のが)” の例文
そして、もう一こくもここにいるのが危険きけんになりましたときに、二人ふたり相談そうだんをして、どこか安全あんぜんなところへのがれることにいたしました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
法師丸は間一髪のところをのがれてまだ外囲いの篠垣を越えないうちに、方々の櫓や望楼から貝や太鼓を一時に鳴らし出すのを聞いた。
幾分は責任がのがれるし、もし評判通り非常な名剣であった時には、思い入りこの老人からとっちめてやろうという腹なのでしょう。
一字一句の瑕疵も見のがせなかつた。或時は百首の内九十首を棄て、十首の内九首を棄てた。或時はたつた一句のために七日七夜も坐つた。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ましてそういう、世の耳目に触れた記事を、取り入れないではおかない種類では、雑俳ざっぱいに、川柳せんりゅうに、軽口かるくちに、一口噺ひとくちばなしのがしはしなかった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
蟲のわたりて月高く、いづれも哀れは秋の夕、しとてものがれんすべなきおのが影を踏みながら、うでこまぬきて小松殿のかどを立ち出でし瀧口時頼。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
津田はこの子供に対するような、笑談じょうだんとも訓戒とも見分みわけのつかない言葉を、苦笑しながら聞いた後で、ようやく室外にのがた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一年前、何者かからのがれるように日本を去られて、支那へ赴かれてからも、二三度森さんは私のところにもお便りを下すった。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さばれいきとし生ける者、何かは命を惜まざる。あしたに生れゆうべに死すてふ、蜉蝣ふゆといふ虫だにも、追へばのがれんとするにあらずや。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
またなんじらのためにすべてのひとにくまれん。されどおわりまでしのぶものはすくわるべし。このまちにて、めらるるときは、かのまちのがれよ。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
うらみ種々樣々にかなしみつゝ何卒して夫文右衞門殿が身のあかりの立工夫を授け給へ何か無實の難をのがるゝ樣なさしめ給へと神佛を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
まるで絶海の孤島に流された囚人がこの船一艘のがしては一生涯本國へ歸る望みがないと必死に先を爭ふと同樣な有樣である。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
柳吉は「もうちょっと待ちイな」と言いのがれめいた。「子供が可愛いことないのんか」ないはずはなかったが、娘の方で来たがらぬのだった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「はいっ……」と、恐懼きょうくしながらも、こう主従顔のそろった絶好な機をのがすまいとするものの如く、大和守は喰いさがって
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貞盛方の佗田真樹は戦死し、将門方の文屋好立ぶんやのよしたつは負傷したが助かつた。貞盛はからくものがれて、つひに京にいたり、将門暴威を振ふの始終を申立てた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
其留守はどんなに静で好だろう是からネ其様そんな時にはのがさず手紙を遣るから来てお泊りよ、二階が広々として、エお出なネお出よお出なね、お出よう
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ときどき眼をあげてこの老僧の面貌を味はひながら、そのなまなましい印象をのがさないやうに木に移し植ゑようとした。
そして二人ともそろって何かのがれるような足どりで、その前から直角に、暗い瓢箪池の方へそそくさとれたのであった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
英国の倶楽部クラブの発達というものが、家庭における主婦の形式的女権じょけん窮屈きゅうくつからのがれようとする男性の自由の欲望から発達したものだという話もある。
女性崇拝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
やがて青木さんはその冷やかな現実げんじつ意識いしきのがれようとするやうに、あらたな空さうをゑがきながら、おくさんを振返ふるかへつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
きわめてさまざまなやりかたをしてみて、彼女に近づこうとしたが、彼女はいつでもそれをのがれることを心得ていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
ハハハハハ、奥さんつかまえましたよ。もうのがしっこはありません。曲者はこの金庫の中に隠れているのです。今扉を
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お君さんはその実生活の迫害をのがれるために、この芸術的感激の涙の中へ身を隠した。そこには一月六円の間代まだいもなければ、一升七十銭の米代もない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
甲の声 ツ、ツ、皆さん、早くのがれて下さい。逃げて! (と言いざま第一の塀と第二の塀の間で倒れたらしい音)
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
酒ぶとりした六十翁の、みぞね越え、阪をけ上る元気は、心の苦からのがれようとする犠牲のもがきの様で、彼の心をいたませた。やがて別荘に来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ああいうよどみ果てた生活を押し進めて行ったら、仮令たとえ節子のことが起って来なくとも、早晩海の外へでものがれて行くの外はなかったろうと想って見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところが、明日おそろしい禍いが迫って参りまして、どうにものがれることが出来なくなりました。それを救って下さるのは、あなたのほかにありません。
のがれんとしてはまつわられ、あわれ見る人もなき庭のすみに新日高川しんひたかがわの一幕をいだせしが、ふと思いつく由ありて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
船長はストキや船員を反撥はんぱつして、登別へ引きつけられた。そこでは彼は自然の冷酷さからしばらくのがれうるのだ!
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
んだそらつきながらながめる、ひといきれからのがれた郊外こうがいたのしみは、こゝにとゞめをす……それがられない。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
わなは破れて鳥はのがれた!(詩編一二四の七)。パリサイ人もヘロデ党もイエスの言葉尻をつかむどころか、舌を巻いてびっくりしてしまった(一二の一七)。
片方は大河おおかわさえぎられているから、この一方口いっぽうぐちのがれるほかには逃げ道はなく、まるで袋の鼠といった形……振り返れば、諏訪町、黒船町は火の海となっており
「まア、そう言えばそうですが、ここに一つ、どうしても定太郎にのがれられない弱い尻ッ尾があるんです」
瀬田済之助せたせいのすけが東町奉行所の危急をのがれて、大塩の屋敷へ駆け込んだのは、あけ六つを少し過ぎた時であつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
又「無いよ、どうせ人を害せば斬罪ざんざいだ、僕が証書を持ってゝ自訴じそすれば一等は減じられるが、君はのがれられんさ、よろしいやねえ、まアいから心配したもうな」
或は遠方より熊を銃殺じゆうさつする位なり、し命中あやまりてくまのがるれば之を追捕するのいうなきなり、而るに秋田若くは越後の猟人年々此山奥に入り来りてりやうするを見れば
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
むかしから臣下の者が皇子さま方のお宮へげかくれたことは聞いておりますが、とうとい皇子さまがしもじもの者のところへおのがれになったためしはかつて聞きません。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ここに阿知の直白さく、「墨江の中つ王、大殿に火を著けたまへり。かれまつりて、倭にのがるるなり」
応仁乱がはじまると関東にのがれ、文明元年心敬の供をして川越かわごえ太田道灌おおたどうかんのもとに招かれた。それから美濃の郡上城におもむいて常縁から古今の伝授を受けたのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
その上、もし討ち洩らして、やみやみのがれられでもしたら、もはや、剣の師として、江戸で標札が上げられぬことにもなろう——どうしても、斬ッてしまわねば——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
兎雨と降る矢の下に逃げ道をもとめ歩卒の足下をくぐり出んとすれば歩卒これを踏み殺しまた蹴り戻す、あるいは矢を受けながら走りあるいは一足折られ三足でのがれ廻る
私は、悪夢が醒めたような心持で、怖しいもの汚らわしいものから、のがれるように逃げ帰ったのです
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
執達吏は其の産衣うぶぎをも襁褓むつきをも目録に記入した。何物をも見のがさじとする債権者の山田は押入おしいれ襖子からかみを開けたが、其処そこからは夜具やぐの外に大きな手文庫が一つ出て来た。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
駕籠かごかえしたおせんの姿すがたは、小溝こどぶけた土橋どばしわたって、のがれるように枝折戸しおりどなかえてった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「病気になった方がよろしく候」というのは、たしかにそれです。病気という災難をのがれる妙法は、まさしく病気になりきってしまうことです。病に負けぬことです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
決斷心も、理性に劣らず刺㦸されて、こらへきれない壓迫からのがれる爲めに、思ひもよらぬ手段をそゝのかした。逃げるか、それが出來ないなら、絶食して死なうと決心した。
(二三)其傳そのでんいはく、伯夷はくい叔齊しゆくせい(二四)孤竹君こちくくんの二なりちち叔齊しゆくせいてんとほつす。ちちしゆつするにおよんで、叔齊しゆくせい伯夷はくいゆづる。伯夷はくいいはく、『ちちめいなり』と。つひのがる。
悲慘ひさんなのもあれば、ふねのがれた御殿女中ごてんぢよちうが、三十幾人さんじふいくにん帆柱ほばしらさきからけて、振袖ふりそでつまも、ほのほとともに三百石積さんびやくこくづみけまはりながら、みづあかつたと凄慘せいさんなのもある。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こうなっては何もかも妻に打明けて、この先のことも相談しよう、そうすればかえって妻と自分との間の今の面白ろくない有様からのがれ出ることも出来ると、急いでうちに帰った。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そして最後の突然蛇のような目を持った密偵者の襲撃が一座の有頂天うちょうてんを破った時「おお長老様。早く早くおのがれになって!」と叫んで、そのひざもとに身を投げた時のモニカと