所詮しよせん)” の例文
それにあなたももとちがつて、いまのやうな御身分おみぶんでせう、所詮しよせんかなはないとあきらめても、あきらめられないもんですから、あなたわらつちやいやですよ。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかし平八郎の言ふことは、年来暗示あんじのやうに此いさんの心の上に働く習慣になつてゐるので、ことわることは所詮しよせん出来ない。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
されど全く身に覚えなき事なれば大いに仰天つかまつり、さま/″\に歎き悲しみけれども更にお聴入なく、今は所詮しよせん逃れぬところと覚悟を極め候が
ふかかくし是までつゝがなくおきしはまつたく我が恩なり因て我に從ひ申すべし所詮しよせん喜八が命はたすからぬなりと云ひければお梅は大いに驚きしが是は粂之進我を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
麻利耶観音、(蘭人に)聞いてゐたらうね? わたしの言葉さへ通らないのだから、所詮しよせんお前の願ひはかなはないよ。
長崎小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「念珠集」は、所詮しよせん『わたくしごと』の記に過ぎないから、これは『秘録』にすべきものであつた。それであるから、僕の友よ、どうぞいからずに欲しい。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
牛の性質をく暗記して居るといふ丈では、所詮しよせんあの烏帽子ゑぼしだけの深い谿谷たにあひに長く住むことは出来ない。気候には堪へられても、寂寥さびしさには堪へられない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そして決心致したので御座います、私は兼ねて愚父ちゝから多少の地所と財産とを譲り受けて居りまするので、所詮しよせん不義の結果の財産のですから、一には贖罪しよくざいの為め
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
所詮しよせんは紐に結はへられた猿の自由であつたが。しかし彼女はその自由を利用しようとはしなかつた。いつも、三尺四方の呼び込み口に坐つて、薄暗く靜まつてゐた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
所詮しよせん事業は後に置かざるべからず、し文学を事業といふ標率の上より論ずれば、政治上の論文を書く小新聞の雇記者は、大概の詩人小説家より上に置かざるべからず
賤事業弁 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
この所証を幾分にても世にべ伝ふるは、吾が貴き一分の使命の存する所にあらずや。げにや、悟といひ見証といふもの、所詮しよせんは言説の伝へ得べき限りにあらざるべし。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
其意味そのいみつながらぬ、辻妻つじつまはぬはなしは、所詮しよせんふでにすること出來できぬのであるが、かれところつまんでへば、人間にんげん卑劣ひれつなること、壓制あつせいりて正義せいぎ蹂躙じうりんされてゐること
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
又一方には貸倒かしだふれの損耗あるを思へば、所詮しよせんたふし、仆さるるはあきなひの習と、お峯はおのづかこころを強うして、この老女ろうによくるひを発せしを、夫のせるわざとはつゆも思ひよするにあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
行者を信じる兄も、行者を信じない弟も、所詮しよせんは水かけ論に過ぎないので、ゆふ飯を境にしてその議論も自然物別れになつてしまつたが、要次郎の胸はまだ納まらなかつた。
で、たれこめた沈默が今またやしきの中を支配してしまふと、もう一度睡眠ねむりが私に歸つて來るのが感じられたけれども所詮しよせんその夜は眠るやうに運命づけられてはゐなかつたのだ。
だつてうもすみませんもの。すむのすまないのとそんなことにするより一にちはやくなつてれるがいゝ。御親切ごしんせつ有難ありがたうございますですが今度こんど所詮しよせんなほるまいとおもひます。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
晴代は所詮しよせん駄目だといふ気がしたが、それも二人の大きな亀裂ひゞであつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
所詮しよせん此の経を一〇一魔道に回向ゑかうして、恨をはるかさんと、一すぢにおもひ定めて、ゆびやぶり血をもて願文ぐわんもんをうつし、経とともに一〇二志戸しとの海にしづめてし後は、人にもまみえず深くぢこもりて
其処そこでもう所詮しよせんかなはぬとおもつたなり、これはやまれいであらうとかんがへて、つえてゝひざげ、じり/\するつち両手りやうてをついて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今以而いまもつて全快と申には無御座候而ござなくさふらうて、少々麻痺まひ仕候氣味に御座候へ共、老體のこと故、元の通りには所詮しよせんなるまいと、そのまゝ此節は療治もやめ申候」
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
モネの薔薇ばらしんと云ふか、雲林の松をと云ふか、所詮しよせんは言葉の意味次第ではないか? わたしはこの図を眺めながら、そんな事も考へた覚えがある。
支那の画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
して廻り場へ出行いでゆきけりあとには七助お梅にむか所詮しよせん其方そなたも旦那はいやなるべしわれ取持とりもちせん事も骨折損ほねをりぞん出來ぬ時はかへつて首尾しゆびわろし然らば其方には少しも早く此處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
医者の話によると、身体の衰弱おとろへは一通りで無い。所詮しよせん助かる見込は有るまいとのことである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
レニンの病気もその後悪いさうだが、追つかけ死ぬだらう。臨終の近くに誰かがどういふ言葉かを掛けるだらう。それが所詮しよせん希臘ギリシヤ加特利カトリツク教の儀式の代弁ならつまらぬなどとも私は思つた。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
よめになどゝはおもひもらぬことなり芳之助よしのすけもあれゆるさずと御立腹ごりつぷく數々かず/\それいさゝかも御無理ごむりならねどおまへさまとえんきれて此世このよなんたのしからずつらき錦野にしきのがこともあり所詮しよせん此命このいのちひとつぞと覺悟かくごみちおなじやうに行逢ゆきあつておまへさまのおこゝろうかゞへば其通そのとほりとか今更いまさら御違背ごゐはいのあるはずなしわたしうれしうぞんじますを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けれどもそれはなすとなると、それけ、すくへで、松明たいまつり、鯨波ときこゑげてさわぐ、さわいだところ所詮しよせん駄目だめです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
家來筋といはるゝや死人しにんに口なし所詮しよせんこゝにてかく云とも理非りひわからずあけなば是非ぜひにも駿州すんしうまで同道なし善惡ぜんあく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
翌朝よくてう知縣ちけんおくられてた。けふもきのふにかはらぬ天氣てんきである。一たい天台てんだいまん八千ぢやうとは、いつたれ測量そくりやうしたにしても、所詮しよせん高過たかすぎるやうだが、かくとらのゐるやまである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
所で遂には「きりしとほろ」も、あまりの重さに圧し伏されて、所詮しよせんはこの流沙河に命をおとすべいと覚悟したが、ふと耳にはいつて来たは、例の聞き慣れた四十雀の声ぢや。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私も一度は従軍記者として出掛けたいといふ希望を起したが、斯ういふ田舎に居てその機会をとらへることは、所詮しよせん不可能だとあきらめた。私には私の気質にかなつたことが有る。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
みづしろあかるつた……おうら行方ゆくへれ、在所ありかわかり、草鞋わらぢ松明たいまつさぐつたところで、所詮しよせん無駄むだだと断念あきらめく……それに、魔物まものから女房にようばう取返とりかへ手段しゆだん出来できた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
左の脇腹に三寸余り切先きつさき這入はひつたので、所詮しよせん助からぬと見極みきはめて、平八郎が介錯かいしやくした。渡辺は色の白い、少し歯の出た、温順篤実な男で、年齢はわづかに四十を越したばかりであつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
所詮しよせんかうじて、眞暗まつくらがり。てのひらえいでも、歴々あり/\と、かげうつる、あかりしてもおなことで。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
筆者は正月三日に風を引いて持病が起つて寝てゐるので、渡辺をもつて首領にことわらせた。此体このていでは事を挙げられる日になつても所詮しよせん働く事は出来ぬから、切腹してびようと云つたのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
これまで幾度謝罪をしてげましても、お前様の料簡が直らないから、もうもう何と謂つたつて御肯入おきゝいれなさらない、わたしが謂つたつて所詮しよせん駄目です、あゝ、余りひどうございますよ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)