蔭口かげぐち)” の例文
歌劇『セヴィリアの理髪師』の「蔭口かげぐちの歌」も私は三種類持っている。帝政時代のロシアで入れたグラモフォンのレコードが一番美しい。
などと、美奈子の心を察するように、忠勤ぶった蔭口かげぐちを利く時などには、美奈子は、その女中をそれとなくたしなめるのが常だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いたずらに蔭口かげぐちを云うくらいですごしていたが、若い娘の胸の火はこの頃の暑さ以上に燃えて熱して、かれの魂は憤怒ふんぬに焼けただれていた。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もっともわたしは、うすうすみんなが蔭口かげぐちいうていることぐらい感づいてましたもんの、それがそないに騒がれてようとは夢にも知りませなんだ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
蔭口かげぐちつゆばかりもいふものありとけば、立出たちいでゝ喧嘩口論けんくわこうろん勇氣ゆふきもなく、部屋へやにとぢこもつてひとおもてはされぬ憶病至極おくびやうしごくなりけるを
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
以前いぜんから勘次かんじあきになれば掛稻かけいねぬすむとかいふ蔭口かげぐちかれて巡査じゆんさ手帖ててふにもつてるのだといふやうなことがいはれてたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
河童は材木屋だと蔭口かげぐちきかれていたが、妾が何人もいて若い生血を吸うからという意味もあるらしかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
蔭口かげぐちをきくのでさえ、公然と名前が云えないくらいな男だから、弱虫にまってる。弱虫は親切なものだから、あの赤シャツも女のような親切ものなんだろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
善ニョムさん達は、この「大野さん」を成り上り者と蔭口かげぐち云うように、この山荘庵の主人はわずか十四五年のうちに、この村中を買占めてしまった大地主だった。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
蔭口かげぐちや皮肉をとばす、整調森さんの意地悪さ、面とむかって「ぶちまわすぞ」とおどかす五番松山さんのすさまじさ、そうした予感が、えがたいまでに、ちらつきます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「あなたが先日あの方にあげた品ですね、あれをあの方は、こんな粗末そまつなものをもらったって何にもなりゃしないって蔭口かげぐちってましたよ。」などとげる第三者があるとします。
なるほど朝夕ちょうせき側に仕えてみると、弥五郎一刀斎は気難しい。善鬼の蔭口かげぐちは嘘ではない。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小泉こいずみいえは、貧乏びんぼうだから先生せんせいがやったんだよ。」と、蔭口かげぐちをしているのをくと
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
君と僕が対立的にみられるのは僕にはかえって面白いくらいだ。たとえばポオとレニンが比較されて、ポオがレニンに策士だといって蔭口かげぐちをきいたといった風なゴシップは愉快だからな。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
またその頃の蔭口かげぐちに、「三条公は白豆、姉小路卿は黒豆」という言葉もあった。
ただわずかに、旅館の向い側にある居酒屋の入口に立っていた露助ろすけの百姓が二人、ぼそぼそと蔭口かげぐちをきいただけで、それも、乗っている紳士のことよりも、馬車の方が問題になったのである。
近辺の大店おおたな向きやお屋敷方へも手広く出入りをするので、町内の同業者からはとんだ商売がたきにされて、何のあいつが吉新なものか、煮ても焼いても食えねえ悪新だなぞと蔭口かげぐちたたく者もある。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
虚実は知らぬが、「十ウで神童、ハタチで才子、二十以上はタダの人というお約束通り、森の子も行末はタダの人サ、」と郷人の蔭口かげぐちするのをれ聞いて発憤して益々ますます力学したという説がある。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
貰った給金は残らず家の方に仕送って家からたまに届けてよこす衣類といっては、とても小樽では着られないものばかりなので、奥さんからは皮肉な眼を向けられ、朋輩からは蔭口かげぐちをたたかれる。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
甚太夫の負けざまは、間もなく蔭口かげぐちの的になった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蔭口かげぐちやら壁訴訟やらの絶えることはない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
蔭口かげぐちに、男に似るとはるるはよし
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
參詣人さんけいにんへも愛想あいそよく門前もんぜん花屋はなや口惡くちわかゝ兎角とかく蔭口かげぐちはぬをれば、ふるしの浴衣ゆかた總菜そうざいのおのこりなどおのずからの御恩ごおんかうむるなるべし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ともすようにして暮らしたその日その日のめしの減り方まで多いの少いのと云うので食事も十分にはれなかったくらいであった奉公人は蔭口かげぐちをきいて
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
バツの惡くなつた金之丞は、六郎の不遠慮な蔭口かげぐちふうずる爲には、平次を外へ引張り出す外にはなかつたのです。
「かくてあらんため——北の方なる試合に行き給え。けさ立てる人々の蹄のあとを追い懸けて病えぬと申し給え。この頃の蔭口かげぐち、二人をつつむうたがいの雲を晴し給え」
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ういふ遠慮ゑんりよのない蔭口かげぐちかれるまでにはくるしいあひだの三四ねんすごしてたのである。かれ生活せいくわつはほつかりと夜明よあけひかりたのであつた。おつぎはこのとき廿はたちこゑいてたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
生まれ故郷の清河県せいかけんでもそうだったが、この街でもそろそろ兄さんを小馬鹿にする餓鬼がきどもの声が立っている。饅頭まんじゅう売りの人三化七にんさんばけしちだとか、ぼろッれの儒人こびとだとかろくな蔭口かげぐちを言やあしねえ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
参詣人さんけいにんへも愛想よく門前の花屋が口悪るかかもとかくの蔭口かげぐちを言はぬを見れば、着ふるしの裕衣ゆかた総菜そうざいのお残りなどおのづからの御恩もかうむるなるべし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雪子ちゃんがいれば重宝だものだから、それで此方へ帰らしてくれないのだ、と云うくらいな蔭口かげぐちはきいた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……そんなばあい、もしここで、彼らが一年の楽しみとしておる元宵節げんしょうせつの行事までを、禁止すると発令したら、またも不景気の様相を一倍にし、怨嗟えんさ蔭口かげぐち、果ては暴動にもおよばぬ限りもありません
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あれが頭の子でなくばと鳶人足とびにんそくが女房の蔭口かげぐちに聞えぬ、心一ぱいに我がままをとほして身に合はぬはばをも広げしが、表町おもてまちに田中屋の正太郎しようたらうとて歳は我れに三つ劣れど
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ゆえに様子を知らない新参の入門者は二人の間を疑うよしもなかったというまた鵙屋の奉公人共はあれでこいさんはどんな顔をして佐助どんを口説くどくのだろうこっそり立ちきしてやりたいと蔭口かげぐち
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
年は随一若けれども客を呼ぶに妙ありて、さのみは愛想の嬉しがらせを言ふやうにもなく我まま至極の身の振舞、少し容貌きりようの自慢かと思へば小面こづらが憎くいと蔭口かげぐちいふ朋輩もありけれど
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
としずいわかけれどもきやくぶにめうありて、さのみは愛想あいさううれしがらせをふやうにもなくわがまゝ至極しごく振舞ふるまいすこ容貌きりよう自慢じまんかとおもへば小面こづらくいと蔭口かげぐちいふ朋輩はうばいもありけれど
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
仁和賀にわか金棒かなぼう親父おやぢ代理だいりをつとめしより氣位きぐらいゑらくりて、おびこしさきに、返事へんじはなさきにていふものさだめ、にくらしき風俗ふうぞく、あれがかしらでなくばと鳶人足とびにんそく女房にようぼう蔭口かげぐちきこえぬ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
オヽおまへ留守るす差配さはいどのがえられてといひさしてしばたゝくまぶたつゆ白岡鬼平しらをかきへいといふ有名いうめい無慈悲むじひもの惡鬼あくき羅刹らせつよと蔭口かげぐちするは澁團扇しぶうちはえんはなれぬ店子共たなこども得手勝手えてがつて家賃やちん奇麗きれいはらひて盆暮ぼんくれ砂糖袋さたうぶくろあましるさへはしかばぐる目尻めじり諸共もろとも眉毛まゆげによぶ地藏顏ぢざうがほにもゆべけれど
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
またなかやと我身わがみくらべて最憐いとおしがりこゝろかぎなぐさめられ優子いうこ眞實しんじつたのもしくふかくぞめし初花はつはなごろもいろにはいでじとつゝみしは和女そなたへの隔心かくしんならず有樣ありやう打明うちあけてといくたびも口元くちもとまではしものゝはづかしさにツイひそゝくれぬ和女そなたはまだ昨日今日きのふけふとて見參みまゐらせしこときならんが婢女をんなどもは蔭口かげぐちにお
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)