徐々そろ/\)” の例文
と、吉野は手早く新坊の濡れた着衣を脱がせて、砂の上に仰向にせた。そして、それに跨る樣にして、徐々そろ/\と人工呼吸を遣り出す。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
徐々そろ/\ぬぎかけ座敷へ上らんとするに下男の彌助心のうち彌々いよ/\迷惑めいわくに思ひきやつに何とか云て何れにもとまらぬやう追出して仕廻しまはんともじ/\手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此のぱなすやうな仕打をされたので、近子はちつ拍子抜ひやうしぬけのした氣味であつたが、んと思つたのか、また徐々そろ/\所天をつとの傍へ寄ツて
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「成程な……」と客人は一寸考へるやうな眼色を見せたが、暫くすると、徐々そろ/\荷物をほどいて、なかから立派な払子ほつすを取り出した。
時とすると、背後うしろの方からやつて来るものが有つた。是方こちら徐々そろ/\歩けば先方さきも徐々歩き、是方が急げば先方も急いでいて来る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
や、巡査じゆんさ徐々そろ/\まどそばとほつてつた、あやしいぞ、やゝ、またたれ二人ふたりうちまへ立留たちとゞまつてゐる、何故なぜだまつてゐるのだらうか?
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
箇人の自由といふ観念の徐々そろ/\芽を出し始めた時代に於て、かれは『死なば秋露のひぬまぞおもしろき』といふ感興かんきようを貴んだ旧式な辞世を残して
尾崎紅葉とその作品 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
勘「うげす…それ七輪の火が煽って来た…徐々そろ/\湯が沸立にたって来たぞ御覧ごろうじろ今に旨く煮てやるから一寸ちょっと塩梅あんばいをしよう」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蒲團ふとんをすつぽり、炬燵櫓こたつやぐらあし爪尖つまさきつねつてて、庖丁はうちやうおときこえるとき徐々そろ/\またあたまし、ひと寢返ねがへつて腹這はらばひで
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼女の腕に私の腕を絡ませ、ひたと身を寄り添はしながら、徐々そろ/\と歩いて居るのが、何よりの幸福であつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
狹い柳町の通は、造兵歸ざうへいがへりの職工で、にえくり返るやうである。軒燈けんとう徐々そろ/\雨の中から光出して、暖かい煙の這出はひだして來る飯屋めしや繩暖簾なはのれんの前には、腕車くるまが幾臺となく置いてある。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
目科は徐々そろ/\と其疑いの鎮まりし如く「そうさなア、矢張り血の文字は老人が書たのかも知れぬ」余はたちまち目を見開き「老人が左の手でかね、其様な事が有うかそれに老人がたゞ一突ひとつきで文字などを ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
... でもねこ蝙蝠かうもりべるかしら?』ところであいちやんは徐々そろ/\ねむくなり、ゆめでもてるやうに『ねこ蝙蝠かうもりべるかしら?ねこ蝙蝠かうもりべるかしら?』としきりにつてゐましたが、時々とき/″\反對あべこべ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
病車は夏の日の塵埃の多い中を、徐々そろ/\と動いた。栄一は浴衣が無いので、紺の絣の単物の上に細い兵児帯を締めて看護に疲れた足を引きずつて行つた。夏の日はかん/\頭の上から照りつけた。
もう町々の氷屋が徐々そろ/\店替をする頃だつた。私にも新らしい脊廣が出來た。或朝、私は平生より少し早目に家を出て電車に乘つた。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
すると大抵の客は、「結構ですな、それぢや御免を蒙つて私も裸になりますかな。」と、徐々そろ/\帯を解きにかゝるさうだ。
つれかたみんな通過とほりすぎてしまつたやうでござりますで、大概たいがい大丈夫だいぢやうぶでござりませう。徐々そろ/\曳出ひきだしてませうで。いや、うもの、あれでござりますよ。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぬすみ取んと彼曲者かのくせものは半四郎が寢たる夜着よぎわきより徐々そろ/\と腹のあたりへ手を差入さしいれければ後藤は目をさましはてきやつめが來りしぞと狸寢入たぬきねいりをしてひそかにそばの夜具を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その年も何時いつしか暮れて、また来る春に草木くさきいだしまする弥生やよい、世間では上野の花が咲いたの向島が芽ぐんで来たのと徐々そろ/\騒がしくなって参りまする。
そこで安心して、徐々そろ/\仕事の支度に取懸ると、其處そこらには盛に螢を呼ぶ聲が聞える。其の聲を聞くと、急に氣が勇むで來て、愉快でたまらない。それに四方あたり景色けしきかツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
し』とひながら、ねこ今度こんど徐々そろ/\せました、尖端とつぱなからはじめて、からだ全然すつかりえなくなつてしまつても、一ばんしまひにしばらくのあひだその露出むきだしたばかりはのこつてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
喫て先ずだるさの鉾先だけ収まるや徐々そろ/\と話に掛り
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ところが、抱月氏の生存当時、須磨子の勝気にしひしがれてゐた多くの男と女とは、抱月氏が亡くなると、徐々そろ/\寄つてたかつてこの女優をいぢめ出した。
『は。』と、言つて、ずるさうな、臆病らしい眼附で健の顏を見ながら、忠一は徐々そろ/\後退あとしざりに出て行つた。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
願ひ上ますと慇懃いんぎんに申ければ下役人點頭うなづきいや夫は案じるな囚人めしうどは大切に致さねばならぬことはかみからも再應さいおうふれの有儀なり併し今あはせた事は他へ云まいぞと徐々そろ/\九助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
をりからせなに、御新造ごしんぞ一人いちにん片手かたて蝙蝠傘かうもりがさをさして、片手かたて風車かざぐるまをまはしてせながら、まへとほきぬ。あすこが踏切ふみきりだ、徐々そろ/\出懸でかけようと、茶店ちやてんす。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と暫く其方そっちを見送って居ましたが、何時まで立ってもられませんから、徐々そろ/\と門の中へ入りました。
『まァ、どくだわねえ』あいちやんは徐々そろ/\その意味いみわかつてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
戰ひに慣れた心が、何一つ波風の無い編輯局に來て、徐々そろ/\睡氣がさす程「無聊の壓迫」を感じ出したのだ。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
眼の悪い針医を呼んで種々しゅ/″\介抱致して、徐々そろ/\お蘭に聞いたが、何うあっても訳を申しません、操が立ちませんからどうぞ私を殺して自害をさして下さいと云うのみ。
それは指先で皮をかないで、蜜柑を掌面に載せておいて、前歯でそれにかじりつく、そして出来た歯形はがたに指を突込むでそれから徐々そろ/\剥いてくといふり方である。
あゝ、大分だいぶおそうござります。さあ、おしなさりまし。御存ごぞんじの、あのあか大蜈蚣おほむかでうねつた、さがふぢそろひの軒提灯のきぢやうちん御覽ごらうじながら、徐々そろ/\かへりなさいませんか。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
金子も一時いちじに渡さずに、徐々そろ/\持って往って、追々とお買出しをなすった方が宜しゅうございます
よしんば什麽どんな冒険好きな女でも、チヨコレエトの代りに男に惚れるやうな心得違こゝろえちがひはしない筈だ。女といふものは、十人が十人、先づチヨコレエトをべて、それから徐々そろ/\男に惚れるものなのだ。
『ところで君、徐々そろ/\話を始めようぢやないか?』と後藤君は言出した。
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
由「でも、ピイー/\と川へ響けて大層聞えますね……何だかわっしア気がきますから、旦那徐々そろ/\支度をなさいな…大きに姉さんお世話さま、お茶代は此処へ置きましたよ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その日も思つた程顔触かほぶれが集まらないので、お婆さんは徐々そろ/\むくれ出した。
丁度八月の十日、赤い/\日が徐々そろ/\西の山に辷りかけた頃であつた。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それから徐々そろ/\京都きやうとまゐ支度したくをしてりますうちに、新聞で見ましても、人のうはさを聞きましても、西京さいきやう旅籠屋はたごやは客が山をして、ミツシリつめも立たないほどだといふ事でございますから
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
三十幅四十幅と書いてゐるうちに、広沢は徐々そろ/\厭になり出した。
徐々そろ/\始めようぢやありませんか、大抵揃ひましたから。』
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今日は大伴兄弟も用達ようたしくことなし、晦日のことで用もあるから払方はらいかたを済ませ、うちで一杯飲むということを聞きましたから、今宵こよいこそ彼を討たんと、昼のうちから徐々そろ/\身支度を致します。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「もう徐々そろ/\始めようかな。」
などゝ横着な奴は手拭の上に紙をいて徐々そろ/\さかなを包み始めた。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)