“捕(つかま)” の例文
「ぢやア僕(ぼく)は帰るよ。もう………。」と云(い)ふばかりで長吉(ちやうきち)は矢張(やは)り立止(たちどま)つてゐる。その袖(そで)をお糸(いと)は軽く捕(つかま)へて忽(たちま)ち媚(こび)るやうに寄添(よりそ)ひ
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
男の人が、それを袂(たもと)へ入れろ入れろと言うじゃないかなし。私が入れた。そうすると、この袂を捕(つかま)えて、どうしても放さなかった……
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いゝえ、お祖父樣(ぢいさん)、私は螢を捕(つかま)へに行くのでは無いのです。つい其處(そこ)まで…… あの、お隣家(となり)の太一さんの許(とこ)まで行くのです。」
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
之(これ)は審査員に対する遺恨と云ふ様な事で無く、其(その)画がよくよく気に入(い)らなかつた為だと云ふ。悪戯(いたづら)の主(ぬし)は未(ま)だ捕(つかま)らない。(四月十四日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
「盗賊は、まだ捕(つかま)らぬか。はて、のろまな警吏(やくにん)だ」と、後ろへ供につれている童(わっぱ)のような小男——蜘蛛太(くもた)を顧みてにやりと笑っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少佐はハッと驚いて両手を上げました。ピストルの筒口が横腹に突きつけられたのです。ああ少佐はとうとう敵に捕(つかま)ったのです。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
するとある時(とき)、ライオンが猟人(かりうど)に捕(つかま)つて縛(しば)られたとこへ例(れい)の鼠(ねづみ)が来(き)て「おぢさん、待(ま)つといで」と言(い)つて縛(しば)つた縄(なわ)を噛切(かみき)つてやりました。
お前はわたしに欺(だま)されたと言うか言わない時に、一番端(はし)に伏していた鰐(わに)がわたくしを捕(つかま)えてすつかり着物(きもの)を剥(は)いでしまいました。
これと反対に、少しの弱点を捕(つかま)えてそれが女の性格の全部のように書いてある近頃の小説などを見ては一層慊(あきた)らなく思います。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
だが、警察署へ訴えたところで、じきにあいつらが捕(つかま)ろうか。捕ったところで、うまく金子(かね)が戻るだろうか。あぶないものだ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この上は自分一人で夢を捕(つかま)えてやろうと決心しました。夜寝る時、一生懸命にその覚悟をしておいて、それから眠りました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「親分さん、この敵を取つて下さい。こんな虐(むご)たらしい事をして、——家の中の者に違ひありません。捕(つかま)へて八つ裂(ざき)にでもしてやつて下さい」
ズルスケは、こんどこそわけなく捕(つかま)えられるだろうと思いました。けれど、ゆだんをして、またしくじってはたいへんです。
しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪(どうあく)な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を捕(つかま)えて煮(に)て食うという話である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「もう遠くへ飛んで行ってしまったろうと思いましたのに、捕(つかま)えて下さいまして、ほんとうにありがとうございました」
平馬と鶯 (新字新仮名) / 林不忘(著)
野牛はますます腹をたててこんどは、切り口に、長い舌をぺろりといれて、こほろぎを捕(つかま)へようといたしました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「学校の先生なんテ、私は大嫌(だいきら)いサ、ぐずぐずして眼ばかりパチつかしているところは蚊を捕(つかま)え損(そこ)なった疣蛙(えぼがえる)みたようだ」とは曾(かつ)て自分を罵(のの)しった言葉。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
おかみさんはきいきい言(い)って、火箸(ひばし)でぶとうとするし、子供達(こどもたち)もわいわい燥(はしゃ)いで、捕(つかま)えようとするはずみにお互(たが)いにぶつかって転(ころ)んだりしてしまいました。
「知ってるよ、知ってるよ。新聞でみると、君は捕(つかま)ったと書いてあった。まあよかった。僕たちは、アンナと僕とは、君のことをたいへん考えていたよ。」
彼(あ)の門には番人がある。それに毎日参詣人が多い。忠公は屹度(きっと)捕(つかま)るだろうと思っていたら、夕方になって成功して帰って来た。乃公は此れには少し驚いた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かねてから知り居る馴染(なじみ)のお伝という女が、さぞお待ち遠でござりましょう、と膳を置きつつ云う世辞を、待つ退屈さに捕(つかま)えて、待ち遠で待ち遠で堪(たま)りきれぬ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「兄さんがいなくなった後で、盗賊が入って、嫂(ねえ)さんを殺して、腸(はらわた)を刳(えぐ)って逃げたのですが、じつに惨酷(ざんこく)な殺しかたでしたよ。だが、それがまだ捕(つかま)らないです。」
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「ウン、決ったとまでは行かないんだが、重大なる容疑者を捕(つかま)えて、今盛んに大江山君が訊問(じんもん)している」
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ドーブレクはこの涙に唆(そそ)られたものか、乱暴にもその両腕で女をグイと捕(つかま)えて自分の方へ引き寄せようとするのを、彼女は満身の力を籠めて憎々しげに突き飛ばした。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
もう望(のぞみ)がないと思って悲しんでいる時、波間に見え隠れる四、五隻の帆船があったので、急ぎ捕(つかま)えると、意外やそれは日本人関矢一郎のひきいるラノン土人の一隊で
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
何(なん)にも捕(つかま)らなかつたが小(ちひ)さな叫(さけ)び聲(ごゑ)と地響(ぢひゞき)と硝子(ガラス)の破(こわ)れる音(おと)とを聞(き)きました、其物音(そのものおと)で愛(あい)ちやんは、兎(うさぎ)が屹度(きつと)胡瓜(きうり)の苗床(なへどこ)の中(なか)へでも落(お)ち込(こ)んだに違(ちが)ひないと思(おも)ひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
へーえ!——彼は捕(つかま)ったのだ。——捕った!——護送するまで市の監獄に入れられてるんだ。——護送するって! これから護送するって! どこへ連れて行くんだろう。
「あれは品子さんの飼猫ですかい。ひどくやられましたわい。捕(つかま)えようとすると、いきなりここを引掻きおった。じゃが、まんまと虜(とりこ)にしてしまいましたがね。ハハハ……」
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
坊主にされて今のような立派な男になるには二年ばかり手間が掛るだろう。往生しろと云(いっ)て、髻(もとどり)を捕(つかま)えて鋏をガチャ/\云わせると、当人は真面目(まじめ)になって手を合せて拝む。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「どこも行くところなぞありゃしない。私(わし)ア丸山さんのとこで捕(つかま)って花を引いていたんだ。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
布「いえ私は死んでも宜しゅうございます、彼奴等二人を仮令(たとえ)私が手をおろして討ちませんでも、捕(つかま)えてお上の手を借りましても思う存分に為(し)ませんでは腹が癒えませんから」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
芳一が何かに魅(ばか)されていたのは確かなので、一同は芳一を捕(つかま)え、その身体(からだ)をもち上げて起たせ、力まかせに急いで寺へつれ帰った——そこで住職の命令で、芳一は濡れた著物を脱ぎ
耳無芳一の話 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
夫婦(ふうふ)は困(こま)つてしまひました。そして、鳥屋(とりや)へもつて行(い)つて賣(う)りました、けれどそれが運(うん)の盡(つ)きでした。その嘴(くち)からの言葉(ことば)で、とうとう二人(ふたり)は捕(つかま)つて、暗(くら)い暗(くら)い牢獄(ろうごく)のなかへ投(な)げこまれました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
尤も猿公(えてこう)のなかでも、少し薄鈍(うすのろ)なのは、餌(ゑ)を食べると直ぐ遁(に)げ出すので滅多に捕(つかま)へられる事はないが、智慧自慢の小慧(こざかし)いのに限つて、猟師の真似をして、戸棚に入るといきなり扉(と)を閉めてしまふので
国事犯の書生っぽを捕(つかま)えたよりゃ、功(こう)があるのでしょう
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「𤢖(わろ)は何(ど)うした、捕(つかま)ったか。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「犯人は捕(つかま)ったのか」
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
けれども捕(つかま)へる時の愉快な味が忘れられなかツたので、骨折損も充(つま)らないもあツたもので無い。自分は毎夜のやうに、螢征伐に出掛けた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「こいつは容易のことぢや下手人は捕(つかま)るまい。それより生きてる者の命、通三丁目の井筒屋豊三郎の命が危ない——相手は自棄(やけ)になつて居る」
ヴォンブ湖(こ)の岸べに生(は)えているハシバミのやぶの中で、メスのリスが一ぴき捕(つかま)えられて、近所の農家(のうか)につれていかれました。
捕(つかま)った相手は、呼吸(いき)をしのんで、わざと体を撫でさせているのだったが、内蔵助の手が何ものかを感じて、恟(ぎょ)っと引くと
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どちらにしても、この洞穴のなかにはいつていつたことは確かだ。昼間はこゝにひそんでるのだ。一つ捕(つかま)へてやらう」
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
「そりゃあ君、知れきってる話さ。無論、捕(つかま)らあね。人を殺して置いて自分ばかり助かるという理屈はないからな」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
永代(えいたい)の橋の上で巡査に咎(とが)められた結果、散々(さんざん)に悪口(あっこう)をついて捕(つかま)えられるなら捕えて見ろといいながら四、五人一度に橋の欄干から真逆様(まっさかさま)になって水中へ飛込み、暫くして四
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
くくっていたかも知れん。あのカンカン寅が、人殺しの嫌疑(けんぎ)でお上(かみ)に捕(つかま)ったと聞いたときは、どうしてわしゃ、こうも運が悪いのかと、力もなにも一度に抜けてしまってのう
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と云うから、礼を云って立っていると、初さんは景気よく段木(だんぎ)を捕(つかま)えて片足踏(ふ)ん掛(が)けながら
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんな心懸(こころがけ)じゃあ盲目(めくら)の夫の前で、情郎(いろおとこ)と巫山戯(ふざけ)かねはしないだろう。厭(いや)になったらさっぱりと突出すが可いじゃあないか、あわれな情(なさけ)ないものを捕(つかま)えて、苛(いじ)めるなあ残酷だ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大勢で弱い町人を捕(つかま)えて打ち打擲致し、割下水の中へ打込(ぶちこ)んで、踏んだり蹴たりします。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼はついにテナルディエを捕(つかま)えたのである。あれほど見つけ出したいと思っていた男が、今目の前にいるのだった。彼はポンメルシー大佐の要求を果たすことができるのだった。
此(この)哀(あは)れな小(ちひ)さな物(もの)は、愛(あい)ちやんが捕(つかま)へた時(とき)に蒸氣(じやうき)機關(きくわん)のやうな恐(おそ)ろしい鼻息(はないき)をしました、それからわれと我(わ)が體(からだ)を二つに折(を)り重(かさ)ねたり、又(また)眞直(まつすぐ)に伸(の)ばしたりなどしたものですから
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)