うれ)” の例文
今の人民の世界にいて事をくわだつるは、なお、蝦夷地えぞちに行きて開拓するが如し。事の足らざるはうれいに非ず、力足らざるをうれうべきなり。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
文化十年には蘭軒が正月に頭風づふううれへたことが勤向覚書に見えてゐる。「正月十日私儀頭風相煩候に付、引込保養仕候段御達申上候」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
狐は毎夜その女のところへ忍んで来るので、張の家では大いにうれいて、なんとかして追いはらおうと試みたが、遂に成功しなかった。
事実はその正反対で、恐らく日本広しといえども北九州の青年ほど天性、国家社会をうれうる気風を持っている者はあるまいと思われる。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これらのものをみること汝のうれへとならずして却つて自然が汝に感ずるをえさするかぎりの悦樂たのしみとなる時速かにいたらむ。 三一—三三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「このときこそ、大兵を起して、年来の魏のうれいたる宿敵蜀を伐つのだと、帝には仰せられている。その事はほんとうでしょうか」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
司馬穰苴しばじやうしよ田完でんくわん(一)苗裔べうえいなりせい景公けいこうときしん(二)けんち、しかうしてえん(三)河上かじやうをかし、せい敗績はいせきせり。景公けいこうこれうれふ。
公之をうれへ、田中不二麿ふじまろ、丹羽淳太郎等と議して、大義しんほろぼすの令を下す、實に已むことを得ざるのきよに出づ。一藩の方向はうかう以て定れり。
無上の幸福、無上の満足がその間に湧き出る。天地間の宝蔵は無限であるから、彼はごうも材料の枯渇をうれうるには及ばない。
いわんや草莽そうもうの中に蟄伏ちっぷくし、超世ちょうせいの奇才をいだき、雄気勃々ぼつぼつとして禁ずる能わざるものにおいてをや。いわゆる智略人に絶つ、独り身なきをうれう。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
とありしは自己の性質能力をさとり、もって自己の使命の何たるを認識することで、世には人をらざるをうれうる者がある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
また学問が田舎の百姓の娘達に普及さるれば、農事を嫌忌するに至るとうれうるものもあるが、これもらぬ心配である。
夫婦共稼ぎと女子の学問 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
あはれなる事に書き続けたまひたる末、かくも母が年頃の瘠我慢、我に後顧うしろみうれひあらせじとて、さまざまなる融通にその場を凌ぎたまひし結果。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
こたえて曰く、政は臣を選ぶにあり。季康子きこうし政を問う。なおきを挙げてこれをまがれる(人の上)にけば、すなわち枉れる者なおからん。康子盗をうれう。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
男子の多くがまだおおやけうれうるの余裕なく、純然たる個人生活に没頭して生きねばならぬという世の中になると、我々はどうしても天下万人のためにも
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこで五通をうれえていた者は、一度その家へ来て泊ってくれといって頼みに来た。万はそこに一年あまりもいて、そのうえで細君を伴れて国へ帰っていった。
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
そこでその弟が海邊に出て泣きうれえておられた時に、シホツチの神が來て尋ねるには、「貴い御子樣みこさまの御心配なすつていらつしやるのはどういうわけですか」
(御機屋の事初編に委しく記せり)手をとゞれば日限におくる、娘はさらなり、双親ふたおやも此事をうれなげきけり。
コロップはやわらかで少しも刃を傷めるうれいが無いからそれで之をそッと其剣先へ刺込で衣嚢かくしへ入れて来たのだ余
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その肥長比売うれえて海原をてらして、船より追い来れば、ますます見畏みて、山のたわより御船を引き越して逃げ上りいでましつとあるを、この語の遠祖と言われたが
近眼鏡を掛けざるものは書生に非ざるが如く収賄せざるものは遂に官吏に非ざるの思あるに至らんか。恰も痳病をうれいざるものは男児に非ずと云うに等しかるべし。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自分の脳神経の不健康をうれうて鼻の療治をし、夫婦関係が無意義であると言いながら家庭の事情を緩和すべき或る努力をし、そしてその矛盾に近代人の悲しみ、苦しみ
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
曾は平生その金のすくないのをうれえていたが、この時にはその金の多いのを患えたのであろう。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
今日信州あたりの博物学者が、嗟嘆するように、火山灰のために、化石という地史上唯一の証券が埋没されて、手もつけられないというようなうれいは、先ずなかろうと思われる
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
哀しきかも我が父、痛ましきかも我が母、一身死に向ふ途をうれへず、唯二親世にいます苦を悲しぶ。今日長く別れなば、何れの世にかることを得む。すなはち歌六首を作りてみまかりぬ。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ほのほ来りて身にせまり、苦痛おのれむれども、心にいとうれへず、でんことを求むるこころ無し
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
豚を放てば自分の畠を荒されるうれいがあった。いゝ豚がよその悪い種と換るのも惜しい。それに彼は、いくらか小金を溜めて、一割五分の利子で村の誰れ彼れに貸付けたりしていた。
豚群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
このこと相伝えて一村中、老となく少となく歯痛をうれうるものあれば、みな争いきたりて老婆の治療を求むるに、老婆はその都度必ず『油桶ソワカ』を唱えて、よくこれを医治したり
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ほかに対しては卑屈これ事とし、国家の恥辱ちじょくして、ひとえに一時の栄華をてらい、百年のうれいをのこして、ただ一身の苟安こうあんこいねがうに汲々きゅうきゅうたる有様を見ては、いとど感情にのみはしるのくせある妾は
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
サンタ夫人はしづかに友を顧みて、好き處に來給ひたり、アントニオ君は熱をうれへ給ふにやあらん、心地惡しとのたまひつゝ、忽ち青くなり又赤くなり給ふ故、安き心はあらざりきなど云ひ
ために平素往々うれうる所の、扁桃腺炎へんとうせんえんを誘起し、体温上昇し咽喉いんこうふさがりて、湯水ゆみずも通ずること能わず、病褥びょうじょく呻吟しんぎんすること旬余日、僅かに手療治てりょうじ位にて幸に平癒へいゆせんとしつつありしが
「クワイア」を作ることをこれ務むるが如きは是れ荘子の所謂いはゆる水止水以火止火ものなり、思ふに日本の今日は器械既に足れり、材料既に備れり、唯之を運転するの人に乏しきをうれふるのみ
儀の封人ほうじんまみえんことを請う。曰く、君子の斯に至るや、吾未だ嘗てまみゆることを得ずんばあらざるなりと、従者之を見えしむ。出でて曰く、二三子何ぞ喪うことをうれえんや。天下の道なきや久し。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
こう分業が行われだすと融通がかなくなります。ちょっと舌癌ぜつがんにかかったからと云うてかかとで飯を食う訳には行かず、不幸にして痳疾りんしつうれいたからと申してへそで用を弁ずる事ができなくなりました。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明州みんしうひと柳氏りうしぢよあり。優艷いうえんにして閑麗かんれいなり。ぢよとしはじめて十六。フトやまひうれひ、關帝くわんていほこらいのりてあらずしてゆることをたり。よつて錦繍きんしうはたつくり、さらまうでてぐわんほどきをなす。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
示せしより今度音羽おとは町の浪人らうにん大藤武左衞門の娘お光が矢張やはり癲癇てんかんうれひありとて愚老ぐらうの方へ療治れうぢをば頼に來しゆゑ診察しんさつするに數年の病のかうぜしなれば我妙藥わがめうやくの力にても到底つまり全快覺束おぼつかなければ一時は之を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
黙してめられて笑いて損をしたるがごとく、終歳胸痛をうれうるがごとく、生涯父母の喪にいるがごとくなるもまたはなはだ厭うべし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さて第四に至って、作者はその貧をうれえずに、安楽を得ているといっている。これも反語であろうか。いや。そうではない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あなたが弓矢を善くするのを存じて居りますので、どうぞ毒矢をもってかれを射殺して、われわれのうれいを除いて下されば、かならず御恩報じをいたします
(御機屋の事初編に委しく記せり)手をとゞれば日限におくる、娘はさらなり、双親ふたおやも此事をうれなげきけり。
といってほんとうのことはいわなかった。それから間もなく王侍御は京兆尹けいちょういんに抜擢せられた。年はもう五十あまりになっていた。王はいつも孫のないのをうれえていた。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
〔評〕幕府ばくふ南洲にわざはひせんと欲す。藩侯はんこう之をうれへ、南洲を大島おほしまざんす。南洲貶竄へんざんせらるゝこと前後數年なり、而て身益さかんに、氣益さかんに、讀書是より大に進むと云ふ。
人のおのれを知らざるをうれうる者はさらに多いが、おのれを知らざるをうれうる者ははなはだ少ない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
前にあげた盗をうれうる問答もここに並んでいるのである。これら一切の問答を通じて、季康子が晩年の孔子に敬をいたした政治家であったことは認めてよいであろう。従って
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
気候のために阻礙そがいせらるるのうれいなく、また海は天然の城・とりでなるがゆえに、外寇がいこうの危難おのずからまれに、したがって兵籍に編入するを要する人口の割合またおのずから少なく
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
猫が人に子を取らるるをうれいてその子をい(ロメーンズの『動物の智慧』一四章)、諸方の土蕃が親のしかばねを食い、メキシコ人等が神にかたどった餅を拝んだ後食うたなども同義である。
ここにその御子、肥長ひなが比賣に一宿ひとよ婚ひたまひき。かれその美人をとめ竊伺かきまみたまへば、をろちなり。すなはち見畏みて遁げたまひき。ここにその肥長ひなが比賣うれへて、海原をらして船より追ひ
えうへいつよくし(一〇六)馳説ちぜい(一〇七)從横しようくわうものやぶるにるなり。ここおいみなみは百ゑつたひらげ、きた陳蔡ちんさいあは(一〇八)しんしりぞけ、西にししんつ。諸矦しよこうつよきをうれふ。
と、ひそかにうれえているものらしく、いつまでも酔えない顔いろであった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある日その寺に大法会だいほうえありて、隣村の老婆も参詣さんけいせしに、住職の小児の歯痛をうれうるものを呼びて、そのほおに手をあて、一心に『アビラウンケンソワカ』といえる呪文を三べん繰り返して唱うれば
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)