どころ)” の例文
金子かねを沢山懐中ふところに入れて芝居を観ようと思って行っても、爪も立たないほどの大入おおいりで、這入はいどころがなければ観る事は出来ませぬ。
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いだらう、僕はまだ見た事がないが。——然し、そんな真似まね出来できあひだはまだ気楽なんだよ。世のなかると、中々なか/\それどころぢやない」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それが官憲かんけんに知れると、立ちどころに君は殺人魔として捕縛ほばくされるところだった。僕はそれを西一郎の手をて君の手に戻してやった
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
茶わんの置き場所まで、着物のしまいどころまで、倉地は自分の手でしたとおりを葉子がしているのを見いだしているようだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして、それには一々確かなどころがあったので、係長もたちまち疑念をはらし、犯人の用意周到さに驚くばかりであった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けはない、おのずから方便ありなんてヅウ/″\しくやって居たが、とう/\つかまったのが可笑おかしいどころか一時おお心配をした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いや、思い切ったどころか、彼は未来の妻たる令嬢に対して愛をすらももちはじめたのです。此の事は後に春一が私に対して明かにいっております。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
いろいろの手蔓てづるを求めては、美しい女を狩り集めて来て、どころ利き所の諸侯へ勧めて、その側室とすることによって、一種の閨閥けいばつ形成かたちづくった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だから「下人があめやみを待つてゐた」とふよりも、「雨にふりこめられた下人が、どころがなくて、途方にくれてゐた」と云ふ方が、適當てきたうである。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
心にしっかりしたどころをもって、心に太陽をもって清く、正しく、明るいシッカリした生活を営みたいものです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
書かせ給ふは何ならん、何事かの御打合おんうちあはせを御朋友ごほうゆうもとへか、さらずば御母上おんはゝうへ御機嫌おきげんうかゞひの御状ごでうか、さらずば御胸おむねにうかぶ妄想ぼうさうのすてどころ、詩か歌か。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ときよりもはやくぢり/\とつてくのを、なやして、見詰みつめるばかりで、かきものどころ沙汰さたではなかつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まったくどころを失った大傷手おおいたでではあったものの、同時に妙恵のこの一書が、いかに彼の滅失を鞭打べんだし励ましたことか、これも、はかり知れないものがある。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然し、やむどころか、風は暴力を増す一方であった。我々は向う側が流されていたことを承知しながらも、狭い橋を渡りかけた。下では波が凄い勢で狂い廻っている。
そこが女の附込つけこどころで、世の中の賢い女は、この急所をちやんと知りぬいてゐて、何喰はぬ顔で亭主を操縦する。さういふ女に懸つては、男は馬よりも忠実である。
元より愚物どころではない人並勝れて智恵の働く彼の事である。深夜人の寝静まった監房に輾転反側しながら、頭は益〻冴えかえり、種々画策する所があったに相違ない。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それどころじっと見ているうちに大抵の人は恐ろしくなって、始めのいきおいは何処へやら、あれを登ってやろうというようなかんがえは、朝日に解ける霜のように消えてしまうのである。
越中劒岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しかかれをして露西亞ロシヤすまはしめたならば、かれかならず十二ぐわつどころではない、三ぐわつ陽氣やうきつても、へやうちこもつてゐたがるでせう。寒氣かんきためからだなに屈曲まがつてしまふでせう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
借さないのみならずいまだに佐助が赤児あかごの父親であることを否定するどころなく二人を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それでもとも言兼ねて、私は其時伯父に連れられて久振で帰省したが、父のかおを見るより、心配を掛けた詫をするどころか、卒然いきなり先ず文学のたっと所以ゆえんを説いて聴かせて、私は堕落したのじゃない
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
もつて下されと女に渡すに赤銅造しやくどうづくりの強刀と鐵の延棒のべぼうなれば大體たいていの男にても容易に持事かなはぬ程ゆゑ女房はもつどころか大小ばかりにもこまり果て然りとていなとも云はれず持には持れず如何してよからんと身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すぐさま自転車預りどころと金物屋との間の路地口に向けられるのである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「あんまり一つどころきたんで、あれから方々はう/″\まはつてきたよ」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
その時の引出物ひきでものに、漁猟・廻船・出納すいとう・売買の支配を附与せられ、それにより、市町あきなどころに市神としてまつることになったというのは、もう久しい以前から普及していた俗説であったかと思われる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
当込みの際物きわものであるだけに、狂言全体の上からいえば、ここというとらどころもないもので、その後ふたたび舞台にものぼらなかったが、三幕目の情景だけはいつまでもわたしの頭にしみていたので、先年
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『僕は相変らずだ、運が直るどころか、益々惨憺たるものだ。』
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
賤「なに気が詰るどころじゃア無い、さっくりわかった人だよ、私を娘の様に可愛がって呉れるから一寸ちょいとお寄りな、ねえ作さん」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そうしてその科学界を組織する学者の研究と発見とに対しては、その比較的価値どころか、全く自家の着衣喫飯ちゃくいきっぱんと交渉のない、徒事いたずらごとの如く見傚みなして来た。
学者と名誉 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三味線でも、秀ちゃんみたいに、かんどころがよく分りませんし、歌でも、声が大きいばかりで、ふしが妙です。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今の朝鮮人、支那人、東洋全体を見渡した所で、航海術を五年まなんで太平海を乗越のりこそうと云うその事業、その勇気のある者は決してありはしない。ソレどころではない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その人々の中には惚れこんだどころか、みづから代助を気取つた人も、少くなかつた事と思ふ。しかしあの主人公は、我々の周囲を見廻しても、滅多めつたにゐなさうな人間である。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
各家その旗幟きしを両陣営のいずれかにどころを明らかにしなければならない日になってから初めて
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴方あなた……そんなにせつなくつたつて、一寸ちよつと寢返ねがへどころですか、醫師せんせい命令いひつけで、身動みうごきさへりません。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、顔のあるべきてっぺんどころから、一尺ばかり下がった辺——だからそこはくびでなければならない。——その辺から白布が背後うしろの方へ捻じれて、二人に向かって上下へ揺れた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしかれをして露西亜ロシヤすまわしめたならば、かれかならず十二がつどころではない、三がつ陽気ようきっても、へやうちこもっていたがるでしょう。寒気かんきためからだなに屈曲まがってしまうでしょう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
結婚後十数年経って、初めて子供の出来た例は乏しくないのだから、少しも不思議はないどころか、大変目出度めでたいと思うのだが、何故二川がその事を僕に隠したのか、鳥渡解せないのだ。
いとはずつとめ一人としてほめざる者も無者なきものるに伊勢五のたな引負ひきおひして請人方へ引渡されしは何かわけの有事成んと云も有ば久八は白鼠しろねずみどころ溷鼠とぶねずみで有たなどと後指をさす者も有しとかや六右衞門は久八を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だいらから御前谷までの間では、河幅はまだ狭くなるどころか、或場所では河原が開けて、水は二筋三筋に分れ、土手のように盛り上った砂丘の間に、こんもり繁った闊葉樹が点々と散在している所さえある
黒部峡谷 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
四、おれどねどころ、とねどころやよる 云々
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
平岡はくちむすんだなり、容易に返事をしなかつた。代助は苦痛のどころがなくて、両手のたなごゝろを、あかれる程んだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
眞「張番どころでない、手先の者も怖い怖いと思って、庄吉を縛って皆附いて行ってしもうて、たれも居ませんわ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
御前さんの店の暖簾には、何と書いてあると御思いなさる? 万口入よろずくちいどころと書いてあるじゃありませんか? 万と云うからは何事でも、口入れをするのがほんとうです。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
沢庵をらっして来たのは、あながちまた、どころのないわけでもなく、武蔵の生地と、沢庵の生地但馬の出石いずしとは、山ひとえの背中合せだし、出石から山陽方面へ往来する旅には
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どころではない。しらみは塾中永住の動物で、れ一人もこれまぬかれることは出来ない。一寸ちょい裸体はだかになれば五疋ごひきも十疋もるに造作ぞうさはない。春先はるさき少し暖気になると羽織の襟に匍出はいだすことがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
……なか/\にかせどころではないから、いきつぎにおもてて、近所きんじよかたに、たゞいまれい立話たちばなしでしてると、ひとどよみをどつとつくつて、ばら/\往來わうらいがなだれをつ。小兒こどもはさけぶ。いぬはほえる。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして二月には保釈どころ
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
御聞なされたのだらう四里八町どころ此堤このどてわづか二里半しかありません今から急いでゆかば必らずあかりのつく時分にはこう宿じゆくへ參りやす我等わつちどもはほんの酒代さかてだけにて何にもかまはず二里半三百文でゆきませう其代り少しもたてずに急ぐから何卒どうぞ御乘おのりなすつて下せい三百文ならあと彼是かれこれ酒代さかてなどは御誣頼おねだり申しは致しやせんと駕籠舁かごかきどもは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
どころから婆さんが「どなたか一寸ちよいと」と云ふ。与次郎は「おい」とすぐ立つた。三四郎は矢っ張り坐つてゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
久「えゝの人は八月の十五夜に店を開いたばかりで、まだお内儀さんどころではありません」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
らしいどころか、その一軒には大倉喜八郎おほくらきはちらう氏の書いたがくさへもかかつてゐる。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)