つめた)” の例文
かぜつめたさわやかに、町一面まちいちめんきしいた眞蒼まつさを銀杏いてふが、そよ/\とのへりをやさしくそよがせつゝ、ぷんと、あきかをりてる。……
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ころしも一月のはじめかた、春とはいへど名のみにて、昨日きのうからの大雪に、野も山も岩も木も、つめた綿わたに包まれて、寒風そぞろに堪えがたきに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
アラスカ農鉱学校で、農業にも鉱業にも関係のない北極光の研究などをしていたら、きっと周囲からつめたい目で見られたに違いない。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あくる朝から、幸吉の態度は別人のように変りました、痩せ枯れた五体に、鋼鉄のようなつめたい筋金が入って、唯黙々と製作を急ぐのです。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
水分の多いつめたい風が、遠く山国に来ていることを思わせた。ごとんごとんと云うだるい水車の音が、どこからか、物悲しげに聞えていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
滿が続けざまに云ひまちがひをして、そしてそれに少しも気が附かないで居るのが鏡子には悲しかつた。この時のはつめたい涙であつた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
午後からくもった冬の空は遂に雨をもたらして、闇を走る人々の上につめたい糸のしずくを落した。が、そんなことに頓着している場合でない。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし、僕だつて、其様そんつめたい人間ぢや無いよ。まあ、僕に言はせると、あまり君は物をむづかしく考へ過ぎて居るやうに思はれる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
人魂や牡丹燈籠ぼたんどうろうの芝居は夏に限って現われる、井戸の水は夏においてつめたくなる、石炭やストーブや火鉢ひばちや、綿入れや、脂肪は
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
あなたはこのやうなつめたい人々が、どんなに恐ろしさをその氷のやうな質問の中にれ得るか、彼等の怒りの中には、どれ程の雪崩なだれがあるか
やま全体ぜんたいうごいたやうだつた。きふ四辺あたり薄暗うすくらくなり、けるやうなつめたかぜうなりがおこつてきたので、おどろいたラランは宙返ちうがへりしてしまつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
いや、彼は決してそれを信じてはいないのだが、信じようとせずには此のつめたい檻の中に生き続ける力がかないのである。
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
私は彼のカラーをはずして顔の上につめたい水を注ぎかけ、そして長い自然な呼吸をするようになるまで、彼の腕を上下した。
ゆき子は、薬臭い部屋の空気に圧迫されて、立つて、硝子戸ガラスどを少し開けた。つめたい風がすつと流れこんでいゝ気持ちだつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
うっかりしようものなら、つめたかぜが、ちいさなからだをさらって、もうくらくなった谷間たにまへたたきとそうとしたのであります。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
即ちこれらのもの己をもてあたかもミノスのむすめが死のつめたさを覺えし時に造れるごとき徴號しるしを二つ天につくり 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
殺されてつめた血汐ちしおのなかによこたわったことは事実であった。けれども慈悲深い死の翼あるその矢のために、駒鳥は正直な鳥の、常に行くべきところへ行った。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
私はどうしても、昔から人間の守るべきものと定められたおしえに服する事が出来ません。教は余りにむごく余りにつめたい。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一郎と別れた外の者は、滑川なめりがわに沿った砂山から海辺に出て、夕日の沈んで行く頃の、めっきり秋めいてつめたなぎさに、下駄や裸足はだしの跡を残して歩いて行った。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
ただ、周囲には多くの硝子戸棚ガラスとだなが、曇天のつめたい光の中に、古色を帯びた銅版画や浮世絵を寂然じゃくねんと懸け並べていた。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……やれ、かなしや! こりゃつめたいわ、しずんで、節々ふし/\固硬しゃちこばって、こりゃこのくちびるからいきはなれてから最早もうひさしい。
その後マヤクボ、棒小舎の乗越し、つめたノ池と三個所で野営するごとに皆で——と言って、主に黒岩と私だが——一杯ずつやり、とうとう一本空にして了った。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
驚破すはや、障子を推開おしひらきて、貫一は露けき庭にをどり下りぬ。つとそのあとあらはれたる満枝のおもては、ななめ葉越はごしの月のつめたき影を帯びながらなほ火の如く燃えに燃えたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
川鳴かわなりの音だろう、何だか物凄ものすごい不明の音がしている。庭の方へ廻ったようだと思ったが、建物を少し離れると、なるほどもう水が来ている。足の裏が馬鹿につめたい。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自分たちは右を登り、念のためロープを付けて雪渓へと下った。つめたい朝の微風は心地よく頬をなぶる。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
シューラは素早すばやくはねきて、毛布もうふゆかへおっぽりすと、はだしでつめた床板ゆかいたをぱたぱたと大きくらしながら、ママのところへんでき、いきなりこうわめいた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
其の腹へ出来たは女という事を物語ったが、そんなら七ヶ年以来このかた夫婦の如く暮して来たお賤は、我が為には異腹はらちがいいもとであったかと、総身そうしんからつめたい汗を流して、新吉が
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
閉ぢて坐つてゐる日向はあたゝかいけれど、外は膚にほろゝつめたい風がすう/\する日であつた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
しか自分じぶんでもとき自分じぶん變事へんじおこらうとすることはすこし豫期よきしてなかつた。かれ圍爐裏ゐろりそばで、よるむしつめたにあたりながらふとかはつてついとにはた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お召物をお濡らしにならないやうに……。どれ、お先へ、お毒味をいたしませう。いや、これはつめたい。水道の水とは比較になりません。天然のアイスオーターでございます。
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
彼は若き友がその抱ける知識と思想とに照らして無遠慮に彼を批難するに会して、憤激の情は一転化してつめたわらいとなり、皮肉の言葉を並べて相手を翻弄ほんろうせんとするのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ミス・ミンチンは魚のようなつめたい大きな眼をして、魚のような微笑みかたをしました。
彼女ははしたなく叫声きょうせいなど立てないで、その代りにつめた軽蔑けいべつくちびるをゆがめて見せた。
氷のつめたきゆえん、井を掘りて水の出ずるゆえん、火を焚きて飯の出来るゆえん、一々その働きを見てその源因を究むるの学にて、工夫発明、器械の用法等、皆これに基かざるものなし。
歯がキリ/\する位で、心地よいつめたさが腹の底までも沁み渡つた。と、顔の熱るのが一層感じられる。『して青く見えたか知ら!』と考へ乍ら、裏畑の細径伝ほそみちづたひ急ぎ足に家へ帰つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのうちあきて、もりはオレンジいろ黄金色おうごんいろかわってました。そして、だんだんふゆちかづいて、それがると、さむかぜがその落葉おちばをつかまえてつめた空中くうちゅうげるのでした。
家の中のは藪からしの繁りを美しくして見せた。二階からはぼんやりした明りよりさして居ない。真実ほんとうつめたくなつて来た。白い卓覆ひに指が触れると少し身ぶるひのおこるのを覚えられる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あきふかくなつてしまつた。この霜空しもぞらばんいてゐる、こゑかれ/″\のきり/″\すよ。もっと出來できるだけけ。そらからてらひかりも、つめたかんじられる。その蓬原よもぎばらのようになつたいへてらつきよ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
私はシモヤケは毎年出来ましたが、今年はつめたい思いなどは少しもいたしませんから、手はきれいで、少しも出来ませんから御安心下さいませ。日本に居りました時は、シモヤケには困りました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「おまえは、もうお陀仏だぶつだ。いよいよ順番がまわってきたぞ」と言ったかとおもうと、氷のようなつめたい手で、お医者を、てむかいすることもできないようにあらあらしく引っつかんで、地面の下の
「おっと待ちな、つめたいながら酒がある。別れのさかずきと行こう」
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仰向きに寝ては病む身に聴きをりぬ土うつ雨のつめたき音を
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
さりとても身をば心のはなれねば猶火はあつし水はつめた
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
ああ身を切るほどつめたい河水を對岸むかうぎしを目あてにして
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
「まあ! めつきり朝夕あさゆうつめたくなりましてね」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
おれはおもす、銃剣じうけんつめたひかまち
H・デューランは、つめたい顔をして云った。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
老女は石のやうにつめたさうな顔をあげた。
ズボリと踏込んだ一息の間は、つめたさ骨髄に徹するのですが、いきおいよく歩行あるいているうちには温くなります、ほかほかするくらいです。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水は驚くほど清冽でつめたい。ちょっと測ってみると四度である。四度といえば、北海道の真冬の地下水の温度がちょうどそれである。
永久凍土地帯 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)