こよみ)” の例文
もし、秀吉の座右にこよみをそなえて、その月々に、彼がここ一年に仕遂げて来た事業項目を表にしてみたら、顧みて、秀吉自身すらも
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そよと吹く風の恋や、涙の恋や、嘆息ためいきの恋じゃありません。暴風雨あらしの恋、こよみにもっていない大暴雨おおあらしの恋。九寸五分の恋です」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
襖をそっと細目にあけて、内の様子をうかがってみると、かき立てた燈火ともしびの横に坐り、所在なさそうにつつましく、蓬生よもぎゅうこよみを繰っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こよみのうえでは九月といっても、ながい休みのあとだけに暑さは暑さ以上にこたえ、女先生の小さなからだは少しやせて、顔色もよくなかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
その四名の者が白い石や黒い石や棒切や貝殻でもって勘定して毎歳こよみをこしらえ出すのですが、大抵四名とも少しずつは違って居るそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
背にかついでる大きなこりの中には、あらゆる物がはいっていた、香料品、紙類、糖菓類、ハンケチ、襟巻えりまき履物はきもの罐詰かんづめこよみ小唄こうた集、薬品など。
わし村住居むらずまいも、満六年になった。こよみとしは四十五、鏡を見ると頭髪かみや満面の熊毛に白いのがふえたには今更いまさらの様に驚く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ふるとしといふのは、新年しんねんたいする舊年きゆうねんであつて、むかしこよみではとしけないうちに、立春りつしゆんせつといふこよみうへ時期じきがやつてることもあつたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
そして、あちらの目ざまし時計の数字や、こよみの字などを読んでみましたが、一字、一字がはっきりとわかるのでした。
月夜とめがね (新字新仮名) / 小川未明(著)
見たところはせいぜい十七、八のあどけない若づくりであるが、彼女がまことのこよみ二十歳はたちをもう二つも越えていた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わけのわからぬこよみに従って、年がら年中、地図にもないような村々を巡って歩いているものなんでございます。
かんざしを取って授けつつ)楊弓ようきゅうを射るように——くぎを打って呪詛のろうのは、一念の届くのに、三月みつき五月いつつき、三ねん、五年、日と月とこよみを待たねばなりません。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一握り二株半——おかみのこよみは変っても、肥料の加減は、善ニョムさんの子供のときから変らない——
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
幸福な、そして豪華な生活に、私たちはこよみを忘れて遊び廻った。が、このような生活もいつしかきを覚える時が来た。勘定してみると、丁度ちょうど三ヶ月の月日が経っていた。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この近くにこれ以上の日がないともこよみ博士はかせからの報告もあって、玉鬘たまかずら裳着もぎの日を源氏はそれに決めて、玉鬘へは大臣に知らせた話もして、その式についての心得も教えた。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
讀書どくしよかれ病的びやうてき習慣しふくわんで、んでもおよれたところものは、れが縱令よし去年きよねん古新聞ふるしんぶんらうが、こよみであらうが、一やうえたるもののやうに、屹度きつとつてるのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
衣裳箪笥とその上にある貰い物らしい京人形と、箪笥の横の鏡台とだけが、女らしいもので、そのほかは、粗末な本箱や机や灰皿やインク壺や柱掛のこよみなど、男の下宿部屋みたいです。
ゆゑ入梅つゆ土用どよう彼岸ひがんなどゝて農業のふげふせつは一々こよみざればかなはぬこと〻なれり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
外は空つ風、こよみの上は春でも梅の花までがかじかみさうな、薄曇の寒い日です。
七歳なゝつのとしに父親てゝおや得意塲とくいば藏普請くらぶしんに、足塲あしばのぼりてなかぬりの泥鏝こてちながら、したなるやつこものいひつけんと振向ふりむ途端とたんこよみくろぼしの佛滅ぶつめつとでもありしか、年來ねんらいれたる足塲あしばをあやまりて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こよみの本が田舎に行き渡るまでは、昔の人たちは月の姿によって日をかぞえていたので、少しずつの日のちがいは出来たが、大体に初冬の十月十日まではの日に対して、二月は月始めの十日前後が
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
辺りの峰々は白雪をいただき、こよみは十二月に入っていた。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
わたしの心のこよみでは
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
千歳ちとせこよみひるがえし
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こよみもあらぬ荒磯の
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
などと軽口をろうして、その楽天振りに少しの変化も来たしていない。明智一族中、この老人だけは、べつなこよみでも持って暮しているようである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うもなんですな。むかしひとは矢っ張り手蹟い様ですな」と御世辞を置きりにして出て行つた。婆さんは先刻さつきからこよみはなしをしきりにてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
きょうは半七に取って、こよみの善い日ではなかった。そこらの大樹の上で、彼を笑うようなふくろうの声がきこえた。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
香料こうりょう、紙類、砂糖菓子さとうがし、ハンケチ、襟巻えりまき履物はきもの缶詰かんづめこよみ、小唄集、薬類など、いろんなもののはいってる大きなこり背負せおって、村から村へとわたあるいていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
おばあさんは、この眼鏡めがねをかけてみました。そして、あちらのざまし時計どけい数字すうじや、こよみなどをんでみましたが、一、一がはっきりとわかるのでした。
月夜と眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
読書どくしょかれ病的びょうてき習慣しゅうかんで、んでもおよれたところものは、それがよし去年きょねん古新聞ふるしんぶんであろうが、こよみであろうが、一ようえたるもののように、きっとってるのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
普通ふつうかんがへでは、はる正月しようがつとが一致いつちするものとしてあります。これは、習慣しゆうかんから心持こゝろもちであります。ところがときとすると、こよみうへにさういつたちがひが出來できます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
つきものをあてにせずして、もとよつこよみたつるは、事柄ことがらおいたゞしきみちといふべし。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
チベット暦の由来 一体チベットのこよみはインド暦でもなければシナの太陰暦でもない。トルキスタン暦を取って居るので、その暦はシナの太陰暦にほぼ似て居るけれども全く同一ではない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
こよみの冬は五六日前に立った。霜はまだ二朝ふたあさ三朝みあさ、しかも軽いのしからない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
引窓を開けたばかりわざと勝手の戸も開けず、門口かどぐちも閉めたままで、なべをかけた七輪の下をあおぎながら、大入だの、こよみだの、姉さんだのを張交ぜにした二枚折の枕屏風まくらびょうぶの中を横から振向いてのぞき込み
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こよみもあらぬ荒磯の
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こよみのうえも忘れて来た。おおあれは三上山みかみやま、そのてまえは鏡山だな。するとここらは天智天皇が御猟みかりのあとか」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は云い訳らしい事をいって、こよみの上にかけてある時計を眺めた。時計の針はもう十時近くの所をしていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして唯一の生甲斐いきがいのある仕事は、晩寝る時に、ミンナが帰って来るまでの数多い日数の一つを、あたかも小学生徒のように、自分のこよみの上に塗り消すことであった。
今年の秋もあわただしく暮れかかって、九月のこよみも終りに近づいた。鴨川の水にも痩せが見えて、河原の柳は朝寒あささむに身ぶるいしながら白く衰えた葉を毎日振るい落した。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こよみも、新暦しんれきよりは、旧暦きゅうれきのほうが季節きせつうつわりによくっているといっていました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こよみのことを謂はれて、刀自はぎよつとした。大昔から暦はひじりの与る道と考へて来た。其で、男女は唯、長老とねの言ふがまゝに、時の来又去つたことを知つて、村や家の行事を進めて行くばかりであつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
たねくにも、いねるにも態々わざ/\こよみいだしてせつるにおよばず。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
こよみを見たら、今日が立秋である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「じゃあ早速ですが、白綾しらあや、色絹、藍紬あいつむぎ、それに上綿を添えた反物たんもの幾巻と一しょに、こよみとお針祝いのお礼金こころざしをたんまり包んで、夕方までにここへ届けて下さいましな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほんに長い旅でござんすから、こよみのよい日をえらむのが肝腎かんじん。わたしもその刻限こくげんには北を
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
妻君もここに至って多少変に思ったものか、戸棚からこよみを出して繰り返して見ると、赤い字でちゃんと御祭日と出ている。主人は祭日とも知らずに学校へ欠勤届を出したのだろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こよみの上ではもう秋といわねばならぬが、気象は夏型のままだった。久しく雨を忘れているような空に、きょうもうごかぬ雲を見せ、宇宙は大きな倦怠状けんたいじょうそのものだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御承知でもございましょうが、この年の十一月にこよみが変りまして、十二月三日が正月元日となったのでございます。いえ、どうも年をとりますとお話がくどくなってなりません。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)