此家こゝ)” の例文
かね此家こゝに居る頃、三七を殺すつもりで仕掛けて置いた、はりの上の鐵砲の火皿に、火をつけた線香を立てて、素知らぬ顏をして歸つた
此家こゝ世辞せじかひる者はいづれも無人相ぶにんさうなイヤアな顔のやつばかり這入はいつてます。これ其訳そのわけ無人相ぶにんさうだから世辞せじかひに来るので婦人
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
此家こゝへ來れば酒を飮むものとめてゐるらしい道臣は、直ぐ盃を取り上げたが、かん微温ぬるさうなので、長火鉢の鐵瓶の中へ自分に徳利をけた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
立つて箪笥の大抽匣、明けて麝香じやかうと共に投げ出し取り出すたしなみの、帯はそも/\此家こゝへ来し嬉し恥かし恐ろしの其時締めし、ゑゝそれよ。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
お八重は、もう全然すつかり準備したくが出來たといふ事で、今其風呂敷包は三つとも持出して來たが、此家こゝの入口の暗い土間に隱して置いて入つたと言ふ事であつた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
まへ新網しんあみかへるがいやなら此家こゝ死場しにばめてほねらなきやならないよ、しつかりつておれとふくめられて、きちや/\とれよりの丹精たんせいいまあぶらひきに
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ロミオ わしまたいつまでもうして此處こゝってゐよう、そもじにもわすれさせ、自分じぶん此家こゝことほかみんなわすれて。
「えんじゃ、そうして居られん。一寸聞きたいことがあって来たのやがな。」と此人の癖であるが勿体もったいらしく前置きして、「どうや此家こゝ親爺様おやっさまは帰らっしゃったか。」
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
これが、哥太寛こたいくわんふ、此家こゝ主人あるじたち夫婦ふうふ祕藏娘ひざうむすめで、今年ことし十八にる、哥鬱賢こうつけんうてね、しま第一だいいちうつくしいひとのものにつたの。和蘭陀オランダ公子こうし本望ほんまうでせう……じつそれのぞみだつたらしいから——
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして其家そこ此家こゝの質使をすることを平氣で吹聴した。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
女房に持ったが宜かんべえと、其の縁合えんあい此家こゝへお前様めえさんを入れた時何と云わしった、有難いこんだ、果報やけがすると云ったじゃねえか
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お前の知つてゐることを、皆んな話してくれないか——此家こゝには人一人殺して、ヌクヌクと納まつてる人間があるに違ひない」
おのれもまたをりを得てはんと、其家の在りなど予て問ひ尋ね置きたりしかば、直ちにそれかと覚しき店を見出して、此家こゝにこそあれとと入りぬ。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
此家こゝの旦しう、幾つやろな、若いのやら年寄りやら分れへん。」と、なますの大根を刻みながらいふものがあれば
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
お前新網へ歸るが嫌やなら此家こゝを死場と極めて勉強をしなけりやあ成らないよ、しつかり遣つてお呉れと言ひ含められて、吉や/\と夫れよりの丹精今油ひきに
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此家こゝ被來いらつしやるとでも被仰おつしやつて、お出懸けになられたんで御座いますか?』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今では此家こゝの主婦となつて切りまはして居るといふことなどをも話した。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
前刻さツきうまいなゝいたのは此家こゝよりほかにはないとおもつたからつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
漸くあとを追ってめえりまして、此家こゝへ来るとお前様めえさま足い洗ってあがるところだ、他人ひとの荷物を自分の荷物のように知らぬ顔をして呆れた人だア
これを飜譯ほんやくすると、給金は安いけれど、他へ行つては使ひ手もないので、我慢して此家こゝに居る——といふことになるのでせう。
此家こゝ町子まちこが十二のとしちゝらう低當ていたうながれにりて、れより修膳しゆぜんくわへたれども、みづながれ、やまのたゝずまい、まつがらし小高こたかこゑたゞそのむかしのまゝなりけり
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ねえさん此家こゝは景色がいね。』と、小池はお光のいだサイダーを冷たさうにして飮んだ。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
なまじ賢立かしこだてして我が好みのまゝに作らせんよりは却て可かるべしと思ひしかば、いや、我猶釣の道に昧ければ我が好みを云ふべくもあらず、たゞ此家こゝの品の必ず佳かるべきを知りて来れるものなれば
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
『だつて、高見君が此家こゝに居たのは本當だらう。』
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
此家こゝから又駈出して途中散途さんとで、何様どんな軽はずみな心を出して、間違まちげえがねえとも限らねえ、まア/\己のいう通りにして居ねえといって
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ところで、その里へやつたお藤といふ娘は、母親がなくて此家こゝで三つになるまで育つたわけだが、乳母のやうなものを置かなかつたのかな」
いとおぼしめさばお取極とりきくださりませ、此家こゝ貴郎あなたのおうち御座ござりまするものなんとなりおぼしめしのまゝにとやすらかにはひながら、萬一もしそのにてりたらばと無情つれなきおもひ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此家こゝの旦那一體幾つやろな。頭は昔からあんな工合に茶瓶さんやがな。」
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「ところでもう一つ、金田屋は拔け荷を扱つて居ると、もつぱら世上の噂だ。此家こゝ南蠻なんばん物の鐵砲などはありやしないか」
長「あの暗い処にいる娘は鋏鍛冶金重という上手な爺さんの娘ですが、親が死んで石塔料の為に自分から此家こゝへ駈込んで身を売ったと云うことです」
此家こゝ嫁入よめいりせぬ以前いぜん、まだ小室こむろ養女やうぢよ實子じつしつたときに、いろ/\のひと世話せわをしてれて、種々いろ/\口々くち/″\申込まうしこんでれた、なかには海軍かいぐん潮田うしほだといふ立派りつぱかたもあつたし
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『もう歩くのはやだね。……此家こゝとまつて行かうか。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
長「嘘を吐いて明けるわけじゃアねえが、此家こゝの親方がおめでたく成ったのでくやみに来たんだが、明日あした屹度きっときますから宜しく、また濱田へお使いかえ」
そんなイヤなものでないことは、此家こゝに三日も泊つてゐればわかることだ。あしたに武藝をはげみ、ゆふべ孔孟こうまうの教へを聽く、修業の嚴しさも一と通り見て貰ひたい。
戀に人目をしのぶとは表面、やみ夜もある物を千里のかち跣足はだし誠意まことは其時こそ見ゆれ、此家こゝよりは遠からぬ染井の別墅に月の幾日を暮すとは、新聞をまたでも知るべき事なり
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此家こゝへ來ると女護の島へ來たやうな氣がしまんな。」
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
此家こゝかねて自分も時々借りる家と見えまして、此の二階へ夜半よなかに忍び込んで頬冠をり、ほッと息をきました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いや、此處で宜い、格子を開けるまでも無いが——今晩平松屋の旦那が此家こゝから歸つたのは、何刻なんどきだつた」
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
差配さはいどのがえられてとはゝことば繰返くりかへしてなにわけらねど今直いますぐに此家こゝ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何時も岡村由兵衞が一緒で、或日丁度自分のうちの少し手前に懇意なものがありまして、此家こゝでの宴会を済まして表へ出ると、れ一時でございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「——世間では何んといふか知りませんが、此家こゝへもちよい/\お見えになりました。こんな稼業をしてをりますから、客の選り好みも言つちや居られません」
強情は平時つねのこと病ひに勝てぬは人の身なるに、其やうな氣みじかは言はで心靜かに養生をせであらんやは、最初はじめよりいひしやうに此家こゝには少しも心をおかず遠慮もいらず斟酌も無用にして
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
扇町という処へ帰るんだが、中木場という処の土橋を渡れば真直に出られるという帰り道まで聞いたんざますが、わし此家こゝを出るわけにはいきまへんから
「お孃さんの許婚の秋月勘三郎さんが、此家こゝの主人と仲違ひをしたさうだが、そのわけを聽き度いのだよ」
れい酒癖しゆへき何處どこみせにかたふれて寢入ねいりても仕舞しまひしものかそれなればいよいよこまりしことなりうちにてもさぞあん此家こゝへもまたどくなりなにとせんとおもほどよりつもゆきいとゞ心細こゝろぼそ燭涙しよくるゐながるゝおもて二階にかい一人ひとり取殘とりのこされし新田につたのおたか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此処に出船茶屋があります。升田仁右衞門ますだにえもんと申してはの辺きってのい出船宿でございます。船へ乗りますお客は皆早く此家こゝへ参りまして待受けて居ります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そいつは氣の毒な——元日早々つまらねえことを訊いて惡かつたな、——ところでお前は桂庵けいあんの手を通つて來た娘とも思へないが、此家こゝと何にか引つかゝりでもあるのか」
此家こゝへ来ると三日も勤まりやせんで、ハア誠にどうも何もごぜえやせん、玉子焼に鰌汁どじょうじる生節豆腐なまりどうふでハア
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そんな事になれば、私は此家こゝから出てしまひます。——私の本當の兩親もまだ達者ですし」
新吉も別にく処も無い事でございますから、少し年をとった女房を持った心持でいましたが、此家こゝへ稽古に参りまする娘が一人ありまして、名をおひさと云って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)