かみなり)” の例文
その声は時でもないかみなりのように空へ行って野原中へ聞えたのです。土神は泣いて泣いてつかれてあけ方ぼんやり自分の祠にもどりました。
土神ときつね (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もと直立ちよくりつしてゐたもので、たかさは七八十尺しちはちじつしやくもあつたものですが、二百年程前にひやくねんほどまへかみなりちたゝめにれたのだといふことでありました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
するうちくもの中からぴかりぴかり稲妻いなずまがはしりして、はげしいかみなりがごろごろしました。やがてひどい大夕立おおゆうだちになりました。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
は、それがために、かみなりをおそれていました。そして、いま、遠方えんぽうかみなりおとをきくと、ぶるいせずにはいられませんでした。
ぴかぴかする夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たつかみなりのようなものとえた。あれをころしでもしたら、このほういのちはあるまい。おまへたちはよくたつらずにた。ういやつどもぢや」
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
風がはげしくなり、足下あしもとくもがむくむくとき立って、はるか下の方にかみなりの音までひびきました。王子はそっと下の方をのぞいてみました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
黄昏たそがれは、誰も知るとおり、曲者くせものである。物みなが煙のように輪郭りんかくを波打たせ、が飛んでも、かみなりが近づくほどにざわめき立つのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
よく解りませんでしたから俯向うつむいていますと「お前はこれで母親を締め殺したんだろう」と谷警部がかみなりのような声で怒鳴りました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
するとな、かみなり師匠といわれた手習のおしょさんの近所に国年くにとしという絵かきがいてな、絵を教えてくれて、これも大変可愛がった。
首領の声が、かみなりのようにとどろいた。気落ちしたように、ボンヤリしていた机博士は、その声に、ビリビリと体をふるわせた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
抽斎は晩年に最もかみなりを嫌った。これは二度まで落雷にったからであろう。一度はあらためとった五百と道を行く時の事であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ゆうべのかみなりは幸いにやみましたが、きょうも雨を運びそうな薄黒い雲が低くまよって、山も麓も一面の霧に包まれています。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
じつ神界しんかいから、あめらせるにいては、同時どうじかみなりほうせてやれとのおたっしがまいったのじゃ。それでいまその手筈てはずをしているところで……。
彼等は驚異の眼を瞪って、此活動する雲の下に魅せられた様にたたずんだ。冷たい風がすうっすうっと顔に当る。おくれ馳せにかみなりがそろ/\鳴り出した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
うさ。だがあの男の豫定位あてにならないものは無いんだ。かみなりみたいな奴よ、雲次第で何時でも鳴り出す……。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
かみなりにもふるへたことのない私の神經がこの低い聲で云はれた言葉に顫へた。——私の血は氷にも火にも感じたことのないやうな激しい暴力に感應した。
そこへまた、なにかみなりのやうに怒鳴どなこえがしたかとおもふと、小牛こうしほどもあるかたこほりかたまりがピユーツとちてきて、真向まつこうからラランのからだをばした。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
すると、太い、かみなりのような音が聞えてきました。みんなが、その方をふり向くと、ちょうど、こくたんの戸がそろそろと開きかかっているところでした。
そして何日いつかはかみなりのようなおとがして、その格子戸がくだろうと、甘いあくがれを胸に持って待っていて見たけれど、とうとう格子戸はかずにしまった。
そよ風が暗い木立こだちの中でざわざわと身震みぶるいして、どこか地平のはるかな彼方かなたでは、まるでひとごとのように、かみなりが腹立たしげなにぶい声でぶつぶつ言っていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
これからはらがだぶだぶになるまでむのです。そしてねむくなると、にじでもくやうなをくび を一つして、ごろりとよこになるのです。とかみなりのやうないびきです。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
そういうことをする者が一人でもあると、夕立雲ゆうだちぐもがおこりかみなりが鳴り出しても、その村だけは降らずにすぎて行くともいって、憎むというよりもむしろおそれた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かみなりなら、こっちの、震り動かすような雷を、二倍にして、また跡から三倍にも十倍にもして聞かせましょう。
もしその人形にさわりでもしたら、そこからかみなりでも飛び出しはすまいか、というような気持が彼女はした。
すると一人ひとりうして、/\かみなり位でける事ぢやありやしないと憤慨してゐた。——画も其通り、今の画はインスピレーシヨン位でける事ぢやありやしない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
蘭子はかみなりにでも撃たれたように、ハッと立ちすくんでしまった。世間知らずのお嬢さんと見くびっていたら、この人はまあ、なんて鋭い眼を持っているのだろう。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一度戸口のしきいのみぞにはまった小さい微塵玉みじんだまをほじっていて、頭上からかれにどなられたとき、の前にかみなりが落ちてきたように正九郎はおじけてしまったのである。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
かみなりごうがあります、あなたは死を覚悟でそれに当ってください、そうしてくださるなら、その殃をのがれることはできるのです、もしそうしていただくことができないなら
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
初めうちへ上った時には、少し声を高くしなければ話が聞きとれない程の降り方であったが、今では戸口へ吹きつける風の音もかみなりの響も歇んで、亜鉛葺とたんぶきの屋根を撲つ雨の音と
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
然れども僕は先生の言を少しも解することあたはざりし故、唯かみなりに打たれたるおしの如く瞠目だうもくして先生の顔を見守り居たり。先生もまた僕の容子ようすに多少の疑惑を感ぜられしなるべし。
その頃の赤門生活 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そうして槍持奴の前へ土下座をきって申しわけをすると、槍持奴はかみなりの割れるような声で
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「丞相には、袁譚、袁尚が今にかみなりにでもうたれて、自然に死ぬのを待っているのですか」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、たとい汽車に間に合ったとしてさえ、店主のかみなりは避けることができないのだ。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
天皇てんのうは、神樣かみさまでいらつしやる。それでこの普通ふつうならば、そらくもなかつてゐるかみなり、そのかみなりであるところのやまうへに、小屋こやがけをして、おとまりになつてゐることよ。えらい御威勢ごいせいだ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
かみなりときかみなりやまけ、地震ぢしんうみけととなふ、たゞし地震ぢしんときにはとなへず。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かみなりが洞をこわしはしないかと、ぼくはずいぶん心配したよ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あとから、かみなりおといかけるようにきこえたのです。ふりくと、もはや野原のはらのかなたは、うず黒雲くろくものうちにつつまれていました。
曠野 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これはかみなりがあんまり調子ちょうしって、くもの上をまわるひょうしに、あしみはずして、の上にちて、目をまわしたのでした。お百姓ひゃくしょう
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そして爺さんがあっ気にとられていると、その空いっぱいの大きな鼻の向こうから、「あははははは」とかみなりのような笑い声が聞こえました。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
二人のからだが空気の中にはいってからはかみなりのように鳴り赤い火花がパチパチあがり見ていてさえめまいがする位でした。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
(ああ、分かった。このまえ、ほら、あの研究所のとうさ、かみなりさまのためにぶっこわされてから、心がけがすっかりかわって、やさしくなったんだろう)
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『それは、そろそろあめ切上きりあげる相図あいずをしているのじゃ。もうもなくあめかみなりむであろう……。』
歐羅巴から來た爽やかな風が、海面をわたり、開け放した窓にさつと吹き込んで、暴風が起り、俄かに雨がやつて來て、かみなりが鳴り、稻妻いなづまが閃いて、大氣は清澄になつた。
大坂町のかみなり師匠は、冬でも表を明っぱなし、こまよせから、わざと見えるようにしてある。
「困ったねえ……とうとう今夜は宿をとりそこなってしまった。こんな御難に会うというのも、みんなお十夜のため、あんな奴こそ、さッきのかみなりにうたれて死んでしまえばいいのに」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かみなりの音は少し遠くなったが、雨は却てつぶてを打つように一層激しく降りそそいで来た。軒先に掛けた日蔽の下に居ても跳上はねあが飛沫しぶきの烈しさに、わたくしはとやかく言ういとまもなく内へ這入った。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なにより、いやな、可恐おそろしかみなりつたのです。たゞさへれようとする心臟しんぞうに、動悸どうきは、破障子やれしやうじあふるやうで、ふるへるみづの、みづよりさき無數むすうが、くちはな飛込とびこんだのであります。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いて見ると梅雨つゆはもうけたんだらうか、どうだらうかといふ研究なんだが、一人ひとりばあさんが、むかしかみなりさへ鳴れば梅雨つゆけるにまつてゐたが、近頃ぢやうは不可いかないと不平こぼしてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すると斑犬はすぐきばをむき出して、かみなりのようにうなりながら、まっしぐらに洞穴の中へとびこみましたが、たちまちの中にまた血だらけな食蜃人の首をくわえたまま、尾をふって外へ出て来ました。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ごろ/\/\かみなりがやゝ遠のいたかと思うと、意地悪く舞い戻って、おびただしい爆竹ばくちくを一度に点火した様に、ぱち/\/\彼の頭上にくだけた。長大ちょうだいな革の鞭を彼を目がけて打下ろす音かとも受取られた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)