かな)” の例文
「音に聞えし真柄殿、何処どこへ行き給うぞや、引返し勝負あれ」と呼びければ、「引くとは何事ぞ、にくい男の言葉かな。いでもの見せん」
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これ必ずしも意外ならず、いやしくも吾が宮の如く美きを、目あり心あるもののたれかは恋ひざらん。ひとり怪しとも怪きは隆三のこころなるかな
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
果せるかな、この平さんは百両の富が当った嬉しまぎれに、友達を無暗に引っぱって角の店へ上って、景気よく一杯やり出しました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何で眼を醒ましたのかと思って、ボンヤリしていると果せるかなだ。コンナ風に雑然ごちゃごちゃ聞えて来る騒音の中のドレか一つが起している。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
道に反く者、心の弱き者、定見なき者又単なる好奇心で動く者は、わざわいなるかなである。真理を求むる者のみが、大盤石だいばんじゃくの上に立って居る。
ここに於て我輩の要求する如上じょうじょうの二大要項の根本的解決の必成を期待してまざるものである。人道主義なるかな、人道主義なる哉。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「春の海終日ひねもすのたりのたりかな」……「海」を「河」に置き代えよう。「春の河終日のたりのたり哉」まさに隅田がそうであった。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人見のせがれはしからぬ、卜幽の子は不肖だと、よう陰口を耳にするが、故あるかな、そちの言は、どうもいちいち僭越せんえつすぎるようだの。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
所以ゆえあるかな、主税のその面上の雲は、河野英吉と床の間の矢車草……お妙の花を争った時から、早やその影が懸ったのであった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もし甲冑を帯していなかったら、今少し体つきの工合ぐあいなども分るのであろうが、惜しいかな此の服装ではたゞ顔だけしか見ることが出来ない。
この本堂の内陣の土蔵のとびらにも椿岳の麒麟きりん鳳凰ほうおうの画があったそうだが、惜しいかな、十数年前修繕の際に取毀とりこぼたれてしまった。
私が子規のまだ生きているうちに、「半鐘と並んで高き冬木かな」という句を作ったのは、実はこの半鐘の記念のためであった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悲しいかな、私たちの知識が私たちを卑怯ひきょうにしなかった場合は少ない。そうしてこれが作物の生気を奪わなかった場合は少ない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
言懸いひかけられお菊は口惜くやしきこと限りなく屹度きつとひざを立直し是は思ひも依ぬ事をおほせらるゝものかな云掛いひかゝりされるも程がある勿體もつたいない母樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「江戸なるかな、江戸なる哉、天明三年吉原松葉屋今の瀬川を千五百両にて身請せし大尽あり、諸侯のたぐいかと聞くに不然しからず、尋常の町家なりとぞ」
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
史学なるかな、史学なるかな、史学は実に当時に於ける思想世界の薬石なり。禅学廃して宋学起り宋学盛んにして陽明学興る。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
誰やらのやしきで歌の会のあったとき見覚えた通りに半紙を横に二つに折って、「家老衆はとまれとまれと仰せあれどとめてとまらぬこの五助かな
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
窮するも命なることを知り、大難に臨んでいささかの興奮の色も無い孔子のすがたを見ては、大勇なるかなと嘆ぜざるを得ない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
あはれなるかな吾友わがともよ、我のラサ府にありし時、その身につみのおよばんを、知らぬこころゆわがために、つくせし君をわれいかに、てゝや安くすごすべき
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
惜しいかな東の方は前山に遮られて、充分に裾野の発達する余地がないので、やや優美の趣に欠けているのは是非もない。
……里まで出づれば食物くいものもあらんに、それさへ四足疲れはてて、今は怎麼いかにともすべきやうなし。ああいひ甲斐なき事かな
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
かなしいかな、すでにびていたという話がある。十年一日のごとき、不変の政治思想などは迷夢に過ぎないという意味だ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
くわいなるかな櫻木君さくらぎくん海底戰鬪艇かいていせんとうていつひ竣工しゆんこうしましたか。』と、暫時しばしげんもなく、東天とうてん一方いつぽうながめたが、たちま腕拱うでこまぬき
情ないかな惣次郎は血に染って倒れておりますから、百姓衆も気の毒に思い、死骸を戸板に載せて引き取り、此の事を代官へ訴え、ず検視も済み
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
良いかなブッシュ、このレコード三枚あっただけで、私はブッシュを、クライスラーの次に座を設けたくなるくらいだ。
御主意ごしゆい御尤ごもつともさふらふ唱歌しやうかおもまりさふらふあさましいかな教室けうしつさふらふしたがつてこゝろよりもかたちをしへたく相成あひなかたむ有之これあり以後いご御注意ごちゆうい願上候ねがひあげさふらふ
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そして日本の文壇と思潮界は、このノンセンス等によって支配されている。救いがたいかな! 吾人はむしろ彼等を捨て、民衆の群に行かねばならぬ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
畢竟ひっきょう主人が少年書生と見縊みくびって金を恵む了簡であろう、無礼な事をするものかなと少し心に立腹して、真面目になって争う事があると云うような次第で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
 順徳院の御製に(承久のみだれに佐渡へ遷幸の時なり)「みやこをばさすらへいで今宵こよひしもうき身名立なだちの月を見るかな」▲直江津なほえのつ 今の高田の海浜かいひんをいふ。
陣々相らび簇々相薄まりそのさかんなることまことに空前の盛観であってよくもかく殖えたものかなと目を瞠らしめた。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
(七五)巖穴がんけつ(七六)趨舍すうしや(七七)ときり、かくごときのたぐひ(七八)湮滅いんめつしてしようせられず、かなしいかな
虎はかく人畜を残害するもののそれは「柿食いに来るは烏の道理かな」で、食肉獣の悲しさ他の動物を生食せずば自分の命が立ち往かぬからやむを得ぬ事だ
しかも、その酒杯が古染ネジなどであり、このわたの容器が朝鮮斑唐津まだらからつなどの珍器であったとしたら、まったくもってたまらない。人生の楽事また多なるかなだ。
くちこ (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
斯く思いて余はほとんど震い上り世には恐ろしき夫婦もあるかなたんじたれど、此後の事は是よりもひどかりき。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
芭蕉ばしょう翁は「木曾きそ殿と背中あはせの寒さかな」と云ったそうだが、わたしはかば殿と背中あわせの暑さにおどろいて、羽織をぬぎに宿に帰ると、あたかも午前十時。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
父にそむかず、師にそむかず、天にがっして人にがっせず、道に同じゅうして時に同じゅうせず、凛々烈々りんりんれつれつとして、屈せずたゆまず、苦節伯夷はくいを慕わんとす。壮なるかな
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すべては総てはみこころである。まことかしこき極みである。主の恵み讃うべく主のみこころは測るべからざるかな
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
みどりとばり、きらめく星 白妙しらたへゆか、かがやく雪 おほいなるかな、美くしの自然 が為め神は、備へましけむ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
悲しいかな、人間の実相はここにある。然り、実に悲しい哉、人間の実相はここにある。この実相は社会制度により、政治によって、永遠に救い得べきものではない。
続堕落論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
苟且かりそめの物を愛するため自ら永遠とこしへにこの愛を失ふ人のはてしなく歎くにいたるもむべなるかな 一〇—一二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
むべなるかな縲絏るいせつはずかしめを受けて獄中にあるや、同志よりは背徳者として擯斥ひんせきせられ、牢獄の役員にも嗤笑ししょうせられて、やがて公判開廷の時ある壮士のために傷つけられぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
くこの二思想を調和して民衆を誘導していったならば、こういうわざわいを未然にふせぐ事が出来たに相違ないが、惜いかなこういう人物は当時一人もいなかったのでございます。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
をつとをして三井みつゐ白木しろき下村しもむら売出うりだ広告くわうこくの前に立たしむればこれあるかな必要ひつえうの一器械きかいなり。あれがしいのうつたへをなすにあらざるよりは、がうもアナタの存在をみとむることなし
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
美なるかな、めいなるかな、街頭に瓦斯ガスランプ立つ。これで西洋の市街に負けぬという見出しで
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
然れどもさいわいなるかな、わが西洋崇拝の詩作はことごとく日本文となりて日本の文壇に出づるや、当時文壇の風潮と合致する処ありければたちまち虚名をち得たりき。けだし偶然の事なり。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かなしいかな、かれらも人間だということを認めなければならない、おそらく家族もあることだろう、医者としての才能がないとわかっても、ほかに生きる手段がなければどうするか
劒ヶ峰の一角先づひうちを発する如く反照し、峰にれる我がひげ燃えむとす、光の先づ宿るところは、むね高き真理の精舎しやうじやにあるをおもふ、太陽なるかな、我は現世に在りてたゞ太陽をさんするのみ
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
「善いかな、かな乃至ないし、文字語言あることなし。これ真に不二の法門に入る」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
悠々たる哉天壌てんじょう遼々りょうりょうたるかな古今。五尺の小躯を以て此大をはからむとす。ホレーショの哲学ついに何等のオーソリチーをあたいするものぞ。万有の真相は唯一言にしてつくす。曰く「不可解」。
巌頭の感 (新字新仮名) / 藤村操(著)
さっきひつぎき出されたまでは覚えて居たが、その後は道々棺で揺られたのと寺で鐘太鼓ではやされたので全く逆上してしまって、惜いかな木蓮屁茶居士などというのはかすかに聞えたが
(新字新仮名) / 正岡子規(著)