こは)” の例文
旅行をする折にも手がこはばるとけないからといつて、ピアノを汽車のなかに担ぎ込んで、ひまさへあれば鍵盤キイを打つてゐる人である。
たひはくやしくつてのやうに眞赤まつかになりました。けれどまたこわくつて、こほりのやうにこはばつてぶるぶる、ふるえてをりました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
手桶てをけつめたいみづさらした蕎麥そば杉箸すぎはしのやうにふといのに、黄蜀葵ねり特色とくしよくこはさとなめらかさとでわんからをどさうるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかも翌朝目覚めた時には、体が木のやうにこはばり節々が痛むところの自分を、苦笑をもつて知らなければならなかつた。
その油氣あぶらけのないこはかみが、ういふわけか、あたま眞中まんなか立派りつぱ左右さいうけられてゐるさまを、えずまへうかべた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたしはこはばつた心が急に融ける思ひがして、同じくらゐせいの高い相手の顏に、感動の眼を見張つた。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
夫婦ふうふきてふたゝ天日てんじつあふぐのは、たゞ無事ぶじしたまで幾階いくかいだんりる、そればかり、とおもふと、昨夜ゆふべにもず、爪先つまさきふるふ、こしが、がくつく、こほつてにくこはばる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「君の毛髮もずゐぶんこはさうだな……」と詩人は路易の刈り立ての頭へ目をやりながら言つた。
(旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
るい あらまあ、奥様、そんなにおあらたまりになつちや、わたくし、舌がこはばつてしまひますわ。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「案の通りやつて来たな。」と云ふ風に、道助は落ちついて微笑し初めた、がそれが、途中でふいとこはばつてしまつた。彼女が傍につゝ伏して肩を震はせてゐるのだつた……
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
私は、長く坐つてゐたので、こはばつてゐた。さうして、馬車の騷音と動搖で、混亂してゐた。私は元氣を出して、自分の周圍を見た。雨と風と暗闇くらやみとが、大氣に瀰漫びまんしてゐた。
にじり足につめあひ候ふて、たがひに声ばかり数十度も交し、やがては、押太鼓も耳には聞えず、わが声も人のもわかたず、眼くらみ、槍もつ手はこはばり、身心地も候はず、一瞬
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時のことを思ひ出したらしく、お玉は美しい顏をこはばらせて、固唾かたづを呑みました。
忽然として我れを忘れた歓喜と此世ならぬ陶酔との絶頂にあつた一同の顔は一斉に化石した如く蒼くこはばり、そして彼等は、ハツと一時に息をひそめて、睜開みひらいた視線を其方に向けた。
このたいには偃松はひまつのかはりに、いはやなぎ、しゃくなげ、なゝかまど、やまはんのき、べにばないちごなど生育せいいくし、とくにしゃくなげはつや/\したあつこはえだうつくしいはな目立めだつので
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
飯もつめたくなつてゐたりこはかつたりするので、冷吉のにはたんびに粥を作つた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
糊を附けてこはばつた
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「もうい/\。」森久保氏は百姓のやうなこはつぱしい掌面てのひらを鼻先でり廻す。そして直ぐ説経祭文せつきやうさいもんのやうな節であとの文句を読み続ける。
それにみぎかたのあたりでこはばつたやうでうごかしやうによつてはきや/\と疼痛いたみおぼえた。かれ病氣びやうき其處そこあつまつたのではないかとおもつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
頬は涙が乾いてこはばつて居た。彼はぢつと自分の心の方へ自分の目を向けた。さうして心のなかでいくつかの自分同士がする会話を、人ごとのやうに聞いて居た——。
彼方あつちきませう」とつて、ちやとほして、廊下らうかづたひにちひさな書齋しよさいはひつた。其所そこには棕梠しゆろふでいたやうな、おほきなこはが五ばかりとこかゝつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、疼々いた/\しいこはばつた、あめほこり日光につくわうをしたゝかにつた、功羅こうらへた鼠色ねづみいろおほき蝙蝠こうもり
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それなのにあなたはその小さな蒼ざめた顏を、あんな決然とした冷たい樣子をしてこはばらしてゐるのだ。私には我慢がならなかつた。おし、もう、そして眼をお拭きなさい。
鈴川主水もんどは相變らず、冷たい顏をこはばらせて、思ひきつたことをいふのです。
それは、その頃まで道助の周囲を取りいてゐた空気の明暗をよく呑込んだ言葉だつた。然しそれを聞くと、道助はかへつて自分の気持ちが妙にこはばるのを感じた。で彼は窓の外へ眼をやつた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
「えゝよ卅までひとりぢやかねえかられげはいまにむことんだから」勘次かんじ喧嘩けんくわでもするやう容子ようすこはばつたしたでいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
王のこはつぱしい針金のやうな髪の毛がだんだん白くなるのを見つけた皇后は、もうぢつとしてゐられなくなつた。
言はば花片と葉との間のものとでも言ふやうなものにまでこはばつて行くのを見た事があつた。
こはいのがごそりとげると……靴下くつしたならまだい「なに體裁ていさいなんぞ、そんなこと。」邊幅へんぷくしうしないをとこだから、紺足袋こんたびで、おやゆびさきおほきなあなのあいたのが、油蟲あぶらむしはさんだごとあらはれた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
瀬戸物せとものぼたんいた白木綿しろもめん襯衣しやつて、手織ておりこは布子ぬのこえりから財布さいふひもたやうななが丸打まるうちけた樣子やうすは、滅多めつた東京とうきやうなど機會きくわいのないとほやまくにのものとしかれなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
階子段はしごだんの下で、手代の金之助は顏をこはばらせるのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「さうぢや、右の三人は無論すぐれては居るが」家康はいつもの癖で、こはばつた掌面てのひらで軽く膝頭を叩いた。
膏薬かうやくがすにもおやあにまたそばのものがけると、かたくなつてこはばつたのが、めり/\とにくにくツついてれる、ひい/\とくのぢやが、むすめをかけてやればだまつてこらへた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かくしつゝ我は痩せむと茶を掛けてこはき飯はむ豈うまからず
長塚節歌集:3 下 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
和七の表情は急にこはばります。
といつて、こはつぱしい掌面てのひらにそれを取り上げたと思ふと、ばりばり音をさせて噛んだ。
さいはひかぜく、雪路ゆきみちたと山中さんちうでも、までにはさむくない、みしめるにちからるだけ、かへつてあせするばかりであつたが、すそたもとこはばるやうに、ぞつとさむさがせまると、山々やま/\かげがさして
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「鳥取か。」山岡氏は両手を卓子テーブルの上につかぼうにして、顔をその上に載つけた。ごりごりした顎髯にも痛まない程掌面てのひらこはいらしかつた。「ぢや訊くが、鳥取では米は幾らしてるね。」