かけ)” の例文
濃いもやが、かさなり重り、汽車ともろともにかけりながら、その百鬼夜行ひゃくきやこうの、ふわふわと明けゆく空に、消際きえぎわらしい顔で、硝子がらす窓をのぞいて
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取て夫婦二人を無理むりに一つ駕籠にのせ是でよしとて半四郎はむか鉢卷はちまき片肌かたはだぎ何の苦もなく引擔ひつかつぎすた/\道をかけながら酒屋をさして急ぎけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
亭主は家中いへぢうに有りけのお金でお神さんの望み通りの馬車をこしらへて遣りました。お神さんは喜んでそれに乗つて方々をかけまはりました。
金剛石 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
刑事は、そんなこと聞きやしないよと、だんまりで、息を切らしながら、一生懸命に追っかけている。どうも少からず馬鹿にされている形だ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
高い脚立きゃたつをかついでかけてきた点燈屋てんとうやさんも、立止ってにこついて眺めている。近所の人たちはいうまでもない、通行の人たちも立止っている。
阿Qは米搗場にかけ込んで独り突立っていると、指先の痛みはまだやまず、それにまた「忘八蛋ワンパダン」という言葉が妙に頭に残って薄気味悪く感じた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
でもそうすると亀の方が大きくなりすぎて、兎が居眠りしないでも亀の方がかけっこにかちそうだった。だから困っちゃった。
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何やら申聞もうしきかしをり候処へ、また一人のさむらい息を切らしてかけ来り、以前の侍に向ひ、今夜の事は貴殿よりほかには屋敷中誰一人知るものも無之これなき事に候なり。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一角いっかく入れてスタ/\スタ/\タヽヽヽヽヽとよく云いまするが嘘だそうです、聞きまするに馬は乗りたてからかけうと、馬がれていかんそうで
「どうかして一人前いちにんまえの人間にしてやろうと思って、方々かけずりまわって、金をこしらえて店を持ったり何かしたのが、私の見込ちがいだったのです」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分はの位其處らをかけずり廻ツたか、またの道をうして來たか知らぬが、兎に角もう螢籠ほたるかごには、螢が、ちようど寶玉のやうに鮮麗な光を放ツてゐる。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
交番の巡査がかけつけたときには、公衆電話函は塔の中のように静かだったという。……どうだ、聴いているかね
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
婢は暗い庭のなかを走って奥の縁側えんがわからかけあがった。平三郎も続いて奥の縁側えんがわへあがった。じょちゅうへやの中へ体を隠した。平三郎もそれを追って部屋の口へ往った。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
勝手かつての方へ立いで見れば家内かないの男女狂気きやうきのごとくかけまはりて、家財かざいを水にながさじと手当てあたりしだいに取退とりのくる。水はひくきに随てうしほのごとくおしきたり、すでたゝみひたにはみなぎる。
村を出はずれて峠道とうげみちにさしかかるといつものように背後からがらがらと音がして町へ通ってゆく馬車がかけて来た。木之助は道のはたへ寄って馬車をやりすごそうと思った。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
先刻さっきも云った通り、巡査が一度追掛おっかけたことも有ったが、到頭とうとうつかまらなかった。何しろ、猿と同じように樹にも登る、山坂を平気でかける、到底とても人間の足では追い付かないよ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昼は地下に潜入して昼寝をむさぼり、夜となれば星明りの青白い曠野の上をかけつこなぞして、結構面白がつてゐたのです。ところへ一日通りがかつたのが一人の旅人でした。
清太は百年語るべし (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
次に鐘を叩くとカアーンと音がする、その音は影も形もなくかけるように遠くに響いて行く、人間のこしらえた説明では到底とうていその理由が満足に判らない、これも確かに怪物ばけものである。
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
ト云う間もなく少年はかけ出して来て、狼狽あわてて昇に三ツ四ツ辞儀をして、サッと赤面して
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
予は起って庭から空模様を眺めた。風は昨日に増すとも静まる様子はさらに無い。土色雲の悪魔はますます数を加えて飛びかけって居る。どう見ても一荒ひとあれ荒れねば天気は直りそうもなく思われる。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
電信局の横手からかけて来た車に、芸妓げいしゃ箱丁はこや合乗あいのりして居るその芸妓が小歌らしいので、我知らず跡逐駈おっかけるとその車は裏河岸うらがしの四五間目で停って、小歌と思ったのは夜目にも紅い幽禅ゆうぜんたもと
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
最早日が入りかけて、薄ら寒く、秋の夕の淋しさが人少なの新開町を押かぶせる樣に四方から包むで來る。ふたたび川を渡つて、早々宿に歸る。町の眞中を乘馬の男が野の方からかけを追うて歸つて來る。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
最早もう日が入りかけて、うすら寒く、秋のゆうべの淋しさが人少なの新開町を押かぶせる様に四方から包んで来る。ふたたび川を渡って、早々宿に帰る。町の真中まんなかを乗馬の男が野の方からかけを追うて帰って来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かんおぢかけはや
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
かけてゆく
朝おき雀 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
が、ものおと人聲ひとごゑさへさだかには聞取きゝとれず、たまにかけ自動車じどうしやひゞきも、さかおとまぎれつゝ、くも次第々々しだい/\黄昏たそがれた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つひに其場へ切ふせたり斯て兩人はホツと一いきつく處へお里もやがかけ來り其所に御いでは父樣かといふ聲きいてオヽお里か能マア無事でと親子三人怪我けがのないのを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一人がけわしい山谿やまあいかける呼吸で松の木に登り、桜の幹にまたがって安房あわ上総かずさを眺めると、片っぽは北辰ほくしん一刀流の構えで、木の根っ子をヤッと割るのである。
貴方あなたの御存じの通り、私共夫婦は萩原新三郎様の奉公人同様に追い使われ、跣足はだしになってかけずり廻っていましたが、萩原様が幽霊に取付かれたものだから
「これから行く処なの。」とお照は男の方へかけ寄って歩きながら此方こなたを見返り、「お父さんそれじゃさよなら、もういいわ。さよなら、おかみさんによろしく。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が開かれると、真先に橘が飛び込んだが、入口の真正面の壁際に据えてある寝台の方へつかつかとかけて行った橘は、そこで棒立になり「ッ」とかすかな叫びをもらした。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
父親の縁故から知っている或たたき大工のあることを想出して、そこへかけつけていった彼女は、仕事を拡張する意味で普請をたのんだところで、彼は呑込顔にそう言って引受けた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それを通行人が見つけて邸へ知らしたので、医師もかけつけて来たが死因は不明であった。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鉄砲を小脇に其の山路を一散にかけあがり、其処かここかと詮議したけれども、別に怪しい物の姿も見えないからアア残念ナと再び麓へ降りて来ると、の商人はモウ立去ったと見えて
かけあがった二人は、甲板のうえを探しあるいた。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
じゃか、何ともいわれない可恐こわいものが、私の眼にも見えるように、眼前めさきかけまわっているもんだから、自分ながら恐しくッて、観音様を念じているの。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その報をきいてかけ付けた門弟たちは、師の病体からだを神戸にうつすと同時に「楠公なんこう父子桜井の訣別けつべつ」という、川上一門の手馴てなれた史劇を土地の大黒座で開演した。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
足が悪いだけにかけるのも遅いから、新吉は逃げようとするが、何分なにぶんにも道路みちがぬかって歩けません。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
見しがたしかに三五郎奴成らんと三人ひとしく此方の土手どてかけよりて見れば二三町へだてて西の村をさし迯行にげゆく者あり掃部は彌々彼奴あいつに相違無し是々これ/\藤兵衞飛脚ひきやくを立てうちへ此ことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
眼に残っている金盥かなだらいの血、俄然容態が変って危険におちいったと云う通知を得て、あたふたとかけつけて往く先輩の一人にいて、至誠病院の病室へ入った三造は、呼吸いきを引きとったばかりの木内の顔に
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二階へかけあがって往ったお島は、いきなり小野田に浴せかけた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小児等こどもらの糸を引いてかけるがままに、ふらふらと舞台を飛廻り、やがて、樹根きのねどうとなりて、切なき呼吸いきつく。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勝梅さんが不思議がって探り廻しだしたのに吃驚びっくりした私は二ツ重ねた足台からおっこって、階下の人を驚かせ、二階へかけ上らせた。勿体もったいないといって盲目さんは泣いた。
本当にこれまで互に跣足はだしになって一生懸命に働いて、萩原様の所にいる時も、私は煮焚にたき掃除や針仕事をし、お前は使つかいはやまをしてかけずりまわり、何うやら斯うやらやっていたが
小児等こどもらの糸を引いてかけるがまゝに、ふら/\と舞台を飛廻とびまわり、やがて、樹根きのねどうと成りて、切なき呼吸いきつく。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
常吉「こんな時に梨なぞをくれるから重たくってかけられやアしません」
連合つれあいと口論したら、飯櫃めしびつほうりだして飯粒だらけになっていたって——家がお堀ばたの土手下で、土手へあがってはいけないという制札があるのに、わざと巡査のくる時分にかけ上ったりするって。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
警備隊けいびたいから、驚破すはかけつけた兵員達へいゐんたちは、外套ぐわいたうなかつたのがおほいさうである。危險きけんをかして、あの暴風雨ばうふううなかを、電柱でんちうぢて、しとめたのであるといた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
樹島は、ただ一目散に停車場ステエションかけつけて、一いきに東京へげかえる覚悟をして言った。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草履穿ばきかけずり歩かねばならないのみならず、煮るも、炊くも、水をむのも、雑巾がけも、かよわい人の一人手業てわざで、朝は暗い内に起きねばならず、夜になるまで、足を曳摺ひきずって
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)