くれ)” の例文
くれたけの根岸の里の秋けて、片里が宿の中庭の、花とりどりなる七草に、はじの紅葉も色添えて、吹く風冷やけき頃とはなりました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
亡くなつた良人をつとが辞書などを著した学者であつただけに婆さんも中中なか/\文学ずきで、僕の為にいろんな古い田舎ゐなかの俗謡などを聞かせてくれる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
誰か、私をいとしがってくれる人はないか、七月の空に流離の雲が流れている、私の姿だ。野花を摘み摘みプロヴァンスの唄を唄った。
放浪記(初出) (新字新仮名) / 林芙美子(著)
琉球りゅうきゅう列島の戦が終った頃、隣県の岡山市に大空襲があり、つづいて、六月三十日の深更から七月一日の未明まで、くれ市が延焼した。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
農作の事から何から万事指図をしてくれれば、此の鹽原のうちは潰れめえと考えるから、己の息のあるうちおえいと多助と盃をさせ、夫婦にして
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其時そのとき越前守は平石次右衞門吉田三五郎池田大助の三人を膝元ひざもとへ進ませ申されけるは其方共そのはうども家の爲め思ひくれだんかたじけなく存るなりよつて越前が心底しんてい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
七兵衛はうしたろう。彼奴等あいつらみちに迷っているのか知ら。それにしても使つかいの男が早く行着いきついてくれればいが……。一体、あの男は何者だろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まとつては隨分ずいぶんつらいこともあらう、なれどもれほどの良人おつとのつとめ、區役所くやくしよがよひの腰辨當こしべんたうかましたきつけてくれるのとはかくちが
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
武士たちは、こわごわちかづいて見ると、高麗錦こまにしきくれあや倭文織しずおりかとりたてほこゆきくわなどのたぐいで、いずれも権現から紛失した宝物であった。
飛んだ事だといって父がそれでは如何どうしても承知してくれなかったから、じゃ、法学と政治学とは従兄弟いとこ同士だと思って、法律をやりたいと言って見た。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それから「只今は帰りがけに巴里によりて遊居候その内に帰朝致久振ひさしぶりにて御伺申すべく存候御左右その後いかが被為なされ入候。三十四年八月十八くれ秀三」
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
つまりラクダルに全然すつかり歸依きえしてしまつたのである。大急おほいそぎでうちへり、父にむかつて最早もう學校がくかうにはきたくない、何卒どうか怠惰屋なまけやにしてくれろと嘆願たんぐわんおよんだ。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「それでは紀淡きたん海峡に集めないで、一隊を豊後ぶんご水道にまわすことにしよう。くれ軍港をおさえるのには、これはどうしても必要だ。どうだ、リーロフ少将」
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「さあ、二郎ちゃん行こう。わたしが道を案内してあげるから、いつかは、日常いつも妾の帰りが遅いと迎いに来ておくれだったのね、今日は妾がみちを教えて上げよう。」
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
れはとて仕様しようがない。ただ頼む所は母一人だ。母さえ承知してくれれば誰が何と云うても怖い者はないと。ソレカラ私は母にとっくり話した。「おッさん。 ...
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
... 夫さえ教えて呉れゝば僕が行て蹈縛ふんじばって来る、エ何所だ直に僕を遣てくれたまえ」谷間田はにわかに又茶かし顔にかえ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
わらわは此の浜崎といふ処に、くれなにがしといふ家の一人娘にて六美女むつみじょと申す者にはべり。吾家わがいえ、代々此処の長をつとめて富み栄え候ひしが、満つれば欠くる世の習ひとかや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
針ほども心に面白き所あらば命さえくれてやる珠運も、何の操なきおのれに未練残すべき、その生白なましらけたる素首そっくびみるけがらわしと身動きあらく後向うしろむきになれば、よゝと泣声して
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
及び諸旱岐しょかんきくれの財を贈るとある場合のクレも、当時支那においては南北朝既に合一した後の隋のことであり、この他にも百済人が隋をくれと称した例が日本紀に見えて
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
五月初旬はじめ、武男はその乗り組めるふねのまさにくれより佐世保させほにおもむき、それより函館はこだて付近に行なわるべき連合艦隊の演習に列せんため引きかえして北航するはずなれば
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
室の中を見ると、狛錦こまにしきくれあや倭文しずりかとりたてほこゆきくわなどのの盗まれた神宝があった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
くれ近所で働こう、何よりも生れた土地の近くが一等だ、など言いまして涙ぐむ仕末に、わたくしも心動かされ、旅費には困るけれど幸い大阪直行の汽船が三津につきます故
旅役者の妻より (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
然しあまり休之助が重態だということも公表できない事情があるし、医者ももう案ずるには及ばないと云うので、由紀にくれぐれもあとのことを頼んだうえ立っていった。……
日本婦道記:藪の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
花井君が、誰かの法服を持つて来てくれたので、早速借用して入廷した。皆んなが見て笑ふ。
細君も心配して、も一度芝公園の家を借りて、それには友達ながらも種々心配してくれた人があって、其処で養生した。丁度彼れ是れ半年近くも、あの公園の家で暮したろうか。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
併乍ら小生と雲如とはおのずから具眼の人は弁別致しくれ候間、此等之一些事さじには不平を抱き候儀は小生においては毛頭御座無く候。唯々雲如之世間狭く相成る可く気の毒の儀に御座候。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
醉拂ひの車やは、それからお女郎のゐる所へ案内してくれると云つたが、やうやく斷つた。宿に歸つて二階座敷に寢たが、夜具の惡臭はまだしもとして、忽ち全身に蚤が這ひ始めた。
山を想ふ (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
然しおつと仕送しおくりが途切れて、仕方なしにおやの里へ帰るのだから心配だ。おつとくれに居てながらく海軍の職工をしてゐたが戦争中は旅順の方に行つてゐた。戦争が済んでから一旦帰つて来た。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
くれあたりに帰るらしい軍人の佐官もあった。大阪言葉を露骨に、喋々ちょうちょうと雑話にける女連もあった。父親は白い毛布を長く敷いて、傍に小さい鞄を置いて、芳子と相並んで腰を掛けた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
治療いたしくれ候處、肩並胸など之痛も少く相成、漸々快方に向候次第に御座候。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
そうしていらいらしている内に、私はふと「この男に話して彼の判断を聞いて見たら」と考えました。彼なれば相当私を理解もしていてくれるのですから、何となく話し易い気がするのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
竹といっても中々沢山な種類がありますが、まずその中で淡竹はちく苦竹まだけとが大関です。これがすなわち昔、呉竹くれたけといったものです。くれとはもともと朝鮮の方の名ですけれども、ここでは支那を指しています。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「林檎をくれンか。」と聲を掛ける。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
案内者はその右手の女群ぢよぐん一人ひとりがベアトリチエだと教へてくれた。しかしベアトリチエは詩人が空想の女で史実には何の憑拠ひようきよもないらしい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
はらなかに五六十りやう金子かね這入はいつてる、加之おまけ古金こきんだ、うしてくれよう、知つてるのはおればかりだが、ウム、い事がある。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
巣鴨すがも病院に勤務していた時、くれ院長は、患者に煙草を喫ませないのだから職員も喫ってはならぬと命令したもので、私などは隠れて便所の中で喫んだ。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
急ぎしゆゑ少しも早くと思ふねんより八ツを七ツと聞違きゝちがへて我をおこくれしならんまだか/\に夜は明まじさて蝋燭らふそくなくならばこまつたものと立止り灯影ほかげに中を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この少女こそは、前回に御紹介致しました本事件の主人公、呉一郎の花嫁となって、華燭かしょくてんを挙げるばかりに相成っておりましたその少女で、名前をくれモヨ子と申します。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
横須賀より乗るべかりしを、出発になんなんとしてさわりありて一じつの期をあやまりたれば、武男はくれより乗ることに定め、六月の十日というに孤影蕭然しょうぜんとして東海道列車に乗りぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
熱に汗蒸れあか臭き身体からだいやな様子なくやさしき手して介抱しくれたる嬉しさ今は風前の雲と消えて、おもいいたずらに都の空にする事悲しく、なまじ最初お辰の難を助けて此家このいえを出し其折そのおり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これは私ばかりではない誰でもうなので、現に此間も去る友人から「世界語」を一部送つてくれろと言つて来たから送つてやると、直ぐエスペラントで小版三頁程の手紙を寄越よこした
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
くれくみ子さんも、そういう家に生まれた人でした。この人は明治女学校という学校で習字を教えながら、舎監を兼ねていて、多くの生徒からおかあさんのように慕われた婦人でした。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
此のとこの上にきら々しき物あり。人々恐る恐るいきて見るに、二〇二狛錦こまにしき二〇三くれあや二〇四倭文しづり二〇五かとりたて二〇六ほこ二〇七ゆきくはたぐひ、此の失せつる二〇八神宝かんだからなりき。
こゝで一つ我身に覚えの無い事を知せ判事や警察官に一泡ひとあわ吹せてくれようじゃ無いか
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
しかし夫の仕送りがとぎれて、しかたなしに親の里へ帰るのだから心配だ。夫はくれにいて長らく海軍の職工をしていたが戦争中は旅順りょじゅんの方に行っていた。戦争が済んでからいったん帰って来た。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一時この金を銀行へ預けたらどうだろうと、主任に勧めて見ても、先生一向とりあってくれません。では、せめて警察へ丈けは届けておこうと、ようやく主任を納得させて、私が行くことになりました。
盗難 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
亜米利加人のかんがえに、そう云うものは日本人の夢にも知らない事だろうとおもって見せてくれた所が、此方こっちはチャントしって居る。れはテレグラフだ。是れはガルヴァニの力でう云うことをして居るのだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すぐひらいて見て至急を要する事なら電話を三井物産の支店へ掛けてくれと云ひ残して諸君と一緒にランチに乗つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
久八はとくさつし何事も心切しんせつを盡し内々にて小遣錢こづかひぜに迄も與へかげになり日向ひなたになり心配してくれけるゆゑ久八が忠々まめ/\敷心にめでて千太郎は奉公に來し心にて辛抱しんばう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
来てお泊りな裏から三人で逃出さアネ、イエ正直な所は私しも最う彼処あすこに居るのは厭で/\ならないのお前達と一緒に逃げれば好かッた、アヽ時々そう思うよ今でも連れて逃げてくれれば好いと
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)