さる)” の例文
自動車のタイヤのやうな円い浮袋ブイもあれば、8の字のや、また、さるかめ鵞鳥がてうなどの首のついた、乗つて泳げる浮袋ブイなどもあります。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
ついてはなしがある。(さるどのの夜寒よさむひゆくうさぎかな)で、水上みなかみさんも、わたしも、場所ばしよはちがふが、兩方りやうはうとも交代夜番かうたいよばんのせこにてゐる。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けれどももとより、舞台ぶたいにはなんの仕掛しかけもありませんし、さるは人形の中にじっとかがんでいますので、だれにも気づかれませんでした。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
さてさういふさる人間にんげんとの中間ちゆうかんのものゝほね今日こんにちまでにいかほど發見はつけんされたかといふに、殘念ざんねんながら中々なか/\おもふようにてまゐりません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
それはまたなぜかならば「階級」と「身分」とは人間とさるとをへだてるよりも、もっとひどく人間と人間をへだて、離したからだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
それらのさる知恵は、小犬のようなそれらの道化振りは、猫被ねこかぶりのその無邪気さは、いかにしてもクリストフの気に入るはずがなかった。
と竹童はその手紙を、一ぴき小猿こざるにくわえさせて、むちで僧正谷の方角ほうがくをさすと、さるは心得たようにいっさんにとんでいく。そのあとで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もりの中で大将たいしょうぶんのくまがへいこうして金太郎きんたろう家来けらいになったのをて、そのあとからうさぎだの、さるだの、鹿しかだのがぞろぞろついて
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
昔は鹿しかさるがずいぶん多くて狩猟の獲物を豊富に供給したらしいことは、たとえば古事記の雄略ゆうりゃく天皇のみ代からも伝わっている。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
小男はさるのように花瓶のふちにしゃがんだまま、しばらくあたりをうかがっていたが、やがて、ひらりと音もなくゆかのうえにとびおりた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その最後の「ウーン」といったという断末魔に猿を連想する猟師たちは決して「さる」と呼ばず「猿公えんこ」と呼ぶ迷信があるからかも知れない。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
千穂子の赤ん坊は月足らずで生れたせいか、小さい上にまるで、さるのような顔をしていて、赤黒いはだの色が、普通ふつうの赤ん坊とはちがっていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
猿羽織さるばおりつて、とうさんの田舍ゐなか子供こどもは、おさるさんのそで羽織はおりのやうなものをました。さむくなるとそれをました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
肩から肩の上へさるの様にかさなり合つて、最上の一人の手がいはの鼻へ掛かるや否や、いはくづれて、腰の縄が切れて、上の三人が折り重なつて
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「本を読んでいるのだよ。ここへ来ませんか。」と言うや、子供はイキなり石垣に手をかけてさるのように登りはじめました。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
が、そのさるのようなものは、彼と相手との間を押しへだてると、とっさに小刀さすがをひらめかして、相手の乳の下へ刺し通した。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかも浅はかな私ら人間はさると同様に物忘れする。四年五年という歳月は君の記憶を私の心からきれいにぬぐい取ってしまおうとしていたのだ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おりおり詩歌しかなどぎんずるを聞くに皆なまれり。おもうにヰルヘルム、ハウフが文に見えたる物学びしさるはかくこそありけめ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして間もなく出て来ると、垢にまみれたさるみたいなてのひらを、ぱつと開いて、真中に四角な穴のあいたお鳥目を一つ見せた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
マスノの一声は、あとの十一人をさるのようにすばしこくさせ、萱山かややまの中へ走りこませた。がさがさと音がして萱がゆれた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
恩田は一匹の巨大なさる恰好かっこうで、地上に飛び降りると、いきなり客席のドアをひらいて、異様なうなり声を立てながら、車内へ躍り込んでいった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
幕の外に出ている玉乗りの女の異様な扮装ふんそうや、大きい女のかつらかぶったさるの顔にも、釣り込まれるようなことはなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すると、このさるいしの河岸一帯に、どうして広がったものか、月見草が咲き出したのです。それから年々殖えて行く。
月見草 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
思ひ絶えて仕舞ふべし、我れは浮世の能なしさるにはなるとも、きたなき男には得こそ成るまじ、夫れよと斷念の曉きよく、再度ふたゝび口にも出でず成りぬ。
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
第一の盞にはさるの葡萄酒という銘が刻んであり、第二のには獅子ししの葡萄酒、第三のには羊の葡萄酒、第四のには豚の葡萄酒という銘が刻んであった。
もし好意をもってすれば、さるだとか、耳朶じだが半分だなどいう特徴の一端を挙げずに、愉快ゆかいなる印象を与うるがごとき名をつけうることも必ずできる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
共盛館(少年美団)(大人三銭小児二銭) 共盛館(青木玉乗)(大人三銭小児二銭) 外にさるの観物。(以下略)
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
ことにこの地方ではさるこう経たものとか、狒々ひひとかいう話が今でも盛んに行われて、一層人の風説を混乱せしめる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
北上きたかみ川の西岸でした。東の仙人せんにん峠から、遠野を通り土沢を過ぎ、北上山地を横截よこぎって来る冷たいさるいし川の、北上川への落合から、少し下流の西岸でした。
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
与兵衛は鉄砲を取直して、そつと木の枝の間からのぞいて見ますとその樫の木の上に大きなさるが二疋、しきりに枝をゆすぶりながら樫の実を取つて居るのでした。
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
平家は案の定、礪並山の山中、さる馬場ばばというところで腰を据え、馬に水をやって暫く休息することになった。
そして自ら朝鮮を侵略して行ったこのさる英雄は一度でそれが懲らしうるつもりで、まず二十六人の「侵略者」を長崎の立山たてやま磔刑はりつけにし、虐殺の先鞭せんべんをつけた。
……きこえぬな、うごかぬな、ぬな。はて、おさるどのはくなられたさうな。こりゃ彌〻いよ/\いのらねばならぬ。
さるきやうの古城址からその渓谷の展開されて行く形を眺めるさまは、かなりすぐれてゐると私は思つてゐる。
あちこちの渓谷 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
悟空ごくうは確かに天才だ。これは疑いない。それははじめてこのさるを見た瞬間にすぐ感じ取られたことである。
うしろ隅々すみ/″\についてゐる瓦斯ガス裸火はだかびの光は一ぱいにつまつてゐる見物人の頭にさへぎられて非常に暗く、狭苦せまくるしいので、さるのやうに人のつかまつてゐる前側まへがはの鉄棒から
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
刀根川とねがわや荒川の上流から山水が押し出し、下総しもうささるまたのほか多くの堤が欠壊したため、隅田川の下流は三日の深夜からひじょうな洪水にみまわれたのであった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたりはてゝかの藤綱ふぢづなにすがりてきしにのぼりしさまさるのごとし、はからず人のわたるを見て目をあらたにせり。
浅間しき身のなりゆきと今はじめて思い当って青くやつれた顔を見合せて溜息ためいきをつき、お蘭は、手飼いのさるの吉兵衛の背をでながら、やたらに鼻をすすり上げた。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あなみにくさかしらをすとさけまぬ人をよくればさるにかもる(よく見ば猿にかも似む) (同・三四四)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その時、私は、木の枝に、さるがたくさんのぼっているのに、気がつきました。そして、その猿は、私たちを見つけるが早いか、ぐんぐん上の方へのぼってゆきました。
そこで話を遠い遠い昔の、今より推算すれば約五十万年前のいにしえにかえす。そのころジャバにさるに似た一人の人間——私はかりに人間と名づけておく——が住んでいた。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
口の周囲だけを残して顔がさるのようになるのが猩紅熱の特長ですと、櫛田医師は云って、隔離室のある病院へ入院するようにすすめたが、悦子がひどく入院をいやがるので
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
四谷左門町さもんちょう。路をへだてて右どなりが戸沢主計頭とざわかずえのかみの上屋敷。源氏塀げんじべいの西がわについて行くと、なるほど、けやきの裏門がある。さるいて潜戸くぐりをおすと、これが、スッとひらく。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
小仏こぼとけの峠もほどなく越ゆれば、上野原、つる川、野田尻、犬目、鳥沢も過ぎてさるはし近くにその夜は宿るべし、巴峡はきょうのさけびは聞えぬまでも、笛吹川の響きに夢むすび
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
たゞ狡猾ずるさるだけは、こうして毎日まいにちなん仕事しごともなく、ごろごろとなまけてゐても、それでおなかかさないでゆかれるので、暢氣のんきかほをして、人間にんげんの子どもらの玩弄品おもちやになつて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
関翁が曾て云われた、山中で山葡萄やまぶどうなどちぎるとさるに対して気の毒に思う、と。本当だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さるにしろとおっしゃれば、ほんとうに猿にしてみせますよ、しかし、まあ、それよりも、一ばん早いところをお眼にかけましょう、若旦那、その大きななつめの木を枯らしてみましょうか
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
着けたりといえどもさる友市ともいち生れた時は同じ乳呑児ちのみごなり太閤たいこうたると大盗たいとうたるとつんぼが聞かばおんかわるまじきも変るはちりの世の虫けらどもが栄枯窮達一度が末代とは阿房陀羅経あほだらぎょうもまたこれを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
どうすることも出来ない私はちょうどさるが樹から落ちたような心持になった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)