝てゐる寝台の前にひざまづき)
クロニック・モノロゲ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
僧等の去りしあとにて、マリウチアは我を石上にひざまづかせ、「オオラ、プロオ、ノオビス」(祷爲我等いのれわれらがために)を唱へしめき。
されば「さんた・るちや」の前に居並んだ奉教人衆は、風に吹かれる穂麦のやうに、誰からともなく頭を垂れて、ことごとく「ろおれんぞ」のまはりにひざまづいた。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
與吉よきちはとみかうみて、かたのあたり、むねのあたり、ひざうへひざまづいてるあしあひだ落溜おちたまつた、うづたかい、木屑きくづつもつたのを、くすのきでないかとおもつてゾツとした。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私はひざまづいた。彼女は私の方にこゞまないで、椅子にもたれかゝつてたゞじつと私を見つめた。彼女はつぶやきはじめた——
奥の苔の蒸した五輪形の墓の前に行つた時には、紳士は長い間ひざまづいて手を合せた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
あの小学校の廊下のところで、人々の前にひざまづいて、有のまゝに素性を自白するといふ行為やりかたからして考へても——確かに友達は非常な決心を起したのであらう。其心根は。思へば憫然びんぜんなものだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)