つぼ)” の例文
「禅師様にも、松平元康もとやすどのにも、またその他の方々も、はやたちばなつぼにおそろいで、お館のお出ましをお待ちかねでございますが」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此滝つぼへ万物をなげこめおくに百日をすぐさずして石に化すとぞ、滝坪の近所にて諸木の枝葉又は木のその外生類しやうるゐまでも石に化たるを得るとぞ。
街の中の狭い家ですから庭などは四つぼか五坪位よりもないのですからどうしても室内で何かをしなければならないのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
首をかしげて考へたが、おとよはう着々ちやく/\はなしを進めて染井そめゐの墓地の地代ぢだいが一つぼいくら、寺への心付こゝろづけがうのかうのと
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
家の前には五六十本の低い松の植込みがあって、松のこずえからいて見える原っぱは、二百つぼばかりの空地あきちだ。真中まんなかにはヒマラヤ杉が一本植っている。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
つぼくらいの畑地があって、以前は私がそこへいろいろ野菜を植えていたのだけれども、子供が三人になって、とても畑のほうにまで手がまわらず、また夫も
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
昭和七年の晩秋に京浜に大暴風雨があって、東京市内はつぼ当り三ごくの雨量に、谷窪の大溝も溢れ出し、せっかく、仕立て上げた種金魚の片魚を流してしまった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
長年ながねんの顔があるところから、しばらくは無理がいたけれども、つぼ十五銭の地代が二年近くもとどこおつて、百二三十円にもなつてゐるのは、どうにも返済の見込みが立たない。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
賃錢ちんせんによつて土地とちふかくもあさくもはやくもおそくも仕上しあげることをつてた。竹林ちくりん開墾かいこんしたときかれぢたまゝつぼおほきさをたゞつのかたまりおこしたことがある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
場所は東京の郊外で、東上線の下赤塚しもあかつか駅から徒歩十分内外の、赤松あかまつくぬぎの森にかこまれた閑静かんせいなところである。敷地しきちは約五千つぼ、そのうち半分は、すぐにでも菜園につかえる。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
つぼ村のあたりまで征服して、ここに「日本中央」と刻した石碑を立てたなどと云いまして、すでに平安朝頃からその説はあり、土地の人はその碑が埋まっている筈だというので
本州における蝦夷の末路 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
小屋の中は三つぼほどのせまい部屋で、いっぽうの土間には、まきやしばが、うずたかくつんであり、板の間には、うすべりをしいて、そのまんなかに、いろりがきってあります。
サーカスの怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その中に一万石譜代大名に近いぴんから槍一筋馬一頭二百石のきりまであって、饗庭はどっちかといえば、まずきりに近いほうだから、この屋敷にしたところで五百つぼはないくらい
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
入り口の障子しょうじをあけると、二つぼほどないたがある。そこが病畜診察所びょうちくしんさつじょけん薬局やっきょくらしい。さらに入院家畜にゅういんかちく病室びょうしつでもあろう、犬のはこねこの箱などが三つ四つ、すみにかさねあげてある。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
谷中やなか感応寺かんおうじきたはなれて二ちょうあまり、茅葺かやぶきのきこけつささやかな住居すまいながら垣根かきねからんだ夕顔ゆうがおしろく、四五つぼばかりのにわぱいびるがままの秋草あきぐさみだれて、尾花おばなかくれた女郎花おみなえし
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
『この冬もきびしい寒さになるぜ。去年は一つぼ十四ターレルで売ったっけな!』
彼は庭土をみがいていた、そして百つぼのあふるる土のかなたに見るものはただ垣根だけなのだ、垣根がとこになり掛物かけものになり屏風びょうぶになる、そこまでひろげられた土のうえには何も見えない
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
しかし埋立新田などになると在来の小字はないから、イ通り、ロ通りとか、一ノ升、三ノ割、つぼ、二竿さおとかいう地名のみで区別して行くのであるが、さぞ呼びにくいことであろうと思う。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それは、二十つぼばかりの貝殼かひがらを、のこらず綺麗きれい取出とりだして、やぶはうはこび、其所そこ綺麗きれいに、かひかひいしいしつちつちと、ふるひけてあるにかゝはらず、石器せききも、土器どきも、獸骨じうこつも、なにらね。
まちかど石造いしづくりの銀行ぎんこうがありました。まえに、三つぼにもらぬあきがあって、そこへあおくさしました。ひくさくにはくさりられていたが、大人おとななら造作ぞうさなくまたいではいることができたのです。
青い草 (新字新仮名) / 小川未明(著)
四方しほう板囲いたがこいにして、わずかに正面しょうめん入口いりぐちのみをのこし、内部なかは三つぼばかりの板敷いたじき屋根やね丸味まるみのついたこけらき、どこにも装飾そうしょくらしいものはないのですが、ただすべてがいかにもかむさびて、屋根やねにも
ひとつぼほどの中庭なかにはのせまきにもいのちたたか昆虫こんちゆうが居り
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
事務長のさしがねはうまいつぼにはまった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
動物園の四つぼ半のぬかるみの中では
ぼろぼろな駝鳥 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
つぼつるす花籠に
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
ほの見せて、ただいま行宮あんぐうつぼへ来てひかえております。おそらくは、それとなくお別れにまいったものでございましょうか
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此滝つぼへ万物をなげこめおくに百日をすぐさずして石に化すとぞ、滝坪の近所にて諸木の枝葉又は木のその外生類しやうるゐまでも石に化たるを得るとぞ。
また引きかえし、荒むしろをきわけて小屋へはいり、見た、小屋の中央に一つぼほどの水たまりがあって、その水たまりは赤く濁って、時々水がだぶりと動く。
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼女は一つぼばかりの台所で関西風な芋粥いもがゆをつくりながらこんな事を云った。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
中は、土間二つぼに床が三畳、町印の提灯箱やら、六尺棒、帳簿、世帯道具の類まであって、一人のおやじが寂然じゃくねんと構えている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奇遇きぐうといおうか、皮肉ひにくなぐうぜんといおうか、じつに人間の意表外いひょうがいにでることは、わずか十つぼか二十坪の天地にも、つねに待ちぶせているものだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その肩から満身へみなぎって来た力——粗鉱あらがねのような若い生命の力は——決して、まりつぼたたずんだ志賀寺の上人のように、死を願って立っている姿ではない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちばなつぼというのは、柑橘かんきつの樹の多い南勾配こうばいにある別殿で、こよい義元はそこに、臨済寺の禅師を始め、腹心の者を、表向き夜の茶に招くということで、呼んでいたのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師泰もろやす帯刀たてわきの両将が、勝戦かちいくさのよしを言上ごんじょうのため、つぼの内へ来て、さしひかえておりますが」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廊、また廊を曲がって“平沙へいさノ庭”とよぶつぼの中橋を渡ると、執権御所の錠口じょうぐちだった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
河ッ童穴の奥は、いつのまにか百つぼ程もひろげられて、板も敷いてある。羽目板も立ててある。むしろや座ぶとん、火鉢やせり台、立派な盗賊の都会、盗品の取引市場しじょうとしてさかっている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十八公麿の手をひいて、館のつぼの内へ入ると、養父の範綱のりつなも、吉光の前も
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ中庭のつぼ女竹めだけが、ときおり、かすかなそよぎを見せるだけで——。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれも鞠好きな、上流の貴紳や姫君や公達きんだちばらに相違ない。広やかな鞠のつぼをかこんで、ある一組は、とう椅子いすに寄り、ある一群れは芝生に脚を伸ばしたりして、競技を観ているところであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
介や箭四郎やしろうたちに、そう語っているあいだに、吉光の前は、十八公麿をつれて、つぼの石井戸のそばに立たせ、下碑かひの手もからずに、自身で水を汲みあげて、よごれている足や手を洗ってやっていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つぼ(中庭)の暗がりに夕顔の花がゆれる。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)