姿なり)” の例文
岡山「それで一つ眼ならまるで化物だ、こんな山の中で猟人かりゅうどが居るから追掛けるぞ、そんな姿なりでピョコ/\やって来るな、亭主を呼べ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なあおすみ、お豊がこう化粧おつくりした所は随分別嬪べっぴんだな。色は白し——姿なりはよし。うちじゃそうもないが、外に出りゃちょいとお世辞もよし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
墺太利オーストリーにモツアルトといふ音楽家があつた。ある日の事維也納ウヰンナ市街まちをぶらついてゐると、変な姿なりをした乞食がひよつくり眼の前に現れた。
女は、芸者にしてはけばけばしい姿なりをしているが、どこか素人しろうとらしくないところの見えるのは、女歌舞伎かぶき太夫たゆうででもあろうかとお高は思った。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
母子おやこと一所にあり余る財産を持っていながら、いつも着物らしい着物を引っ張っていたこともなく、顔には白粉一つ塗らずに、克明な姿なりをして
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
古代の姿なりをした、舞台に出て来そうなものが、街頭がいとうを歩いているのであった。そういう幾たりかの男女を、僕は或日 Freiburgフライブルク で見た。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「おつう、そんな姿なりわりさむかねえか」といた。それから手拭てぬぐひしたからえるおつぎのあどけないかほ凝然ぢつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
捨てて過ぐるにしのび難く心残りして見返れば、信さんどうした鼻緒を切つたのか、その姿なりはどうだ、見ッとも無いなと不意に声を懸くる者のあり。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ととのえてやらねばならん。そして芝居がはねたら、聖女ツェツィリヤの姿なりをさせて、わしの目通りへ出すのだ。
お綱は、姿なりも形もそのままな上に、寝ているところを起こした立場たてば茶屋から、笠とわらじとつえだけを求め、床几しょうぎを借りて、はきなれぬわらじのひもを結んでいた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爾して庭の小径など記して有る、併し地図よりも猶目に付いたは、美人の身姿なりだ、着物は高価な物では無い、不断着には違い無いが、肩から裳まで薄い灰色の無地だ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ふだんの姿なりだとあたしにも義理があるけれど、袈裟をかけていて下さるとほんとに話好いのだから。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ズッと向うの籐椅子とういすのクッションに埋まっている、派手な姿なりした白人のお婆さんの前に近付いた。
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私が手を洗って二階へあがって見たら、お糸さんはう裾をおろしたり、たすきを外したりして、整然ちゃんとした常の姿なりになって、突当りの部屋の前で膝を突いて、何か用を聴いていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
見て乞食こつじきとや思ひけんコリヤ今頃に來たとて餘り物もなし貰ひ度ば翌日あす早くよと云れてお菊は忽然たちまちむねふさがり口惜なみだむせびながらも好序と思へば涙を隱し成程斯樣かやうな見苦敷姿なり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鼠甲斐絹ねずみかいきのパッチで尻端折しりはしょりうすいノメリの駒下駄穿こまげたばきという姿なりも、妙な洒落しゃれからであって
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
弛むということは油断ということだ。その油断に付け込んで飛び込んで来るのが、妥協性だ。妥協、うやむや、去勢、萎縮、そこで小粋な姿なりをして、天下は泰平でございます。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
寝衣ねまきに着換えさしたのであろう、その上衣と短胴服チョッキ、などを一かかえに、少し衣紋えもんの乱れた咽喉のどのあたりへおッつけて、胸にいだいて、時のやつれの見えるおとがいを深く、俯向うつむいた姿なり
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汚ない姿なりをして、公園に寝ていた、(それより外にどうする事が出来たのだ!)ために、半年の間、ビックリ箱の中に放り込まれた。出るとすぐ跟け廻され、浮浪罪で留置された。
乳色の靄 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「でも、こんな大きな姿なりをしておぶさってはきまりが悪いから、歩けるだけ歩きますよ」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何を莫迦ばかなことを言い出す! こんな大きな姿なりをしてと私が笑い出しますと、さすがにあれも笑いましたが、でもお父様、私もう一度あの時のお話をお聞きしたいのですもの、と
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
皆は、鬘をほどき、杖を棄てた白衣の修道者、と言うだけの姿なりになった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「これ、早く御帰りよ。まるでその姿なりしずくじゃないか、——傘も持たず」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
土間へ、木戸の暖簾のれんを頭で分けて一足入れたが、混んでいるから一寸ちょっと足を留めて、高座をみるとどっと胸へきた。すっと頭を引込めて、暖簾の間からよく見ると髪も姿なりも変っているがそれらしい。
相馬の仇討 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
きたな姿なりをした中にも男の子は目立つた襤褸ぼろで身を包んで居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
だけど、あんまり気障な姿なりして来ちゃいけなくってよ。
四月馬鹿 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
『へえ、結構な姿なりなんですからね。』
女が来て (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのかげにむさ姿なりして
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
丁度九月十一日で、余程寒いから素肌へ馬の腹掛を巻付けましたから、太輪ふとわ抱茗荷だきみょうがの紋が肩の処へ出て居ります、妙な姿なりを致して
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『お前着物を如何どうなんだよ。此寒いのに、ベラ/\したあはせかなんかで。其樣そん姿なりで此邊を彷徨うろ/\しておくれでないよ、眞實ほんとうに外聞が惡いから。』
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
たま/\抽斗ひきだしからしたあかかぬ半纏はんてんて、かみにはどんな姿なりにもくしれて、さうしてくやみをすますまでは彼等かれら平常いつもにないしほらしい容子ようすたもつのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お前の祭の姿なりは大層よく似合つて浦山しかつた、私も男だと彼んな風がして見たい、誰れのよりも宜く見えたと賞められて、何だ己れなんぞ、お前こそ美くしいや
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
鐘つくりの名人の子のルルが、死んだお父様をよろこばせたいばっかりに、あんな小さな姿なりをして、こんな立派な鐘をつくったのだもの、こんな芽出たいことがあるものか。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
気絶した彼のすぐそばには、これも気を失ったダンチョンが、無態ぶざま姿なりをして倒れている。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あらふ水のなきをばこうじゐる容子ようすを計らず庭越にはごしに見やりて此方こなたに打向ひ茲等邊こゝらあたりに見もかけ立派りつぱ姿なりさだめし通行の方である可きに水がなければおこまりならん此方へ這入て遠慮ゑんりよなく手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「だが、おれは着物を着ていない。すっ裸だ。こんな姿なりでもいいのかしら。」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
皆は、鬘をほどき、杖を棄てた白衣の修道者と言ふだけの姿なりになつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
影法師かげぼふしつゆれて——とき夏帽子なつばうし單衣ひとへそでも、うつとりとした姿なりで、俯向うつむいて、土手どてくさのすら/\と、おとゆられるやうな風情ふぜいながめながら、片側かたかはやま沿空屋あきやまへさみしく歩行あるいた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大きな姿なりをして、頭髪をおかっぱのようにして、中には胸にあぶらやのような茶色の切れをかけていた——お茶盆をもって、アーアーと節をつけて、店のはなっさきを行ったり来たりしていたからだ。
「今っからこの姿なりで、吉原なかへも行けめえじゃねえか」
重二郎も振返り/\出てきました。其の跡へ入って来たのは怪しい姿なりで、猫のひゃくひろのような三尺さんじゃくを締め、紋羽もんぱ頭巾ずきんかぶったまゝ
額の抜け上った姿なり恰好かっこうもない、ひょろりとした体勢からだつきである。これまでにも二度ばかり見たが、顔の印象が残らなかった。さきもそうであったらしい。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お前の祭の姿なりは大層よく似合つて浦山しかつた、私も男だとあんな風がして見たい、誰れのよりも宜く見えたとめられて、何だ己れなんぞ、お前こそ美くしいや
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「そうらろ、けえ姿なりしていふことかねえから」おつぎはおこつたやうな容子ようすをしてせる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
寶澤は盜賊たうぞく殺害せつがいされしていこしらへ事十分調とゝのひぬと身は伊勢參宮いせまゐり姿なりやつし一先九州へ下り何所いづかたにても足を止め幼顏をさながほうしなひて後に名乘なのり出んものと心は早くも定めたりまづ大坂へいで夫より便船びんせん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そしてその御像みぞうを讃えるための百人あまりの衆僧が、朱色の法衣を纏った姿なりで讃美の歌を唄っている。その衆僧の真っ先には、紫の法衣を身につけた際立きわだって尊い一人の僧が香炉に香を投げている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「その時、おしょさん、どんな姿なりしてた?」
森「なぜ此のくれえな顔を持っていて、穢ない姿なりをしているでしょう、二つきしばりぐれえめかけにでも出たらばさそうなものですなア」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
赤い盆を手に持っていたが、お作の姿なりを見ると、丸い目をクルクルさせて、「どなた?」と低声こごえで訊いた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まへまつり姿なり大層たいそうよく似合にあつて浦山うらやましかつた、わたしをとこだとんなふうがしてたい、れのよりもえたとめられて、なんれなんぞ、おまへこそうつくしいや
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)