)” の例文
土煙がだんだん静まって、無慚むざんにも破壊した車体が見えてきた。車体は裏返しになり、四つの車輪が宙にがいているように見えた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やいばとどめを刺したのではないが、とにかく、海のくずになったことは分りきっておる。かたがたお墨付をいただいたから、それを
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いけのきれいななかへ、女蛙をんなかへるをうみました。男蛙をとこかへるがそれをみて、おれのかかあ は水晶すいしやうたまをうんだとおどあがつてよろこびました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
荻生君は熊谷に行っていなかった。二人は引きかえして野を歩いた。小川には青いが浮いて、小さな雑魚ざこがスイスイ泳いでいた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
お雪は、岸からのぞく海の底に、深い深いところでも、のゆれているのが、青さを透して碧く見えるのを、ひき入れられるように見ていた。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
なまぐさいにおいがする。近間で水鳥が鳴いている。与平が水のなかに這入はいりこんでいたのが、千穂子には何となく不安な気持ちだった。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
もっとしたほうへいくと、あかさかなだのあおさかなだのいろいろのやつが、まるではやしなかをくぐるように、あいだをいったり、きたりしているのだ。
海が呼んだ話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
陰険な触手をもってる海底のに似ていた。そして太洋の深い底のような静寂がこめていた。上方には太陽が蒼ざめていた。
野に立てば温度や花の香などで野の心持ちもわかり、ひとりで湖に舟をいでは、かおりや風のあたりぐあいなどで、舟の方角を定めました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
早瀬 それでなくッてさえ、掏賊すりの同類だ、あいずりだと、新聞ではやされて、そこらに、のめのめ居られるものか。長屋はぬけて、静岡へ駈落かけおちだ。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
樹々きぎこずえが水底のに見え、「水面」を仰ぐとねぐらへ帰る烏の群が魚に見え、ゼーロンにも私にもえらがあるらしかった。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
塗り立てて瓢箪形ひょうたんなりの池浅く、焙烙ほうろくる玉子の黄味に、朝夕を楽しく暮す金魚の世は、尾を振り立ててもぐるとも、起つ波に身をさらわるるうれいはない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長い霖雨の間に果實くだものの樹は孕み女のやうに重くしなだれ、ものゝ卵はねば/″\と瀦水たまりみづのむじなにからみつき、蛇は木にのぼり、眞菰は繁りに繁る。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ある高貴な魚族は、美しいしまのある鮮緑のかげで、竪琴たてごとをかき鳴らしながら、宇宙の音楽的調和をたたえておった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
洞門から射し入る日の光はその邊りに附着する色さま/″\なを美しく見せたばかりでなく、水の中に潛む魚の形までもあり/\と照らして見せた。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この辺一体にや蘆の古根が多く、密林の感じである。材木繋留けいりゅうの太い古杭がちてはうち代えられたものが五六本太古の石柱のように朦朧と見える。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
或る時は、廃園の森の奥深く、泉の水中に長いかみの毛をとなびかせて、もがきたわむれるであろう。真紅のビロウドのベッドを背景としてもよろしい。
「悪霊物語」自作解説 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼の首から垂れ下った一連の白瑪瑙しろめのう勾玉まがたまは、音も立てず水にひたって、静かにを食う魚のように光っていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ひそかに死骸を抜け出すと、ほのかに明るんだ空の向うへ、まるで水のにおいの匀が音もなく川から立ち昇るように、うらうらと高く昇ってしまった。……
尾生の信 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
還って来た時には綾錦あやにしきの衣を着て、その上を海のおおうていた。脱がせて常の麻衣あさごろもに着かえさせると、たちまちにして前の衣裳いしょうが見えなくなったとある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
頭上の、蒼白あおじろい太陽から降り注ぐ、清冽せいれつな夜気の中で、渚の腐れの間から、一人の女が身をもたげてきた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
林は夜の空気の底のすさまじいの群落だ。みんなだまって急いでゐる。早く通り抜けようとしてゐる。
柳沢 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
川はだん/\狹く汚なくなつて、も生えぬ泥溝どろみぞのやうになつた頃、生活のゆたかならしい農村の入口に差しかゝつて、其の突き當りに駐在所もありさうであつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「わが背子は何処ゆくらむ沖つ名張なばりの山をけふか越ゆらむ」(巻一・四三)という「らむ」の使いざまとも違うし、結句に、「吾を待つらむぞ」と云っても
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
それは細かな線で海ののような、また見ようによっては水の渦巻のような物をえがいたものであった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それが、整然と見えるまでには、多少の混乱があるかも知れない。しかし、それは、金魚鉢に金魚を投入したときの、多少の混濁の如きものではないかと思われる。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ただに鱗ばかりではなく、尾やひれまでに微塵みじんな、水垢みずあかのようなこまかいのようなものが生え、それがふるえるということもなく、かれのからだ一面に震えていました。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
月より流るゝかぜこずえをわたるごとに、一庭の月光げつくわう樹影じゆえい相抱あひいだいておどり、はくらぎこくさゞめきて、其中そのなかするのは、無熱池むねつちあそぶのうをにあらざるかをうたがふ。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
幾千の弓張ゆみはり提灯の上を神輿みこし自然ひとりで動くやうに見えて四方に懸けた神鏡しんきやうがきら/\として通つたあと二三十分で祭の街は死んだやうに静かになつて、海の風がを送る。
住吉祭 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
りにりて虫喰栗むしくひぐりにはおほかり、くずにうづもるゝ美玉びぎよくまたなからずや、あわれこのねが許容きよようありて、彼女かれ素性すじやうさだたまはりたし、まがりし刀尺さしすぐなるものはかりがた
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あやめや、かきつばたはその濁った波に沈んで、わずかにの花だけが薄白く浮かんでいるのが、星明かりにぼんやりと見えた。女はまず北に向かって一つの大きい星を拝した。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「イヤイヤ滅多な事を言出して取着かれぬ返答をされては」ト思い直してジット意馬いばたづな引緊ひきしめ、に住む虫の我から苦んでいた……これからが肝腎かなめ、回を改めて伺いましょう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
まだ迷っているのですか、「風のなびき」(にけりな里の海人あまの煙心弱さに)
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ここに浮いていたというあたりは、水草のが少しく乱れているばかり、ただ一つ動かぬ静かな濁水を提灯の明りに見れば、ただ曇って鈍い水の光り、何の罪を犯した色とも思えない。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
僕はモー少し猶予があれば片瀬へ寄ってたつ口饅頭くちまんじゅうを買って鎌倉で力餅ちからもちを買って、浦賀へ廻って日本一の水飴を買って、金沢でズクを買って来ようと思ったがそうは廻り切れなかった
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
川床かわどこは岩や小石で、ところどころに深みをつくり、そこには柳や杉などが岸にしげり、また浅瀬あさせとなり、そこにはこまかい砂で、せりなどの水草がはえて、小さな魚がおよいでいました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
もし僕が太平洋のくずと消えても、きっときっとお恨み下さいますな。お母さま。僕は今、お母さまにお目にかからず、御門のそとから、こっそりとかくれて、おわかれをしているのです。——
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
するとかれらは号令でもかけられたように、水の中でしゃくっていた者も、バケツの番をしていた者も、魚を追い出すために杭やの蔭を突ついていた者も、いちどきに私のほうへ振り返った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
蚊帳かやをすかして見るような、紺いろにぼけた世界だった。の林が身辺においしげって、ふしぎなことには、その尖端さきに一つ一つのように人の顔がついていた。源十郎だった。お藤だった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その恐ろしかつた事——、黒い髮がのやうに搖れると、白い肌にからんだ赤い腰卷が、水の中でメラメラと燃えるやうに動いたぜ。時々お松の顏が上にネヂ曲げられると、恐ろしい形相で何やらを
までえて、数匹すうひき仔魚しぎょを、親切しんせつにもつてきてくれたのである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
水を入れたガラスばこがいくつも並んでいる。底に少しばかり砂を入れていろいろが植えてある。よく見ると小さな魚がその藻草の林間を逍遥しょうようしている。瑪瑙めのうで作ったような三分ぐらいの魚もある。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
の花やかたわれからの月もすむ
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
の水に手をひたし見る沼の情
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
によるごとくすがりけり。
騎士と姫 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
初汐はつしほや寄るなかに人の骨
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
のように ゆれゆれ
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
船路ふなぢ間近まぢか被衣かつぎ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
うるしに似た液体にからびついて、みだれた黒髪はほおといわずひたいといわず、のようにはりついていた。——凝然ぎょうぜん、盛遠は、またたきもしない。
たゝずめば、あたゝかみづいだかれた心地こゝちがして、も、水草みづくさもとろ/\とゆめとろけさうにすそなびく。おゝ、澤山たくさん金魚藻きんぎよもだ。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)