生計くらし)” の例文
神樣かみさま、どうかおきになつてください。わたしはあなたもよく御承知ごしやうちののんべえ です。わたしがのんべえ なためにいへ生計くらしくるまです。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
彼女は自家で生計くらしのための仕立ものをしながらその屋根裏の小部屋の抽斗の中にかくして、「ただ自分一人のために」小説をかきだした。
知性の開眼 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
生計くらしはますます困って来る。八月の中旬なかばとなった。或日万作が識人しりびとで同じ島の勘太郎という男が尋ねて来て、斯ういう話をした。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
幾年前いくねんまへには一さいんだおふくろ處理しよりしてくれたのであつたが、今度こんど勘次かんじないしでおしな生計くらし心配しんぱいもしなくてはられなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まだ馬車もなく電車は無論のこと、人力じんりきに乗るなど贅沢ぜいたく生計くらしではないので、てくてく四谷から、何か重そうなものを背負わされて戻った。
あら浪の浮き世に取りのこされた母娘おやこふたり。涙にひたることも長くはゆるされなかった。明日からの生計くらしみちが眼のまえにせまっている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もつとも、其前の晩、烈しい夫婦喧嘩があつて、継母はお志保のことや父の酒のことを言つて、奈何して是から将来さき生計くらしが立つと泣叫んだといふ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
酒屋の御用を逐返おいかえしてから、おお、斯うしてもいられん、と独言ひとりごとを言って、机を持出して、生計くらしの足しの安翻訳を始める。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「無論家柄が先決問題さ。小早川なら微禄といっても家屋敷を手放した丈けで、別に生計くらしに不自由をしているんじゃない」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「大王の鶉は、神物でございます。私はこの鳥で生計くらしたてておりますから、傷でも負うようなことがあっては、たちまち困ってしまいますから。」
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
二人は許嫁いいなずけの約束のある仲であった。苦しい生計くらしの都合から、お元は許嫁の男にそむいて、他人ひとの世話になっていた。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
良人が家に居てくれてすら生計くらしが付かなかつた手許であつたのに、村中から法外人あつかひにせられ、日傭取に出ようたつて一寸頼み手もなくなつた。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
一日、二日とする内に——彼等は全く二人きりの寂しい親娘おやこであって、生計くらしは豊かでなく近所の交際つきあいもよくない事。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
死んで生れ替って今度は善人に成れ、われは下駄屋職人だそうだが、下駄を削って生計くらしを立てゝも其の日/\に困り
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
年寄はね、何でも自分の若い時の生計くらしを覚えていて、同年輩の今の若いものも、万事自分のして来た通りにしなければならないように考えるんだからね。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
出してまでも百姓なんか習わせる必要がないんだからなあ、それにせっかくだがお前なんかに百姓して稼いでもらわなくても、まだ生計くらしには困らんでな……
私の家といふのは、村に唯一軒の桶屋であつたが、桶屋だけでは生計くらしが立たぬので、近江屋といふ近郷一の大地主から、少し許り田を借りて小作をしてゐた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
なみだ藥鍋くすりなべした炭火ずみびとろ/\とがち生計くらしとて良醫りやういにもかゝられねばす/\おもこゝろぐるしさよおもへばてんかみほとけ我爲わがためにはみなあだいまこの場合ばあひ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『おい、皆の衆、ずいぶん沢山つめこまれているじゃないか! いったい君たちは何をして一生を過ごしてきたんだね? どうして生計くらしを立ててきたんだね?』
祈祷と精進はもちろん、病める者はわが身の痩せるような思いをしても救済し、その他の施しなどについても、わたし自身の生計くらしに困るほどまでに尽力しました。
二人の生計くらしは益々苦しくなつてゐた。寒くなつてからの着料なぞは兎ても算段の見込みが立たなかつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
かつ我子わがこを育てんという気のはりあればおのずから弟子にも親切あつく良い御師匠おししょう様と世に用いられてここ生計くらしの糸道も明き細いながら炊煙けむりたえせず安らかに日は送れど
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
で、風流三昧ふうりゅうざんまいの蘿月はやむをえず俳諧はいかいで世を渡るようになり、お豊はその亭主に死別れた不幸つづきに昔名を取った遊芸を幸い常磐津ときわずの師匠で生計くらしを立てるようになった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さらに爺は、この山茶花を売って、いくらでも生計くらしのたしにしたら……こう言おうと思ったが、それも思っただけで、口に出す前に、伜が、どういう返事をするかが気になった。
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
多少生計くらしが潤うとか、いなごがわいたので都会の子供が蝗取りに来るとか、本年米作の成績表の一部に数え入れられて、農林大臣の考えの資料になるとか——とても数え切れません。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「あなたの家も、もともと豊かでないのに、僕がこうして毎日厄介をかけているのですが、いつまでもこうしてはいられないのです、菊を売って生計くらしをたてたいとおもうのですが」
黄英 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
田舎では、ゆたかな生計くらしうちでも、むすめを東京に奉公に出す。女の奉公と、男の兵役とは、村の両遊学りょうゆうがくである。勿論弊害もあるが、軍隊に出た男はがいして話せる男になって帰って来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ああなってうなったという筋道を知っているが為に、人をさげすんでそんなことを言うが、仮令見る影もない貧乏な生計くらしをして来ようとも、また其の間が何ういう関係であったろうとも
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
切て勘當かんだうせしにかれ方々はう/″\彷徨さまよふうち少く醫師の道を覺え町内へ來て山田元益と表札へうさつ門戸もんこを張れどももとよりつたな庸醫よういなれば病家はいと稀々まれ/\にて生計くらしの立つほど有らざれば内實ないじつ賭博とばく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
親仁おやじが、生計くらしの苦しさから、今夜こそは、どうでもものをと、しとぎもちで山の神を祈って出ました。玉味噌たまみそなすって、くしにさして焼いて持ちます、その握飯には、魔が寄ると申します。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もとより、人目もまれな竹山の隠れ里に住まう、しがない世捨人よすてびと、……野山にまじりて、竹を取りながら、それで竹籠たけかごなんぞを編んでは、細々とその日その日の生計くらしにあてておりましたのじゃ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
明治初年に文楽の三味線引きが本職だけでは生計くらしが立たず、ぜんざい屋を経営して「めをとぜんざい屋」と名付けたのがその起原であるときいてみると、何かしらなつかしいものを感ずるのである。
大阪発見 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
いや、七人も子供があると、これで並大抵ではありませんよ。年頃の娘に男ができてゐるのですが、あなた、嫁がすわけにいきませんからねえ。女は結婚すると他人になりますよ。ねえ、あなた、さうですとも。うちの生計くらし
(新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
お母あの生計くらしのことなんど小指ほども
母の手紙 (新字新仮名) / 中野鈴子(著)
四月の時評は「戦争と私達の生計くらし」を中心として、去年秋満州掠奪戦争がはじまってからの「死傷者の数」「軍費」その他中華ソヴェト
刻々 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
勘次かんじきだから、それでもいま生計くらしもだん/\くなんだらうから、さうすりやわるくばかりもすまいよ、どうもむかしから合性あひしやうわるいんだからね
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まず心安くその日の生計くらしをば立て行くことの出来るは結構なれども、そういうことのために師匠譲りの木彫りを粗略にし、二年間も小刀の手入れをせず
兄は珊瑚のことを聞いてあわれに思って、うちへ連れて来て他へ嫁にやろうとした。珊瑚はどうしてもきかずに、姨の傍で女の手仕事をして生計くらしをたてていた。
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
小女こをんな一人ひとり使つかつて、あさから晩迄ばんまでことりとおともしないやうしづかな生計くらしてゝゐた。御米およねちやで、たつた一人ひとり裁縫しごとをしてゐると、時々とき/″\御爺おぢいさんとこゑがした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
盗賊どろぼうではございません、実はわたくし母親おふくろが眼病で難渋して居ります、それに七歳なゝつになる妹がございまして生計くらしに差支えますから、母親に良薬いゝくすりませる事が出来ませんので
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
で、風流三昧ふうりうざんまい蘿月らげつむを得ず俳諧はいかいで世を渡るやうになり、おとよ亭主ていしゆ死別しにわかれた不幸つゞきにむかしを取つた遊芸いうげいを幸ひ常磐津ときはづ師匠ししやう生計くらしを立てるやうになつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なるほど男鰥夫おとこやもめの住居らしく散らかってはいたが、さして困っている生計くらしとも思われない。女房にょうぼを失くした淋しさから櫛をやったりしてお菊の歓心を買うに努めていたものとみえる。
この社会から捨てられるといふことは、いかに言つても情ない。あゝ放逐——何といふ一生の恥辱はづかしさであらう。もしも左様なつたら、奈何どうしてこれから将来さき生計くらしが立つ。何を食つて、何を飲まう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かゝらではもどらるゝことかはさるにても此病人このびやうにんのうへにこの生計くらしみぎひだりもおひとつにりかゝるよしさまが御心配ごしんぱいさぞなるべし尋常つねなみならば御兩親ごりやうしん見取みと看護かんごもすべき餘所よそ見聞みきくるしさよとかへなみだむねみてさしのぞかんとする二枚戸にまいど
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
幕府瓦解の後は旗下はたもと御家人ごけにんというような格の家が急に生計くらしの方法に困っていろいろ苦労をしたものであった。
其他そのたには、よめさとがある會社員くわいしやゐんで、有福いうふく生計くらしをしてゐることと、その學校がくかう女學館ぢよがくくわんであるといふことと、兄弟きやうだい澤山たくさんあると事丈ことだけを、おなじく小六ころくつうじてみゝにした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
武はそこで七郎と話したが、言葉が質朴であったからひどく喜んで、急いで金を出して生計くらしをたすけようとした。七郎は受けなかった。武は強いてこれを取らした。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
のざまはどうしたんだ、こんなこつて生計くらし出來できつか」と呶鳴どなりながらかれ突然とつぜんおつぎをなぐつた。おつぎはむぎからともたふれた。おつぎはたふれたまゝしく/\といた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
へえー……にかえ、貴方あなた神幸かみかうといふ立派りつぱ御用達ごようたしたいしたお生計くらしをなすつたおかたか……えーまアどうもおもけないことだねえ、貴方あなた家宅ところの三でふ大目だいめの、お数寄屋すきや出来できた時に
宗七と二人きりの、小さな家で、雇人を置く生計くらしでも、身分でもない。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)