ちゃく)” の例文
道也の進退をかく形容するの適否は作者といえども受合わぬ。もつれたる糸の片端かたはしも眼をちゃくすればただ一筋の末とあらわるるに過ぎぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鼻梁はなすじの通った口元の締った、眉毛の濃いい男で、無地の羽織をちゃくし、一本短い刀を差し、紺足袋雪駄穿せったばきでチャラ/\やって参りました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うるう八月十三日(文久二年)朝八時ロシフ※ルトにちゃく。ロシフ※ルトは巴里パリより仏里にて九十里の処にある仏蘭西フランスの海軍港なり。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そこで、家来けらいがマントを三ちゃくもってきました。裁判官たちはお姫さまがいつもきている、うすネズミ色のマントを見ますと
ここ一時間を無事に保たば、安危あんきの間をする観音丸かんのんまるは、つつがなく直江津にちゃくすべきなり。かれはその全力を尽して浪をりぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一、必ずちゃくに来るべき剛強馬二、三頭あるとき、決してプラッセの穴を狙うなかれ。たとい適中するとも配当甚だ少し。
我が馬券哲学 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
当地にちゃくそろてよりは、当家の主人たる弟又次郎の世話に相成り候。ついては某相果て候後、短刀を記念かたみつかわし候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこへ戦争がおっぱじまった。×××の方の連隊へも夫々動員令下った。秋山さんは自分じゃもう如何どうしてもいくさに行くつもりで、服なども六七ちゃくこしらえる。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
其の時、やっと、気が付いたことは、これこそ例の怪人の一人が死刑囚を殺し、其の皮を剥ぎ、服装なりも一緒にこれを怪人がちゃくしているのだという事が判った。
科学時潮 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
父上ちゃくなされ候てより未だ一通の手紙もまいらず、御許のことのみ気に懸り、心許なくぞんじ居り候。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
花婿は黒山高帽子に毛皮のえりの付きたる外套がいとうちゃくして、喜色満面にあふれていたるに引きかえ、花嫁はそれと正反対、紺色の吾妻あずまコートに白の肩掛、髪も結ばずたばのままの
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
すると、泉石せんせき見事な庭苑ていえんの彼方で、すらと、鶴のような姿の人が立ってこなたを振向いた。髪に紫紐金鳳しじゅうきんぽう兜巾ときんをむすび、すそ長い素絹そけんの衣をちゃくし、どこか高士こうしの風がある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鬱金うこんのくくり袴をちゃくしたり、紫の被衣かつぎをかずいたり、緋のたすきであやどったりそうかと思うと男の中には、熊の皮の胴服を着たのや、猪皮ししがわ脚絆きゃはんをつけたのや、そんな風采の者もあった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
有志家とは当時自由党の幹事たりし佐藤貞幹さとうていかん氏にてありければ、しょうはいよいよ安心して、翌日神戸出帆しゅっぱんの船に同乗し、船の初旅もつつがなくた横浜よりの汽車の初旅もさわりなく東京にちゃくして
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
モスクワ見物けんぶつだいちゃくに、ミハイル、アウエリヤヌイチはそのともをまずイウエルスカヤ小聖堂しょうせいどうき、そこでかれ熱心ねっしん伏拝ふくはいしてなみだながして祈祷きとうする、そうして立上たちあがり、ふか溜息ためいきしてうには。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
やがてピュッと何物か切る音とともに神の使者がちゃくしたらしい。
現代忍術伝 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
鎧櫃の前に、裃をちゃくした峰丹波が、大きな背中を見せて端坐。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今更手をいて一ちゃくする事は、文三には死しても出来ぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すぐ自動車で亀の井旅館にちゃく温泉にはいる。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
途中に事故があって、ちゃくの時間が珍らしく三十分ほど後れたのを、宗助の過失ででもあるかのように、待草臥まちくたびれた気色けしきであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あかざの杖を曳きながら幡随院へやって来ると、良石和尚は浅葱木綿あさぎもめんの衣をちゃくし、寂寞じゃくまくとして坐布団の上に坐っている所へ勇齋たり
さて……悦びのあまり名物の焼蛤やきはまぐりに酒みかわして、……と本文ほんもんにあるところさ、旅籠屋はたごやちゃくの前に、停車場前の茶店か何かで、一本傾けて参ろうかな。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これをもって教育の本旨とするは当らざるに似たれども、人生発達の点にまなこちゃくすれば、この疑を解くに足るべし。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
QZ19ハただチニR区裏ノ公衆電話そばニ急行シテ黄色ノ外套がいとうちゃくセル二人ノ同志ニこれヲ報告セヨ。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
森は田辺にちゃくいたし、景一に面会して御旨おんむねを伝え、景一はまた赤松家の物頭ものがしら井門亀右衛門いかどかめえもんはかり、田辺城の妙庵丸櫓みょうあんまるやぐら矢文やぶみを射掛け候。翌朝景一は森を斥候の中に交ぜて陣所を出だしり候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
両人神奈川県荻野おぎの町にちゃくし、その地の有志荻野氏および天野氏の尽力によりて、同志を集め、結局醵金きょきんして重井おもい(変名)、葉石はいし等志士の運動を助けんとくわだてしかど、その額余りに少なかりしかば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「お早いおちゃく
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云いながらずっと出た男の姿なりを見ると、紋羽もんぱの綿頭巾をかむり、裾短すそみじか筒袖つゝそでちゃくし、白木しろき二重廻ふたえまわりの三尺さんじゃくを締め、盲縞めくらじまの股引腹掛と云う風体ふうてい
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なにしろ先生の処へいってこの通り言おうと思て、それから、大阪ちゃくはその歳の十一月頃と思う、その足で緒方おがたへ行て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
握る名と奪えるほまれとは、小賢こざかしきはちが甘くかもすと見せて、針をて去る蜜のごときものであろう。いわゆるたのしみは物にちゃくするより起るがゆえに、あらゆる苦しみを含む。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのていは……薄汚れた青竹の太杖ふとづえを突いて、破目やぶれめの目立つ、蒼黒い道服をちゃくに及んで、せい高うのさばって、天上から瞰下みおろしながら、ひしゃげた腹から野良声を振絞って、道教うる仙人のように見えた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高遠城たかとおじょうちゃく
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はかますそ端折はしょって脊割羽織せわりばおりちゃくし、短かいのを差して手頃の棒を持って無提灯むぢょうちんで、だん/\御花壇の方から廻りまして、畠岸はたけぎしの方へついて参りますと
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何時いつでもよろしい、船が大阪にちゃく次第しだいに中津屋敷で払てるから取りに来いと云うも、船頭は頑張がんばって承知しない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わが位にちゃくするがためにこの大道徳を解し得ぬ。わが富に着するがためにこの大道徳を解し得ぬ。くだれるものは、わが酒とわが女に着するがためにこの大道徳を解し得ぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とちとあらたまって呼んだ時に、みんなが目をそそぐと、どのあかりか、仏壇に消忘れたようなのがかすかに入って、スーと民弥のその居直った姿を映す。……これは生帷きびらの五ツ紋に、白麻の襟をかさねて、はかまちゃくでいた。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ってというので、音助に言付け万事出立の用意が整いましたから立たせて遣り、ようやく五日目に羽生村へちゃく致しましたが、聞けば家宅うち空屋あきやに成ってしまい
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この流の人は、民権を論ずれども、その眼をただ政府の一方にのみちゃくして、自家の事務を忘るるがゆえなり。今の如く政談家の多きは国のために祝すべからず。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
筆硯ひっけんに命をむる道也どうや先生は、ただ人生の一大事いちだいじ因縁いんねんちゃくして、かえりみるのいとまなきがゆえに、暮るる秋の寒きを知らず、虫の音の細るを知らず、世の人のわれにつれなきを知らず
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其の時店先へ立止りました武士さむらいは、ドッシリした羅紗らしゃ脊割羽織せわりばおりちゃくし、仙台平せんだいひらはかま黒手くろて黄八丈きはちじょう小袖こそで、四分一ごしらえの大小、寒いから黒縮緬の頭巾をかぶ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
学者はただこれにまなこちゃくし、これを議論に唱うるのみにして、その施行の一段にいたりては、ことごとくこれを政府のまつりごとに托し、政府はこの法をかくの如くしてこの事をかくの如くなすべしといい
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ詩人と画客がかくなるものあって、くまでこの待対たいたい世界の精華をんで、徹骨徹髄てっこつてつずいの清きを知る。かすみさんし、露をみ、ひんし、こうひょうして、死に至って悔いぬ。彼らの楽は物にちゃくするのではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文治は支度そこ/\猟師の家を立去りまして、三俣へ二里半、八木沢やぎさわの関所、荒戸峠あらどとうげ上下じょうげ二十五丁、湯沢ゆさわ関宿せきじゅく塩沢しおざわより二十八丁を経て、六日町へちゃくしました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私の漂うて居った無人島へきたりしゆえ、かろうじて其の舟に乗込み、一度新潟沖にちゃくいたし、女房の在所ありかを尋ねようと思って小舟を乗出したところが、又も難船して此の始末
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
旅をすること丁度足掛三年目の二月の五日に江戸へちゃく致しましたが、是と云ってほかに頼る処もございませんから、まず葛西の小岩井村百姓文吉の処に兄が居りはしまいかと思って
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一度江戸へ立帰らんと思い立ち、日数ひかずを経て、八月三日江戸表へちゃくいたし、ず谷中の三崎村なる新幡随院へ参り、主人の墓へ香花こうげ手向たむけ水を上げ、墓原はかはらの前に両手を突きまして
此方こちらは船へ乗り移ります、虫が知らせるかたがいに振り返る、其の内に船は岸を離れて帆を揚げる、風は悪いけれども忽ちに船は走りまして浦賀へちゃく致しまして、自宅うちへ帰って引出ひきだしを開けて見ると