さて)” の例文
或る名士の若夫人が入院して初子ういごを生んだ。安産で、男子で、経過ひだちも良かったが、さてお乳を飲ませる段になると、若夫人が拒絶した。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
拜借はいしやく仕つり度是迄推參すいさん候といふに強慾がうよく無道ぶだうの天忠和尚滿面まんめんゑみふくみ夫は重疊ちようでふの事なりさてわけは如何にと尋ぬるに大膳はひざすゝめ聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さてその帯が出来上つて見ると、それは註文ぬしのお上さんには勿論、若い呉服屋の主人にも派手はで過ぎると思はずにはゐられぬものだつた。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さてこの物語の読者諸君! 此処までお読みになった時、この犯罪の犯人が何者であるかということを、既に御存じかも知れません
広東葱 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
己のうちが金持だから法外の事をいうのであろう、さて此奴こいつは潔白な気性だと思いのほか、卑しい了簡の奴だなと腹が立ちましたから
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さてそれから少しあとのことであった。今まで狩猟などをもよろこんでいたことであるから定基のところへ生き雉子きじを献じたものがあった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一「セカンド」は大抵たいていみやく一動いちどうおなじ。さて時計とけい盤面ばんめんを十二にわかち、短針たんしん一晝夜いつちうやに二づゝまはり、長針ちやうしんは二十四づゝまは仕掛しかけにせり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
わするゝひとありとかきしがこれはまたいかにかへるべきいへわすれたるかとしもまだわかかるを笑止せうしといはゞ笑止せうしおもへばさていぶかしきことなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さてはそらごとにあらじ、古郷ふるさとを出て三百里に及べば、かかる奇異のことにも逢ふ事ぞ、さらば宿り求めんとて、あなたこなた宿を
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さて其下段には、大黒天を『シヴアの息子ガネサ(歡喜天)の變名ではあるまいかと言るるならば理由もつくが孰れにしても研究の餘地がある』
再び毘沙門に就て (旧字旧仮名) / 南方熊楠(著)
さて、その異人の住むとせられた彼岸の国は、我々の民族の古語では、すべてとこよ——常世又は常夜——と称せられてゐた。
さてさうなると、それつきりもう何もする事は見当らなかつた。よし見当つたにせよ、どうせ手に附かない事はわかつてゐた。
水と砂 (新字旧仮名) / 神西清(著)
過日京師けいしへ差出し下され候由これまた謝し奉候。さて阿波へもつかわく先にこれり候五、六部も拙方へ御遣しの程ねがひ申上候云々。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
理窟はさて置いて、この面舐かおなめの一儀が済むと、ポチもやッと是で気が済んだという形で、また庭先をうろうろし出して、椽の下なぞを覗いて見る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「へええ、御串戯ごじょうだんを。」と道の前後をみまわして、苦笑いをしつつ、一寸ちょっと頭を掻いたは、さては、我が挙動ふるまいを、と思ったろう。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて本月一日大洪水、堅固なる千住橋ならびに吾妻橋押流し、外諸州の水災など惨状、こは追々新聞等にて御聞ごぶんふれ候はん。略之これをりゃくす
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
さて、御多用中甚だ恐れ入りますが、今回「我が一生の大転機」と題して諸先生方に成功訓の御執筆を願い小誌上特別の光彩たらしめたいと存じます。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さて古學者が假名遣のことをやかましく論じて居るのに、例之ば本居の遠鏡とほかゞみの如き、口語で書く段になると、決して假名遣を應用して居らぬと云ふことを
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
さて昨日きのふ雪吹倒ふゞきたふれならん(里言にいふ所)とて皆あつまりて雪をほり死骸しがいを見るに夫婦ふうふひきあひて死居しゝゐたり。
さて一人にても人を殺すは、甚重き事にて、大抵の事なれば死刑には行はれぬ定りなるは、誠に有がたき御事なり。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
委細いさいの心は分らねどさては、扨は、細君が彼れの身持をとがめぬのみかは何も彼も承知の上で却て彼れに腹を合せ、彼れが如き異様なる振舞をさしむるにや
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
私は人間の仕合せは色の白いこと以上にないと思つた。さてはませた小娘のやうに水白粉みづおしろいをなすりつけて父に見つかり、父は下司げすといふ言葉を遣つて叱つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
竜次郎は不図ふと小虎の方を見て吃驚びっくりした。女の手足の数ヶ所から、黒血をだくだくと吹出しているのだ。さては小刀の切先が当って傷を付けたかと思ったのだ。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
さて、気持は、そこで一先づ安らかとなつたが、作品が熟してゆくといふことは、時日を要することであるし又、漸次のことであるから今分つたからといつて
詩壇への抱負 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
さてもこの度転沛逆手行かんぽのかえり、聞いてもくんねえ(と定句きまりく十数列の後に、次の漢文が插入されている)近来大山街道に見物客を引くは、神奈川県高座郡葭苅よしがりの在に
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さて、其の頃、ヴエスヴイアスから遠くないメシナといふ港に、此の話しを伝へたプリニイの叔父さんが居た。
「此の二人の男女は恋愛を遊戯視してゐる。しからん」とかやれなんとか、かんとか、こんなことをいふ批評家の顔が一寸見たいと思ふが、さて合つて見ると
素面の管 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
したがって実際は真実ほんとうらしい話も、私の廻らぬ筆にって、かえって嘘らしく聞えるかも知れぬが、それは最初はじめから御詫おわびを申して置いて、さていよいよ本文ほんもんとりかかる。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
渾身の力にても、引つ張られても貧乏ゆすりもせず微笑する処は大と小の価値を十分現してるがさて勝負となると物理学上の定理は応用されぬ。乞ふ星取表を見よ。
さてとや、先頃に久々とも何とも、御生別おんいきわかれとのみ朝夕あさゆふあきらり候御顔おんかほを拝し、飛立つばかりの御懐おんなつかしさやら、言ふに謂れぬ悲しさやらに、先立つものは涙にて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
丹七は、さてはと思って境内にり、音のする方へ近づいて行くと、果してあさ子は神様の前にひざまずいて、拍手をしながら、何事かを祈念して居るのであった。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
さて、今朝永井玄蕃方ニ参り色〻談じ候所、天下の事ハ危共あやふしとも、御気の毒とも言葉に尽し不申候。
さて、中日の十四日の勘定前だから、小遣銭が、とて逼迫ひっぱくで、活動へも行かれぬ。斯様こんな時には、辰公はいつも、通りのラジオ屋の前へ、演芸放送の立聴きと出掛ける。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
此頃よりせふ容体ようだい尋常たゞならず、日を経るに従ひ胸悪くしきりに嘔吐おうどを催しければ、さてはと心にさとる所あり、出京後しゆつきやうご重井おもゐ打明うちあけて、郷里なる両親にはからんとせしに彼は許さず
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
と云ひながら、夢中でぎゆツと抱きすくめると、何か、毛皮のところ/″\に、冷めたく光るものがあるので、さては今の雨に濡れたんだなと、初めて合点が行つたのであつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さて、小僧ますをとりて酒を入れ候に、酒はこともなく入り、つい正味しょうみ一斗と相成あいなり候。山男おおいわらいて二十五文をき、瓢箪をさげて立ちり候おもむき、材木町総代そうだいより御届おとど有之これあり候。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さても/\穏かなる好き天気かな。一年の内に、雨風さては水の加減にて、釣に適当の日とては、まことに指折り数ふる位きり無し。数日照り続きし今日こそは、申し分の無き日和ひよりなれ。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
さて母鳥の云ひけるやう。汝達は諸鳥の王なるぞ。目はく、拳は強し。いでや飛べ。飛びて母の側を去れ。我目は汝を送り、我情は彼の死に臨める大鵝たいが簧舌くわうぜつの如く汝が上を歌ふべし。
アダムの二本棒にほんぼう意地いぢきたなさのつまぐひさへずば開闢かいびやく以来いらい五千ねん今日こんにちまで人間にんげん楽園パラダイス居候ゐさふらふをしてゐられべきにとンだとばちりはたらいてふといふ面倒めんだうしやうじ〻はさて迷惑めいわく千万せんばんの事ならずや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
さても、暴富を積んで宝がつねに身の仇、いつ何どき、いかなる禍いが身に及ぶかと、絶えず畏怖心いふしんから離れられぬ広海屋の主人は、居住坐臥きょじゅうざが、一刻一寸も警戒を忘れることは出来なかったので
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
さて沖道を築ける事は、前代尚金福王の御時国公といふ人有り、人を利し世を治むる故に、斯名付、其比封王有唐家の勅使此首里往復の路不平なり。此人俄に改め一七日にして石を布山を平ぐ、云々。
浦添考 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
三途の川を漂泊さまよい行く心細さを恐るるのもある、(第三)現世の歓楽・功名・権勢、さては財産を打棄てねばならぬ残り惜しさの妄執に由るのもある、(第四)其計画し若くば着手せし事業を完成せず
死生 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
序詞役 さていにたる情慾じゃうよくまさ最期いまはとこねぶりて
さて詩人が云ふことに、星の光をたよりにて
此頃にお邪魔させていただきますわさていつ
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さては何の御社にやと問ひ給ふ。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
さてはと思って近寄って見ますと、これがまぎれもない白銀の鏡で、今まで美留女姫と思ったのは自分の姿が向うに映っているのでした。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
さて友之助は乗りつけの船宿から乗っては人に知られると思うから、知らない船宿から船に乗って来て桐屋河岸に着けて船首みよしの方を明けて
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自身自力の研究さてその写本の物理書、医書の会読かいどく如何どうするかと云うに、講釈の為人してもなければ読んで聞かしてれる人もない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
くちるきおひとこれをきて、さてもひねくれしおんなかな、いまもし學士がくしにありて札幌さつぽろにもゆかず以前いぜんとほなまやさしく出入でいりをなさば
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)