つの)” の例文
ひたっと、体を、牢格子のじょうへ押しつけた蔵六の手は、わなわなと、腰の鍵を外していた。ガチッと、掌のなかで、錠のつのねた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
オニなども今ではつのあってとらの皮をたふさぎとし、必ず地獄に住んで亡者もうじゃをさいなむ者のごとく、解するのが普通になったらしいが
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
バーリ、ガエタ及びカートナ際涯はてを占め、トロント、ヴェルデの流れて海に入る處なるアウソーニアのつのもまたしか望みき 六一—六三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
このほねつのいしよりもやはらかいのでありますけれども、また一方いつぽうにはいしよりもつよくてをれやすくないといふことがその特長とくちようであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
言張し憑司夫婦も恩愛おんあいに心のおにつのをれて是までたくみし惡事の段々殘らず白状なりたりけり依て大岡殿は外々の者共ものどもへも右の趣きを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すると、対照的にトンマな警部とか、探偵とかゞ現れて、この御両人のつの突き合いが小説の半分ぐらい占めているというアンバイである。
探偵小説を截る (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
けば/\しい馬鹿げたころもを身にまとひ、鈴附きのつの形帽子を戴いて、台石のもとにうづくまり、涙に満ちたまなこで永遠の女神を見上げてゐる。
昌さんは榛の木の根もとにおづおづと寄つてゆくが、牛が何ごとかといふ風に頭を下方に近づけるので、昌さんの眼の前にそのつのが來る。
南方 (旧字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
けれども彼女は一歩彼の方へ身を乗り出した、眉をひそめ、そして、牡牛おすうしつのを低めて身構でもするような獰猛な格好に身を屈めながら。
馬の骨、鹿のつの、人の骨、おシャリコウベ、それから蛇のぬけがら、いずれも不気味な品が雑然と所嫌わずに置いてあるのです。
お早というのも評判の悪くない女ですが、なんと云っても本妻と妾、そこには人の知らないつの突き合いもあろうと云うものです。
むまつのなく鹿しかたてがみなくいぬにやんいてじやれずねこはワンとえてまもらず、しかれどもおのづかむまなり鹿しかなりいぬなりねこなるをさまたけず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
そこに、白鳥はくてう抜羽ぬけはひら白帆しらほふねありとせよ。蝸牛まい/\つぶろつのして、あやつるものありとせよ、青螽あをいなごながるゝごと発動汽艇はつどうきていおよぐとせよ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「六部になった倉松は、町内の顔役で、日頃宗次郎とは、つのいばかりしていますよ。宗次郎が死んで一番伸び伸びするのは倉松で」
「いや、昼間ひるまはそんなことはありません。昼間なら、じぶんをも家族かぞくをもまもれます。」と、牡羊はつのをふりながら言いました。
つのの長い牛に材木車を引かせて来るのもあれば、驢馬ろばに炭俵を積んで来るのもありました。みかんの木もあれば竹もあります。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こんどはうさぎが行司ぎょうじになって、鹿しかくまみましたが、鹿しかはすぐつのごとくまにひっくりかえされてしまいました。金太郎きんたろう
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
もぢやもぢやした髪の毛の中には、山羊やぎのやうなつのが二本、はえてゐる。牛商人は、思はず顔の色を変へて、持つてゐた笠を、地に落した。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
えらいもんですね、おになんぞは矢張やつぱりつのりませう。婆「いゝえ、おにつのみん佐藤さとう老先生らうせんせいらしつて切つてお仕舞しまひなさいました。岩 ...
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「やあ、そっくりだね。鬼の面を海にうかしたようだって、ほんとうだね。あれがつの、あれが鼻、あれが口、あ、口からきばが出てらあ。」
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
みごとなつのたくましいからだ、雪をかぶっているためか、あごの白い斑毛まだらげが汚れた灰色に見える。動作は重おもしく、あしのはこびも鈍いようだ。
鎧戸をはねあけて見ると、見覺えのある一對の寺の塔が、白いつののやうに窓の正面に竝んでゐた。ボルドーのカテドラル(サンタンドレ)だ。
大戦脱出記 (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
つのあればきばなく、うろこあれば髪がないというように、必ず一方の手段である目的を達しえられる程度までに進んでいるだけで
自然界の虚偽 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
こう一は、棒切ぼうきれをきがして、あなをつついてみました。おくほうに、ちいさなしかのつのかたちをしたものが、ちょっとえています。
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
まるで、そのつので仕立屋さんをあっさりつきさしてくれようとでもいうように、仕立屋さんめがけて、まっしぐらにおどりかかってきました。
心のつのを折るものなりとありて、原意は、ともかく、当時専らあやまり入って来る者を、強いて苦しめる事はならぬというたとえに用いたと見える。
「はい、海竜が出ました、つのを二本やした、こんな怖い顔をして、お杉のあまっこを追っかけて来たのを、命からがらで逃げて来やんした」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あのは、さきはうすことがつてつのたやうな、たばかりでもおいしさうにじゆくしたやつを毎年まいねんどつさりとうさんに御馳走ごちそうしてれましたつけ。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
次に平群へぐり都久つくの宿禰は、平群の臣、佐和良の臣、馬の御樴みくひの連等が祖なり。次につのの宿禰は、木の臣、都奴の臣、坂本の臣等が祖なり。
この雌牛は足が弱かったし、首が短すぎたし、つのが長すぎた。肺臓はいぞうが小さくって、乳首ちちくびの形が悪かった。どうしてこれではたんと乳は出まい。
それはほかでもない、君のありがたがる自由結婚なんかして、つのを生やさせられたり(妻に不貞を働かれること)人の子供を
あれあれうす鼠色ねずみいろおとこ竜神りゅうじんさんが、おおきなくちけて、二ほんつのてて、くもなかをひどいいきおいけてかれる……。
「心の鬼のつのをおりに来て、ざんげなさるのはよいが、後生ごしょうがようござりますまい。うちの嫁は孝行で、孝行であんなよいものはござりませぬ。」
つい昨日あたりまでこの斜面には雪が残っていたらしい、汚い泡のようなものがこびり付いている古株から、草の芽立ちがほの紅くつのぐんでいる。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そのかたわらに馬立てたる白髪のおきなつのボタンどめにせし緑の猟人服かりうどふくに、うすきかちいろの帽をいただけるのみなれど、なにとなくよしありげに見ゆ。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その互いに境する線は、到る処でつの突き合い、ひしめき合いつつ奔下する。その雪は刻々と陽光に浸って、岩を刺し、空を射るばかりに輝き出す。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
道を行く者にとっては、途上に牛がいない時よりもいる時の方が、つのの打撃を被る機会が常に多い。それで少し牛の数を数えてみようではないか。
卓のそばに立ったまま、彼はゆっくりコオヒイを飲んで、それにつのパンを一片食べた。自分自身に満足していて、自分の果断を誇っているのである。
ほそあしのおかげではしるわ、はしるわ、よつぽどとほくまでげのびたが、やぶのかげでそのうつくしいつのめがさヽ引掛ひつかかつてとう/\猟人かりうどにつかまつたとさ。
七蔵しちぞうがゆがみたる耳を貫けばこれも我慢のつのおとして黒山こくざん鬼窟きくついで発心ほっしん勇ましく田原と共に左右の御前立おんまえだちとなりぬ。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
われ/\はの大江山酒呑童子君しゅてんどうじくんをこう呼んだものだ——このスッテン童子君がフラ/\する手付で大杯をかたむける毎に顔色がかわり遂につのを生じ
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
するうちにそのきりの中から、ねじ曲がった二本のつののある頭が出て、それがほえると、続いてたくさんの頭が現われ出て、だんだん近づいて来ました。
そのとき、ふと、つのぶえのひびきが、水の中をつたわって聞えてきました。お姫さまは、はっとして、思いました。
しかし友人の話を聞くに、二十六夜ごろは月の形が弓のごとくになり、しかもその両端が上へ向かい、あたかもつのの立ちたるがごとき形を現している。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
鹿しかはみなさんもよくてごぞんじでせう。鹿しか本州ほんしゆう四國しこく九州きゆうしゆう朝鮮等ちようせんなどひろ分布ぶんぷしてゐます。牡鹿をじか牝鹿めじかよりすこおほきく、頭部とうぶつのつてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
つのめて牛を殺す頑固派のパリサイ人を退け、他方では燔祭および犠牲、すなわち神殿の形式的礼拝を重んじて
人間も蝸牛かたつむりや電車と同じやうに二つのつのをもつてゐる。そしてそれが上の方につながつてゐるうちはいつも大丈夫だ。
「うん、化け者だよ。つのもあるかも知れないよ。そいつが、しじゅう僕をつけねらってるんだ。助けておくれよ」
街の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
孔子も初めはこのつのめようとしないではなかったが、後にはあきらめてめてしまった。とにかく、これはこれで一ぴきの見事な牛には違いないのだから。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
二匹の牛はそこで首を下げものすごくえながら、互いの足もとを嗅ぐような様子をしていたが、やがて『山猫』は『爆撃機』のつのの間に角を差し入れ