衣服きもの)” の例文
其跡そのあと入違いれちがつてたのは、織色おりいろ羽織はおり結城博多ゆうきはかたの五本手ほんて衣服きもの茶博多ちやはかたおびめました人物、年齢四十五六になるひんをとこ。客
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
もつと衣服きものいでわたるほどの大事おほごとなのではないが、本街道ほんかいだうには難儀なんぎぎて、なか/\うまなどが歩行あるかれるわけのものではないので。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お種は眼だたないように化粧をして常服ふだんぎではあるが新らしい衣服きものに着かえていた。母親はふとそれに眼をつけて何かしら不安を感じた。
蟹の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
衣服きものを剥がれたので痩肱やせひじこぶを立てているかきこずえには冷笑あざわらい顔の月が掛かり、青白くえわたッた地面には小枝さえだの影が破隙われめを作る。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
…………兄さんも阿母さんから、初中しよちう内密ないしよ小遣こづかひを戴き乍ら…………阿母さんが被仰る通り女の様に衣服きものなんか買ふのは馬鹿々々しい。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
高くけられた絵のやうな橋、綺麗な衣服きものを着て其上を通つて行く女、ぶつつかりはしないかと思はれるほど近くかすめて行く多くの舟
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
と思うとごくかすかに衣服きものを動している様な響きが耳についた。怪物は室内にあってドーブレクが脱ぎすてた衣服を捜しているらしい。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「そのかはり、御蔭で好い事を覺えましたよ——木綿の衣服きものを着て何處へ出ても、すこしも可羞はづかしいと思はなくなりましたよ。」
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
見よ、お由の顏! 齒を喰縛つて、眼を堅く閉ぢて、ピリ/\と眼尻の筋肉が攣痙ひきつけてゐる。髮は亂れたまゝ、衣服きものはだかつたまゝ……。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其処そこななツになる子供が喧嘩けんかをしてどぶへ落ちたとやら、衣服きもの溝泥どぶどろだらけにして泣きわめきながら帰って来る。小言がその方へ移る。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それは現世げんせですることで、こちらの世界せかいでは、そなたもとおり、衣服きものがえにも、頭髪おぐし手入ていれにも、すこしも人手ひとでらぬではないか。
頭髪かみブラッシに衣服きものブラシ、ステッキには金物の光り美しく、帽子には繊塵も無く、靴にはいぬの髭の影も映るというように、万事奇麗事で
旅行の今昔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
友禅の衣服きもの一枚買ってる代価で新式の孵卵器が買えるのですけれどもさて孵卵器を娘に買って遣ろうというような親は滅多にありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
白い真珠色の衣服きもの袖口そでくちには、広い黒天鵞絨くろびろうどのやうなものでふちが取つてあつて、頭にはあかい絹で飾りをつけてをりました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
それから、死骸と衣服きものを見ると、泥のついていない部分が、左側にあるので、衣服が左前に着せてあったことが分かります。
頭蓋骨の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
下田歌子女史が最近大阪のある講演会で言つた所によると、最も理想的な衣服きものは、日本服で、それも女房かないや娘の縫つたものに限るのださうな。
裸稼業の者に取っては、刺青は一種の衣服きもので、刺青のない身体をお客の前に持出すのは、普通の人が衣服を着ないで人の前に出るようなものです。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その上に二葉亭は、ドチラかというと浪費家であって、衣服きものや道具には無頓着むとんちゃくであったが食物くいものにはかなりな贅沢ぜいたくをした。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
三次が井戸を覗いて見ると、藻の花が咲いたように派手な衣服きものと白い二の腕とが桶に載って暗い水面近く浮んでいた。
血からめて、落着きをとり戻すと、角三郎は、死骸の弁馬を愍然びんぜんあざむように、っ伏しているその衣服きもののすそで、刀の血糊のりをふきながら呟いた。
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに蒙昧もうまいの野蛮人を帰服させるための道具として数千粒の飾り玉やけばけばしい色の衣服きもの類や無数の玩具やを箱に入れてこの天幕に隠して置いたが
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夫人の身体を掩うてゐる金紗縮緬のいぢりかゆいやうな触感が、衣服きもの越しに、彼の身体に浸みるやうに感ぜられた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
衣服きものはびしょぬれになる、これは大変だと思う矢先に、グイグイと強く糸を引く、上げると尺にも近い山鰷の紫とあかすじのあるのが釣れるのでございます
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
宝丹ほうたんかどを曲るとまた一人芸者が来た。これはせいのすらりとした撫肩なでがた恰好かっこうよく出来上った女で、着ている薄紫の衣服きものも素直に着こなされて上品に見えた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人はびっくりして、机の下、行燈あんどんの蔭、衣服きものすそまで振って見たけれど、差置いた金包は更に見えません。
何時いつ不断着ふだんぎ鼠地ねずみじ縞物しまもののお召縮緬めしちりめん衣服きものを着て紫繻子むらさきじゅすの帯をめていたと云うことを聞込ききこんだから、私も尚更なおさら、いやな気がおこって早々に転居してしまった。
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
それは成程やはらかひ衣服きものきて手車に乘りあるく時は立派らしくも見えませうけれど、父さんや母さんに斯うして上やうと思ふ事も出來ず、いはゞ自分の皮一重
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お母さまが白い衣服きものを着て立っておいでになりまして、姫を見ますと莞爾にっこりとお笑いになり、そのまま姫を軽々と抱き上げて、優しい手で髪を撫で上げながら——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
膝頭の破れた衣服きものを着て、穴のあいた足袋たびを穿いて、默々として水を汲んだり荷車をひいたりした。
吉日 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
それは吉里が止めておいたので、平田が別離わかれに残しておいた十円の金は、善吉のために残りなくつかい尽し、その上一二枚の衣服きものまでお熊の目を忍んであずけたのであッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
或る日のこと、熊谷の家、鴻の巣で寝ているはずの某が訪ねて来た。女の衣服きものの上へ法衣ころもていた。まことに異装であった。でも別にいぶかることもなく、色々と話をまじえた。
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
というや、今までの豪傑は急に狼狽ろうばいしはじめた。露出した膝頭ひざがしらを気にして、衣服きものおおわんとしたり、あるいは趺座あぐらをかいた足を幾分かむすび直し、正座の姿に移らんとした。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ここにその兄の曰はく、「もし汝、この孃子を得ることあらば、上下の衣服きものり、身のたけを量りてみかに酒を、また山河の物を悉に備へ設けて、うれづくをせむ」
うみおもて瀧壺たきつぼのやうに泡立あわだつて、ひどいもひどくないも、わたくし少年せうねんとは、あたまかゝへて、ていそこうづくまつてしまつたが、其爲そのために、昨夜さくや海水かいすいひたされて、いまやうやかわきかけてつた衣服きもの
彼女は衣服きものも満足なのは持っていなかった。その他宝石えり飾りの類、およそ彼女がこの世の中に欲しいと思うような身の周囲まわりの化装品は一つとして彼女のままにはならなかった。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
いよいよそうとまれば、知り合いの待合や芸者屋に披露ひろうして引き幕を贈ってもらわなければならないとか、披露にまわる衣服きものにこれこれかかるとか、かの女も寝ころびながら
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
泣いたり、えたり、気を失ったり、テーブルを転覆ひっくりかえしたり、御丁寧にランプまでこわして騒ぎを入れるには当らない事だ。お春さんは衣服きものを少しやぶき、お歌さんは手を火傷した。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
馬鹿ッ馬鹿ッとまたみずから叱って衣服きものを着更え、二階を下りて手水に行けば、手を洗う背後に小歌が立って居るようで、「あら儂のではお厭なの」、とどこからとなく耳に入るので
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
そして喜んで己の命を聴く役人共の手に金をわたした。どこへ往つてもたつぷり金を賭けて、博奕をして、土地の流行はやり衣服きものを着て、その外勝手な為払しはらひをするに事足る程の金をわたした。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
魚食も断つよ! 寝る時も衣服きものひとつ下には敷くまい! ただひたすら神に祈るのぢや! そして、たとひ罪の百分の一も、神の慈悲によつて赦されなかつたら、頸から下を地に埋めて
衣服きものは国の母が手織木綿ておりもめんしなおくっれてれには心配がないから、少しでも手許てもとに金があればすぐに飲むことを考える。是れがめには同窓生の中で私に誘われてツイ/\のんだ者も多かろう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
跡は両側の子供が又続々ぞろぞろと動き出し、四辺あたりが大黒帽に飛白かすり衣服きもの紛々ごたごたとなる中で、私一人は佇立たちどまったまま、茫然として轅棒かじぼうの先で子供の波を押分けて行くように見える車の影を見送っていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
玉蟲染たまむしぞめ天鵞絨びろうどのやうな薔薇ばらの花、あかの品格があつて、人のをさたる雅致がちがある玉蟲染たまむしぞめ天鵞絨びろうどのやうな薔薇ばらの花、成上なりあがりの姫たちが着る胴着どうぎ似而非えせ道徳家もはおりさうな衣服きもの僞善ぎぜんの花よ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
奇麗な衣服きものを着て居る人があるなら、其人こそ真正ほんたうに耻づかしい人です
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
出て来る給仕の女とても、山猿がただ衣服きものを着用したばかりでのう
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そういって、おかみさんは衣服きものむねを、ぐいぐいとひろげました。
今っから衣服きものも着更えて早く支度を、と言いつくる。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
衣服きものは海藻のやうに濡れて
測量船拾遺 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
こう三人と言うもの附着くッついたのでは、第一わしがこの肥体ずうたいじゃ。お暑さがたまらんわい。衣服きものをお脱ぎなさって。……ささ、それが早い。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飛脚は女の体を直して背を葛に寄せかけ、仰向けに蹲んでいられるようにして、嬰児をその懐に入れ、上から一枚の衣服きものをかけてやった。
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)