いり)” の例文
『なあに、柳川君やながはくんには片附かたづけるやうな荷物にもつもないのさ。』と濱島はまじまこゑたかわらつて『さあ。』とすゝめた倚子ゐすによつて、わたくしこの仲間なかまいり
また三世勝三郎の蓮生院れんしょういんが三年忌には経箱きょうばこ六個経本いり男女名取中、十三年忌には袈裟けさ一領家元、天蓋てんがい一箇男女名取中の寄附があった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ああ、なんとその鴻益は仰山ぎょうさんなものにて、荷衣白蓮ホーイブレング先生のわが世界に鴻業偉勲を顕わしたるは、驚きいりたることではありませんか。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
またその沼羽田ぬばたいり日賣の命が弟、阿耶美あざみ伊理いり毘賣の命に娶ひて、生みませる御子、伊許婆夜和氣いこばやわけの命、次に、阿耶美都あざみつ比賣の命二柱。
この牧場の管理人から月に十円の手宛てあてもらっていることや、自分は他の牧場からこの西にしいりの沢へ移って来たものであることなどを話した。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その後病気で亡くなりましたが、あの診察所に附いていた年増ね、乳母ばあやというんじゃあなかったんですが、お夏さんのお気にいりわきの処へ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
捻上ねぢあげつひに召捕て奉行所へ引立ひきたてければ大岡殿小兵衞を見られ其方事去る十月二十八日夜兩替町島屋治兵衞方へしのいり三人に手をおはせ金子千兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
如何どういう訳か邪魔いりて間もなくそなたは珠運しゅうんとか云うつまらぬ男に、身を救われたる義理づくやら亀屋かめやの亭主の圧制やら、急に婚礼するというに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いりほど、大した大きいものではありませんが、何が入っているか、非常な重量で、口は丸い板で押えて、渋紙を掛けた上、縄で縛ってあります。
なかで行儀の悪い客の一人が膝の上で先刻さつきの焼物の包をけて見た。中にはサツクいりの立派な真珠細工が入つてゐた。
加特力カトリツク教のユウカリストの大会があつて六十万人の信者が諸国からいり込んで居る維納ヰインへ、其れとは知らずに着いた風来の自分達は宿の無いのに困つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
また先生のおしえしたがいて赤十字社病院にいりたる後も、先生来問らいもんありてるところの医官いかんに談じ特に予が事をたくせられたるを以て、一方ひとかたならず便宜べんぎを得たり。
かくてその年もくれて翌年よくとしの二月のはじめ、此弥左ヱ門山にいりたきゞを取りしかへるさ、谷におちたる雪頽なだれの雪のなかにきは/\しくくろものありはるかにこれを
まれに祐筆などより立身して小姓組にいりたる例もなきに非ざれども、治世ちせい二百五十年の間、三、五名に過ぎず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
飛騨は山国でありながら、不思議に今日はこの話が少なく、青年の愛好する北アルプスから立山方面、黒部川のいりなども今はもう安全地帯のようであります。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さ今の内お風呂ふろにでもおはいりなさつて少し御庭でも御覽なさいまし、おやすみ遊ばしての内私が御附申て升柄ますからと、看護婦にかはりしはかねとよびて年も同十七の氣に入
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
それから、これは手首と一緒に警察の方へ行っているのですが、その手首には大きなルビイいりの指環がはめてあったのだ相です。これも多分御心当りがありましょうね
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
妻君が仲にいりしきりにお登和嬢を説きければ嬢も詮方なく「それでは戴きましょう、ありがとうございます」と不勝無性ふしょうぶしょうに受けて脇へ置きしまま中の品を見んともせず。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
今日けふようなしのなればとてあに終日しゆうじつ此處こゝにありけり、こほり取寄とりよせて雪子ゆきこつむりひや附添つきそひ女子をなごかはりて、どれすこわしがやつてやうと無骨ぶこつらしくいだすに、おそいります
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そこで彼は出獄すると福島の宅へ目をつけ、機会を待っていましたが、遂に留守番にモルヒネいりの菓子を送り、麻酔させた上で、ゆっくり宝石を取り出そうとたくらんだのです。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
その日は得念に誘はれそのまゝ後家かたへ立寄り候処、いろ/\馳走ちそうに預り候上、風呂ふろいり候処、昨夜よりの疲労一時に発し、覚えずうと/\とねむりを催し驚きて目を覚し候へば
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
机もなにもうばひとりてこなたかなたへうつしやる、おのれは盗人のいりたらん夜のここちしてうろたへつつ、かたへなるところに身をちひさくなしてこのをの子のありさま見をる
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
その声を聞きつけて、稚児の親なるべし、三十ばかりなる大男、裏口より飛でいりしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
と云いながらっと文治郎の手を下へ置いて立上り、外をのぞいて見てぴったりいり□□□□□□□、□□□□□□□□、□□□□□□て、薄暗くなった時、文治の側へぴったり坐って
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ほうほう、だいぶん熱心じゃが、それもあるにはある。しかしこれを教えるには、大分高価こうかにつくが、いいかね。まずウィスキーならダースいり函単位はこたんいでないと取引が出来ないが……」
「ときに小僧さんや、お前は金をたずねてこうして山奥を歩いているらしいが、私共はちと人を尋ねてこの山の中へ来たもんだ。お前はこの二三日に、このいりで人を見かけなかったかい」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼等平民はみづから重んずる故を知らず、おのづから侠客なるものをして擅横せんわう縦暴しようばうの徒とならしめたり、侠客の侠客たる所以ゆゑん、甚だ重しとせず、平民界にいりて一種の理想となりたる跡、まことに痛むべし。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そこで暦を見るに、彼岸は春二月のせつより十一日目にいり七日の間を彼岸という、昼夜とも長短なく、さむからず、あつからざる故時正じしょうといえり。彼岸仏参し、施しをなし、善根ぜんこんをすべしとある。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
余程たって、何かがやがや話しながらみんなの足音がいりまじって庫裏くりの方へ引上て行った後で、障子をあけて縁側に出て見たら、無数に赤く日に光っていたのが、ひとつ残らず、もぎとられていた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「ぢや、あなたが御かねが御いり用ぢやなかつたのね。馬鹿々々しい」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今から思ふと、それは、五にも足りない心細いいりでした。
井上正夫におくる手紙 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
褒めてイヨすみれは置かれませんと挨拶するは此事より起りたることばならんと悟りぬ兎角とかくいふうちいりまじへたる山の盡るほとりに一面の名鏡現れたり此ぞ諏訪の湖なると露伴子の指すににはかに足もかろく氣も勇み始めて心づきて四方を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
もうこれでせいなる生活においりになって
○やぶいり浪花なにわいで長柄川ながらがわ
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
私店けしいり軽焼の義は世上一流被為有あらせられ御座候とおり疱瘡はしか諸病症いみもの決して無御座ござなく候に付享和三亥年いどしはしか流行の節は御用込合こみあい順番札にて差上候儀は全く無類和かに製し上候故御先々様にてかるかるやきまたは水の泡の如く口中にて消候ゆゑあは
『はゝゝゝゝ。きみはまだわたくし妻子さいし御存ごぞんじなかつたのでしたね。これは失敬しつけい々々。』といそがはしく呼鈴よびりんらして、いりきたつた小間使こまづかひ
美術学校にもこの騒ぎにまぎれて、あらたいりし巨勢がゆくへ知れぬを、心に掛くるものなかりしが、エキステル一人は友の上を気づかひゐたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
するぞて藤兵衞が所持しよぢの脇差を如何の譯で汝ぢが手にいりたるぞサア/\其譯そのわけ白状すべしと問詰とひつめられて彌十は苦痛くつう堪兼たへかねとても免れぬ處と覺悟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
のきはなけます、といりかはりちかはる、二三日前にさんにちまへから、もう町内ちやうない親類しんるゐづきあひ。それもい。テケテンテケテン、はや獅子ししひあるく。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この人も良い人であったけれども小普請いりになって、小普請になってみればひまなものですから、御用は殆どないので、つりを楽みにしておりました。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
またその氷羽州ひばす比賣の命が弟、沼羽田ぬばたいり毘賣の命に娶ひて、生みませる御子、沼帶別ぬたらしわけの命、次に伊賀帶日子いがたらしひこの命二柱。
かくてその年もくれて翌年よくとしの二月のはじめ、此弥左ヱ門山にいりたきゞを取りしかへるさ、谷におちたる雪頽なだれの雪のなかにきは/\しくくろものありはるかにこれを
君に離れてわしゃ薔薇ばらの花。れてくだけてしおしおと、ゆうべさびしい楽屋いりかつら衣裳も手につかず
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
十分間の休憩を置いて管絃楽オルケストラが始まる度に下手へた連中れんぢゆうひき込んで、四方の観棚ロオジユの卓を離れて出る一双づゝの人間がいり乱れながら素晴しい速度で目もあやに踊つて廻るのは
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
牛は又、非常に鋭敏な耳を持つもので、足音で主人を判別する。こんな話が出た後で私はこういう乳牛を休養させる為に西にしいり牧場まきばなぞが設けてあることを聞いた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しばし何事もうちわすれたるごとながいりて、ほと長くつく息、月かげに煙をゑがきぬ。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
右の漢字の隈は御承知の通り通例はクマとんでおって、水流によって作られた川の岸の平地であれば、この訓みは東国で谷またはいりと言うと同じ意味に用いられた地方語であろう。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
君のいうワッフルは菓子屋で売っているジャムいりだろう。あれはジャム入ワッフルといってこの原料よりモット玉子を多くして焼粉やきこを少くしてワッフル型という鉄板の型で皮を焼くのだ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「それは駿河の方から来て、この少し先のいりから篠井山しののいざんの方へ廻ったようだ」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「作人は本所緑町の佛師又六、大した腕のある男ぢやねえが、あの普賢菩薩だけは、後光が射すやうな出來だ。その上木戸番のお倉てえのが滅法めつぽふいゝ女で、小屋は割れつ返るやうないりですぜ」