まろ)” の例文
新字:
此時このときにふと心付こゝろつくと、何者なにものわたくしうしろにこそ/\と尾行びかうして樣子やうす、オヤへんだと振返ふりかへる、途端とたんそのかげまろぶがごとわたくし足許あしもとはしつた。
身をもて造れる十字架を胸の上より解き放ち、岸に沿ひまた底に沿ひて我をまろばし、遂に己が獲物えものをもて我を被ひ且つ卷けり。 —一二九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
薪とる里人さとびとの話によれば、庵の中には玉をまろばす如きやさしき聲して、讀經どきやう響絶ひゞきたゆる時なく、折々をり/\閼伽あか水汲みづくみに、谷川に下りし姿見たる人は
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
も云ず拔打ぬきうち提灯ちやうちんバツサリ切落きりおとせば音吉はきやツと一聲立たるまゝ土手どてよりどうまろおち狼藉者らうぜきものよとよばはりながら雲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
胡粉ごふんわかれたみづかげは、しゆ藥研やげん水銀すゐぎんまろぶがごとく、ながれて、すら/\といとくのであつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかもこの山は富士山のやうに全くまろび出たやうに孤立してゐるのではない。妙高、戸隱、飯綱の諸山は相呼應して、嚴として高原の奧に空を劃して立つてゐる。
霧の旅 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
背中を突かれて驚く男、袂をくぐられて間誤付く女、跳ね飛ばされて泣くは子供、足下を攫はれてまろぶが年寄、呆氣に取られた人人の間を縫て、矢の樣に走つて行く一人の男。
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
「今くこの水門みなとに往きて、水もちて汝が身を洗ひて、すなはちその水門のかまはなを取りて、敷き散して、その上にまろびなば、汝が身本のはだのごと、かならずえなむ」
が、いくら身悶みもだえをしても、體中からだぢうにかかつた繩目なわめは、一そうひしひしとるだけです。わたしはおもはずをつとそばへ、まろぶやうにはしりました。いえ、はしらうとしたのです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
本堂の如來さま驚きて臺座よりまろび落給はんかと危ぶまるゝやうなり、御新造はいまだ四十の上を幾らも越さで、色白に髮の毛薄く、丸髷も小さく結ひて見ぐるしからぬまでの人がら
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それは如何いかにも、あの綺麗きれいゆきけて、つゆたまになつてとひなかまろむのにふさはしいおとである……まろんだつゆはとろ/\とひゞきいざなはれてながれ、ながれるみづはとろ/\とひゞきみちびいてく。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
づれば 氷の上を風が吹く われ石となりてまろびて行くを
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
硫黄いわうけぶりに咽び、われとわが座よりまろびて
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
我は詞なくて姫の金蓮の下に臥しまろびつ。
(花園夫婦はこけつまろびつ逃げ去る。)
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
かのまろがされし酒桶さかをけのなかに入りて
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
まろびがちなるならひや
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
深く思ひさだめし瀧口が一念は、石にあらねばまろばすべくもあらざれども、忠と孝との二道ふたみちに恩義をからみし父の言葉。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
春枝夫人はるえふじんうるはしきかほは『あら。』とばつかり、その良君おつと顧見かへりみる。わたくし彼方かなたへ! 彼方かなた此方こなたへ! まろぶがごとく※
いへる處に心をとめ、わが思ひを正さざりせば、今はまろばしつゝき牴觸を感ずるものを —四二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
さしつらぬき見るに見られぬ形状ありさまなれば平吉はどうとばかりにたふふし死骸しがいに取付狂氣きやうきの如く天に叫び地にまろ悲歎ひたんくれて居たりしがやゝありて氣を取直し涙をぬぐ倩々つく/″\と父のおもて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あとになしていだくるま掛聲かけごゑはし退一人ひとりをとこあれは何方いづく藥取くすりとりあはれの姿すがたやと見返みかへれば彼方かなたよりも見返みかへかほオヽよしさまことばいままろでぬくるま轣轆れきろくとしてわだちのあととほしるされぬ。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とこより墮ちまろびて、その室の人どもを追ひ出して、その二柱の御子を、左右ひだりみぎりの膝のせまつりて、泣き悲みて、人民どもを集へて、假宮を作りて、その假宮にせまつり置きて、驛使はゆまづかひ上りき。
づれば氷の上を風が吹く我は石となりてまろびて行くを
和歌でない歌 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
が手かまろがしおける、想ひ見れば
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ズボンは滅茶苦茶めちやくちや引裂ひきさかれ、片足かたあしくつ無殘むざん噛取かみとられて、いのちから/″\車中しやちうまろんだ。
馬鹿野郎ばかやらうめとのゝしりながらふくろをつかんでうら空地あきち投出なげいだせば、かみやぶれてまろ菓子くわしの、たけのあらがきうちこえてどぶなか落込おちこむめり、げん七はむくりときておはつと一こゑおほきくいふになに御用ごようかよ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
積重つみかさね其上へやつ這上はひあがくだんひも兩端りやうはしを柱の上へ縛付しばりつけ首に卷つゝ南無阿彌陀佛のこゑ諸倶もろとも夜着の上よりまろび落れば其途端はずみに首くゝれ終にぞ息はえたりけるかへつとくお菊は田原町にて金の相談せしに金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
蕾のくちびる惜氣をしげもなく喰ひしばりて、噛み碎く息の切れ/″\に全身の哀れを忍ばせ、はては耐へ得で、體を岸破がばとうつ伏して、人には見えぬまぼろしに我身ばかりのうつゝを寄せて、よゝとばかりに泣きまろびつ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
やまうどのまなこまろび沈み入り
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
まろ白玉しらたまつゆうるはしゝ、おもへばれもゆるなるを、一ツなきものにせば、何方いづくなんさわりかるべき、いとはしきはいまはじめたることならず、てんはかねてよりのねがひなり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)