いちじる)” の例文
帽子屋ばうしやはこれをいていちじるしくみはりました、が、つたことは、『何故なぜ嘴太鴉はしぶとがらす手習机てならひづくゑてるか?』と、たゞこれだけでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
もつともそれが全部でなくとも或いちじるしい部分を表してゐる時、批評家にさう云ふイズムの貼札はりふだをつけられたのを許容きよようする場合はありませう。
出づれば、その道まさり、その伴ふ星またまさる、しかしてその己がさがに從ひて世の蝋をとゝのかたすこといよ/\いちじるし 四〇—四二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
駒井のこの住居すまいには、このごろいちじるしく室がふえているはずなのに——金椎キンツイひとりを眠らせて置いて、みんなどこへ行ったのだろう。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たゞ鷺町の附近ではやゝこれがいちじるしく、海盤ひとでの一本の触手のように丘陵地帯を貫いて町の下手で河原まで岩層を差し伸しています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その後私はいくつかの作品でこの町を描いたけれども、しかしそれはいちじるしく架空の匂ひを帯びてゐて、現実の町を描いたとはいへなかつた。
木の都 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
万法蔵院の香殿・講堂・塔婆・楼閣・山門・僧房・庫裡、悉く、金に、朱に、青に、昼よりいちじるく見え、みづから光りを発して居た。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
つはくらい。……前途むかうさがりに、見込みこんで、勾配こうばいもつといちじるしい其處そこから、母屋おもや正面しやうめんひく縁側えんがはかべに、薄明うすあかりの掛行燈かけあんどんるばかり。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一秒一秒と、両軍の陣形は、目に見えていちじるしい変化を示して行った。息づまるような緊張が、兵員たちの胸を、ビシビシと圧しつけて行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は——彼を愛してはゐなくとも、深い友情を持つてゐる私は——いちじるしい省略しやうりやくに傷けられた。涙が湧く程ひどくきずつけられた。
これではまだ日高君は首肯されないかも知れないからもっともいちじるしい例をげると、ゼ・ニガー・オブ・ゼ・ナーシッサスのようなものである。
そして、時計とけいはりしろばんおもてうごいていました。そのときはまだ、昼前ひるまえでありましたが、いちじるしくながくなったのが子供こどもにもかんじられました。
角笛吹く子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すなは明治二十七年めいじにじゆうしちねん六月二十日ろくがつはつか東京地震とうきようぢしん最初さいしよから十五秒間じゆうごびようかんいちじるしい震動しんどうをはりをげ、大正十四年たいしようじゆうよねん但馬地震たじまぢしん二十秒間にじゆうびようかん全部ぜんぶほとんどをさまり
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
本種はわがくにいたるところに群生ぐんせいしていて、真赤な花がたくさんに咲くのでことのほかいちじるしく、だれでもよく知っている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
人間のさがを、ひろて、その瑕瑾かきんをとがめず、たいがいな事は「ゆるす」ということも、老公の上に見られる最もいちじるしい性格のひとつであった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……四年前よりも父の顏にいちじるしく似通つてゐた。兄が身體をかがめて、英作文を一二行見てゐる間に、辰男は帽子を被りトンビを着て直立してゐた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
渡瀬は説明を続けているうちに、だんだん一つの不安心な箇所かしょに近づいていった。その個所を突破しさえすれば問題の解決はいちじるしくはかどるのだ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
斎藤の方は実にいちじるしい反応を示しているでしょう。聯想試験でも同じことです。この『植木鉢』という刺戟語に対する反応時間を見ても分りますよ。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此評は惡しき方にはあらねど、當日の公衆の喝采に比ぶるときは、その冷かなることいちじるしとおもはる。われは此新聞紙を疊みて行李の中にをさめたり。
いずれも同じような物であったが、その代り、どこかにローカル・カラーといって好いような、食物の上にもいちじるしく異なった個性が現れていたようである。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
いちじるしき事実なし。ただ、ローリー氏がヨットを離れんとする際、きまって口論するがごとき身振りを相互に交換す。いかなる意味なるや、解し難し。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
勘次かんじおほはれたやうで心細こゝろぼそきりなかに、其麽そんなことでいちじるしく延長えんちやうされた水路すゐろ辿たどつてながら、悠然ゆつくりとしてにぶさをてやうをするのにこゝろ焦慮あせらせて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
牡丹と深見草ふかみぐさとの區別を申さんに生等には深見草といふよりも牡丹といふ方が牡丹の幻影早くいちじるく現れ申候。
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
第一植物性食品の消化率が動物性食品に比していちじるしく小さいこと。もっとも動物性食品には含水炭素がんすいたんそほとんどないからこれは当然植物から採らなければならない。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「宋朝古渡りの素焼壺で、吉凶共にいちじるしいもの、容易ならぬ器でございます」尚古堂は気味悪そうに云った。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただしさである。人間的な「義しさ」である。「大津順吉」や「和解」の場合にはそれが最もいちじるしいと思う。
志賀直哉氏の作品 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼は年来ピンの押入婿おしいりむこであったが、昨秋新に村人の家に飼われた勇猛ゆうもうの白犬の為に一度噛み伏せられてピンをとられて以来、俄に弱っていちじるしく老衰して見えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
してこの類の病気には信仰がいちじるしく功をそうしたろうけれども、黴菌ばいきんから起こる病いのごときに至っては、宗教が入りんではかえって療治りょうじ邪魔じゃまになることが多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
藤浪君は傾きかけた液体をこぼした。酒の方も昨今修業している。小西君が指導係だ。小西君は元来積極的性格がいちじるしい。射落しの話は相手の気を引いて見たのである。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わたくしの此推定は誤らなかつた。しかし錦橋書上と直温先祖書の錦橋の条とは、広略くわうりやく大に相異なつてゐる。そして錦橋書上は其文いよ/\長うして其矛盾の痕は愈いちじるしい。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
やがベルが鳴る、此の場合に於ける生徒等の耳はいちじるしく鋭敏になツてゐた。で鈴の第一聲が鳴るか鳴らぬに、ガタ/\廊下を踏鳴らしながら、我先われさきにと解剖室へ駈付ける。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
幸にもかの大火災を免れたので、それ以前と比べて特に目立つほどのいちじるしい変化は見られない。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
ほとんどすべからざるに至り、時々じじ狂気じみたる挙動さえいちじるしかりければ、知友にも勧誘を乞いて、鎌倉、平塚ひらつか辺に静養せしむべしと、その用意おさおさおこたりなかりしに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
若林博士の顔は、私がこう尋ねると同時に、いちじるしく柔らいだように見えた。何故だかわからないけれども、今までにない満足らしい輝やきを見せつつ、ゆっくりと頭を下げた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして、それがあまりいちじるしいので、みんなを驚かせもし、涙ぐましい気持にもさせた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
武甲山ぶこうざんは武蔵の一名山である。その山、秩父連山の入口にあたり、かも山姿高峻、優に秩父連山の群を抜き、遠く武蔵野平原から望んでも、武甲山だけは、いちじるしく天空にそびええてる。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
科学がいちじるしく進んでり、それのあらゆる適用が世間に広まって、すべての人たちがその利便をしみじみと感じていることも確かであったのですが、それでいてダーウィンの学説が出ると
チャールズ・ダーウィン (新字新仮名) / 石原純(著)
そして前方を、桑畑の方を眺めてゐたが、突然のやうにその深く考へたとも見える憂鬱さが消えて、奇妙な、恰好のとれない顏になつた。何かが彼の眼に入り、彼の興味をいちじるしくいたのである。
南方 (旧字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
文書の学問としてはやく我々も学ぶことを得たけれども、それが時あっていちじるしく流路を変え、または屈折し分岐して到る処に影響する実状に至っては、今は必ずしもまだ常識とまではなっていない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それが昨年さくねんの六ぐわつ三十にちに四十三ドルの三、すなはち一わりさがつたのは何故なぜであるか。累年るゐねん輸入超過ゆにふてうくわいちじるしく、對外貿易たいぐわいぼうえき改善かいぜんされない、其上そのうへ昨年さくねん上半期かみはんき輸入超過ゆにふてうくわは二おく八千萬圓まんゑんになつてる。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
践歴せんれき 功皆いちじるしく、諮詢しじゆん つとめ必ずす。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すると水がいちじるしくっているのを見た。
江曾原えそはらへ着くと、いちじるしく眼につく門構えと、土の塀と、境内けいだいの森と竹藪たけやぶと、往来からは引込んでいるけれども、そこへ入る一筋路。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
万法蔵院の香殿・講堂・塔婆・楼閣・山門・僧房・庫裡くりことごとく金に、朱に、青に、昼よりいちじるく見え、自ら光りを発して居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「ここのところにいちじるしくないが、K興奮が出ている。君のはまるで男の胸のように扁平フラットで、何も出ていないじゃないか」
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
櫻島噴火さくらじまふんかいちじるしい前徴ぜんちようそなへてゐた。數日前すうにちぜんから地震ぢしん頻々ひんぴんおこることは慣例かんれいであるが、今回こんかい一日半前いちにちはんぜんからはじまつた。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
軒並みに伝統の気質と共に並用されて来てしかもその態度を採用するものほど繁昌し、採用しないものほど店がさびれて行く徴候のいちじるしいのが目につく。
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
つまり、全身の形に普通の人間と違ったいちじるしい特徴を持っておる。その姿を見た丈けで、何奴かと直ちに分る様な人間なのじゃ。つまり不具者なのじゃ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「小藩とは申しながら、近年になりまして、いちじるしく、織田家の財政も立ち直って来たかに見うけられますが……」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
形はいちじるしいものではない、胸をくしや/\と折つて、坊主頭を、がく、と俯向うつむけて唄ふので、うなじいた転軫てんじんかかる手つきは、鬼がつのはじくと言はばいかめしい
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)