)” の例文
元来、猫は兎のように耳でり下げられても、そう痛がらない。引っ張るということに対しては、猫の耳は奇妙な構造を持っている。
愛撫 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
日あたりのいいヴェランダに小鳥のかごるすとかして、台所の用事や、き掃除をさせるために女中の一人も置いたらどうだろう。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……湖のほうから吹きわたって来る風は、しばらく声のとだえた客間にしのびいり、のきさきにった風鈴をむせぶように鳴らせていた。
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
黒塀くろべい、クレーンとかご、ビール工場の高窓、箱詰め器械、それかち貨物駅と、これだけのものは次から次へとつながっているのだ。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
両岸から鉄線はりがねったあぶなげな仮橋が川をまたげて居る。橋の口に立札がある。文言もんごんを読めば、曰く、五人以上同時にわたる可からず。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
七八町も歩くと、また針金にるされた乗物で谷を渡らねばならなかったが、これはケーブルよりも一層乗り工合が飛行機に似ていた。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「木へるせ吊るせ。なあに証拠だなんてまだ挙がってるはずはない。こいつ一人片付ければもう大丈夫だ。樺花かばはな炭釜すみがまに入れちまへ。」
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
私は義兄に見舞を云おうと思って隣室へ行くと、壁のち、柱の歪んだ部屋の片隅かたすみに小さな蚊帳がられて、そこに彼は寝ていた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
いつか、華雲殿げうんでんの廻廊には、り燈籠が星をつらね、内は無数の銀燭ぎんしょくにかがやいて、柳営お抱え役者の“田楽十番”もいま終った。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうせお帰りにならない夫の蒲団を、マサ子の蒲団と並べて敷いて、それから蚊帳かやりながら、私は悲しく、くるしゅうございました。
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
ウィンチをく音が烈しく聞えて、鎖を下げた起重機は菜葉服なっぱふくの平吉を、蜘蛛くもの糸にぶら下った蜘蛛のように空中にげた。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
人間の毛髪を刈取ったものを私は寺の本堂や小さなほこらの壁や柱に、の年の女とか何とか記されてり下げられてあるのを見る。
いきなり障子を開けると、正面の長押なげしにブラ下がつた、絢爛けんらんたるもの、それは娘のお葉が、自分の扱帶しごきで首をつて居た姿だつたのです。
このしづくに、横頬よこほゝたれて、腕組うでぐみをして、ぬい、とつたのは、草鞋わらぢつたみせ端近はぢかしやがんだ山漢やまをとこ魚売うをうりで。三まいざる魚鱗うろこひかつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
り下がっているワイヤーが、その垂直線の囲りを、ゆるく円を描いて揺れていた。「何んだべ?」——その時、ドキッと来た。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
女房が自然と正気にかえった時には、おっとも死ねなかったものとみえて、れた衣服で岸に上って、傍の老樹の枝に首をって自らくびれており
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
先日せんじつ歳暮せいぼまゐつたらまつうめ地紋ぢもんのある蘆屋あしやかま竹自在たけじざいつて、交趾かうちかめ香合かうがふ仁清にんせい宝尽たからづくしの水指みづさしといふので一ぷく頂戴ちやうだいしました。
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
昭和五年の二月二十日、京都の宿で、紋服を着て紫ちりめんの定紋じょうもんのついた風呂敷で顔をおおって、二階のはりに首をっていた。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
うちの玄関には銅鑼がつてありますのに、何故お叩きになりません。まさか君のお目につかなかつた訳でもありますまい。」
体の重い病人は、床のなかで着替えをさせられると、母親や叔父や、多勢の手で上り口へ掻き据えられたり台の上にやっと運び込まれた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかもその空席のあるのは丁度ちやうど僕の右鄰みぎどおりである。さぎねえさん相当にそつと右鄰へ腰を下した。鴛鴦をしどりは勿論あねの前のり革に片手を托してゐる。
鷺と鴛鴦 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しばし、じっと膝のあたりを見詰ていた歌麿は、突然目を上げると、るように口をゆがませて、亀吉の顔を見つめた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
小さいおもりのついたひもが、この島からおろされると、下にいる人民は、それに手紙をくゝりつけます。そして、紐はすぐまたり上げられます。
恐ろしい佝僂せむしで、高く盛上がった背骨にられて五臓ごぞうはすべて上に昇ってしまい、頭の頂は肩よりずっと低く落込んで、おとがいへそを隠すばかり。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
好きほどに酒杯さかずきを返し納めて眠りに就くに、今宵は蚊もなければ蚊屋もらで、しかも涼しきに過ぐれば夜被よぎ引被ぎてす。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
部屋に這入ると、手探りで蒲団ふとんを敷いて蚊帳かやった。寝間着ねまきに着かえる力もなく、そのまま私はふとんの上に寝そべった。
その上に、彼は白無垢しろむくの布を肩からって、胸にうやうやしく白木のほこらをかかえていた。唐突なほど真面目まじめくさっていた。鎮守の小祠しょうしである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そのまっ暗闇くらやみの空の方から、まるでひもでもり下げられでもするように、まっ逆さまになったはだかの人の姿がスーッと下へ降りてくるのです。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もう少し近くにきたとき、彼は何か白いものが、木の真中にるさがっているのを見たように思った。彼は立ちどまり、口笛を吹くのをやめた。
頭の皮はきゅとしごかれ、その度に眼がり上る。怒るな、怒るなと、五郎は自分に言い聞かせながら、我慢をしている。やっと全部が済んだ。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
あの女が飛び出した時、おれはちょうど軍刀をっていたので、それを引き抜いてその場で自殺をしようと思ったんだよ。
私の顔をのぞき込むようにしていた小僧がへえと覚束おぼつかない返事をして、立ち上がって例の店先にるしてあったのを三四梃一度におろして来ました。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さて、いくらつけたらよいかと問われて、千穂子は、このごろの物価高の相場をりあわせる金銭の高が云えなかった。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
天井にるされたランプが薄暗く、中を照らしている。壁はしっとりと濡れてぼたぼたと水が落ちる。おおかた今は海の底を歩いているのであろう。
塩魚をはりか何かにって置いたところが、連日の雨で空気が湿っているのでその塩魚の塩が溶けて土間の上にポタポタと雫が落ちるというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
なはには注連しめのやうにきざんだあかあをかみが一ぱいにひら/\とられてある。彼等かれら昨日きのふうちに一さい粧飾かざりをしてにはとりくのをつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
清君は、木下大佐から形見にいただいた短刀を腰にって甲板に、いさましく仁王立におうだちになり、しぶきにぬれている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
山麓さんろくには、紅白こうはくだんだらのまくり、天幕テントり、高等官休憩所かうとうくわんきうけいじよ新聞記者席しんぶんきしやせき參觀人席さんくわんにんせきなど區別くべつしてある。べつ喫茶所きつさじよまうけてある。宛然まるで園遊會場えんいうくわいぢやうだ。
鐘供養かねくようがすんで、庭師にわしやすさんたちが、またごんごろがねりあげると、そのした和太郎わたろうさんが牛車ぎゅうしゃをひきこんで、うまいぐあいに、牛車ぎゅうしゃうえにのせた。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
抗弁をしようとして御面師は一膝ひとひざ乗り出したのだが、自分もやはり担がれる部の補欠になっているのかと気づくと、舌がって言葉が出せぬらしかった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
暫くはなしを聞いているうちに、飾磨屋さんがいなくなったので聞いて見ると、太郎を連れて二階へ上がって、蚊屋かやらせて寐たと云うじゃありませんか。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
卵色の壁には大型のシェイフィルド銃と、古風な村田銃との二ちょうの猟銃が横に架けられてあった。その下前には弾嚢帯だんのうたい折釘おれくぎからだらりとるされていた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「あなたあっちいってお休みなさい。別にあなたの蚊帳をってあげますから……ここは私の寝るところです」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ひかりの中につらつら御気色みけしきを見たてまつるに、あけをそそぎたる竜顔みおもてに、一二八おどろかみひざにかかるまで乱れ、白眼しろきまなこりあげ、あついきをくるしげにつがせ給ふ。
美しいまゆり上り、黒いひとみは、血走っていた。信一郎を、屹と見詰めて立っている姿は、『怒れる天女』と云ったような、美しさと神々こうごうしさとがあった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
表の間の天井のまん中からは、色テープが八方に引きまはされ、それには、葡萄ぶだうの葉や果がブラ下つたやうに、色さまざまの紙かざりがり下げてありました。
仔猫の裁判 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
それから彼女かのぢよ毎晩まいばん惡夢あくむた。片山かたやま後手うしろでしばげられてうへからるされてゐる、拷問がうもんゆめである。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
主人の言葉どおりに庭の作り一つをいってもここは優美な山荘であった、月はないころであったから、流れのほとりにかがりかせ、燈籠とうろうらせなどしてある。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
籠の天井は七色の絹の糸の網で、寵をるすひもは皆かんざしの玉にする程の大きな真珠がつないでありました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
その日、産声うぶごえが室に響くようなからりと晴れた小春日和こはるびよりだったが、翌日からしとしとと雨が降り続いた。六畳の部屋いっぱいにお襁褓むつを万国旗のようにるした。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)