かはづ)” の例文
『それはわかつてる、大方おほかたかはづむしぐらゐのものだらう』とつて家鴨あひるは『しかし、ぼくくのは大僧正だいそうじよううしたとふのだ?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「これでもう天井の落ちる心配もなくなつた。」書庫が出来上ると、犬養氏は夜着よぎのなかで、安心してかはづのやうに両脚を踏み延ばした。
(将来を過去に求めるのは常に我々のする所である。我々の心の眼なるものはお伽噺のかはづの眼と多少同一に出来てゐるらしい。)
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかも人知れずうづもれたその池の中にも、生物は絶えずその生と滅とを続けてゐるのであつた。夜はかはづの鳴く声がやかましくそこからきこえた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
宵月よいづきころだつたのにくもつてたので、ほしえないで、陰々いんいんとして一面いちめんにものゝいろはいのやうにうるんであつた、かはづがしきりになく。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二本でも時々観世物みせものなどに来ることがあります。これは「両頭の蛇」と云つて、蛇の不具かたはです。かはづ蜥蜴とかげなどにも、よくこんなのがゐます。
原つぱの子供会 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
殊にナブルスの谷は、清泉処々しよ/\に湧きて、橄欖かんらん無花果いちじゆくあんず、桑、林檎、葡萄、各種野菜など青々と茂り、小川の末にはかはづの音さへ聞こえぬ。
(お時は奧に入る。かはづの聲きこゆ。十吉は蚊いぶしを煽ぐ。村の娘お米、浴衣にて出で、内を窺ひてつか/\入り來る。)
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
此うなツては、幾らえらい藝術家も、やなぎ飛付とびつかうとするかはづにもおとる………幾ら飛付かうとして躍起やツきになツたからと謂ツて取付くことが出來ない。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
古池に飛び込むかはづは昔のまゝの蛙であらう。中に玉章たまづさ忍ばせたはぎ桔梗ききやう幾代いくだいたつても同じ形同じ色の萩桔梗であらう。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
きしくさなかかはづ剽輕へうきんそのはないて、それからぐつとうしろあしみづいてむかふきしいてふわりといたまゝおほきなみはつてこちらをる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
草ごめやかはづのこゑの、夜に聴けばくくくとふくむ。おもしろよ盲目めしひの蛙、かいろ、くく、暗しとを啼く。ひぬひぬ、くくく。惜しや惜しや、くくく。
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かはづの声もする。はじめ気がついた時は僅に蛙の声かと聞き分くる位のひそみ音であつたが、筬の音と張り競ふのか、あまたのひそみ音の中に一匹大きな蛙の声がぐわアとする。
斑鳩物語 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
井手ゐでかはづの干したのも珍らしくないからと、行平殿のござつた時、モウシ若様、わたし従来これまで見た事の無いのは業平なりひら朝臣あそんの歌枕、松風まつかぜ村雨むらさめ汐汲桶しほくみをけ、ヘマムシ入道の袈裟法衣けさころも小豆あづき大納言の小倉をぐらの色紙
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
閨中けいちゆう秘語ひごを心たひらかに聞くごとし町の夜なかにかはづ鳴きたり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
おぼろ夜の月には水も霞むらんかはづなくなり前の山の井
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
湯崗子かはづなくなる夕ぐれに柳のわたのしのびくる窓
けりけりと水のほとりに鳴くかはづ
駱駝の瘤にまたがつて (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
閣に坐して遠きかはづを聞く夜かな
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
一徳利ひとゝくりあとはかはづの聲に寐よ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
古池やかはづとびこむ水の音
秀子ひでことともにかはづきけれ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かはづゲッコゲッコ
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
お婆さんは大きな膝を夫人の方へぢ向けた。椅子はその重みに溜らぬやうに、お婆さんの腰の下でかはづのやうに泣き声を立てた。
こぶし荒々あら/\しくたゝくと、なかから制服せいふくけた、圓顏まるがほかはづのやうにおほきいをしたモ一人ひとり歩兵ほへいひらかれました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
寂寞ひつそる。かはづこゑやむだを、なんと、そのは、はづみでころがりした服紗ふくさぎんなべに、れいりつゝ、れい常夏とこなつはなをうけようとした。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なつめの花の咲くところ、光は強く、は青し。棗のもとに啼くかはづ、蛙と呼ばひれ遊ぶ。棗よそよげ、青空に。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
(能因は紙づつみを披く。加賀も良因ものぞいて見る。包の中よりは干したかはづが一匹出る。)
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
いつも上野の森蔭や根岸の垣根道に時間を定めて忍び會ひ、其れからは足の行くまゝ氣の向くまゝ、遠く向島のはづれまで走つて、もうかはづの鳴いてゐる田中たなかの温泉宿に泊る。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
かつは御機嫌もこの時より引きつづき甚だよろしからず、ことごとにわたくしどもをお叱りなされ、又お叱りなさるる度に「えそぽ物語」とやらをお読み聞かせ下され、誰はこのかはづ
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
春雲しゆんうんつきめて、よるほの白く、桜花あうくわたんとして無からむとす。かはづの声いと静かなり。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
かはづの喧しく啼くのを見ても、人が海辺川辺に避暑に出かけて行く噂を耳にしても、時の間に過去になつたその恋がいろ/\に思ひ出されて容易にそこから離れて来ることは出来なかつた。
百合子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
こもりくの谷の若葉の繁り深みかはづころろ鳴く声さびしらに
『さびし』の伝統 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
雨を呼ぶかはづよ明日は和田峠
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
かはづ水田みづたでおはやしだ
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
かはづのお客さん
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
かはづは愛嬌者で、へその無い癖に人間並に一つは持合せてゐるらしい顔つきをしてゐるが、広い世間にはこんな愛嬌者を何よりもこはがる人さへある。
れの徳義とくぎは——「かくすよりあらはるゝはなし」——へれば——「外見ぐわいけんかざるな、いく體裁ていさいばかりつくろつても駄目だめだ、かはづぱりかはづさ」
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さくら山吹やまぶき寺内じないはちすはなころらない。そこでかはづき、時鳥ほとゝぎす度胸どきようもない。暗夜やみよ可恐おそろしく、月夜つきよものすごい。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
古池ふるいけには早くも昼中ひるなかかはづこゑきこえて、去年のまゝなる枯草かれくさは水にひたされてくさつてる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かはづが鳴き立てゝ居た。海岸の家畑には、夏蜜柑がその黄ろい大きな実を艶の好い緑葉みどりはの中に見せて居た。風の寒い伊勢志摩から比べると、かうも違ふかと思はれるほど気候が暖かであつた。
春雨にぬれた旅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
春さきのころころかはづ、一つ鳴き、二つ鳴き、ころころとあと続け鳴き、ふと鳴き止み、くぐみ鳴き、また急に湧きかへり鳴く。いよいよに声合せ鳴く。近き田のころころ蛙、よく聴けば声変り鳴く。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かはづ鳴くから
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
それを見ると、外の俳人連もぢつとしてはられなかつた。みんな古池のかはづのやうに自席からのこのこ這ひ出して来た。
くるま踏切ふみきりを、かはづこゑうへした。一昨日おととひとほしたあめのなごりも、うすかはまいつたやうにみちかはいた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さとき子らかなやあはれ夜に聽きてかはづ啼くころろと啼くよと聽きをる
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
かはづになつた
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「いや/\隠し立てしたつて駄目です。」博士は湯の中でかはづのやうに顔をふつた。「肌ざはりでちやんと判りますよ。」
白河しらかはあめふけに、鳴立なきたつてかはづる、はなかげへた、うまさうな饂飩うどんうもやめられない。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さとき子らかなやあはれ夜に聴きてかはづ啼くころろと啼くよと聴きをる
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)