たしか)” の例文
彼はたしかに老人ではない、変装しているのだ。そう思って見ると、いかにもたくみに地の毛のように見せかけてはあるが、どうもかつららしい。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
自分で正気づいたと、心がたしかになった時だけ、うつつおんな跫音あしおとより、このがたがたにもうたまらず、やにわに寝台ねだいからずるずると落ちた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弱くおろかなる人で無いことはたしかに信ずると篠田さんは言うてでしたよ、——姉さん篠田さんは貴嬢をくまであつく信じて居なさいますよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
長谷川天溪てんけい君の住所を大使館で聞いたが不明であつた。同君は既に日本へ出発したと云ふ噂を日本人倶楽部で聞いたがそれたしかでない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
私はその時分のことは知らないが大学時代の主人が屡々しばしばそこへ行くことはたしかに見ていたし、一度などは私も一緒に連れて行ってもらった。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あの騒がしい浅草公園の真中にいて、色々な物音はたしかに聞えているのですが、不思議にシーンとした感じで、長い間そうしていました。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
古く山行をともにした私の友人がついに山が好きになれなかったのは、たしかに山に登る労力がくだらぬものに思われた為に相違ありますまい。
登山談義 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
手法、様式に別に変化はなく黒釉くろぐすり一式である。火の具合で海鼠釉に変ると景色が出る。形たしかで骨っぽい。都会ではてない特権である。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
門弟す所を知らずして恐る恐る理由を問うこと再三に及びし時、妾は盲人なれども鼻はたしかなり、匇々そうそうに去って含嗽がんそうをせよと云いしとぞ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しか今日こんにちところでは病院びやうゐんは、たしか資力ちから以上いじやう贅澤ぜいたくつてゐるので、餘計よけい建物たてもの餘計よけいやくなどで隨分ずゐぶん費用ひようおほつかつてゐるのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
花の汁が紫インキのようだからというが(更級さらしな)、この新らしい外国産の草を、紙に染める遊戯があるか否かを私はまだたしかめていない。
みゝかたむけると、何處いづくともなく鼕々とう/\なみおときこゆるのは、この削壁かべそとは、怒濤どとう逆卷さかま荒海あらうみで、此處こゝたしか海底かいてい數十すうじふしやくそこであらう。
野々宮さんが立つと共に、美禰子のうしろにゐたよし子の姿すがたも見えた。三四郎は此三人のほかに、まだつれが居るか居ないかをたしかめやうとした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うかゞひ友次郎殿事お花樣の御部屋おへやへ忍び來られたり此事たしかに見屆け候故御注進ちうしん申上候と云ければ喜内はさわぎたるていもなく吾助其方とも
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「なる程そんな約束をした事はたしかにあつた。」博士は両手を卓子テエブルの上につゝかぼうにして、その上に膨れた顔を載せて平気で言つた。
けれども、わたくしの耳には一度ならず、二度までもたしかにさう聞えたのです。怪しい娘がわたくしに教へてくれたやうに思はれるのです。
しかかれ自分じぶんからはなはだしくいつゝあるらしいのをこゝろたしかめてひては追求つゐきうしようといふ念慮ねんりよおこなかつた。勘次かんじたゞ不便ふびんえた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
はじめ、竜華寺へ行ったのは中学の四年生の時だった。春の休暇のある日、たしか静岡しずおかから久能山くのうざんへ行って、それからあすこへまわったかと思う。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから一々それらの竹を検した末に、日本の京都近郊の八幡やわた産のものが最上であることをたしかめ、これを使うことにしました。
トーマス・エディソン (新字新仮名) / 石原純(著)
『時計を返して呉れ。』と云つたとき、青年の意識は、可なりたしかだつた。が、息を引き取る時には、青年の意識は、もう正気を失つてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
およ本年ほんねんの一ぐわつすぎには解禁後かいきんご推定相場すゐていさうばである四十九ドルぶんの一乃至ないし四十九ドルぶんの三まで騰貴とうきすることはたしか算定さんてい出來できたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
オヽ其男御眼にかゝろうと珠運立出たちいで、つく/″\見れば鼻筋通りて眼つきりゝしく、あぎと張りて一ト癖たしかにある悪物しれものひざすり寄せて肩怒らし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今日僕の乗って来た車夫は、門の下でたしかに殺されていたんだが、どうだ、それは僕が殺したのと同様なんだよ。僕にその労金を
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
今更いまさらあらためて、こんなことをくのも野暮やぼ沙汰さただが、おこのさんといいなさるのは、たしかにおまえさんの御内儀ごないぎだろうのう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
もう一度頭の中で手落ちはないかとたしかめ、それから金網越しに、奥の台の上に列立する真空管や、鋭敏えいびんな同調回路の部品や
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
臼木は老眼鏡のもあまり強くならない中、紙幣を数える指先もまだたしかである中、将来家族の困らぬだけの恒産をつくって置かねばならない。
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ソレはその時塾に居た小野友次郎おのともじろうが警視庁に懇意こんいの人があって、極内々その事を聞出して、私と同時に後藤象次郎ごとうしょうじろうも共に放逐ほうちくたしかに云うから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かくも、山頂さんてう凸起とつきする地點ちてん調査てうさこゝろみ、はたして古墳こふんであるかいなかをたしかめる必用ひつようしやうじたので、地主側ぢぬしがは請願せいぐわんもあり
長「いや、お父さまは何と仰しゃるか知らんが、どうも此の長助にはだ腑に落ちない事がある權六手前てまえが毀したと云う何ぞたしかな証拠が有るか」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
されども聴水ぬし、かれたしかに仕止めたれば、証拠の躯はよし見ずとも、心強く思はれよ。ああ彼の黄金丸も今頃は、革屋かわやが軒に鉤下つりさげられてん。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
美成の歿した時のよわいを六十七歳とすると、抽斎より長ずること八歳であっただろう。しかし諸書の記載が区々まちまちになっていて、たしかには定めがたい。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
うなると、狼狽うろたへる、あわてる、たしかに半分は夢中になツて、つまずくやらころぶやらといふ鹽梅あんばいで、たゞむやみと先を急いだが、さてうしても村道へ出ない。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
とにかく埴輪はにわといふものが垂仁天皇すいにんてんのう御代前後みよぜんごからはじまつて、四五百年しごひやくねんぐらゐもつゞいたことはたしからしいのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「見よ、この人を。」しゆは実に訓令と教書との荘厳を介して、其司祭等の声を聞取り給ふのではあるまい。紫衣も珠玉も絵画もしゆたしかに嘉し給はぬ。
法王の祈祷 (新字旧仮名) / マルセル・シュウォッブ(著)
また名は君主国であってもその実デモクラシーのさかんに行われる英吉利イギリスの如きは、名も形も君主国にして、その品質と色彩はたしかにデモクラシーである。
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「見かけたという奴が、たしかに、相馬大作で、然も、平山子龍の邸から出てくるのを見たというが、何うもおかしいの。討たれた奴が白昼出るのは?」
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
たしかに十五万フランの金を会社から受取りました。しかしその金はある親密な政友の懐に入ってしまって、その政友の道具に使われたに過ぎないのでした。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
若党は平三郎のあとからいて来た。平三郎は離屋にあがってたしかに散ったと思った行燈あんどんの血をさきにしらべてみた。行燈には血らしいしたたりも見えなかった。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
およそ其半なるをたしかめたり、利根山奥は嶮岨けんそひとの入る能はざりしめ、みだりに其大を想像さう/″\せしも、一行の探検に拠れば存外ぞんぐわいにも其せまきをりたればなり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
この世の生活をこの世らしゅう生きて通る事だけは、誰にも授けられているように、其方そちにもたしかに授けてあった。
牛乳ばかりでありません、何の病気も多くは口から入ります。口から入って後病気になって騒ぐよりは口へ入れない前に食物で予防する方がたしかでしょう。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
有る——少くとも、我々をしてそういう風に疑わしめるような傾向が、現代の或る一隅にたしかに有ると私は思う。
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
正面中央には伊太利産らしい、大理石の枠を持った大煖炉があり、丸透彫まるすかしぼりの前飾も、たしかに勝れたものでした。
学生相手のたしかなことはお島も知っていた。洋服姿で、若い学生だちの集りのなかへ入って行く自分の姿を想像するだけでも、彼女は不思議な興味をそそられた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこに煙草の吸殻や燐寸マッチの燃えさしが有ったとしても、それがたしかに昨夜のものだという証拠がないからです
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこで僕は、先程此処ここを出ると早速さっそく山田源之助の遺族を訪ねて、源之助が右利きであった事をたしかめて見た。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
乙子と養子が助かったので、気が楽になると同時に、友達の家の安否をたしかめなくては済まなくなって来た。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
静かにたたずんで、私は身じろきひとつしなかったが、また目ばたきひとつしなかったが、私はたしかに心でわなわなした。だが、何という快感。恍惚たる無上の残忍感。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
殊に此犯罪は医者の見立で夜の二時から三時の間と分って居ますから戸締をしてあった事は重々たしかです
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
あなたはそんな天上のものを私に期待なさつてもたしかめてもいけません——ちつとも豫期しはしないのですが、私があなたからそんなことが得られないと同じやうに