めぐ)” の例文
よろしく本朝の聖時にのっとらせ、外国の美政をも圧するの大英断をもって、帝自ら玉簾の内より進みいでられ、国々をめぐらせたまい
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
きまりが悪いか。今更きまりが悪いもなかろう。——十年振りで、おまえのような体の女にめぐり合ったは天のたすけ、思う存分、その体を
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
お兄様にめぐり逢い一緒に力を合わせさえしたら、たかが山国の受領ぐらい討ち取ることも出来ように、思うようにまかせぬ浮世ではある
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この大任を与えられたのは、時あって、めぐり会った武士最高のさち! ほまれ! そう思うにつけ五体の肉のまるのを禁じ得なかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むしろ、常に我々をめぐりややともすれば我々に襲い掛ろうとしている所の数知れない痛苦と心配とから離脱しようという事をねがうべきだ。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
鉄柵と云うのは、ホンの腰位の高さの煉瓦れんがの柱の間に、やはり同じ位の高さでめぐらしてあるので、飛越えるには大した造作はないのです。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それから柿丘は、室内をめぐり夫人を案内して廻った。最後に二人が並んで立ったのは、例の奇怪なる振動を出すという音響器の前だった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
めぐらし段々だん/\きけば丁山小夜衣の兩人共に追々おひ/\全盛ぜんせいに成て朝夕あしたゆふべに通ひ來る客も絶間たえまなく吉原にても今は一二と呼るゝとのうはさを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
道順 ところがその夜の話にその人らは一緒にこの雪峰チーセをめぐろうということを承諾しない。皆別々に巡るという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
何う致しまして、んな事はお互でございます、お前さんも西国巡礼私も西国をめぐるので、一人では何だか心細うございますが、一緒にけば何処どこ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
堀割ほりわりづたいに曳舟通ひきふねどおりからぐさま左へまがると、土地のものでなければ行先ゆくさきの分らないほど迂回うかいした小径こみち三囲稲荷みめぐりいなりの横手をめぐって土手へと通じている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
イエスはまだ国中の町々村々をめぐってあまねく神の国の福音を宣べ伝えねばならず、またもっとたくさんの病者・罪人・不幸な人々を助けねばならない。
掘割づたいに曳舟通ひきふねどおりからぐさま左へまがると、土地のものでなければ行先の分らないほど迂回うかいした小径こみちが三囲稲荷の横手をめぐって土手へと通じている。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そんなものが、頭の中を万字巴まんじともえとかけめぐって、最早もはや物事を判断する気力もなく、ままよ、なる様になれとばかり、彼は突如として大声に叫び出すのであった。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あらたかな御慈みめぐみ深い観世音菩薩かんぜおんぼさつをまつってある寺々に、お札を打ってめぐるのであります。私もまた丁度その巡礼のように、四国の品々を追って歩きましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この頃は江戸のかたきに長崎でめぐったような心持がする。学問は立身出世の道具である。親の機嫌にさからって、師走しわす正月の拍子ひょうしをはずすための修業ではあるまい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
遠野の城下はすなわち煙花の街なり。馬を駅亭の主人に借りてひとり郊外の村々をめぐりたり。その馬はくろき海草をもって作りたる厚総あつぶさけたり。あぶ多きためなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こう大将たいしょうは、とても正当せいとうちからではおつ軍勢ぐんぜいふせぐことができない、そうして降参こうさんしなければならないとおもいましたから、これはなにか策略さくりゃくめぐらして、おつ兵隊へいたい
酒倉 (新字新仮名) / 小川未明(著)
古戦場を弔うような感想を生じてその一軒に入り、中食ちゅうじきを求め数多き一間に入って食いながら床間とこのまを見ると、鉄砂で黒く塗りいる。他の諸室をめぐるに皆同様なり。
さうつぶやきながら、わたし部屋へやすみからまくらめぐらして、あかるい障子しやうじはうにそのおもてけた。南向みなみむきといふことなんといふ幸福かうふくことであらう、それはふゆ滋養じやう大半たいはん領有りやういうする。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
馬車は川岸をめぐめぐって走るので、川を隔てて緑葉の重々と繁り合っているのを仰ぎ見る心地好さ。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
宇津木様、私共はあなた様のお力になるというよりは、こうして旅をめぐって歩くのが何より楽しみなのでございますから、どうか打捨うっちゃってお置きなすって下さいまし。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
トンカツにめぐり会わない日本人はようやくその代用品を見つけて、衣を着た肉の揚物あげものに対する執着しゅうちゃくたすだけで我慢しなければならぬ。それはこうしの肉のカツレツである。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それで發掘場はつくつばめぐりしてると、珍把手ちんとつて珍破片ちんはへんすくなからずなかに、大々土瓶だい/″\どびん口邊こうへんの、もつと複雜ふくざつなる破片はへんる。完全くわんぜんつたら懸價無かけねなしの天下てんかぴんだ。
全國の靈場をめぐつて、せめては後生を願はうといつた、悲しい決心を定めると、佐兵衞の引止めるのも、お絹の歎きも振り切つて、彌三郎は越後屋を飛出して了ひました。
又百二十八社めぐりと云って、住吉、生玉いくたま高津こうづの三社とその末社とへ月詣つきまいりをしたこと。節分には上町うえまちの寺々の地蔵巡りをして、自分の歳の数だけもちを供えて廻ったこと。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
このたけの高いぶっきらぼうなじいさんを、霊公が無闇むやみに賢者として尊敬するのが、南子には面白くない。自分を出し抜いて、二人同車して都をめぐるなどとはもっての外である。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
一山ひとやまめぐって、も一つ山にさしかかろうとする頃うしろの方で鈴の音がかすかに聞こえていた。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
三十分もたないうちであつた、そして目隠しの植込をめぐつて入口で駐まると、女中が二三人、杉田におくれて車をおりるI—子の姿を見ると、にこ/\して愛相よく出迎へた。
草いきれ (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
修驗者は日本國中を大抵めぐつたさうで、いろ/\の面白い事や怖い話を知つてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
まことなんじらにぐ、なんじらイスラエルの町々まちまちめぐつくさぬうちにひときたるべし。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
直接の関係はなくとも、く間接の感化かんくわをうくるものなれば、尊敬の意をうしなふまじきものなりなど、花は見ずして俯向うつむきながら庭をめぐるに、花園はなぞのひらきて、人の心をたのします園主ゑんしゆ功徳くどく
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
如何いかなる境界におつるとも加茂かもの明神も御憐愍ごれんみんあれ、其人そのひと命あらばめぐあわせ玉いて、芸子げいこも女なりやさしき心入れうれしかりきと、方様の一言ひとことを草葉のかげきかせ玉えと、遙拝ようはいして閉じたる眼をひらけば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ひとり婚礼に至りては、儀式上、文字上もんじじやう、別に何等の愛ありて存するにあらず。たゞ男女相会して、粛然とさかづきめぐらすに過ぎず。人のいまだ結婚せざるや、愛は自由なり。ことわざに曰く「恋に上下のへだてなし」と。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そういう穏かな時刻なら、彼は昔から何度もめぐりあっていた。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
それは精神的の悦びのように彼自身の躯のなかをめぐった。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
旗青き独木舟うつろぶねそこはかとめぐり漕ぎたみ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「ほんとだ……まあずいぶん遠くまでよく見えること。梅ヶ辻のほうだの……それから桃谷の大師めぐりの人が、ぞろぞろと歩いてゆく」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
因果はめぐ小車おぐるまの……といったような金言があるの。だが金言というやつは、それ自体では値打ちがなく、逆理において値打ちがあるらしい。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
堀割ほりわりづたひに曳舟通ひきふねどほりからぐさま左へまがると、土地のものでなければ行先ゆくさきわからないほど迂囘うくわいした小径こみち三囲稲荷みめぐりいなり横手よこてめぐつて土手どてへと通じてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
三千子は、心の中にうなずいた。部屋部屋を、順序正しく廻ってくれば、この一行は、まだもっと遅れ、二三十分も後になって、この部屋へめぐってくる筈だった。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
帝としては地方をめぐらせたもう最初の時でもなかったが、これまで信濃しなのの国の山々も親しくは叡覧えいらんのなかったのに、初めて木曾川の流るるのを御覧になったら
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
知らざれ共我が亡後なきあとめぐあはば其方力になりてくれよと遺言ゆゐごんして終りてより實にしんはなきよりとは斯如かくのごときならん夫後そのご傳吉は人にたのまれ江戸表へ飛脚ひきやくに來たり途中とちう鴻巣宿こうのすじゆく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
十五世紀にアジア諸国をめぐった露人ニキチンの紀行に多分交趾辺と思わるマチエンてふ地を記し、そこにも似た婦人、昼は夫と臥せど夜は外国男を買うた話が見える。
焼米貰やきごめもらいと称して苗代種蒔なわしろたねまきの日に、子供が袋を持って家々の田をめぐり、もらい集めてあるいた焼米のごときも、ただ彼らをよろこばしめるために調製せられるものでなかった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一山ひとやまめぐつて、も一つ山にさしかからうとする頃うしろの方で鈴の音がかすかに聞こえてゐた。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
国々くにぐにはるなつあきふゆめぐって、くすりきると、また自分じぶんむらかえってきたのです。
おばあさんと黒ねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
いかにも興味なさそうにしながらも色々の物を一々じっと凝視みつめては過ぎて行った。口を堅く閉じて一言も物を云わなかった。それからまた、庭へ出て行った、家のまわりをゆっくりめぐった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
寺は持たずに教団の男女を率いて諸国を行乞ぎょうこつ教化してめぐる宗風であった。この教団の人々を遊行衆と言った。時代の暴風雨に吹き悩まされた土民の男女でこの教団に遁れ入るものが多かった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
三四郎は美禰子から洩れて、よし子につたはつて、それが野々宮さんに知れてゐるんだと判じた。然し其金そのかねめぐめぐつてヷイオリンに変形したものとは兄妹けうだいとも気が付かないから一種妙な感じがした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)