到底とても)” の例文
……私には到底とてもお雪さんの真似は出来ない。……思い切りの好いひとだ。それを思うと雪岡さん、私はあなたがお気の毒になりますよ……
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
もうもう私の増長したのにはあきれて了った、到底とても私のようなしょうの悪い女は奥様につかえないということを御話しなさいましたのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うもゆるみますと、到底とてももとやうしまわけにはまゐりますまいとおもひますが。なにしろなかがエソになつてりますから」とつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かかる始末となって多勢たぜい取巻とりまかれては、到底とても本意ほんいを遂げることは覚束おぼつかない。一旦はここを逃げ去って、二度の復讐を計る方が無事である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「阿父さんが那如あゝしてゐたんぢや、幾ら稼いだツて到底とても遣切れやしないわ。いツそもう家を飛出して了はうかも思ふこともあるけれども……」
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
えらぶ物から功驗しるしすこしもあらずして次第漸次しだいおもり行き昨今にては到底とても此世の人には非じと醫師も云ひ吾儕共わたくしどもも思ひますれば節角せつかくお娘御を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
思うようには到底とてもならないのを、根気よく毎日毎晩コツコツとやっているうちに、どうやら、おしまいには大黒様らしいものが出来て来ます。
その目を開ける時、もし、あのたけの伸びた菜種なたねの花が断崕がけ巌越いわごしに、ばらばら見えんでは、到底とてもこの世の事とは思われなかったろうと考えます。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
到底とてものがれぬ不仕合ふしあわせと一概に悟られしはあまり浮世を恨みすぎた云い分、道理にはっても人情にははずれた言葉が御前おまえのその美しいくちびるから出るも
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
友達はさぞ新橋で今頃は自分を待つてゐる事であらう………あゝ到底とてももう間に合はぬ。三時半はとうに過ぎてしまつた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
到底とても私達の世界では想像するさへ許されぬ程荘麗な孔雀の姫に、どうして悲しみなどゝいふものがあるのだらう、と訝らずには居られなくなりました。
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ゆきはいよ/\つもるともむべき氣色けしきすこしもえず往來ゆきゝ到底とてもなきことかと落膽らくたんみゝうれしや足音あしおとかたじけなしとかへりみれば角燈かくとうひかゆきえい巡囘じゆんくわい査公さこうあやしげに
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「実は私は御両親に今日只今まで、固く御隠し申していた事が御座います。けれども最早斯様かようになりましては到底とても御隠し申す訳に参りませぬ故、すっかりお話し致します」
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
焼酎! 此水に焼酎! 島には到底とてもない。一里半の水を押切って麻生まで行かなければない。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
其邊そのへん徘徊はいくわいしてつては、到底とても車外しやぐわいでゝその仕事しごとにかゝること出來できない、そこで、この爆裂彈ばくれつだんばして、該獸等かれらたを追拂おひはらひ、其間そのあひだ首尾しゆびよくやつて退けやうといふくわだてだ。
けれども世の中はよく言う通り何が幸福しあわせになるものだか分らない。お歌さんは乃公と一緒じゃ到底とてもお留守番は引受けられませんと御免蒙った。これ道理もっともである。姉さんは一度で懲り懲りしている。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「畜生……到底とても駄目だ。」と、市郎は呟きながら引返ひっかえして来ると、安行も丁度ちょうど駈付かけつけた。トムは咽喉のどを深く抉られて、既に息が絶えていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『いや、どうも、寒いの寒くないのツて。』と敬之進は丑松と相対さしむかひに座を占めて、『到底とても川端で辛棒が出来ないから、めて帰つて来た。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
到底とても其の望は無いから、自分は淋しいやうなこわいやうな妙な心地で、えずびくつきながら、悄々しほ/\とおうちの方へ足を向けた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
主人は自分よりほかのものでは到底とても弁じない用事なので、「はあようがす」と云ってさくに立って梯子段はしごだんのぼって行った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此を譲つて何時また五重塔の建つといふあてのあるではなし、一生到底とても此十兵衞は世に出ることのならぬ身か、嗚呼情無い恨めしい、天道様が恨めしい
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
其れを見ると自分はます/\激昂して到底とてももう眠られるものではない。あんな人間の書いた字の下で一夜を明す事は無限の屈辱であるやうな感じさへする。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
いろいろの事が疊まつて頭腦あたまの中がもつれて仕舞ふから起る事、我れは氣違ひか熱病か知らねども正氣のあなたなどが到底とてもおもひも寄らぬ事を考へて、人しれず泣きつ笑ひつ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
即ち外側、内側、内側は水の背後うしろを潜って見物出来る。それから尚おカナダ側とアメリカ側がある。地理書には此瀑布の光景が出ているけれども、其雄大壮厳のおもむき到底とてもペンやインキで伝え難い。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たゞ數艘すうそう軍艦ぐんかんおほくなつたくらいや、區々くゝたる軍器ぐんき製造せいぞうにも、おほ彼等かれらあと摸傚まねしてやうでは、到底とても東洋とうやう平和へいわ維持ゐぢし、すゝんで外交上ぐわいこうじやう一大いちだい權力けんりよくにぎこと覺束おぼつかない、一躍いちやくして、をううへ
一体、の𤢖なるものが何匹居るのか知らぬが、し大勢が其処そこ彼処かしこの穴から現われて出て、自分一人を一度に襲って来たら到底とてもかなわぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
用ひた處に非常な價値がある。日本の彫刻は昔から木材に限つたものだけれど、到底とてもあゝ云ふ風に作品の内容と外形の材料とを深刻に一致させたものはない。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
それでも自分ぢや何か為てる積りかなんかで……そりや到底とても叔父さんの心持を節やなんかに話さうたつて、話せるもんぢやない……せいの焔ツてことが有るが
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「人間一人大学を卒業させるなんて、おれの手際てぎわじゃ到底とても駄目だ」と宗助は自分の能力だけを明らかにした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いろいろの事が畳まつて頭脳あたまの中がもつれてしまふから起る事、我れは気違ひか熱病か知らねども正気のあなたなどが到底とてもおもひも寄らぬ事を考へて、人しれず泣きつ笑ひつ
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とう/\自分が造りたい気になつて、到底とても及ばぬとは知りながら毎日仕事を終ると直に夜を籠めて五十分一の雛形をつくり、昨夜で丁度仕上げました、見に来て下され御上人様
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
到底とても尋常じんじやうではひとるべきしまではありませんが。
人間にんげん一人ひとり大學だいがく卒業そつげふさせるなんて、おれ手際てぎはぢや到底とても駄目だめだ」と宗助そうすけ自分じぶん能力丈のうりよくだけあきらかにした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
到底とても慶三は妾宅へ引移ひきこしの準備が出来るまで、このままぼんやり待っては居られないような気がした。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いろいろのことたゝまつて頭腦あたまなかがもつれて仕舞しまふからおこことれは氣違きちがひか熱病ねつびようらねども正氣せうきのあなたなどが到底とてもおもひもらぬことかんがへて、ひとしれずきつわらひつ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
またお志保の奴が飛込んで来て見給へ——到底とても今の家内と一緒に居られるもんぢや無い。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ゑゝ気の揉める、何なる事か、到底とても良人うちには御任せなさるまいが若もいよ/\吾夫の為る事になつたら、何の様にまあ親方様お吉様の腹立てらるゝか知れぬ、あゝ心配に頭脳あたまの痛む
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
九州にいる兄へやった手紙のなかにも、私は父の到底とてももとのような健康体になる見込みのない事を述べた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
慶三は箱根に行こうが塩原に行こうが到底とてもこんない心持のお湯へは入れまいと思った。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あなたは亀屋かめや御出おいでなされた御客様わたくしの難儀を見かねて御救おすくい下されたはまことにあり難けれど、到底とてものがれぬ不仕合ふしあわせと身をあきらめては断念あきらめなかった先程までのおろかかえって口惜くちおしゅう御座りまする
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
到底とてもこれに相續は石油藏へ火を入れるやうな物、身代けふりと成りて消え殘る我等何とせん、あとの兄弟も不憫と母親、父に讒言ざんげんの絶間なく、さりとて此放蕩子これを養子にと申受る人此世にはあるまじ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
尤も今のうちは母が居るからかまひませんが、もう少しして、母が国へ帰ると、あとは下女丈になるものですからね。臆病もの二人ふたりでは到底とても辛抱し切れないのでせう。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
丁度その刻限と同じやう、二三日過ぎた日暮れ方、折よくも二度目に出會つた時、私は到底とても我慢が出來ず、待合の主婦と一緒に無理やりその女をば、近所の料理屋まで夕飯を食べに連れて行つた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
到底とてもこれに相續そうぞく石油藏せきゆぐられるやうなもの身代しんだいけふりとりてのこ我等われらなにとせん、あとの兄弟けうだい不憫ふびん母親はゝおやちゝ讒言ざんげん絶間たえまなく、さりとて此放蕩子これ養子やうしにと申うくひと此世このよにはあるまじ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いやなんにもない」とこたへた。それから、「おい、おれとし所爲せゐだとさ。ぐら/\するのは到底とてもなほらないさうだ」とひつゝ、くろあたままくらうへけた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
到底とてもこれに相続は石油蔵へ火を入れるやうな物、身代けふりと成りて消え残る我等何とせん、あとの兄弟も不憫ふびんと母親、父に讒言ざんげんの絶間なく、さりとて此放蕩子これを養子にと申うくる人この世にはあるまじ
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分抔は到底とても子規の真似は出来ない。——三四郎は笑つて聞いてゐた。けれども子規の話丈には興味がある様な気がした。もう少し子規の事でも話さうかと思つてゐると
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「医者は到底とても治らないというんです。けれども当分のところ心配はあるまいともいうんです」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「でも医者はあの時到底とてもむずかしいって宣告したじゃありませんか」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
到底とてものらくらじゃ出来ない仕事ですよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)